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がんでも脳卒中でも心筋梗塞でもない…75歳以上の8割が5年以内に死亡する「寝たきりを招く病気」の名前

プレジデントオンライン / 2024年11月28日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pocketlight

がん、脳血管疾患、心疾患は三大疾病と呼ばれている。東京慈恵会医科大学の斎藤充教授は「健康に自信がある人でも、年をとって骨が強くなる人は一人もいない。骨の強さを維持しないと、認知症や動脈硬化、心臓疾患を合併するリスクが高まる」という――。

※本稿は、斎藤充『100年骨』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■「骨粗しょう症」は万病にかかわる病気

骨の強度が衰え、もろくなるのが「骨粗しょう症」です。

ですが、骨粗しょう症は骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気──という説明は、あまりにもざっくりしています。というのも、骨粗しょう症は単に骨折しやすくなるだけでなく、万病にかかわる病気だからです。人生全般にダメージを及ぼします。

たとえば、高齢者の骨折は、寝たきりや要介護状態を招き、健康寿命を縮める大きな要因になります。

特に足の付け根(大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ))や手首、背中、肩などの骨を骨折すると、立つことや歩くことができなくなり、要介護や寝たきりになる危険性が高まります。

厚生労働省の調査によると、「65歳以上の方が要介護者となった主な原因」は、運動器の障害(「転倒・骨折」「関節疾患」)が「認知症」や「脳血管疾患」、「高齢による衰弱」を抜いて最も多く、女性に限れば、運動器の障害は全体の約3割を占めています。

■小さな骨折で腰が徐々に曲がっていく

昔と違い、昨今の65歳は若々しく、趣味や仕事など、まだまだ活発に動き回れる年齢ですよね。それなのに、骨折によって一気に老化が進んでしまうというのは、ご本人にとっても家族にとってもショックな事態でしょう。

背骨の骨折では腰が曲がることがあり、曲がっている箇所周辺の筋肉が緊張して痛みが生じます。痛みや腰の曲がりはからだの動きを制限してしまうため、着替えにくい、歩きにくいなど、日常生活でのさまざまな動作(「ADL」と言います)の低下を招きます。足の付け根を骨折すれば、歩行が困難になり、寝たきり、引きこもり状態を招き、その結果、筋肉量が減少したり筋力が低下したりする「サルコペニア」にもつながります。

また、最近の研究から、骨粗しょう症の患者さんは動脈硬化や心臓疾患などを合併しやすいことがわかっています。

動脈硬化、高血圧、糖尿病、腎機能障害(CKD)、慢性肺疾患(COPD)といった生活習慣病を患っている方は、骨のコラーゲンが過剰に老化する「骨質劣化型の骨粗しょう症」となり、骨折する危険性が高いことも明らかになりました。

■「認知機能の衰え」も助長する

さらに骨粗しょう症は、認知機能の衰えも助長します。慈恵医大の神経内科との共同研究では、パーキンソン病の患者さんで骨質マーカー(骨質の劣化を測る値)の数値が悪いと、認知機能が悪くなってしまうことがわかっています。

パーキンソン病とは、「からだのふるえ」「動作がゆっくりになる」「筋肉がこわばり手足が動かしにくくなる」「転びやすくなる」などといった症状を特徴とする病気で、脳の指令を伝えるドーパミンと呼ばれる物質が減ることによって起こります。

通常、パーキンソン病は、認知機能には影響されないとされていますが、こと骨質の劣化があるパーキンソン病の患者さんには、認知機能の低下が認められるデータがあるのです。

まさに、骨粗しょう症は万病に関係しているわけです。健康長寿を楽しむために、骨粗しょう症を予防し、治療することの大切さをご理解いただければ幸いです。

■骨折した男性の死亡率は女性の3~4倍に

骨粗しょう症というと、「60代以上の女性は気を付けて」と言われてきましたが、決して女性だけの病気ではありません。男女関係なく、50歳以降は性ホルモンが減少します。この性ホルモンの減少が骨密度とコラーゲンの老化に拍車をかけてしまうわけですから、男女ともに、ご自分ごととして問題意識を持っていただく必要があります。

