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ついに「スタバ離れ」がはじまった…カスタマイズするほど長くなる注文の"意外な落とし穴"

プレジデントオンライン / 2024年11月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bensib

■世界で深刻化する“スタバ離れ”

かつての「第三の居場所」はどこへ――。米スターバックスが、深刻な業績悪化に瀕している。2024年第4四半期の純利益は前年同期比で約25%減。本拠地アメリカでは来店客数が10%減少し、中国市場でも現地チェーンとの競争激化で既存店売上高が14%落ち込んだ。

9月に就任したブライアン・ニコルCEOは、「戦略を根本的に変える必要がある」と危機感を露わに。1杯1000円を超える高価格帯の商品がインフレ下で敬遠され、複雑なカスタマイズによる長時間待ちも客離れに拍車をかけている。

価格に加えて問題となっているのが、オペレーションの非効率だ。同社の看板商品「フラペチーノ」は、1杯の提供に16もの工程と87秒を要する。加えて、スターバックスといえば、豊富なカスタマイズが売りだ。長いオプション指定をレジで指定できるサービスは、自分だけの1杯を探求できると同時に、常連の心を巧みにくすぐる。

「ソイで、ベンティーサイズのホットのカフェモカを、ショット追加、エクストラホイップ、チョコレートソースも追加で」といった具合だ。「ソイ」で牛乳を豆乳に変更し、「ショット追加」でエスプレッソを通常より1ショット多くリクエストしている。

だが、アプリからの注文でカスタマイズの敷居が下がったことで、バーカウンターの内側は効率の低下に見舞われている。新CEOのニコル氏は、オプションの制限策を打ち出した。チェーンの“売り”だったカスタマイズに、自ら足枷をかけた形だ。

平行してニコル氏が人間味回復の象徴として掲げる、「20万本のフェルトペン」とは。効率化と接客サービスの両立を目指す新生スターバックスの行く先を占う。

■15分以上待たされることも…注文の半数以上で目標時間をオーバー

米スターバックスの業績悪化が顕著だ。9月に同社の最高経営責任者(CEO)に就任したニコル氏は、米CNBCニュースに対し、顧客を取り戻すためには「戦略を根本的に変える必要がある」との厳しい見通しを示した。

同社の2024年度第4四半期の決算は、純利益が9億930万ドル(1株当たり80セント)と、前年同期の12億2000万ドル(同1.06ドル)から大幅に減少した。世界全体の既存店売上高は前年同期比7%減、来店客数は8%減と、アメリカ国外でも奮わない。

特に不振が目立つのは、本拠地であるアメリカ市場に加え、パイの大きな中国市場だ。アメリカの既存店売上高は6%減、来店客数は10%減を記録。中国では、ラッキンコーヒーなど安価な中国系チェーンとの競争激化により、既存店売上高が14%減少した。S&P 500指数が今年に入って22%上がるなか、スターバックスは1%の弱い伸び率に留まっている。

ニコル氏はアメリカ事業の立て直しに向け、複数の施策を提示。その一つが、注文から4分以内での飲み物の提供という新目標だ。現在、この基準を満たしているのは、全オーダー数の約半数にとどまる。店舗によっては15分以上の待ち時間が常態化している現状がある。

■1杯1000円超えのドリンク、インフレで敬遠の対象に

不調の一因は、間違いなくインフレにある。英ガーディアン紙は、「顧客らは支出を抑え、スターバックスの高額なドリンクに見切りをつけている」と指摘する。

例としてシアトルの店舗で「キャラメル・ブリュレ・フラペチーノ」を注文すると、フラペチーノ向けに3つ用意されているサイズの中間にあたる「グランデ」サイズで税込み6.86ドルとなり、日本円で1杯1060円という価格だ。カスタマイズによってはさらに料金が加算される。

スターバックスのブライアン・ニコルCEO
スターバックスのブライアン・ニコルCEO(写真=Phi Delta Theta/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

だが、問題はそれだけではない。居心地の良い空間とスペシャリティ・ドリンクを楽しめるならば、1000円超は高くないと感じるファンもいることだろう。ところが、カウンター前に並ぶ長い待ち時間が災いし、手軽にドリンクを楽しみたい客たちの足が遠のいているのだ。

米ビジネス・インサイダーは、スターバックスのフラペチーノ1杯を作るのに、現行システムでは87秒と16の手順が必要であると報じている。グランデサイズのモカ・フラペチーノの例だ。

フラペチーノなどコールド・ドリンクは、同社の売上の約70%を占める重要な商品となっている。特にZ世代とミレニアル世代の若い顧客層でコールド・ドリンクの需要は強く、オペレーションの効率化は必須課題だ。

