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パワハラ上司に取り入る「太鼓持ち社員」が組織を壊す…パワハラを叱責することで起きる恐るべき副作用

プレジデントオンライン / 2024年12月15日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

職場のパワハラは、なぜなくならないのか。人材育成コンサルタントの松崎久純さんは「パワハラ行為者が何らかの指導を受けてパワハラが止まったかのように見えても、問題がなくなったわけではない。たとえば、パワハラ行為者に上手く取り入る『太鼓持ち』とでも呼ぶべき従業員が登場し、パワハラ行為者を上司とした不可解なチームをつくり上げ、チームメンバーをいじめ、士気を失わせていくケースがある」という――。

■泣き顔の従業員ばかりの職場

30代会社員の方からのご相談です――パワハラ上司が、上層部からきつく注意を受けたからでしょうか、怒鳴り声を上げたり、執拗に部下を責めることはなくなりましたが、イヤな人であることに変わりはありません。はっきりパワハラと呼べる行為は見られなくなっても、相変わらず泣き顔の従業員ばかりのイヤな職場です。

私は「パワハラの行為者(パワハラをする側の人)を対象としたカウンセリング」を専門に行っています。

そのためパワハラの被害者からも、頻繁に職場の様子を聞き取りしますが、相談者の方のおっしゃる悩みはよく耳にします。

パワハラ行為者が何らかの指導を受けて、大声でまくし立てることはなくなっても、その人によって引き起こされる問題がなくなるわけではない、という話です。

ここでは、行為者のパワハラが止まったように見えても、それによりサイドエフェクト(副作用)が生じる例と、その対策案を紹介したいと思います。

パワハラの被害者から見ると、ともかくなくなってほしいのがパワハラ行為ですが、パワハラは、どんな方法でもいいから止めさせれば、それで万事オーケーになるというわけではありません。

禁煙したい人が、禁断症状を和らげるために、間食の癖をつけて太ってしまったり、ダイエットに成功した人が、後にリバウンドを経験するのに似ています。

つまり、パワハラがなくなったように見えても、サイドエフェクトによって職場によからぬ事態が生じる――これは想定しておくべきことなのです。

頭を抱えるビジネスマン
写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuto photographer

■「退職してほしい」か「残ってほしいか」

パワハラをしなくなった行為者が、またパワハラをし始めるのではなく、しばらくして退職してしまう。これはめずらしくないサイドエフェクトの例です。

その人にいなくなってほしかった人たちにすれば、それは嬉しいことですが、組織を管理する人たちにとっては、これは大きな損失になり得ることです。

会社なりの組織がパワハラ行為者にカウンセリングを受けさせる場合、パワハラ行為者に今後も勤続してほしいと望んでいるケースと、できれば退職してほしいと考えているケースがあります。

「退職してほしい従業員にカウンセリング?」と不思議に思われるかもしれませんが、簡単には従業員を辞めさせられないことも多く、また、その人の処遇について組織内で責任の所在があいまいな場合などもあり、こうしたケースはよくあります。

パワハラ行為者が退職してほしい人なら、辞めることになっても構いませんが、引き続き活躍してほしい人だと困ってしまいます。

もともと行為者には、パワハラなどで問題を起こさなければ、自らのチームを率いて、もっと大きな活躍ができる(と思える)人は多く、彼らは戦力として必要とされているのです。

「パワハラが収まったと思ったら、1年ほど経って辞めると言い出した」。これはありがちですが、避けたいパターンの1つです。

■部下たちはヒヤヒヤしている

パワハラ上司がパワハラをしなくなっても、部下たちは相変わらずその上司の顔色を窺(うかが)いながら、生卵でできた床の上を歩いている――いつどこで卵の殻が割れるかわからない状態で、ヒヤヒヤしながら働いている。そんな悩みの声を聞きます。

録音をしておけば「こんなパワハラです」と証明できるような行為はなくなっても、相変わらずその人がいることで、おかしなことが起こり続ける――1つの例をご紹介しましょう。

パワハラの行為者と一緒に働きたい人はいないので、その職場では、次々に人が辞めたりしますが、そうした中で、パワハラ行為者に上手く取り入って、組織内で自分のポジションを確保しようとする「パワハラ行為者の太鼓持ち」とでも呼ぶべき従業員が登場することがあります。

マスクを着用した男
写真=iStock.com/winyoo08
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winyoo08

■性格がわるい「太鼓持ち」

この「太鼓持ち」は、パワハラ行為者が(信頼やチームワークによって従業員をマネジメントするのではなく)恐怖によって管理するのを問題と捉えることはなく、その行為に自分が加担するのも恥ずかしいとは感じません。

もともとパワハラ行為者と同じように性格がわるいため、パワハラ行為者の言動で苦しむ人たちをパワハラ行為者と一緒に見て喜んでいるのです。

太鼓持ちは、自分がパワハラ行為者に上手く取り入っているのは、自らの処世術が長けているからと考えています。そして、パワハラ行為者の部下のように振舞うことで、組織内での居場所を確かなものにしていきます。

パワハラ行為者は、この太鼓持ちに対しても癇癪(かんしゃく)を起こしたり、性格のわるさを見せることがあります。何十年もの人生ではじめての友だちですが、そんな親友にも、楽しそうに意地悪をしたり、その反応を見て嬉しがったりするのです。

しかし、それまで人からこのように慕われたことがないパワハラ行為者は、太鼓持ちにたいへんな好意を寄せ、かわいがります。

彼らは気が合い、コンビとしての力を強めていきますが、同時に周囲の従業員には不安が増してきます。

「職場が一層不健康になっている」「こんな人たちと働いているのは恥ずかしい」といった、気のめいる思いに駆られてくるのです。

■太鼓持ちがチームをつくり上げる

太鼓持ちは、周囲の人たちに好かれることはありませんが、パワハラ行為者と周囲の間をソフトに取り持ったりするので、皆はパワハラ行為者と直接やり合うよりは、この太鼓持ちとコミュニケーションを取る方がマシと感じ、その存在を受け入れるようになります。

