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習近平主席の「大失策」が無差別殺人を生んでいる…中国人が口をつぐむ「場所も年代もバラバラな犯人」の共通点

プレジデントオンライン / 2024年11月26日 7時15分

男が車を暴走させ多くの死傷者が出た現場の近くで手を合わせる人=2024年11月13日、中国広東省珠海市(共同) - 写真提供=共同通信社

今年6月~11月にかけて、中国各地で無差別殺傷事件が相次いでいる。犯行現場や犯人の年代はバラバラだが、なにか共通点はあるのか。ジャーナリストの中島恵さんは「中国社会では戸籍をめぐる差別や『中考分流』と呼ばれる政策によって、社会に大きなひずみが生まれている」という――。

■年齢や地域、所得では分析できない

今年6月、中国・蘇州市で日本人母子をかばって中国人女性が刺殺された事件以降、中国各地で無差別殺人事件が頻発している。9月18日には広東省深圳市の日本人学校で日本人男児が刺殺されたが、その後も、上海市のスーパー、広東省珠海市のスポーツ施設、江蘇省無錫市の職業専門学校、湖南省の小学校など、殺傷事件が止まらない。

なぜ、中国で、このような無差別殺人事件が続いているのか。これまでの事件は、犯人の動機が当局によって明らかにされていないものがあり、不明点も多い。日本人が殺されたことで、日本で最もショッキングに受け止められた深圳市の事件の犯人は44歳の男だったため、当初、「80后(80年代生まれ=バーリンホー)」世代の特徴について分析する報道もあった。

だが、その後の事件の犯人の年齢は21歳(江蘇省の事件)から62歳(広東省の事件)までとさまざまで、エリアも全国各地にわたっており、年齢や地域、所得などだけで犯人像を分析、判断することはできない。犯行動機も「離婚後の財産分与のトラブル」(広東省の事件)、「卒業証書をもらえなかったことや職場での報酬への不満」(江蘇省の事件)など、わずかに説明されているものもあるが、日本人が刺殺された事件の真相が明かされることはないだろう。

■いずれも「社会への報復」が動機だが…

全体を通して、中国メディアで挙げられている共通のキーワードは「社会への報復」(中国語では「報復社会」または「社会性報復」)だ。社会への報復とは、社会に対して不満を抱えている者が、無差別に誰かを攻撃することだ。

中国では「三低三少」(所得、社会的地位、社会的人望が低いこと(三低)、人とのつき合い、社会と触れ合う機会、不満を口にできる機会が少ないこと(三少))が犯人の共通点との指摘もあるが、犯人はすべて、その場で、現行犯で逮捕されており、逮捕を覚悟の上での犯行だったことがわかる。

しかし、彼らが社会に報復しようと考える、そもそもの理由、背景は何なのか。それ自体、これまであまり説明されていなかったのではないか、と感じている。

私が考える背景は、主に以下の3点だ。1つ目は新型コロナの後遺症が、ここへきて一気に噴出、表面化しているのではないか、という点だ。

■多くの人が「ゼロコロナ政策」に人生を奪われた

2020年初頭に始まった新型コロナにより、中国社会は大混乱に陥った。感染は世界各国に拡大したが、中国はいち早く、封じ込めに成功。しかし、感染は再拡大し、中国政府はゼロコロナ政策に踏み切った。国民に毎日のPCR検査を強制し、外出する自由を奪われるロックダウン(都市封鎖)が多くの都市で実施された。当時、中国人の中には自殺者も増え、精神的な病にかかった人も多かった。

日常の自由が奪われただけでなく、最も深刻だったのは経済の低迷だ。不動産不況がそれに追い打ちをかけた。コロナさえなければ、あるいは、ゼロコロナ政策さえなければ、順調に仕事を続けられたのに、コロナのせいで人生が暗転してしまった人、失業に追い込まれたという人は非常に多い。

日本など海外でも同様に、コロナを機に人生が大きく変わった人はいるが、中国では政府からの補助金、補償などはほとんどなく、飲食店経営者などは多額の借金を背負わされた。また、経営していた企業が倒産し、やむなく転職したが、そこでも仕事がうまくいかなかったという例は数えきれない。住宅ローンが返せなくなり、マンションを手放したという人も多い。

■道徳と人間形成がないがしろにされてきた

広東省珠海市のスポーツ施設で35人を殺害した男は「離婚後の財産分与に不満があった」とのことだが、仕事がうまくいかず、生活が困窮したり、家庭不和になり、離婚せざるを得なかったケースも少なくない。子どもも、それまではインターナショナルスクールに通っていたが、生活が困難になったため、一般の学校に転校させられ、不登校になったという話も聞いたことがある。

2つ目は、そもそも論だが、やはり教育の問題が非常に大きいのではないかと感じている。昔も今も、中国の受験競争の激烈さは有名だ。子どもに長時間勉強させ、有名な学校に進学すれば、人生の成功者になれると信じてきた人が多い。そのため、とくに都市部の子どもの多くは勉強一辺倒の生活を送り、家庭教育(しつけ)や道徳は二の次、あるいは、ないがしろにされてきた。

私の以前の記事でも触れたことがあるが、子どもが勉強中、母親が子どもの口に食べ物を運んで食べさせたり、通学時は常に母親やお手伝いさんがカバンを持ってあげたりするなど、あまやかして育てている人もいる。

中国の一人っ子政策(1979年)の実施後に生まれた世代(44歳以下)は一人っ子が多く、家庭内、家庭外で人間形成を学ぶ場が少なく、自分中心で、他人を思いやることができず、何でも周りの人がやってくれるのが当たり前、という人もいる。また、勉強ができないと「人生の失格者」というレッテルを貼られてしまう。

■職業学校を襲った男は「中考分流」の犠牲者?

