激安通販サイト「Temu」すら頭打ちに…「何を作っても売れなくなっている」習近平体制崩壊のカウントダウン
プレジデントオンライン / 2024年12月2日 9時15分
■ついに国有企業にもバブル崩壊の余波が
11月19日、中国製紙5位の山東晨鳴紙業集団(シァンドン・チェンミン・ペーパー・ホールディングス、以下、チェンミン・グループ)は、全生産能力の約7割を止めたと明らかにした。大手製紙企業の操業縮小は、不動産バブル崩壊処理の遅れや地方政府の財政悪化に加え、一部の国有・国営企業の業績低迷の懸念が高まっていることを如実に表している。
ここへきての政府系企業の収益力の低下は、今後の中国経済にとって無視できないマイナス要素だ。7月、第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で中国政府は、国有企業などの設備投資を増やし、経済成長率の向上を目指す方針を掲げたものの、その政策が実際の効果を生み出していないからだ。
足許の中国では、IT先端分野をはじめ民間企業の業績も悪化している。賃金引き下げやリストラなどから、労使対立は激化しストライキも増えた。中国では、若年層を中心に経済格差などへの不満は増大傾向だ。
■中国政府の経済運営の限界を示している
当面、中国政府は、国有企業などの設備投資増加を優先する方針のようだ。それに対し、一般庶民の不安は高まっており、支出を減らし貯蓄を優先する節約志向は続いている。この状況が続くと、内需が増えて景気が下げ止まることは容易ではない。これからも、企業の収益は減少傾向が続き、雇用が厳しくなり、デフレが進行するリスクは上昇傾向をたどる可能性が高い。
チェンミン・グループの全能力の7割停止は、中国経済の厳しさを確認する重要な事例だ。端的に言えば、中国政府の経済運営の限界を示す出来事といってもよいかもしれない。
1958年にチェンミン・グループは地方政府(山東省寿光市)傘下の製紙企業として発足した。1988年以降、改革開放が加速する中、同社は生産能力を拡張し始めたといわれている。1993年以降、国有制から従業員に株式の一部を付与する混合所有形態への移行が進んだ。
当時の経営陣が生産性の向上を重視し、また債務問題を抱え破綻状態にあった同業他社を買収して事業拡大を推進した。同社の成長は加速したようだ。2024年の中間レポートによると、筆頭株主はチェンミン・ホールディングス・カンパニー(国有企業)だ。
■ボール紙の価格下落が引き金に
11月20日、同社は債務の元利金を支払うことができず、銀行口座が凍結されたと発表した。支払いができなかった債務は18億2000元(約360億円)、直近の監査済み純資産の10.91%に達した。累計の凍結口座数は65であることも公表した。同社は既存株主と投資家に対し、チェンミン・グループの株式を取引する際、細心の注意を払うべきとも警告した。
デフォルトを引き起こした理由は、7~9月期、国内需要の低迷による紙製品(主にボール紙)の価格下落の鮮明化だ。損失は拡大し、これまで融資を行ってきた銀行は資金を引き上げた。損失の拡大を食い止めるため、経営陣は国内の製紙工場を閉鎖し、操業度の引き下げを余儀なくされた。全社の生産能力の71.7%をシャットダウンした。
そこまでしなければ資金繰りの悪化、自己資本の棄損を食い止めることは難しくなっている。チェンミン・グループは、事実上の破綻状態に陥ったと考える主要投資家もいる。
■あのバイドゥも苦戦している
今回の事例は、国有企業の増強を重視する中国にとって都合が悪い。鉄鋼業界などでも、値下げ激化で収益確保が難しい企業は増えているようだ。チェンミン・グループのデフォルトは、国有・国営企業の収益低下の深刻化を示す重大な事例といえるだろう。
足許、政府系企業に加えて民間企業の収益環境も厳しい。11月21日、検索大手の百度(バイドゥ)は7~9月期の決算を発表した。売上高は、前年同期比3%減の336億元(約7000億円)だった。
