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「いつ自分が被害者になるかはわからない」カスハラで苦しむ社員に産業医が教えている"身を守るための行動"

プレジデントオンライン / 2024年12月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

カスハラの被害を受けたらどうすればいいのか。大手外資系企業を中心に年間1000件以上の相談を行っている産業医の武神健之さんは「一人で抱え込まずに話せる仲間がいるだけでも気持ちは楽になる。そして、2つのことをしてほしい」という――。

■クレーマーの登場で仕事に強いストレスを感じるように

こんにちは。産業医の武神です。最近、ニュースでカスタマーハラスメント(カスハラ)という言葉をよく見聞きするようになりましたが、私の産業医面談の中でも、その相談が増えてきました。そこで今日は私が産業医面談で経験したカスハラ事例とその対策について述べたいと思います。

Aさんは、「最近、元気がなさそう」と人事からの紹介で産業医面談に来た30代の女性でした。

聞いてみると、彼女は会社のカスタマーセンターで働いていますが、最近朝会社にいくのが辛い、帰宅後も仕事のことがなかなか頭から離れない、夜寝る時間になっても「寝てしまうとまた朝が来て会社がある」と思うとベッドに入ること自体が怖い等々の症状がありました。

症状の原因には、Aさん自身も心当たりがありました。彼女はここ数年コールセンターを担当しているのですが、今まではその仕事自体にストレスはなかったようです。しかしこの数カ月間、お客さんで一人、かなりの厄介者(クレーマー)がおり、その人とのやり取りが始まってから、他のコールまで辛くなってきたとのことでした。

■カスタマーコール担当者が自分ひとりになってしまった

辛いながらも、カスタマーコール担当の同僚がもう一人いたときには、二人で愚痴ったりお互いの気持ちを共有できたりしてまだよかったようですが、その同僚は2カ月前に他部署に異動になりました。それ以来、カスタマーコール担当が自分だけになってしまい、オンとオフのメリハリや気分転換を心がけているものの、上記の症状が出てきたとのことでした。

Aさんはストレス症状があり、自分なりの対処をしているにもかかわらず、次第に悪化してきてしまっている状態でした。他の部署に異動できない限りストレス原因がなくなる可能性は低く、医療受診を勧めた方がいい状態であることは明らかでした。

私は、カスタマーハラスメントに対して、このように個人としての対処が難しくなってきたときには、医療受診を勧めると同時に会社としての対処が可能かを確認します。

■上長だけではなく、最終的には企業で対応することに

このケースでは、まず女性社員の上長にこのクレーマーの具体的な言動や頻度などを把握してもらうこと。その上で、上長ができれば一緒に対応することをお願いしました。すると、上長との情報共有のなかで、そのAさんは自分の担当しているケースの厄介さを他の人にもわかってもらえ、少し気持ちが楽になり、症状が少し改善しはじめました。

一方、上長は手こずるクレーマーがいること自体は把握していましたが、具体的な内容までは把握していませんでした。それが実際に女性社員と一緒に対応するようになり、部下の不調原因が明らかにこのカスハラによるものと思えたとのことでした。

すると上長は、自分の上司や他部署に掛け合い、このクレーマーに対する企業としての断固たる態度を明確にしてくれました。そして具体的に、次にまたクレームがあった場合の言うべき言葉、送るべき文書などを女性社員に提示してくれたのです。

最終的に、このクレーマーからの対応は、会社の他の部署が企業として対応することになりました。女性社員は気持ちが楽になっただけでなく、会社と上司が自分を守ってくれることを肌で感じることができ、ますます会社が好きになったとのことでした。

■「消費者から」のカスハラと「取引先企業」からのカスハラ

私の産業医クライエントにおけるカスハラには2種類あります。1つめは消費者(個人のお客様)から社員に対するもの、2つめは取引先企業(元請け企業、発注企業)社員から私のクライエント企業社員に対するもの(サプライヤーハラスメント)です。

Aさんの事例は前者に相当します。このような場合、症状に応じて医療受診を勧めますが、それ以外では、1.仲間を作り一緒に愚痴ること、2.上司にも報告する(愚痴る)か、上司にも実際に対応してもらい当事者意識を持ってもらうことをお勧めしています。クレーマーに対して辛い思いをしているのは自分だけではないという孤独感の解消と、具体的な手助けにつながる上司の関わりを促すことで、ある程度対処できることが多いと感じます。

