〈兵庫県知事選〉PR会社社長の炎上に「やっぱりSFCか」の声…慶應SFC独特の「キラキラ言動」に抱く違和感の正体
プレジデントオンライン / 2024年11月28日 19時15分
■注目を集める「PR会社社長の出身校」
斎藤元彦氏が返り咲きを果たした兵庫県知事選は、いまだにメディアで話題の中心にある。いや、選挙の後のほうが盛り上がっている。
中でも、斎藤氏の「(選挙の)広報全般を任された」(現在は記述を変更)とブログに書いた、PR会社代表の折田楓氏をめぐる話題が止まらない。違法行為があったのか否か。テレビや新聞といった「マスメディア」が連日報じている。斎藤知事は、11月27日の記者会見で、法律に違反する行為はない、という認識を改めて示した。
ただ、そうした「問題」と並んで、SNS上を賑わせているのが、折田氏が慶應義塾大学「SFC」出身であるという点である。
「SFC」のイメージが、彼女への注目に拍車をかけているのではないか。
SNS上で「やっぱりSFC」と検索してみてほしい。折田氏の「失態」について、彼女の出身校と結びつけている投稿が出てくるだろう。
「SFC」出身のライター・石黒隆之氏は「日刊SPA!」の記事で、「それらの意見を総合すると、“中身はないがコミュ力が異常に高い”という意見に集約される」とまとめた上で、折田氏のことばの節々に「合理性と利得の追求が最優先」された「意識高い系の悪い面が凝縮されている」と、「SFCに対する潜在的な不信感」を分析している。
■「SFC」とは、Shonan Fujisawa Campusのこと
年代は違うものの、同じ「SFC」出身者としての分析は、納得感が高い。折田氏にかぎらず、石黒氏が挙げる、古市憲寿氏(社会学者・作家)や大空幸星氏(衆議院議員)といった“若手論客”に対しては、好感度だけではなく、批判も目にするからである。
毀誉褒貶があるのは、「SFC」出身者に限らない。それよりも、まず考えたいのは、この「SFC」という表記についてである。
石黒氏も、あるいは、SNS上の多くの投稿も、何のことわりもなしに「SFC」と書いているが、はたして、どれだけの人に伝わっているのだろうか。「SFC」とは、そもそも何を指しているのだろうか。
折田氏の出身校である「SFC」は、Shonan Fujisawa Campus(湘南藤沢キャンパス)の頭文字であり、慶應義塾大学が1990年につくった、神奈川県藤沢市のキャンパスを指している。そこには、「総合政策学部」と「環境情報学部」「看護医療学部」、そして、大学院の「政策・メディア研究科」と「健康マネジメント研究科」があり、ほかにも研究所や、中等部・高等部(中学・高校)などがある。
■聞かれていないのに、「SFC生」を名乗る人たち
「SFC」出身と書く場合のほとんどは、「総合政策学部」と「環境情報学部」の卒業生を意味している。ウェブサイトにある「SFCスピリッツ」という出身者を紹介するコーナーでも、ほぼ、この2学部卒業生を取り上げている。大学の公式の見方としても、「SFC」と言えば、キャンパスではなく、2つの学部と同義なのだろう。
しかし、「SFC」関係者、いや、もう少し広げても慶應大学に関心がある人のほかに、どれほど、この名前は知られているのだろうか。「SFC」=SUPER FAMICOM、と、昔なつかしの任天堂発売のゲーム機を思い浮かべる人は少数かもしれないが、だとしても、どれだけの人が「SFC」と聞いて、すぐにわかるのだろうか。
こう思うのは、これもX上で見かけた、次のポストを見たからである。
■「法学部」や「経済学部」と同じくらい常識なのか?
