遊女は「人参10本分の値段」だが、美少年なら30万円…次のNHK大河の見どころ「江戸の風俗街」の驚きの階級社会
プレジデントオンライン / 2024年12月1日 18時15分
■吉原遊廓の「遊びの心得」
吉原遊廓で遊ぶ際には、一定の形式がある。まずは吉原のタウンガイドである吉原細見を見て、どの妓楼やどの遊女がよいのか、自分の懐具合と適った場所を探す。
目当ての妓楼・遊女があれば、直接、妓楼へ行って張見世で遊女を見物したり、見世番に相談したりする。
客が直接、登楼することを「直きづけ」と呼ぶ。その場合、主にふた通りの遊び方がある。初会(初めて遊ぶ場合)の客の場合には、先述したように張見世で遊女を眺め、見世番に好みの女性を告げれば、案内してくれる。すでに馴染みの場合には、そのまま登楼し、心得た若い者が馴染みの遊女を手配してくれる。
直きづけのほかに、引手茶屋を介して、登楼する場合もある。引手茶屋で遊女を斡旋してもらう方法だ。支払いはすべて引手茶屋が立て替えるため、初会の客はそれなりのお金が入った財布を茶屋に預ける必要があった。引手茶屋の2階で軽く飲み食いした後に、頃合いで女将や若い者の案内で妓楼へ向かう。
■「3回目でないと体を許さない」はウソ
また、妓楼から遊女を呼び寄せるという場合もある。もっとも贅沢で、金のかかる遊びである。大概は花魁が妓楼から呼ばれた。指名された花魁は、新造や禿、遣手らを引き連れ、引手茶屋へとやってくる。茶屋の二階座敷で酒宴が催され、幇間や芸者なども呼ばれた。そして、頃合いで花魁らを引き連れて、若い者の手引きで妓楼へと向かうのである。引手茶屋は客が登楼した後も、つきっきりで面倒を見るのが通例であった。
客が遊女とともに寝床についたのを見届けると、妓楼を後にする。そして、翌朝の指定された時刻に、若い者が寝床まで来て起こしてくれる。いたれりつくせりである。
初めての遊びを「初会」と呼ぶ。2回目を裏(「裏を返す」という)、3回目からは馴染みとなる。同じ妓楼では初会の遊女から、別の遊女に替えることは禁止されていた。また、俗に花魁は3回目の馴染みになってからでなければ、体の交わりを許さないと言われる。しかし、これには史料的裏付けはなく、俗説に過ぎない。
■「大河ドラマの主人公」が活躍した時代
宝暦以降の吉原遊廓は、元吉原以来から続いた伝統やシステムが一変した時代である。1750(寛延3)年に生まれた蔦屋重三郎は、吉原の転換が進んだ宝暦期にはまだ幼少である。まさに転換期の吉原に生まれ育った。
吉原遊廓の衰退と転換の一因は、岡場所や品川・内藤新宿などの宿場の女郎屋が台頭してきたことにある。吉原よりも安価で遊べたのと併せて、岡場所の場合には江戸市中にあったため、通うのにも便利だった。面倒な格式や制度もないため、元禄のバブルがはじけて以降、経済的に退潮ぎみの世にあっては、自然と岡場所に客が流れていった。
豪遊する大名や豪商も少なくなり、吉原もより大衆化路線に舵を切らざるを得なかった。多額のお金がかかる揚屋制度を廃止し、太夫の位もなくなった。紋日も大幅に削減することで、客の負担も軽くした。また、商売敵である非公認の岡場所に対して、吉原側は町奉行に取り締まりを要請したりもした。
松平定信の寛政の改革下では、岡場所に徹底的な取り締まりが行われた。このときに捕らえられた岡場所の私娼たちは、そのまま公許の遊廓である吉原に引き取られた。
しかし、これによって、ますます吉原の質は低下することとなった。元私娼が増えたことで、吉原の格式もより薄れてしまったのである。
そのような時代に、吉原で本屋を始めた蔦重は、出版を通じて、衰退しつつある新吉原を盛り上げていった。吉原細見の改良、吉原を舞台とした洒落本・黄表紙の大量出版、喜多川歌麿の美人大首絵を通じて遊女のイメージアップを図ったのである。こうして、吉原遊廓は多くの人が一度は行ってみたいと憧れる遊興の地となったのである。
■江戸時代を通じて18回も全焼した
