中国産「農薬漬けシャインマスカット」が東南アジアで大炎上…怪しい日本語が書かれた“激安ブドウ”の実態
プレジデントオンライン / 2024年11月26日 18時15分
■「中国が毒を持ち込んできた」とタイ世論が沸騰
農薬が混入していた中国産シャインマスカットが東南アジアを騒がしている。現地有力メディアのバンコクポストなどが報じた。
Bangkok Post「Alarm raised about contaminated grapes」(2024/10/25)
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タイから始まったこの問題はインドネシアにも波及し、現地の消費者のシャインマスカット離れを加速している。この中国産シャインマスカットの一部は「日本産」と銘打たれているものもあり、日本ブランドを損なう恐れがある。
「農薬漬けのブドウなんて二度と食うか」――。
こうした声が先月来、タイ全土で高まり、現地では本来高級品のはずのシャインマスカットが叩き売られているという。
シャインマスカットは種無しブドウの高級品として知られている。先月末、タイの市民団体である農薬警報ネットワーク(Thai-PAN)が、バンコクと近隣地域で発売されている中国産と原産地不明のシャインマスカットのサンプルから基準値を超える残留農薬が検出されたと発表した。すべてのサンプルに農薬が残留し、ほぼすべてが基準値を超えていたという。
このニュースにより、タイのSNS上では「中国が毒をタイに持ち込んできた」など世論が沸騰。タイ政府当局は農薬の残留が確認された中国から輸入されたシャインマスカットについて、検出された農薬は安全基準内で洗浄すれば問題ないと危険性を否定した。
■インドネシアにも波及、国会でも物議を醸す
ただ、当局が紹介した洗浄の方法が、「食べる前に重曹水または水に15分間浸し、その後、流水で30秒すすぐ」というものだったため、「そんなことまでしないと食べられないほど危険なのか」とさらに世論を煽ることになった。
一部では「中国の機嫌を損ねたくないから、忖度してるんだろう」と中国への忖度を指摘する声も出るなど、シャインマスカットをめぐりナショナリズムが高まる結果となっている。
タイのこの騒ぎは瞬く間に東南アジアで広まり、インドネシアの消費者も敏感に反応した。このため、国会でも議題として取り上げられ、監督官庁に早急に調査を進めるように指示が出された。
これを受けて、インドネシア医薬品食品監督庁(BPOM)などがジャカルタなど主要都市の状況を調査した結果、国内で流通しているシャインマスカットに安全性の問題はなかったと発表した。
ただ、消費者の不信感は拭いがたく、SNS上では「こんな調査結果、信じられるか」「中国への配慮が透けて見える」といったネガティブな反応が溢れた。実際、筆者のインドネシア人の20代知人女性によると「これまでシャインマスカットを食べてきたけど二度と食べない」と決めたという。こうした消費者は少なくないと見られる。
■「中国」と「韓国」にやりたい放題されている
現地在住者によると、シャインマスカットはタイ同様に叩き売りされている状況が続いているという。実際に筆者がインドネシアにおけるシャインマスカットの販売状況を調べると、驚くべき実態が浮かび上がってきた。
その前に、まず、シャインマスカットとは何か、軽く説明させていただきたい。このブドウは元々、日本の農林水産省が所管する農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)によって育種・登録された、広島県で生まれた品種だ。ブドウの種がないため、食べやすく甘味に定評がある。値段も比較的手頃な価格帯から数万円する高級品など幅広い。
2006年に国内で品種登録されたが、当時は輸出を想定していなかったため、海外での品種登録を行っていなかった。それが仇となり苗木が海外に流出、中国や韓国などで栽培されてもライセンス料やロイヤリティー(使用料)を徴収する権利をもっていないため、農林水産省の推計によると、すでに100億円以上の損失を生んでいるという。
東南アジアで流通するシャインマスカットの大部分は韓国産か中国産で、先ほど取り上げたタイとインドネシアでもこの二つが主流となっている。なぜ日本産が出回らないのかと言えば、単純に価格の問題が大きい。
■農水省関係者「中国にマーケットを取られ、悔やまれる」
韓国産や中国産は一房5万~6万ルピア(日本円で約600円)のため、現地の人の「たまに食べるちょっと高級な食べ物」という価格帯。
一方の日本産の輸入品となるとそもそも出回る数も少なく、価格は一房最低50万ルピア(約5000円)となるため、値段が約10倍に跳ね上がるというわけだ。日本の農林水産省の関係者は以下のように話す。
