「キャプテン翼」で3人に1人がアニメオタクに…中東の大国が「アメリカより、中国より、日本」を選ぶ理由
プレジデントオンライン / 2024年11月27日 18時15分
■あと5年で世界人口の「4分の1」に到達する巨大勢力
米国でドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に選出された。バイデン政権による表面上を取り繕っただけの外交の時代が終わり、今後は世界中で各国がみずからの影響力争いを激しく展開する時代となる。そして、米中対立がさらに拡大することが予期される中、世界の帰趨を決する勢力が存在している。それはイスラム世界の人々だ。
2024年現在、世界のムスリム人口は約19億人だが、2030年には約22億人に到達し、世界人口の4人に1人はムスリムという時代が訪れる。当然であるが、イスラム圏の労働人口増加率も高く、中長期的には現役世代のムスリムの占める割合は増加する。つまり、世界における新しいサービスやテクノロジーに関する開発の多くはムスリムの人々によって生産されていくことが想定される。世界経済における市場規模も拡大を続けており、いずれイスラム圏の市場にアクセスできるか否かが先進各国にとって死活問題となることは目に見えている。
■先進各国の将来を左右する「ムスリムとの関係構築」
当然であるが、移住や観光を行う人々の人口も増加しており、世界中でムスリムの人々との付き合い方に対する模索が行われつつある。
欧米ではムスリムの人々の受け入れに対して反発などが強まりつつあり、日本においても墓地の在り方などで近隣住民とのトラブルが発生している。しかし、これはある特定の人口が増加し、その生活圏が生来の居住地以外に拡大する場合、過去にも必然的に起きてきた衝突でしかなく特段珍しいものではない。いずれは各国社会がおのおの折り合いをつけていくことで、日本のような移民に閉鎖的な国でも、ムスリムの人々を当たり前に見かけることもそう遠くない未来となるだろう。
そのため、単純に人口面・経済面から考えるなら、ムスリムを味方につけた国は将来的に有利な環境を構築できるのに対し、そうでない国は少数派に転落していくことになるのは必然だ。もちろん、政治はそれをひっくり返すこともあるかもしれないが、だからと言って、そもそもの情勢分析の前提となる土台の変化を無視するべきではない。
■米中対立、東南アジアでは「アメリカ劣勢」
米中が世界の覇権をめぐって鎬を削る中、東南アジア諸国における影響力争いは非常に重要な要素となっている。その際、シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所が実施する年次世論調査(The State of Southeast Asia 2024 Survey Report)で興味深いデータが示された。この調査はASEANに加盟する10カ国の学界、シンクタンク、民間部門、市民社会、非営利組織、メディア、政府、地域・国際機関のメンバーなどに対して行われたものだ。
同調査は東南アジアのエリート層による見通しを把握することができるものだ。「ASEANが米中どちらかを選ばざるを得ない場合、どちらとの連携を選ぶべきか」という問いで、米国はインドネシア、マレーシア、ブルネイなどの国で中国と比べて支持を落としている。言うまでもなく、インドネシアはパキスタンと並ぶ世界最大のムスリム人口(約2億4000万人)を抱える国であり、マレーシアとブルネイはイスラム教を国教として定めている。
直近ではインドネシアはBRICSへの正式な加盟に向けて動いており、東南アジアにおける米国の影響力は確実に後退している。このような情勢変化は、中東における米国の行動が影響を及ぼしていることが背景にあると推測される。米国自体は成長するイスラム圏およびムスリムの人々への対応が極めて下手な国だと言えるかもしれない。
■日本が東南アジア、中東で強い影響力を持つ理由
むしろ、東南アジアや中東も含めたイスラム圏において、西側先進国の中で最も有利な立場にある国は日本である。日本は欧米と比べてイスラム圏の国々との対立関係を有していない。日本はキリスト教圏でもなく、国内においてムスリムの人々に対して強制改宗をさせる蛮行におよんでもいない。したがって、一部の排外主義的な動きを除けば、日本はイスラム圏やムスリムの人々との間で欧米ほど深刻な対立関係を持つこともないだろう。イスラムの国々と軍事的に対立することもなく、今後も経済面・文化面を中心とした関係が継続することになる。
そして、日本は多くの文化面でのソフトパワーをイスラム圏に対して有しており、イスラム圏の人々との友好関係の構築・発展させていく土壌を持っている。このような文化面での力というものは軽視されがちであるが、若年人口が多数を占めるイスラム圏では日本が持つ若者文化に対する影響力は極めて重要な要素となる。複雑化する世界環境の中で、共存共栄関係を両国が築き上げるためには、その土台として長い年月をかけた文化交流は欠かすことはできない。