木造の家々がぎっしりと軒を連ねた人口過密の江戸は、たびたび大火に見舞われた。江戸市中の郊外にある吉原遊廓も例外でなく、火災によって全焼することもしばしばであった。1657(明暦3)年の新吉原の開業以来、1768(明和5)年4月の火災を皮切りに、幕末の1866(慶応2)年11月の火災まで、江戸時代を通じて合計18回もの全焼を経験している。
頻発する吉原での火事は、類焼もあるが、妓楼が火元となったケースも多かった。その多くが、遊女によるつけ火だったという。苦界のつらさに耐えかね、火を放ったのだろう。なかには、楼主や女房からのひどい仕打ちに耐えきれず、複数人の遊女が共謀で火をつけたこともあった。
■放火犯は「火炙り」に処せられたが…
江戸では放火は大罪であり、たとえ小火でも、犯人は火罪(火炙り)に処せられた。しかし、吉原での遊女によるつけ火の場合には、火罪ではなく、流刑(遠島)に減刑されていた。苦界のつらさに耐えかねた遊女に対する、奉行所側の情状酌量であったと思われる。
火事で営業ができなくなった場合、町を再建するまでに、期間を決めて浅草や本所、深川、中洲などで仮営業をすることが幕府から許可されていた。これを仮宅と呼ぶ。仮宅は江戸市中で営業したため、普段の吉原よりも通いやすかった。また臨時営業であるため、吉原独自の格式や伝統も簡易化され、遊女の揚代もディスカウントされた。
仮宅の調度品もあくまでも仮のもので、経費もかけずに営業できたため、むしろ商売は繁盛したという。
■「人参10本分の価格」で体を売る非合法風俗
江戸には幕府公認の吉原遊廓以外にも、さまざまな遊里があった。無認可の遊里は岡場所と呼ばれた。時代によって変遷はあるが、江戸市中だけでも40~50カ所の岡場所があったとされる。無認可営業であるため、そこで働く遊女は私娼であった。
江戸市中に点在したことから通うのにも便利で、かつ安価に遊ぶことができた。幕府もほとんど黙認しており、下級武士や江戸庶民の間で人気を博した。
岡場所のなかでも、最も安く遊べたのが、切見世と呼ばれる盛り場である。浅草堂前、あひる入江町、根津、音羽の桜木町などで無認可営業が行われた。長屋と同じく、狭い路地の両側に間口4.5~6尺、奥行2.5~3間ほどの店が軒を連ねた。まさに、俗に言う「ちょんの間」である。10分の情交で揚代はわずか100文程度だ。これは当時の人参10本分に相当する価格である。野菜と同じ値段で体を売る切見世の遊女らは、その揚代の価格から「お百さん」とも呼ばれたという。
■遊女よりも「美少年」と遊ぶほうが高級
他方、宿場の旅籠(はたご)屋には、飯盛女という遊女を置くことが、道中奉行から認められていた。江戸四宿の品川、内藤新宿、板橋、千住は、江戸市中からも近いために、江戸の男たちからも手頃な遊里として人気を集めた。そのほか、茣蓙(ござ)1枚を持って夜道に立った街娼である夜鷹もまた、安価で自らの体を売っていた。いわば「立ちんぼ」である。
また、陰間(かげま)と呼ばれる男娼もいた。陰間を置く陰間茶屋は、現在の日本橋人形町付近の芳町で賑わいを見せた、10代の若く美しい男子が、振袖に袴姿に白粉を塗り、あたかも歌舞伎の女形のような格好で、自らの体を売った。客は料理茶屋の座敷に呼び出して遊ぶため、陰間買いは普通の遊女を買うよりも高くついた。
平賀源内の『江戸男色細見(菊の園)』によれば、「一切り」(約2時間)で金1分(約2万5000円)、店から「他行所」で連れ出すならば金2両(約20万円)、「仕舞」まで丸1日自由に買うならば、金3両(約30万円)もしたという。
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小説家
1949年生まれ、97年に『算学奇人伝』で第六回開高健賞を受賞。本格的な作家活動に入る。江戸時代の庶民の生活や文化、春画や吉原、はては剣術まで豊富な歴史知識と独自の着想で人気を博し、時代小説にかぎらず、さまざまな分野で活躍中。
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(小説家 永井 義男)
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