骨粗しょう症の一番の原因は性ホルモンの減少で、女性では閉経、男性では壮年期以降にリスクが高まります。

男性の骨粗しょう症の場合、骨質劣化型の骨粗しょう症になりやすいということがわかっていて、男性が高齢で骨折すると、女性よりも3~4倍も死亡率が高いという報告があります。

女性は骨密度が若い人の値の70%を切ったあたりから骨折しやすくなるのに比べ、男性は80%を切るとその危険があるのです。その理由は、男性は女性よりも酸化ストレスの影響を受けやすいため、骨質が悪くなりやすいのではないかと考えられています。

それなのに、ほとんどの男性は骨粗しょう症を女性の病気と決めつけているのも問題です。大型犬の散歩中、ひっぱられて転倒しただけで骨折したり、風呂で足元がよろめいて浴槽にからだをぶつけたりなどといった、ささいなことで骨折してしまった場合には、十分に骨粗しょう症を疑う必要があります。

■「歯が抜け落ちる」意外なリスクも

骨粗しょう症は、歯を支えているあごの骨(顎骨(がくこつ))の劣化も招きます。

顎骨も骨ですから、骨粗しょう症であれば、他の部位と同じように骨量が減っていきます。

今、歯科では、上下の歯全体を広い範囲で撮影できる「パノラマレントゲン」を用いて骨粗しょう症を診断するAIソフトの開発が進んでいます。

骨が弱るときは、どこか一部の骨だけが弱るのではなく、全身の骨が弱くなります。

顎骨は特に薄い骨ですが、上に歯が乗り、日々、何千回、何万回と強い力がかかるこの顎骨は、他の骨よりもダメージを直接的に受けやすいと言えます。

歯茎を支えているのは顎骨ですから、顎骨が弱くなると歯茎がグラグラし、歯が弱くなることにつながります。

顎骨が弱くなり、歯が抜けるようなことがあれば、食事が不自由になります。咀嚼(そしゃく)の力が低下し、栄養がうまく摂れなくなります。栄養が摂れないと、さらに全身の骨もやせてしまい、萎縮してしまうというように、結局は全身が弱る方向へと、すべてつながってしまうのです。

男性の食事を手伝う介護者
写真=iStock.com/koumaru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koumaru

私たちのチームの調査でも、「骨質劣化型」の骨粗しょう症になった高齢女性では、残存する歯の数が、他の人に比べて非常に少ないことがわかっています。

■身長が3cm以上縮んだ女性の悲劇

骨質が劣化しているということは、体内に「AGEs(エイジーイーズ)終末糖化産物(Advanced glycation end products)」という物質が溜まり全身の酸化・糖化が進行している証でもあります。単に虫歯になりやすいとか残存する歯が少ない、といった話では済みません。

骨、血管、筋肉、軟骨、歯、そして神経と、からだはすべて連関しているので、歯が弱いという自覚がある方は骨粗しょう症を疑い、検査を受けてほしいと思っています。

骨粗しょう症は健康寿命に大きくかかわってくると書きましたが、それを示している典型的な患者さんの例をご紹介しましょう。私の患者さんではありませんが、東北地方で実際に起きた症例です。

90歳をまもなく迎えるキョウコさん(仮名)は数年前まで元気に働いていました。仕事は化粧品の販売会社の経営と訪問販売。活動的な彼女は40代で運転免許を取得し、80歳を過ぎても愛車を駆って忙しく動き回っていました。

健康には自信があり、「毎日ヘトヘトになるくらい働いているんだから、たくさん運動しているのと同じ。ご飯だってモリモリ食べているから元気よ」と自信満々でしたが、高血圧の持病を抱え、薬とサプリメントが手放せない。加齢とともに背中が丸くなり、153cmだった身長は140cm台にまで縮んだ半面、体重は60kg以上。

■寝ている間に背骨を骨折していた

手足は細いけれど、お腹周りは鏡もちのようにどっしりしていて、子どもたちからは「雪だるまに爪楊枝の手足を刺したみたい。手足が可哀想」と心配されていました。

ある日、銀行へ出かけたキョウコさんは、雨で濡れたフロアですべって転倒した拍子に手首を骨折。搬送先の整形外科で思わぬことを告げられます。

「骨粗しょう症ですね。非常に骨折しやすくなっています。治療しましょう」

薬を飲み始め、転ばないよう気を付けた他、子どもたちにすすめられ公営プールでの水中歩行にも挑戦しましたが、薬はたびたび飲み忘れ、プールも続きません。

「忙しいんだもの、しょうがない」と言い訳しながら1年が経過した頃、恐ろしいことが起こりました。深夜、眠っていたキョウコさんは、突然の背中の激痛で目を覚ましました。寝返りを打つことも、起き上がることもできません。2階で寝ていた息子を大声で呼ぶと、幸い気が付いて、すぐに救急車を呼んでくれました。

診断は骨粗しょう症から来る「脊椎圧迫骨折」。背骨の骨折です。

ベッドで寝ている高齢者の女性
写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

コルセットを装着して安静にし、痛み止めを飲んで、3週間入院していれば治るはずでした。でも治らず、入院は3カ月に及びました。

■脛が黒く壊死してしまった

さらに、退院後のキョウコさんには、新たな異変が生じていました。

入院中も携帯電話で部下に指示を出したり顧客に電話したりと、仕事を休まなかった彼女は、帰宅するなり「車の運転くらいはできる」と飛び回り始めたのですが、どこかおかしい。会社から持ち帰った荷物を見て「いつの間に、誰が持ってきてくれたの?」と仰天し、軽微な追突事故を繰り返す。背中から腰にかけての痛みもひかないと言います。

同居する息子が、悩んだ末、市内のクリニックに連れて行くと、医師はさりげなく認知症検査を行い「軽度の認知症」と診断。異変の背景には認知症があったのです。それから2カ月後、キョウコさんは泣く泣く運転免許を返納。しばらくは息子に手伝ってもらいながら仕事を続けましたが、病状はみるみる悪化していきました。

背骨の骨折から2年もしないうちに、1分前のことも覚えていられなくなり、自分で食事を飲み込むこともトイレに行きたいと訴えることもできなくなりました。そしてついに、膝から下の動脈が詰まる「下肢閉塞性動脈硬化症」を起こします。すぐに血流を再開する手術かカテーテル治療を行う必要がありましたが、「認知症の人には行えない」と断念され、脛(すね)から下が黒く壊死(えし)。

■「8割近くが5年以内に死亡」恐怖の骨折とは

「からだが衰弱しているので、足の切断手術もできない。このままだと壊死した部分から毒が全身に回り、長くはもたない」と宣告されてしまいました。

斎藤充『100年骨』(サンマーク出版)
斎藤充『100年骨』(サンマーク出版)

いかがでしょうか。高齢の方が、骨折で入院して戻って来たら、体調や認知症が一気に悪化していて驚いた、というお話はよく耳にされるのではないでしょうか。からだを動かさないということは、それだけでも健康を損なうリスクですが、骨粗しょう症をきっかけに、生活が一変してしまうこともあるのです。

がんに罹患する人は2人に1人ですが、骨は100%、誰もが弱くなります。

とりわけ、足の付け根近くを骨折する大腿骨近位部骨折は5人に1人がなると言われています。これは非常に危険な骨折で、75歳以上で大腿骨近位部骨折を起こした人の5年生存率は、男女あわせて約2割。8割近くの人は5年以内に亡くなってしまいます。

残念ながら、年をとって骨が強くなるという人は一人もいません。全員が問題意識と、正しい知識を持って骨に向き合うことが大切です。

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斎藤 充(さいとう・みつる)
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授。同大附属病院整形外科・診療部長。1992年、東京慈恵会医科大学卒。2020年より現職。日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本人工関節学会理事などを兼務。骨代謝の診断・治療・研究で国内外を牽引する。

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(東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授 斎藤 充)

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