「中国産と韓国産のシャインマスカットの味については、基本的にオリジナルの日本産と比べれば甘味や見た目のふくよかさなどの点ではまるで及ばない。ただ、中国の一番貧乏な貴州(きしゅう)(編集部注:中国西南部にある山岳エリア)でも栽培が確認されているシャインマスカットは、質を問わずに大量生産するという一点においては中国にマーケットを取られていると言わざるを得ないのが悔やまれるところだ」
前置きが長くなった。では、インドネシアではどのようにシャインマスカットが売られているのだろうか。
■スーパーに紛れる「中国産の“日本産”」
筆者の印象としては「外国由来の高級果物」というイメージは消費者の側に一般的に広まっていると思われる。基本的には地元の市場で売られているというよりは、スーパーで取り扱われている。
青果コーナーに陳列されており、「日本由来の高級ぶどう」というような表示がされてあることも少なくない。中間層が行くスーパーだけでなく、一度の買い物で2万~3万円の買い物をするような富裕層が行く高級スーパーでも売られているなど、価格や産地も千差万別だ。
現地の流通関係者は以下のように解説する。
「基本的に日系や現地ハイブランドのスーパーでの商品はすべて正規に日本から輸入されたものです。富裕層は価格というより味やブランドに価値を見出しますから、店側もその本物に対するニーズに対応する。
一方、中間層のニーズには『ちょっとリッチな感じを味わいたい』『珍しいものを食べてみたい』という経済成長に伴う消費性向の多様化が根幹にあるように思います。中間層は支出をできるだけ抑えたいという側面もあるため、圧倒的に安い中国産が『日本産』として陳列されていた場合であっても、それを喜んで購入するというわけです。
まあ、彼らだって偽物だと気づいているかもしれませんが、例えていえばヴィトンのバッグが3000円と言われて本物とは思わないけども、それはそれで受け入れればいいかという感じで楽しんでいると思いますよ」。
中国産が『日本産』として販売されている実態はどういうものか。ショッピングサイトやインスタグラムなどSNSを通じたオンライン販売を調査した。
■“日本産”のはずの「鮮なぶどう」
まず「シャインマスカット」で検索すると膨大な出品者が発見されたが、そのうち少なくない数が「日本産のブドウ、シャインマスカット」と題して販売しているのだ。代表的なのが以下の出品業者(以下の画像1)。
商品紹介の中で「新鮮で甘い日本産の種無しブドウ」と大文字で強調されているが、この商品の写真を拡大したのがこちら(画像2)。
商品にばっちりと「中国産」と明記されており、すぐに虚偽だとわかる。価格も5万ルピア(約500円)と異常に安く、流石にそんな値段でシャインマスカットは食べられないだろうということはすぐにわかる価格設定だ。
さらに、少し笑ってしまったのだが、こちらも日本産として販売されていた中国産シャインマスカットだが、紙箱が「鮮なぶどう シャインマスカット」という「新鮮」の誤字が強く疑われるデザインになっていた(画像3)。(筆者がオンライン上で調べた限り、「鮮なぶどう」というブランドや標語は見当たらなかった)
■“日本ブランドへの信用”が悪用されている
このような例は枚挙にいとまがないが、共通するのは「異様に安い価格」である。
オンラインショッピングサイトで本物の日本産と思われるシャインマスカットは基本的に一房50万ルピア(約5000円以上)するものであり、それ以下は偽物の確率が非常に高いということであろう。現地の日系流通関係者がこう解説する。
「首都であるジャカルタ特別州の毎月の最低賃金が約5万円、実際にはローカル企業勤務で約2万~3万円程度の人も少なくないインドネシアでは、数千円もするような果物は相当なご馳走であり、本物のシャインマスカットを口にする機会のある人の方が圧倒的に少数派です。
一方で日本産の高級品に憧れがある人も多いため、こうした偽物を本物と錯覚して購入する例が後を絶ちません。騙される消費者が悪いというのは簡単ですが、利用された日本ブランドの信用が棄損されるのは許せないですね」
本物の日本産マスカットが高価なのは、日本の農家がオリジナルの育て方で時間とエネルギーをかけているという手間暇によるところが大きいのは言うまでもない。
日本ブランドを利用する商法に対抗する手段がないのは、国内市場しか想定していなかった日本政府も農家も認識が甘かったからだといえばその通りだが、何とも忍びない話である。
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フリージャーナリスト
「食の安全保障」をはじめとした日本国内の話題に加え、東南アジアの幅広い分野をカバーする。
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(フリージャーナリスト 竹谷 栄哉)
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