1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

関東学院大→コロンビア院卒の小泉進次郎を学歴ロンダリング扱い…大学後の学び評価しない"無学"な日本人

プレジデントオンライン / 2024年12月16日 7時15分

東京・文京区にある東京大学安田講堂。現在では東大をはじめとする難関国立大学にも推薦入試が導入され、大学の学歴が必ずしも学力を測る指標ではなくなっている。 - 写真=共同通信社

首都圏で中学受験が過熱している。今や小学1年生から子供を塾に通わせる家庭も出てきている。一方で、海外の有名大学院を卒業した政治家を「学歴ロンダリング」と指摘する声もある。大学で教鞭を執る2人が、日本人の学歴への考え方について語り合った――。

■首都圏では5人に1人が中学受験する過熱ぶり

【西田】「日本ってどうなんですか会議」の第2回、今回は「中学受験」と「学歴」というお題を編集部からもらいました。安田さんはお子さんが中学生だと聞いていますが、中学受験は?

【安田】私の家では受験はしませんでした。西田さんのところは?

【西田】うちは1人目が受験して、下の子が控えているところです。以前、安田さんはYouTubeの番組で「中学受験は意味がない」という趣旨の発言をして、ちょっとした大炎上を起こしていましたよね。「ああ、安田さんが燃えてる!」と眺めてました(笑)。

【安田】そうなんですよ。ただ、誤解があるんです。私が言いたかったのは、中学受験が必要以上に過熱化しすぎているのではないか、という問題提起だったので。調べてみると、日本では過去にも何度か「中学受験ブーム」がありました。代表例はバブル崩壊直後の1991年頃やリーマンショック前年の2007年頃です。その後、一度は減少するのですが、現在では再び増加してきています。日本では少子化が進んでいるため、受験者数が同じ水準に戻っていくということは、受験率が昔よりも高くなっているということです。

【西田】首都圏ではおよそ5人に1人が受験に挑むという状況ですからね。

【安田】やっぱり私は競争が過熱しすぎていると感じるんですよ。例えば、これが高校受験や大学受験であれば、本人が自分の意思で進路を選び、競争に向き合うことに価値があるとも思えます。本人による将来への投資と言ってもいいでしょう。しかし、中学受験の場合、親の強い後押しが欠かせません。子供自身が「本当にここまで時間や労力をかける価値があるのか?」と感じている場合も多いと思いますし、そうまでして私立中学や中高一貫校に進学して、果たして将来にどれほどの影響があるのか。小学生の貴重な3~4年を本当に費やすべきなのかどうか。そこのところを、あらためてよく考えてみてもいいと思うんです。

【西田】安田さんは筑駒(筑波大学附属駒場中・高等学校)から東大に行った「受験エリート」です。とはいえ、当時は受験の準備と言っても小学校4年生くらいから始めるのが普通だったんじゃないですか? 僕は6年生から。

【安田】はい。小4の秋から地元の小さな塾に通い始めて、大手の塾に移って受験を意識し始めたのが小5の頃です。受験勉強といえば、2年弱ぐらい集中してやるという感じでした。周りの子たちも似たような雰囲気でした。

■手に入る学歴は同じでも競争が長くなっている

【西田】今は小学校2年生くらいから始めないと間に合わない、と業界に煽られますからね。その意味では僕も安田さんの意見に同意するところがあって、我が家では子供ふたりとも「受験したい」と言い出したのでサポートしているものの、実際に経験してみると、中学受験はコストベネフィットが非常に低いと感じます。もちろん、人生は必ずしも費用対効果だけではありませんが、例えば家族で旅行に行ったり、習い事や子供らしい時間を過ごすことも、そのときにしか得られない大切な価値でしょう。中学受験に時間を取られるとお金だけでなく、子供時代だからこそできたかもしれない経験の機会と時間の両方が奪われてしまう。