では、取引先企業(元請け企業、発注企業)社員からのカスハラ(サプライヤーハラスメント、パワーハラスメント)の場合はどうでしょうか。

名刺交換をするビジネスパーソン
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■取引先企業に「目をつけられた」Bさん

違う会社で勤めるBさんは、取引先企業がストレスでたまらないと産業医面談に来た40代の男性でした。

聞いてみると、取引先企業の特定の人物がいつも高圧的できつくBさんに当たるそうでした。そのような中、睡眠障害を始めいくつかのストレス症状を自覚したため、産業医面談に来たとのことでした。

取引先からのハラスメントの場合も、産業医の勧める対策は基本的には同じです。症状に応じて医療受診をすすめ、同時に、同じように被害を受けている仲間を見つけ、一緒に愚痴ることで、ストレスを溜め込まないように促します。その間に、企業間のルール(契約内容)を確認すること。また、実際にどのようなことがあったかを記録し、上長も絡めて会社として対応してもらうことをお願いしています。

Bさんの場合、同僚たちはいましたが、Bさんのみが目をつけられてしまっているようであまり共感しあえる人はいませんでした。ハラスメントの記録を作り上司に報告するも、取引先への遠慮もあり、また、被害を訴えたのはBさんだけだったため、あまり真摯に受け取ってもらえなかったと、数カ月後の産業医面談でBさんは教えてくれました。残念ですが、仕方がないとBさんも諦めているようでした。

ストレスのたまったビジネスマン
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■上司に関与してもらうこと、記録をつけることが重要

現在、Bさんは睡眠薬を併用しながら働いています。不定期ですが産業医面談に来てくれ、状況を教えてくれます。週末は趣味のテニスで気分転換し、平日は耐え忍んでいるとのことでした。異動希望を会社に出しているものの、まだ前向きな話は来ていないとも教えてくれました。

産業医としてはやるせない感じがしてしまいますが、面談に来られた時は、少しでもBさんに楽になってほしいとしっかり話を聞き続けたいと思います。

近年、いろいろなカスタマーハラスメントやサプライヤーハラスメントの話を聞きます。“お客様は神様”的な価値観の中では、企業の対応担当者が精神的に疲弊してしまうことも少なくありません。

いつ自分が被害者になるかはわかりません。もしそうなってしまった時は、自分の気持ちを打ち明けられる信頼できる仲間(人間関係)を作り、一人で抱え込まず話す(愚痴る)ことができると、たとえ状況が変わらなくてもかなり気持ちは楽になります。

そしてその間に、上司に関与してもらうことと、身を守るために記録をつけることが大切です。社内規定に注意しつつ、録音・録画、メール等を印刷して保存するなど、いつどこでどのようなハラスメントを受けたか、しっかり記録するのです。また、その場面に居合わせた人についてもメモしておきましょう。後々の調査に役立つことがあります。

■解決策が見つかるとは限らないという現実

しかし、たとえ勇気を出してハラスメントを告発し、それが調査されたとしても、判定が黒とならずにグレーとなる場合が多々あります。相手に遠慮して会社が何も有効な対策をとれない(とらない)場合もあります。

職場におけるカスハラ問題は、残念ながら解決策が簡単には見つかるとは限りません。

周囲の助けを求めることも大切ですが、すぐには解決しないことが多い以上、自分でできることについては、日頃から意識しておくに越したことはありません。常に、オンとオフの切り替えや気分転換を図る、仕事はあくまでも仕事と割り切るなど、個人としてできるセルフケアを日々実践しておくことが大切です。

会社が全てではないことを自覚し、オフタイムをもっと充実させましょう。会社の外に情熱をかけることがあれば、会社のことなど気にならなくなるものです。それでも辛い場合は、その会社を辞めることも考えてみましょう。繰り返しますが、会社はあなたの人生の全てではありません。もしくは、もっともっと仕事に精進し実力を今以上につけましょう。

以上、カスハラで潰れないための自己防衛方法について述べさせていただきました。少しでもお役に立てば幸いです。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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