和田秀樹「ウォーキングよりもずっと効果的」…シュッとした中高年は知っている「ヨボヨボ老後」を防ぐ方法
プレジデントオンライン / 2024年11月29日 9時15分
※本稿は、和田秀樹『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。
■小太りの人のほうがやせ型よりも長生きする
あまりにも日常的になりすぎて、“ブーム”と呼ぶのもはばかられますが、TVや雑誌、書籍などは、相変わらずさまざまなダイエット法があふれ返っています。そして、そのほとんどは、医学的、科学的データに基づいたものではありません。こうした出版や放送のあり方について、私は大きな疑問を感じています。
なかでも、ダイエットしたい方に人気の「糖質制限」ですが、糖分を我慢すると脳に十分なブドウ糖が行き渡らず、脳の機能が衰えます。極端に言ってしまうとバカになります。
メディアがダイエットをすすめるのは、愚民化政策の一環ではないかと陰謀論めいたことまで感じています。40歳以上になると、特定健康診査、いわゆる「メタボ健診」が実施されます。糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を早期に見つけ、異常がある人には保健師や管理栄養士などによる保健指導を行い、これによって生活習慣病を改善し、ひいては心筋梗塞や脳卒中などを予防することが狙いと言われています。
しかし、現実には、さまざまな研究で「小太りの人のほうがやせ型の人よりも長生きする」という結果が出ています。アメリカなどでは、歩けなくなるほど太ってしまい、食事での栄養摂取を制限する手術を行うような人もいるようですが、日本ではそんな人はまずいません。
それなのにわざわざ国が先導してまでやせさせることの必要性はまったく感じられません。
■長生きするには「抗酸化物質」を摂るべき
フランスのアンチエイジング医学の権威クロード・ショーシャ博士は、老化を遠ざけて若返るためには「身体の酸化」を避けなければならないと言います。「身体の酸化」とは細胞の炎症、つまり細胞を包む細胞膜に傷のできた状態のことで、がんの原因になることさえあります。
年齢を重ねると、程度の差こそあれ、細胞の炎症は必ず起こるものですが、ショーシャ博士は「細胞の炎症を極力抑えることで、50歳の見た目のまま120歳まで生きることも可能」と言います。炎症を最小限に抑えるためには、細胞が必要とする栄養素をきちんと送り届けて、炎症が起きても速やかに修復できるようにしなければなりません。
そのためには意識して抗酸化物質の豊富な食品を摂ることが大切です。抗酸化物質の代表はβカロテン(ビタミンA)、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類と、亜鉛やセレンなどのミネラルです。
ビタミンAはニンジン、ブロッコリー、ほうれん草など色の濃い野菜に多く含まれ、玄米や大麦などに含まれるビタミンEや、肉類や卵に含まれるセレンと一緒に摂ることで細胞膜を炎症から守る働きをします。野菜や果物に含まれるビタミンCは免疫系を活性化し、牡蠣や豚レバー、小麦胚芽などに含まれる亜鉛は、活性酸素除去酵素などさまざまな体内酵素を作るのに関わっています。
他にはトマトに含まれるリコピンや、赤ワインやチョコレートに含まれるポリフェノールなども抗酸化物質です。これらを参考にしつつ、要は好きなものを食べてください、ということです。食事の快感が免疫力のアップにつながり、ひいては認知症にもがんにもなりにくくなるのです。
■“脳トレ”をやっても認知機能は良くならない
昔から「頭を使っている人はボケにくい」と言われていますが、これは一面の真実といっていいでしょう。
脳の委縮が同程度に進んでいる認知症患者の比較でも、とくに何もしていない人に比べて、日ごろから頭を使う環境にいた人は、知能テストでも脳の実用機能でも点数が高くなるケースが多いようです。ただし、頭を使うといっても、いわゆる「脳トレ」はほとんど効果がありません。
たとえば、数独ばかりをずっとやっていれば、認知症の初期ぐらいなら点数は伸びます。しかし、だからといって脳全体の機能が活発化しているわけではなく、単に数独ができるだけのこと。他のテストの成績がよくなることはありません。
このことはいろいろな実験で明らかにされていて、脳トレといわれるものは数独でも百マス計算でも、認知症予防という観点からはほとんど無意味です。国際的な科学雑誌『ネイチャー』やアメリカの医学雑誌『JAMA』でも、いわゆる脳トレの効果にまつわる大規模調査の結果が発表されています。
そのうちのひとつ、アラバマ大学のカーリーン・ボール博士による2832人の高齢者に対する研究では「言語を記憶する」「問題解決能力を上げる」「問題処理能力を上げる」などのトレーニングをした場合、練習した課題のテストの点だけは上がるのですが、他の認知機能は上がらないことがわかっています。与えられた課題を繰り返し行えば、そのことはできるようになっても、脳全体の活性化にはつながらないのです。
■「新鮮な体験」をすれば前頭葉は鍛えられる
では、どのように「頭を使う」といいのでしょうか。私の経験上、最も効果が高いと思われるのは、他人との会話です。
他人としゃべるときには強制的に頭を働かせる必要があります。自分が話したことに対して相手からの反応が返ってくるというやりとりで「頭を使う」ことが有効なトレーニング法となるのです。ふだんから頭を使っているつもりの人でも、認知症と強い関連のある前頭葉は案外と使っていないもの。読書は言語を司る側頭葉を使うだけですし、計算やある程度難しい数学の問題を解くときも頭頂葉しか使っていません。