【安田】そうなんです。そこで例に出したいのが、「地位財」という概念です。英語では「positional goods」と言い、他者と比較して自分の社会的地位や優越性を示すために消費される財のことを指します。地位財のような相対的価値に基づく豊かさは限られているので、それを人々が求める競争が激化します。例えば、iPhoneの新作発売時に多くの人が行列をつくるでしょう。iPhoneの数は限られていて、早く並ばないと手に入れられません。中学受験も同じで、一種の地位財的な競争に近くなっている気がします。椅子の数が限られていて、誰かが早く準備を始めれば他の人も競争に加わらざるをえない。その結果、競争がどんどん前倒しされ、以前なら1~2年前から準備すればよかったものが、今ではもっと早くから準備を始める必要が出てきてしまった。どれだけ長く受験勉強しても合格後に受けられる教育の価値は変わらないのに、競争から抜けられないんですよね。

【西田】僕は一貫して携帯はソニー、時計はカシオですけど、確かに周りがiPhoneを欲しいと言って並んでいる、つまりは中学受験をしていると、子供はどうしても影響を受けますよね。それで子供自身が「中学受験をしたい」と言い出したら、親は「やめろ」とは言い難い。しかも、うちがそうだったのですが、兄弟がいると「自分も塾に行きたい」と下の子が言い出すんですよ。そうなると、上の子がやっているのに、下の子だけ「NO」と言うのも不公平ですし、気がついたら中学受験の熱がどんどん過熱していくんだなと実感しています。怖い!(笑)

【安田】iPhoneを手に入れるために多少は並ぶことも理解できるけれど、以前は数時間並べば手に入ったものが、1日、2日並ばなければならない、という状況をどう考えるかですね。並ぶ時間はすごく長くなっているのに、手に入るものは同じなのですから。また、中学受験はさきほど西田さんが言ったように、まさに「機会費用」の問題でもある。受験勉強に時間を費やすことは、他の遊びや学びの機会を犠牲にすることを意味します。もちろん、私立中学に進学すれば高校受験がない分、中学生活を有意義に過ごすことができるかもしれませんが、それでも小学生時代の3~4年をそのために費やすべき「価値」があるかどうかは、よく考えたほうがいい問題でしょう。

【西田】加えて、親が「中学受験に失敗したら人生が大変になる」という強い不安を抱えていたりすると、競争を激化させる要因になるのかもしれませんね。大学教員をしていると、大学入試や教育環境が大きく変わってきていることを実感します。一般入試が大学に入る王道ではなくなりつつあります。しかし、親の世代にはその変化が十分に伝わっていないという印象です。

■なぜ日本人は政治家の学歴を評価したがるのか

【安田】仮に、私立の中高一貫校に入る目的が「良い大学に進学するため」だとしましょう。もちろん、私立中学を選ぶ理由は、個性的な教育環境に惹かれるなど、さまざまな理由があると思います。でも、「大学進学を見据えた選択」というのは、受験のかなり大きな動機だと考えられますよね。特にエスカレーター式の学校だと、中学に入ればそのまま大学まで上がれる。これは確かに一見すると魅力的です。ただ、冷静に中学受験と大学受験の偏差値などを同じ学校で比べてみると、中学受験のほうが明らかに難しいんですよ。特に女子の場合は、親がエスカレーター式を好む傾向が強いためかなりのギャップです。そう考えると、「大学受験で入れるなら、わざわざ小学校時代の長い時間を費やして中学に入る必要はあるのか?」と私などは思ってしまうんです。結局、中学受験でそのレベルの学校に入れる学力があるなら、大学受験でもそれに近い学校に入れるはずですし、もっと短期間で結果が出るんじゃないかと。

西田亮介氏
西田亮介氏

【西田】客観的に見ると、日本には800校近くの大学があり、私立の中学校もほぼ同じ数あります。そのうち300校くらいが東京圏に集中していて、東京には1400万人の人口がいる。こうした規模感を考えれば、特に首都圏の中学受験の競争が過熱しているというのは簡単に理解できますけどね。

【安田】中学受験と社会の格差の関係にも目を向けたいところです。どんな受験でもある程度の格差は避けられないとは思いますが、特に私立中学に関しては、入学後の学費も高額ですし、家庭への負担は大きいですよね。