スターバックスはすでに後述の新システム「サイレン」導入で効率化を図っているが、バリスタ(店員)らの反応は鈍い。機器導入のハードルが高いほか、自動化で温かみが失われるとの反発が出ているようだ。

ボストンのバリスタは同メディアに対し、「(スターバックスが)望むものが巨大なフラペチーノの自動販売機なら、(同社が)取っている方向性に満足するだろう」と、冷めた見方を示す。

ワシントン州のバリスタは、「カフェでの経験を積むために、スターバックスで働きたいと思いました。伝統的なカフェのスキルが今後重要でなくなっていくとすれば、残念です」と語っている。効率化を追求するトップの思惑とは裏腹に、現場のバリスタたちは非効率であろうとも、温かみのある接客を行いたいと望んでいる。

■カスタマイズに「常識的な制限」を設ける米CEOの単純化戦略

ニコル氏が振るう大鉈(おおなた)のひとつが、カスタマイズの制限だ。ガーディアン紙が取り上げたビデオメッセージで、「過度に複雑なメニューを簡素化し、価格戦略を変更して顧客に価値を感じてもらう」と述べている。スタバの武器であった豊富なカスタマイズオプションや高価格帯のオリジナルメニューから離れることを意味しており、かなり思い切った改革と言えよう。

世間では否定的な反応も出ているようだ。米ビジネス誌のフォーチュンは、「スターバックスは、高度にカスタマイズされたドリンクの注文はもう受け付けないと言っている。用意されたものを受け取るだけになるだろう」と題する記事を掲載した。

記事によるとニコル氏は特に、カスタマイズを促進する同社モバイルアプリの存在を問題視している。カスタムオーダーを意のままに追加できる現在のアプリは、「顧客とバリスタの両方にとって頭痛の種となっている」との持論を披露。アプリからカスタマイズできる内容に関し、「常識的な制限」を設けると述べた。顧客は今後、驚くようなカスタマイズ料金を取られることがなくなる、とニコル氏は利点を強調する。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、直近の四半期ではオーダーの3件に1件がアプリ経由で行われている。手軽にドリンクをカスタマイズできるアプリが原因で、調理の複雑性が増しているという。エスプレッソショットを追加したり、バニラシロップを加えたりと、カスタマイズの幅は広い。

呪文のように長いカスタマイズに満足する顧客がいる一方、ただドリップコーヒーを注文したいだけの客は、列の最後尾で辛抱強く待つほかない。同紙は、「スターバックスは、自らの成功の犠牲者でもある」と述べ、豊富なオプションを売りにしてきた同チェーンのジレンマを指摘する。

米インクによると、スターバックスの多くのバリスタは、注文から2分半以内にドリンクを完成させることができる。だが、混雑時やモバイルアプリからの複雑なオーダーが入った際は、目標時間の4分を超えてしまう。

ニコル氏のシンプル化路線は、この課題へのアンサーだ。しかし、カスタマイズを愛してきた既存顧客の反発も予想されそうだ。

スターバックスのドリンク
写真=iStock.com/dontree_m
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dontree_m

■まるでファストフード店…くつろぎの「サードプレイス」はどこへ

課題はまだある。スターバックスはこれまで、快適な店内空間を売りにしてきた。自宅と会社の往復を繰り返す人々に、安らぎの第三の居場所(サードプレイス)を提供する方針がヒットを生んだ。

だが、ここ最近の店舗はそのコンセプトを忘れており、以前のような快適性を失ったとの失望の声が聞かれる。ニューヨーク・タイムズ紙は、スターバックスが多くのレストランチェーンを追随する形で、ドライブスルーやモバイル注文のピックアップを重視したと指摘。とくにパンデミック期間にこの傾向は顕著であり、かつて快適なソファが置かれていた店内の飲食スペースは削減された。

ロサンゼルスに住む39歳のミュージシャン女性は、同紙の取材に、「初めてのデートはスターバックスでした。スターバックスでコーヒーを飲みながら本を読むのが、私の好きなことのひとつだったんです」と振り返る。

しかし彼女は、「今では、まるでファストフードレストランのよう」と失望を隠さない。「タコベルやマクドナルドと似たような、殺風景な感じですね」

スターバックスは、「サードプレイス」としての価値を取り戻す必要に迫られている。新CEOのニコル氏も、喫緊の課題として認識しているようだ。人間味ある店内体験を、いかに復活させるか。大胆な改革を象徴する一手が、「20万本のフェルトペン」の新規調達なのだという。

スターバックスのドリンクのカップを持つ人の手元
写真=iStock.com/edfuentesg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/edfuentesg