かつて前頭葉を切り取ることである種の精神病を治療することを目的とした「ロボトミー手術」というものがありました。さまざまな問題が起きたため、今日では行われなくなりましたが、この手術の後でも知能指数はまったく落ちなかったといいます。つまり、前頭葉は一般的な知的活動には使われていないのです。
前頭葉が使われるのは、何かを創造したり新規なものに対応したりするときで、前頭葉が老化すると、決まった行動を好むようになります。行きつけの店にしか行かなくなったり、同じ著者の本ばかり読むようになったりするのが一つのサインです。
逆に言えば、新しい店に出かけたり、読んだことのない作家の小説を読んだり、可能ならば俳句を詠んだり小説を書いたりしてみると前頭葉が鍛えられます。
■免疫力を上げるには「好きなものを食べること」
日本では大学でもあまり前頭葉を使う教育をせず、仕事でも自分で考えたことをやるのではなく「言われたことができればいい」という風潮が強いため、前頭葉を使うことが苦手な人も多いのですが、まだまだ続く長い人生のためにもぜひチャレンジしてください。
また最近の研究では、きちんとした対処をすれば認知症の進行を止めるだけでなく、知能が回復する可能性も指摘されています。
現在、日本国内における死因はがんが最も多く、厚生労働省による2022年の統計では38万5797人ががんで亡くなっています。がんがなぜ発症するかについては諸説ありますが、いずれにしても毎日体内で発生する、がんになるかもしれないできそこないの細胞を撃退するうえで、免疫の力は欠かせません。
ストレスのある生活を続けていれば、免疫力は間違いなく低下して、健診の数字がすべて正常でも、急にがんになってしまう可能性は決してなくなりません。では、免疫力をアップさせるためにはどうしたらいいのでしょうか。効果的なのは「好きなものを食べること」です。
■高カロリー食も無理に避ける必要はない
しかし、同じものばかりを過剰摂取するフードファディズム(食べ物の健康への影響を過信すること)は、慢性型アレルギーを発症して身体の酸化を招くリスクがあります。
私もかつて「海藻や蕎麦がよい」と世間で言われるのを聞いて、意識してたくさん食べていたら、逆に海藻や蕎麦の慢性型アレルギーになってしまいました。食物アレルギーが人によって異なるのと同じで、体にいい食べ物も人によって異なるのです。ですから自分の体や脳が欲するサインに素直に応じて、食べたいものを食べるほうがいいのです。
一般的に体に悪いといわれるカレーや牛丼といった高カロリーの食事も、無理に避ける必要はありません。
私は、新型コロナウイルスが蔓延していた時期に3回の陽性判定を受けました。しかし、いずれも無症状でした。私は高血圧、糖尿病、心不全を抱えていて、年齢も60歳を超えています。コロナ発症リスクが最も高いとされる条件を満たしていたにもかかわらず、なぜ無症状だったのかと言えば、免疫力が高かったからでしょう。
医者の言うことを聞かないで、血圧が高くても好きなワインを飲み、おいしいものを食べていました。そんな生活こそ免疫力を高めるのだろうと、自らの体験から確信しているのです。
■ウォーキングよりも効果的な運動
高血圧や心不全、糖尿病の人が、新型コロナの発症リスクが高いとされたのは、逆にふだんからいろいろな薬を飲み、節制していたことで、さまざまな免疫力が落ちてしまっていたからではないでしょうか。
好きなことを我慢しているせいで、さらに免疫力が落ちていたところに新型コロナに感染すればひとたまりもありません。これはがんに関しても同じことが言えるのだろうと思います。
日ごろの運動は大切ですが、激しすぎると体内に活性酸素を増やすことになり、老化の促進につながる恐れもあります。スポーツジムの利用者データを見ると、最もよく利用している層は60代で、次が70代だそうです。年齢を考えても、あまり無理をすると、かえって筋肉や腱(けん)を痛めることになりかねないでしょう。
スポーツジムに通う場合は、プールのあるところを選ぶといいでしょう。泳ぐためというよりも、水中でのウォーキングが高齢者にとって最適の運動になるからです。水中では浮力が働くので、みずからの体重による負担がかからず、膝や腰を痛めることがありません。その意味では地上でウォーキングするよりも優れた運動だといえます。
また、水中では水の冷たさが刺激となって身体が体温を維持しようとします。すると体温調節機能の衰えを防ぐことができるうえに新陳代謝もよくなります。水中にいるとそれだけでリラックスできる効果もあります。
「この年齢になってスポーツジムなんて……」などと尻込みせず、ぜひとも水の中を歩く快さを味わってください。適当なスポーツジムが近所になければ、毎日散歩をするだけでも高齢者にとっては十分な運動になります。日光を浴びながら戸外を歩けば骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防にもなるし、セロトニンが分泌される上に、気分が晴れて、うつ症状も避けられます。
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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