【西田】簡単に言えば、年間で最低でも100万円単位の費用がかかります。大学の年間授業料は国立で約55万円、私立で120万円くらい。中学からすでに私立大と同じくらいの額がかかり、さらに制服、カバン、タブレット、留学費用など、パンフレットには書かれていない出費も多い。驚きました(汗)。

【安田】そんなにかかるのですね(驚)。さらに塾など受験準備のための出費も。費用対効果を考えると、特に受験勉強をつらいと感じる子には、やはり無理をさせる必要はないのではと感じます。僕はゲーム感覚で受験勉強に取り組めるタイプでつらくなかったのですが、塾には苦しそうな子たちもたくさんいました。親として子供が本当にやりたいかどうかを確認し、つらそうであれば、機会費用の観点からも、やめさせてあげるのも一つの選択肢ですよね。

【西田】安田さんが普通に「受験はつらくなかった」と言い切れるのがすごいと思いますけどね。僕なんてつらくて仕方なかったですから。流石です(笑)。

【安田】ところで、ここまで話してきて浮かび上がるのは、「学歴」が大きな意味を持つ日本の社会構造の問題です。「どこの大学を卒業したか」が重要視される日本の学歴に対する捉え方が、中学受験の過熱の背景にある。

【西田】日本では大学の名前が社会に出た際の重要な指標になりがちです。一方で修士や博士といった高等教育への関心が極めて低く、この点がアメリカのみならず世界と大きく違う点です。

【安田】それは今日、僕が最も伝えたかったポイントでもあるんですよ。例えば、自民党の総裁選で、関東学院大学に付属小学校から上がった小泉進次郎さんが、コロンビア大学に留学したことを「学歴ロンダリングではないか」と捉える意見など、各候補者の学歴が話題になりました。そのとき、世の中で注目される切り口は「どの大学に行ったか」「留学先はどこか」といったものばかりでした。

■新卒一括採用のせいで卒業大学が重視される

【西田】そもそも政治家という職業は、専門性が問われる仕事ではないことが理解されていない、ということもありそうです。もちろん、長年の経験を通じて専門性を高めることは期待されますが、多様な背景の国民の代表として選ばれるという性質上、政治家は試験を通じて専門性を問われる官僚とは異なる役割を持っています。政治家を学歴だけで評価するべきではありません。例えば、田中角栄は尋常小学校卒ですが、名総理として評価されています。

【安田】それなのに、なぜ政治家の「学歴」が話題になるのか。そのこと自体に、日本ならではの「学歴観」がよく表されているように感じます。どこの大学を卒業したかは確かに重要な情報の一つではありますが、それよりも大事なのは「何を学んだか」「どれだけ深く専門知識を積み上げたか」という視点であるはずです。

【西田】本当にそうですよね。公共政策ならこの大学、経済学ならあの大学、というように、分野ごとに強みを持つ大学があり、本来の「学歴」の価値とは、その中で修士や博士の学位を取得するところにあります。ですが、日本ではまだ学部卒の学歴が強調されすぎています。「学部卒」はグローバルな基準で見ると、「低学歴」とさえ見做されることも多いのですが。

安田洋祐氏
安田洋祐氏

【安田】その点は日本社会として、もう少し見直していく必要がある問題だと私も感じてきました。日本の学歴観と海外の学歴観の違いは、経済学でよく使われる「シグナリング」と「人的資本」という2つの理論で説明するとわかりやすいかもしれません。

シグナリング理論は1970年代に経済学者マイケル・スペンスが提唱したもので、学歴や資格などがその人の能力を示す「シグナル」として機能する、というものです。企業は労働者の実際の生産性や能力を雇用の際に完全には知ることができませんから、採用の際の不確実性を減らすため、学歴を「この人は一定の水準の能力を持っている」という指標に使う。