同社はAI(人工知能)の活用を急ぎ、広告収入の増加と事業運営コストの削減に取り組んできた。中国政府が金融・財政政策の両面から、マンション在庫の買い入れなど経済対策を実施したこともあり、広告収入は増加するとの観測は多かった。しかし、実際には、今のところ、そうした効果はあまり目立っていないようだ。広告収入の減少で、中国の消費者の節約心理は高まると警戒する企業は増えている。
■激安サイト「Temu」すら伸び悩むほど
同日、格安ネット通販サイトを運営する“Temu(テム)”の親会社、PDDホールディングスも決算を発表した。売り上げ、最終利益とも、株式アナリストの予想を下回った。低価格帯の商品ですら、消費者の買い控え心理が高まっていることが明確になった。
不動産バブル崩壊の処理の遅れで個人消費が下振れると、中国全体で企業業績は悪化することになる。生産コストや債務の支払い負担は上昇し、人員を削減する企業は増えるだろう。それに伴い、中国では労使の対立が増加傾向のようだ。労働問題を扱う非政府組織の“中国労工通報(CLB、在香港)”によると、2024年1~6月期に発生した労使対立は719件、前年同期の696件から増加した。
一部の報道によると、11月後半、上海市で資金繰りが悪化し、リストラを実施しようとした自動車関連企業で労使の対立が発生した。一部の従業員は、公道でデモを行い、警察が出動したようだ。EV分野は政府の補助金支給で販売が増えているが、サプライチェーン全体で収益の下振れ懸念が高まっているとみられる。
■政府は「投資増→雇用増→内需増」を狙うが…
労使の対立が先鋭化すると、中国にある企業はベトナムなど海外への進出を重視せざるを得なくなるだろう。米国の対中関税率引き上げの対応策で、中国での地産地消体制の確立を目指す海外企業にとっても労使対立の激化は無視できないマイナス要因だ。
2025年、中国政府は経済成長率目標を、2024年と同じ5%前後に設定しようとしている。7月、3中全会の後に国有資産監督管理委員会(国資委)は、大手の国有企業97社が今後5年間に3兆元(約60兆円)以上の設備投資を行う予定であると発表した。
中国政府が期待する重要な効果は、大手の国有企業などが設備投資を行い、生産能力を拡張することにある。半導体など先端分野で、米中対立の先鋭化に対応するため、素材から工作機械などの供給網も整備する。投資が増えれば雇用も促進し内需は上向く。そうした効果を期待して、中国政府は過剰生産能力を抱える国有企業などの投資増加を重視しているのだろう。
■軌道修正しなければ、長期の停滞は避けられない
一方、中国経済の最大の問題である、需要不足の解消に関する直接的な方策は見当たらない。大型のバブルが崩壊すると、債務問題を抱える企業・金融機関に公的資金を迅速に注入する必要性は高まる。それによって、不良債権の処理を進め金融システム不安を食い止める。その上で、規制緩和などを実行して、成長期待の高い分野へのヒト、モノ、カネの再配分促進と景気の持続的な回復が不可欠だ。
今後、景況感が一段と悪化すると、中国政府は企業の投資増加に加え、マンション在庫の買い入れ枠の拡大、高速鉄道などのインフラ投資も積み増す可能性が高い。中国政府が供給能力の向上に取り組んだ結果、生産能力の過剰感は一段と進み値下げ競争は激化するだろう。デフレ環境は深刻化し、大手国有企業の粗利率低下リスクは高まると予想される。
その結果、業績の悪化懸念は高まり、デフォルトリスクが上昇する企業は増加する可能性は高い。チェンミン・グループのデフォルトの発表は、不動産バブル崩壊をきっかけに、国有・国営企業の業況が悪化し始めていることを示している。需要不足が深刻な中で政府が国有・国営企業を重視した政策を修正しない場合、中国経済の長期停滞懸念はさらに高まることが予想される。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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