■イスラム圏で受け入れられた「アイドル文化」
たとえば、アイドル産業の輸出などは日本と東南アジア地域との交流深化に大いに役立っている。JKT48は、ジャカルタを中心に活動しているインドネシアの女性アイドルグループであり、今から10年以上前の2011年にAKB48の姉妹グループとして発足した。同グループは露出面でイスラム文化に配慮しつつも成功をおさめ、2024年7月にはマレーシアのクアラルンプールでもKLP48が発足している。イスラム圏においても「アイドル」という概念が認知されたこと、そして日本のソフトパワーを単純に輸出するだけでなく、現地のイスラム圏で融合して受け入れられたことは極めて画期的なことだ。
イスラム圏でも日本製品は幅広く使われているが、文化そのものは水と油の部分があるのではないかと思われていた。しかし、日本のコンテンツ力は文化の壁を超えて大きな広がりを見せつつある。
■中東の大国では、3人に1人が「アニメ視聴者」
筆者が特に注目している国は中東のサウジアラビアだ。今、サウジアラビアほど日本のコンテンツ文化を積極的に受容して相互協力のもとに発展させようとしているイスラム圏の国は存在しない。サウジアラビアが注力している分野は漫画・アニメである。
同国のインターネットを通じたアニメ視聴者数は2017年で約40万人であったが、2022年には約1300万人に拡大している。サウジアラビアの人口は2024年で約3700万人なので、実に人口の3人に1人以上がアニメ視聴者という計算になる。さらに、驚くべきことに同国の教育省は中高生の学校教育の中にアニメを導入することを決定、その狙いはアニメから人間の成長や道徳心を学ぶというものだ。ソフトパワーが持つ影響力は精神性の伝播にあるが、それが厳格なイスラム教が適用される中東の地で花開いていることには驚く。
サウジアラビアの日本アニメへの傾倒ぶりは著しく、2021年には「ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語」というアニメが日本の東映アニメーション・サウジアラビアのマンガプロダクションズ社の合作映画として公開された。日本の技術とサウジアラビア文化が融合した作品であり、映像クオリティーや声優陣なども本格的なものだ。
そして、2024年11月3日にはサウジアアラビアの昔話を題材とした「アサティール2 未来の昔ばなし」というアニメの放映がテレビ東京系でスタートしている。今や、アニメという手法を通じて、サウジアラビアの文化が日本に逆輸出される状態となっているのだ。
■少子高齢化が進む日本が躍進するために必要なこと
アニメというコンテンツを通じて日本の子どもたちもサウジアラビアや中東地域の文化に興味を持つケースが増えることは間違いない。サウジアラビアを起点とした日本の中長期的な中東地域との文化交流戦略立案も十分に考えられる。
著しい少子高齢化によって衰えた日本が再び大国として躍進するためには、爆発的に人口が増加するイスラム圏の人々と友好関係を構築することが重要だ。日本に彼らが持つ若さと勢いを取り込むことは、日本の中長期的な発展に欠かすことができないものとなるだろう。
しかし、厳格な宗教意識を持たない日本人とイスラム教に従うムスリムの人々の間には、文化的な溝があることも否定できない。今後、人的交流が増えていく中で、さまざまな課題が顕在化していくことも予想にかたくない。
だからこそ、その際の共通基盤として、アイドルやアニメなどの日本から発信される娯楽コンテンツによるソフトパワーは重要な位置づけを持つ。また、われわれ日本人にとっても異文化を吸収するためには、自国の娯楽コンテンツを通じたやり方のほうが容易である。
イスラム圏が日本の娯楽コンテンツであふれかえる世界、そのような楽しい世界の状況を作り出すことが実は日本の次代の繁栄の礎になるだろう。
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早稲田大学公共政策研究所 招聘研究員
パシフィック・アライアンス総研所長。1981年東京都生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』(すばる舎)などがある。
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(早稲田大学公共政策研究所 招聘研究員 渡瀬 裕哉)
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