■秘密兵器は「20万本のフェルトペン」

ニコル氏はCNBCの取材のなかで、廃止されていたニックネームの記入文化を復活させると明らかにした。かつてアメリカのスターバックスでは、バリスタが客にファーストネームを尋ね、IDペンと呼ばれるフェルトペンで紙カップに記入する文化があった。会話を重視するスターバックスにおいて、よりパーソナルなコミュニケーションを取る手段として機能していた。

現在は多くの店舗で電子注文システムに移行している。注文内容の印字されたシールがプリンターから出力され、これをカップに貼付するのみだ。効率化したシステムからあえて一歩後退し、以前のように手書きで名前を記入することが、ニコル氏の改革の第一歩だという。

ニコル氏は「単に文具量販店に行って、フェルトペンを買ってくるような簡単な話ではない」と述べ、あくまで20万本のペンの調達は改革の一端に過ぎないとしている。それでも、カップへの名前記入や声かけの復活を、顧客との絆を深める重要な一歩と位置付けているようだ。

ほか、セラミックマグの復活や、パンデミック中に取り払ったコンディメントバー(調味料コーナー)の再導入、くつろげるソファの配置など、店舗の居心地を改善する施策を次々と打ち出している。カスタマイズの選択肢を絞る代わりにコンディメントバーでパウダーを自分で足してもらい、満足度を高めてもらいたい方針だ。

アメリカだけで約1万7000店舗を展開する巨大チェーンが、効率化の追求で失った「人間味」を取り戻そうとする試みに、業界の注目が集まっている。

■新システム「サイレン」で効率化を図る

居心地とは別に、ニコル氏が課題に掲げるのが、提供時間の短縮だ。スタッフの配置の見直しなどを通じ、注文から提供までの時間を4分以内に抑える目標を掲げている。

米スターバックスはニコル氏の就任前から、「サイレン」と呼ばれる新システムの導入を進めていた。これが提供時間の短縮に貢献するかもしれない。創業の地である港町・シアトルにちなんだ、スターバックスのロゴマーク。そこに姿を現す人魚のセイレーンから命名された。

米CNNは、コールドドリンクの提供時間を大幅に短縮するために設計された、と紹介している。従来よりも高速なブレンダーや、ミルクや氷などの材料を一列に配置したディスペンサーを備えており、バリスタは作業中にカウンターの下にある生クリームやミルクを取りに行く必要がなくなる。また、食品を個別でなく一度に加熱できるオーブンもシステムに含まれており、フードの提供もより迅速になる。

ビジネス・インサイダーによると、従来16の手順を経て87秒かかっていたグランデサイズのモカフラペチーノの場合、13の手順と36秒で完結するという。この場合、秒数ベースでは3分の2近い大幅な削減となる。

もっとも、サイレンは導入開始から2年が経過したものの、全店舗の約10%にしか導入されていない。ニューヨーク・タイムズ紙によると、システムの導入には店舗の改装と従業員の研修が必要で、その間は一時的に店舗を閉鎖する必要がある。

■デジタル時代に求められる、合理化と温もりの狭間で

ニコル氏は、注文の処理に大幅に時間がかかっている店舗を特定している最中だと述べている。そうした店舗には迅速にサイレンシステムを全面導入する一方、他の店舗にはシステムの一部のみを導入する可能性があるという。

スターバックスの店舗に並ぶ人たち
写真=iStock.com/jack-sooksan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jack-sooksan

ワシントン大学近くの店舗で働くバリスタのアリ・ブレイ氏は同紙に、「15分も待たされ、従業員が忙しすぎて会話もできないような状況は、誰にとっても良い経験ではない」と語る。自動化を図る「サイレン」の導入で会話の余裕が生まれるか、はたまたバリスタが店舗を「自動販売機」のように感じてしまうか、評判は割れているようだ。

ドリンクのカスタマイズはスタバの大きな魅力だっただけに、待ち時間の短縮・合理化でむしろスタバの独自性が失われないか。スターバックスは難しい采配を迫られている。

ニコルCEOが掲げる施策は、一見、相反する方向性を持つ。カスタマイズを制限し、自動化システムで効率を上げる一方で、手書き文字やソファの復活など、かつての「居心地の良さ」も取り戻そうとしている。

だが、このバランス感覚こそが、同社の再生に不可欠なのかもしれない。アプリ全盛のデジタル化時代だからこそ、人の温もりへの原点回帰に価値が生まれる。高度に効率化された店舗運営の中に、人間味のある接客をいかに織り込むか。シアトル系コーヒーチェーンが乱立し、サードプレイスの概念も決してめずらしくなくなった今、スターバックスは自社のアイデンティティの再定義に挑戦している。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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