対して、同じく経済学者のゲイリー・ベッカーが提唱したのが「人的資本理論」です。教育やトレーニングを通じて個人の知識やスキルを「人的資本」として蓄積し、それが生産性や所得に直接的な影響を与えるという考え方です。日本で根強い学歴観といえば、「大学受験を突破することで、その人の能力の証明とする」という前者の「シグナリング」のほうですよね。

【西田】付け加えると、スペンスの言う「学歴のシグナル」が日本で重視される背景には、日本の労働市場や新卒一括採用という雇用の構造があると言えるでしょう。例えば、アメリカや中国などでも、仕事に必要なスキルを持つ人を個別に採用する「ジョブ型雇用」が一般的です。一方、日本では新卒一括採用と仕事の範囲を定義しないメンバーシップ雇用が一般的で、一人ひとりの能力である「人的資本」を細かく評価せず、どの大学を卒業したかがわかりやすく重要視されがちです。

■ガラパゴス的学歴観から脱却し専門知識を生かせ

【西田】大学で何を学んだかということよりも、難しい大学に入学できたという事実が労働市場で評価されるんですね。その労働市場の構造やあり方は大学受験の過熱を引き起こす一因でもありますし、ひいては中学受験の過熱もそうした学歴観の延長線上にあると言えます。新卒採用も大雑把。

【安田】日本では大学の成績や学んだ内容が企業にあまり評価されない傾向である一方、アメリカでは成績に対するこだわりがすごいですよね。僕も留学先でティーチングアシスタントとして学部生を教えていた時、彼らがGPA(Grade Point Average:大学の成績評価)を高めるために必死に勉強していた姿が印象的でした。就職の際に成績がアピールポイントになることが多く、大学名だけでは評価されないからです。

【西田】海外では学部卒以上に、修士や博士課程でどれだけの知識やスキルを積み上げたかが重視されますからね。つまり「人的資本」の世界。日本の賃金体系も大学院修了者と学部卒の間で、差が出始めていることも最近のデータではわかっています。大学院を出ることが昇進や賃金面で有利に働くケースが増えていくと、従来の学歴観も少しずつ変わってくるように思います。

【安田】「人的資本」のアメリカでも、学歴による賃金格差はさらに広がっているんです。特にITなどの技術革新によって高いスキルが企業で求められるため、高学歴者とそうでない者の賃金差が拡大しています。同時に、男女間の賃金格差は縮小しています。

【西田】そうした流れを踏まえたうえで、日本はどうすればいいですかね。

【安田】大学や大学院で学んだスキル・知識が就職やビジネスの現場で生かされるような変化を期待したいですね。専門知識を学んだ人を現場でどう生かしていくかは、日本社会の抱える大きな課題です。その解決には、ガラパゴス化した日本の「学歴観」から脱却して、国際的な視点で「何を学んだか」が評価される社会に変えていくことが必要でしょう。「シグナリング」としての学歴だけでなく、「人的資本」としての学歴も重視されるようになれば、日本はもっとイノベーティブな社会に変われると思います。

【西田】学歴を今までとは違った形で捉え直すことは、社会全体が修士や博士に行く人たちを後押しすることにもつながりますね。学校名だけではなく、大学で学ぶこと自体も重要だし、何を学んだかも重要。「人的資本」の考え方の重要さに企業を含め多くの人たちが気づいていくことが、日本の学歴の在り方を変えていく第一歩につながるのかもしれませんね。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月15日号)の一部を再編集したものです。

----------

西田 亮介(にしだ・りょうすけ)
日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授
1983年京都生まれ。博士(政策・メディア)。専門は社会学。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)ほか多数。

----------

----------

安田 洋祐(やすだ・ようすけ)
大阪大学経済学部教授
1980年東京生まれ。専門は経済学。ビジネスに経済学を活用するため2020年に株式会社エコノミクスデザインを共同で創業。メディアを通した情報発信、政府の委員活動にも積極的に取り組む。著書に『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(日経BP・共著)、監訳書に『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(東洋経済新報社)など。

----------

(日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授 西田 亮介、大阪大学経済学部教授 安田 洋祐 構成=稲泉 連 撮影=大槻純一)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください