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鼻にスプレーするだけの「フルミスト」か注射か…小児科医が解説「インフルエンザワクチン」2タイプ徹底比較

プレジデントオンライン / 2024年11月27日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/brightstars

今シーズンは、従来通りの注射をする「インフルエンザHAワクチン」だけでなく、鼻に噴射する「経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(フルミスト)」が日本でも使えるようになった。効果や費用はどう違うのか。小児科医の森戸やすみさんが解説する――。

■インフルエンザワクチンの季節

秋は、インフルエンザワクチンの接種時期。例年10月から接種が始まり、11月に接種する人がもっとも多いそうです。ただし、先シーズンは小規模ながら夏からインフルエンザウイルスの流行が続き、すでに感染したからという理由でワクチンを接種しなかった人も多かったとか。その結果、インフルエンザA型にかかった人が、同じシーズン中にB型にかかるということがありました。

「インフルエンザは大した病気ではない」「めったにかからない」と考えている人もいるかもしれません。でも、普通の風邪とは違い、インフルエンザは急激な高熱、頭痛や関節痛、筋肉痛、咳と鼻水などの症状がつらい感染症です。そればかりでなく、肺炎や脳症を起こすことも。インフルエンザ脳症は10歳以下の子に多く、死亡率が約30%、後遺症が残る確率も25%と大変怖い病気です。2023年の「人口動態統計月報年計」の「年齢別の死因」によると、5〜9歳ではインフルエンザが4位でした(※1)

とりわけ、子どもが集団生活を送る保育園や幼稚園、学校では、感染症をうつしあいやすく、さらに家庭へと持ち帰って感染が広がることもあります。日本では1960年代から1994年までインフルエンザワクチンの集団接種を行っていました。この間、高齢者に多い超過死亡は少なく、集団接種中止後に増加したのです(※2)。ですから、できたらインフルエンザワクチンを接種しておいたほうがいいでしょう。

※1 厚生労働省 人口動態統計月報年計(2023)「年齢別の死因」
※2 「ウイルス」第52巻 第1号,pp47-53 2002,菅谷憲夫「8.インフルエンザ 最近の臨床の進歩」

【図表1】死亡数・死亡率(人口10万人対)

■インフルエンザHAワクチンの効果

また従来型のインフルエンザワクチン(一般名「インフルエンザHAワクチン」)は、流行する型を予想して作るため、それが外れたら効果がないと言う人もいますが、じつはそうではありません。アメリカで10シーズン、70万人以上を分析した研究によると、どのシーズンもワクチンを受けた高齢者のほうが受けなかった高齢者よりも、入院のリスクも死亡率も低かったのです(※3)

インフルエンザHAワクチンは、生後6カ月から接種可能な不活化ワクチンです。生後6カ月〜3歳未満は、1回0.25mlのワクチンを2回接種します。3歳〜13歳未満は1回0.5mlのワクチンを2回接種。毎年10〜11月頃に1回目の接種をし、約4週間(少なくとも2週間)の間隔を開けて、2回目を接種するのがいいでしょう。少なくとも年内に1回接種しておけば、感染と重症化を防ぐことができます。

13歳以上は大人と同様に、1回0.5mlのワクチンの1回接種します。WHO(世界保健機関)とCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、9歳以上なら1回接種が適切だとしています(※4)

※3 New England Journal of Medicine “Effectiveness of Influenza Vaccine in the Community-Dwelling Elderly”
※4 プレジデントオンライン「じつは9歳以上なら1回だけの接種でも十分効果がある…『子どものインフルエンザワクチン』の新常識」

■経鼻弱毒生インフルエンザワクチン

さて、今シーズンからは、新たに「経鼻弱毒生インフルエンザワクチン」が使えるようになったのをご存じですか? アメリカでは2003年から使用が開始され、現在では世界35カ国以上で使われていますが、日本では今年から使えるようになりました。昨年までは、個別輸入した医療機関で自費接種できるだけだったのです。

この「経鼻弱毒生インフルエンザワクチン」は、商品名を「フルミスト」といい、注射ではなく、液体を鼻の穴に噴霧するタイプの生ワクチン。左右の鼻に0.1mlを1回ずつ、つまり合計0.2mlを噴霧します。ことさら頑張ってワクチンを吸い込んだり、すすったりする必要はありません。私のクリニックでも接種を開始しましたが、ワクチンが鼻腔から垂れてくるようなこともなく、鼻がツンとすることもないので、非常に好評です。

日本での接種対象者は、2歳から19歳未満まで。海外だと49歳まで接種可能な国が多いようです。しかし、フルミストは若い人のほうが効果が高いことがわかっているので、大人は従来通りの注射のほうがいいでしょう。

高熱の病気の赤ちゃん
写真=iStock.com/Milos Dimic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milos Dimic

■注射とミストの副作用について

ただし、他のワクチンや薬と同様に、確率は低いとはいえ、インフルエンザHAワクチンでも、フルミストでも副反応は起こり得ます。

インフルエンザHAワクチンの副反応は、接種部位の発赤、腫脹、疼痛等が主なものです。全身反応として、発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、嘔吐・吐き気、下痢、食欲減退、関節痛、筋肉痛等の報告があります。

フルミストの副反応は、添付文書によると鼻水が出たり、鼻が詰まったり、咳、口腔咽頭痛、頭痛が10%以上出ると書かれていますが、治験でプラセボ(偽薬)を点鼻したときと同じくらいの割合です。そのほか鼻咽頭炎、食欲減退、下痢、腹痛、発熱、活動性低下・疲労・無力症、筋肉痛、インフルエンザが1〜10%未満の確率で起こることがあります。鼻に何かを入れられるというのは多少不快なので、気持ちが塞いで食欲が減ることもあるのでしょう。ただし、発熱とインフルエンザ以外は、やはりプラセボでも同じ割合です。

またフルミストは弱毒化した生ワクチンなので、不活化ワクチンとは違ってインフルエンザウイルス感染症になってしまうリスクがわずかながらあります。でも、重症化したという報告はありません。

■それぞれの特徴や違いとは

インフルエンザHAワクチンとフルミストを比べると、以下の違いがあります。

インフルエンザHAワクチンは、ウイルスを不活性化した「不活化ワクチン」ですから、妊娠中も接種可能です。一方、フルミストは生ワクチンなので、妊娠中の女性は受けられません。また、接種後1〜2週間は、飛沫感染、接触感染の可能性がわずかながらあるため、重度の免疫不全者との接触を避けたほうがいいです。授乳中の人が受けた場合も、1〜2週間は乳児との接触を可能な限り避けましょう。

有効率(予防効果)については、インフルエンザHAワクチンは50〜60%(2015/16シーズンVI歳未満)で、フルミストは12.5〜42%(国内第III相試験)です。有効期間は、インフルエンザHAワクチンが半年間くらいで、フルミストは1年間くらいでしょう。

接種費用に関しては、HAインフルエンザワクチンは多くの市町村で助成がありますが、フルミストに助成が出る自治体はまだごくわずか。自費のワクチンは医療機関によって料金が違いますが、フルミストはだいたい8000〜9000円のようです。フルミストの利点はなんといっても痛くないところ、1回の接種でいいところでしょう。

なお、どちらも他のワクチンと接種間隔を開けなくてもよく、同時接種も可能です。それぞれの利点を理解して、どちらを受けるか決めるといいでしょう。

【図表2】インフルエンザHAワクチンとフルミストの違い

■新型コロナワクチンの同時接種

もう一つ、今シーズン話題になっているのが、新しい新型コロナワクチンです。新型コロナワクチンは、インフルエンザワクチンの不活化・生のどちらとも同時接種が可能。子どもに対する新型コロナワクチンのデータは、大人ほど多くはないものの、世界中で使用されたことから多数集まっています。その安全性と有効性は確かで、詳しく知りたい方は日本小児科学会の出している「2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」をご覧ください。

「子どもは新型コロナにかかっても軽症で済むし、亡くなることはない」と考える人は多いと思います。ところが新型コロナウイルス感染症は「子どもにとっては風邪程度」ではなく、2023年の「人口動態統計月報年計」で、1〜4歳の男児・女児および10〜14歳の女児の死因の第5位です。亡くならないまでも、重症化してつらくなったり、後遺症が残ったりした子がたくさんいます。ニュースで報道されないだけで、子どもの死亡原因として上位に入るほど、新型コロナウイルス感染症によって亡くなっている子どもがいるということを知ってください。

2024年9月19日時点で日本で入手可能なワクチンは、ファイザー社の「コミナティ」、モデルナ社の「スパイクバックス」、第一三共の「ダイチロナ」、Meiji Seikaファルマの「コスタイベ」、タケダの「ヌバキソビット」ですが、ダイチロナは12歳以上、コスタイベは18歳以上にしか使うことができません。

それぞれの特徴は以下の通りです。接種を考えている人は参考にしてください。

【図表3】日本で入手可能な新型コロナワクチンの特徴

■接種できる医療機関は少ない

子どもが新型コロナワクチンを接種できる医療機関はとても限られているのが現状です。その理由は、接種希望者が少ないから、注射薬の規格が数人分だから、その日のうちに使わなければならないからです。

例えば、2024年3月31日までにたくさんの子どもが接種したファイザー社のコミナティの場合、注射薬3人分が1つのバイアルに入っています。ですから、生後6カ月〜4歳の接種希望者が2人しか集まらないと、1人分を捨てることになります。その1人分は医療機関の持ち出しになるので、接種予約を同じ日に集めることになるのですが、接種希望者が少ないと難しいのです。

また、医療機関に注射薬を卸す会社に、子どもにも使える新型コロナワクチンの取り扱いをしているところが少ないのです。クリニックや病院は1社〜数社の卸業者と契約していますが、どこの業者もそのワクチンを扱っていないということもあります。

受験や大事なイベントを控えているとか、身近にうつしてはいけない高齢者や基礎疾患のある人がいるといった理由で、新型コロナウイルス感染症をワクチンで防ぎたいというお子さんは、大きな病院やワクチンに力を入れているクリニックに問い合わせてみてくださいね。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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