日本のような中学・高校のクラブ活動が少ないので、勉強以外に、自分の心の支えとなるもの、得意なもの、いきがいを持ちにくいのが中国社会だ。そのため、自分に自信が持てず、いったん社会から脱落すると、極端な方向に走ってしまうこともある。

江蘇省無錫市の職業専門学校で8人を死亡させた男(21)は、同校の出身者だったが、「卒業証書をもらえず、職場での報酬に不満を抱いていた」という。このニュースを見て想起したのは、中国で18年ごろから実施されている「中考分流」という教育方針だ。

これは、増えすぎた大学進学者を抑え、高校入試(中考)の段階で、大学に進学できる成績なのか、そうではないのかという「ふるい」にかけるもので、約半数の学生に大学進学をあきらめさせ、職業中学(職業専門学校)や中等専門学校(日本の高等専門学校)に進学させるように仕向けるものだ。

大卒者の就職が困難になり、ホワイトカラーをむやみに増やさず、専門職に就く人を増やすという方針だが、中国では、これが非常に不評だ。逆にこの方針によって、早期に「自分はエリートになれない人間」というレッテルを貼られたと思い、自暴自棄になる若者もいる。職人が尊敬されにくい、メンツを重んじる中国社会ならではの現象だが、職業専門学校に通う若者の中には、通いたくて通っている人ばかりではないことも確かだ。

上海の南京路の夜景
写真=iStock.com/zhuyufang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zhuyufang

■犯行現場はいずれも出稼ぎ労働者が多い

3つ目は戸籍の問題だ。私はこれまでも著書や記事の中で、中国人を大きく2つに分ける戸籍制度が、社会のさまざまなひずみや問題、差別を生んでいると指摘してきた。中国には都市戸籍と農村戸籍があり、1950年代後半から実施されている。

北京や上海などの都市に生まれれば、都市戸籍を持つことができ、進学、就職、住宅購入、社会保障などの面で優遇されるが、農村に生まれれば、農村戸籍となり、優遇は受けられない。とくに、都市部に出稼ぎに出た際に、本人はそれ(自分が外来者であること)を嫌というほど痛感させられる。

日本人男児が刺殺された広東省深圳市や、その対岸にあり、男が車で暴走した事件が起きた珠海市、あるいは深圳に隣接する東莞市、広州市などは日系、台湾系などの外資や国内企業の工場が多い工業地帯で、外地(別の省)からの出稼ぎ労働者が多い土地柄だ。

■給与も社会保障も格差が大きい

出稼ぎ労働者は湖南省や四川省などの内陸部から、仕事を求めてやってきた農村戸籍保持者が多く、安いアパートや工場の社員寮などに住んでいる。若者だけでなく、地元で仕事がなく、仕方なく広東省にやってきた中年も多い。ほかに、日雇い労働者もいて、毎日違う建設現場などに働きに行き、日給をもらって生活している人も少なくない。彼らはもし病気にかかっても、地元の人と同じような社会保障は受けられない弱者だ。

深圳で日本人男児が刺殺された事件の犯人の素性は不明だが、蘇州市の日本人学校近くのスクールバスのバス停で中国人女性を刺殺した男は、報道によると、「他の都市から蘇州にやってきた」ことがわかっている。外来者はその都市との縁がないため、知人や友人が少なく、相談する人も少ない。中国語の発音も異なり、なまりがあるため、すぐに外来者だとわかってしまい、差別の対象にもなる。

■「負け組」を救済するシステムが存在しない

私は最近、中国で今年大ヒットした映画『逆行人生』(邦題:『アップストリーム~逆転人生~』)を観る機会があったが、映画では、大都市のデリバリー配達員のほとんどが地方出身者で、過酷な労働条件で働いていることを描いていた。配達員は、中国ではエッセンシャルワーカーのひとつであるのに、地元の人は軽蔑し、ほとんど就こうとしない職業だ。

日本に住んでいるとわかりにくいが、このように、中国社会には差別やひずみ、社会問題が多数存在し、その中から「負け組」が生まれる。しかし、弱肉強食の中国には、彼らを救済するシステムは存在しない。

広東省政府はこのほど「8つの喪失者」として、「投資に失敗した人」「職を失った人」「人間関係で不和を抱えている人」などを洗い出し、管理強化につとめると公表したが、政府が厳しく締めつけることが、犯行の抑止力になるのか、非常に疑問だ。経済が成長しているときには、政府を肯定的に捉える人が多かったが、社会が反対方向に回り出したとき、さらに大きな事件が起こる可能性もあるのではないか、という不安を覚える。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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