そうして(この太鼓持ちがいることで)パワハラ行為者の元にも、部下や後輩として居付く人たちが出てきます。

本来、パワハラ行為者には部下などは居付きにくいのですが、太鼓持ちはパワハラ行為をしないこともあって、太鼓持ちの存在が、パワハラ行為者を上司としたチームをつくり上げていくのです。

労働者雇用の概念
写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi

■我慢の限界が訪れるチームメンバー

しかし、如何せんパワハラ行為者と、その太鼓持ちによりでき上がったチームには、不自然かつ不可解なことが数多く生じ、誰もがそれを感じ取るようになります。

パワハラ行為者のすることが、太鼓持ちによって、一見パワハラには見えない姿になって、チームのメンバーに強制されるためです。

たとえば、パワハラ行為者の「ある従業員に普通の仕事を渡さず、ややこしい仕事だけを振る」という行為――これを太鼓持ちが巧みに嘘を交えた説明をしながら、うまくその従業員に押し付ける。パワハラ行為者と太鼓持ちは、その従業員が苦労するのを見て楽しむ。二人は、その従業員をだまし、いじめていることに喜びを感じ、一緒にガッツポーズをしているといった具合です。

被害者となった従業員は、早々と二人の魂胆に気づいているのですが、どうすることもできず、士気を失っていきます。

こんなことが繰り返され、結局のところは、その体質に嫌気がさして、チームのメンバーに我慢の限界が訪れるのがオチです。

こんな職場では、相談者の方が言われるとおり、従業員が泣き顔で仕事をしているものです。

パワハラ行為者が持っている毒が、怒鳴り声や癇癪から形を変えて、組織内に撒(ま)き散らされているのです。

チームのメンバー以外の従業員も、この様子に呆れ、こんな状態が野放しにされている自分の職場への忠誠心を失っていきます。

■サイドエフェクトが生じていないか

行為者のパワハラが止まったように見えたときのサイドエフェクトの例を2つほど紹介しました。これらの対策案についても考えてみましょう。

まずはパワハラ行為を止めて、勤務先も辞めてしまう人についてです。

この人が(退職してほしい人でなく)今後も活躍してほしい人材であれば、本人にその旨を伝えなくてはなりません。しかし、その際には同時に、パワハラ行為を止めなければ、それは叶わないことも伝える必要があります。

多くの場合、パワハラ行為者には、自身のパワハラ行為とよりシリアスに向かい合うよう促す必要があります。

(ここでは詳細の説明は割愛しますが、)本人が自らのパワハラ行為を認め、それを止めたい旨の意思表示をする場合には、カウンセリングにより改善することができます。

パワハラ行為者をサポートする人たちは、彼らがパワハラを止めたいのに、止められず苦しんでいるのが多いことも認識するとよいでしょう。

職場を管理する人たちは、「パワハラ行為者に『パワハラはNG』という制限が加わったらどうなるか」を見極めるようにしたいところです。

パワハラがなくなったように見えても、サイドエフェクトが生じ得ることを認識し、その人がどうなっていきそうか、よく話し合っておくのです。

採用と戦略コンセプト
写真=iStock.com/designer491
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/designer491

■太鼓持ちが出現しやすい職場

太鼓持ちの出現については、できるだけ注意深く観察します。太鼓持ちは、パワハラ行為者のよからぬ行いを(パワハラと呼べないように)変換して、組織内に広めてしまう人です。

太鼓持ちは、(パワハラ行為者が男性の場合でも、女性の場合でも、)パワハラ行為者よりも年下の男性であることが多く、パワハラ行為者といつも一緒にいることが多いのですが、太鼓持ちには見えない女性がそうであることなど、さまざまな例があります(特殊なケースでは、パワハラ行為者と太鼓持ちが愛人関係であったりもします)。

かなり注意していないとわからないこともありますが、職場の多くの人に考えを聞くと、考察の鋭い人がいたり、意外な正解を述べる人がいたりするものです。

太鼓持ちは、従業員同士の仲がよくない組織に現れやすいものです。

従業員同士の仲がよい組織では、皆が協力して村八分にしたりするため、太鼓持ちは居付きにくいのです。

ここで言う「仲がよい」とは、何かあると皆で飲みに行って、一緒に誰かの悪口を言っている――たとえば、こんなことを日常的にする人たちのことです。仲がよくないと、これもなかなかできないのです。

太鼓持ちは、パワハラをしないが性格はわるく、工作員のようなことをするのが好きです。逆に性格のよい人が太鼓持ちになるのは、ほとんど見たことがありません。

太鼓持ちは、自分は賢いと思っているのが特徴です。

彼らは組織の利益は考えず、自分の利益だけを考えて活動し、組織や他の人に有害なことでも厭わず行ってしまうので、要注意です。

早めの対策を講じることをお勧めします。

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松崎 久純(まつざき・ひさずみ)
サイドマン経営・代表
もともとグローバル人材育成を専門とする経営コンサルタントだが、近年は会社組織などに存在する「ハラスメントの行為者」のカウンセラーとしての業務が増加中。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、非常勤講師としてコミュニケーションに関連した科目を受け持っている。著書に『好きになられる能力 ライカビリティ』(光文社)『英語で学ぶトヨタ生産方式』(研究社)『英語で仕事をしたい人の必修14講』(慶應義塾大学出版会)など多数。

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(サイドマン経営・代表 松崎 久純)

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