本当に「SFC生」を自称する人が多いのか少ないのか。それを確かめるよりも、あくまでも、こうしたイメージが広がっている様子が興味深い。
このポストに書かれている「いま話題のキラキラ広報の方」であろう折田楓氏もまた、Instagramに下のように投稿し、みずからを「慶應義塾大学SFC」出身であると明らかにしている。
なんとなんと明日、2023年4月28日(金)
#芦屋 の地(JR芦屋駅南口出てすぐ)で初めての洋菓子店
「Pâtisserie La Gare by Louis Robuchon」
をオープンされます
「SFC」は誰もが知っている、いや、知らないはずがない、そんな思い込みや無邪気な前提が、出身者たちの中にあるのではないか。「法学部」や「経済学部」と同じくらい常識だし、それを上回る付加価値があると信じて疑っていないのではないか。
ここで私は、彼らの、そうした純真さを批判したいわけではない。羨ましいとさえ思うからである。
■「日本の大学改革のモデルケースとなった」
私が京都大学の総合人間学部の出身で、しばしば、「慶應のSFCと同じ?」と聞かれてきたから、というわけではない。私の出身学部は、昔の教養部を学部にしただけであり、「SFC」のような華やかさとは正反対である。少なくとも20年前の私の在学中は、校舎は古く汚いまま、教えられる内容も含めて、いかにも昔の国立大学でしかなかった。
翻って「SFC」は、新しく綺麗なキャンパスに、最新鋭の設備を揃えていた。学ぶ内容に至るまで「慶應」のブランドにふさわしい、生き生きとした学生と教師が集まり、未来を切りひらいている。それが「SFC」だった。
そう思っていた私からすれば、「SFC」は憧れの的であり、貶す気になれない。
「SFC」は、アルファベット3文字の略称にふさわしい、キラキラ感がある。同大学の公式広報誌でも、「既存の学問分野にとらわれない学際的な研究・教育の場であることを徹底して志向していた。どちらの学部も学生自ら問題を発見し、解決する能力を養う教育手法が特色で、その後、日本の大学改革のモデルケースとなった」と自画自賛しているほどである。
そして、この「自画自賛」にこそ「SFC」が嫌われる要因があるのではないか。
■代表的な出身者「ビリギャル」の教訓
数多くの「SFC」出身者のなかでも、「ビリギャル」こと小林さやか氏は、有名だろう。坪田信貴氏の著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)のモデルである。
とはいえ、彼女は、「SFC」とは距離を置いていた。いわゆる「慶應」の印象とはあまりにも違う場所だったからだという。キャンパスまで約1時間かかる東京・下北沢に住み、研究会(ゼミ)に入らず、卒業論文も書かずに卒業している。学生からインタビューを受けた際には、慶應大学の多くの学部がある日吉と三田のキャンパスを中心に、「SFC生」らしくない、「大学入学前に思い描いていたいわゆる『慶應生』らしい大学生活を送ろうとしていた」と述べている。
にもかかわらず、「ビリギャル」が「SFC」のイメージと強く結びつく理由は、入試にある。
「SFC」は、「英語」と「小論文」の2科目での受験が可能だ。どちらも得意としていた彼女は、慶大の他の3学部(経済学部、商学部、文学部)には不合格だったが、「SFC」(総合政策学部)にだけ受かっている。
本場というか、本流とも言うべき日吉・三田キャンパスの学部は、入試科目が多く、ハードルも高い。対する「SFC」は、得意不得意が大きく分かれがちな、少ない科目数だけで受けられる。「SFC」で活動する、学生によるニュースサイトですら「他学部より少ない入試科目数から『慶應ではない』としばしば揶揄されるSFC」と自嘲している。
この「揶揄」が、「SFC」に向けられる世間の視線にほかならない。
■「学歴ロンダリング」のように感じられてしまう
乱暴に言えば、「SFC」は、入学時点から「学歴ロンダリング」をしているかのように思われているのではないか。つまり、一部の人たちからは、「慶應」のステータスにふさわしくない、とみなされているのである。
その理由は、2科目で受験できるというだけではない。書類選考と面接試験を組み合わせた「AO入試」を日本で初めて取り入れたことや、慶應幼稚舎(小学校)をはじめ「一貫教育校」と呼ばれる、いわゆる付属校からの進学者が選ぶ学部、とは、ほとんど見られてこなかったことが背景にある。
たしかに、内部からの進学者は4年前に急増した。それでも、「SFC」の定員は、2つの学部でそれぞれ425名ずつの合計850名である。増えたといっても、2020年時点で154名だから、他学部に比べれば、推薦枠の違いを鑑みても、まだまだ少ない。
変わった入学試験だけではなく、内部からの人気も高いとは言えない。そんな亜流感、もっとひどい言い方をすれば「ハリボテ感」を、どうしても拭えないのではないか。
■社会性のない「京大」と、ありすぎる「SFC」
「SFC」のサイトには、「多様な学問領域における知識と実践的な問題発見解決能力を身に付けたSFCの卒業生は、企業等への就職はもちろん、高度な研究に取り組むために大学院に進学したり、自ら起業するなど、個性や才能を生かして様々な形で活躍しています」と書かれている。
詳しくは、そのサイトをご覧いただくとして、「いま話題のキラキラ広報の方」こと折田楓氏もまた、こうした「自ら起業するなど」して活躍している人に入るのだろう。「個性や才能」があるのも間違いない。しかし、その「生かし」方に自己顕示欲や承認欲求と直結した危うさが感じられる。
兵庫県知事選における折田氏の行為が、公職選挙法に抵触するかどうかは、現段階ではわからない。いずれにしても、彼女の今回の「炎上」は、本来ならば、社会との結びつきを担い、危機管理の手段であるはずのPR=パブリック・リレーションズを、「自己PR」と取り違えたところに由来するのではないか。そして、この取り違えこそ、「SFC」出身者の「華美な空気」の産物として、受け止められてしまったように見える。
「社会起業を通じ社会の様々な問題解決に取り組む卒業生が多い」と、大学側が評価する「SFC」出身者を、私個人も尊敬している。
私は、社会課題など、いまだに何だかよくわからないし、京都大学出身者らしく、「社会性」を身につけないまま生きてきたからである。近著『京大思考 石丸伸二はなぜ嫌われてしまうのか』(宝島社新書)で、自分の「病」を反省したが、「SFC」出身者は、逆に、あまりにも「社会性」を身につけすぎているのだろう。
折田氏だけではなく、「SFC」が「揶揄」されるのは、彼らが過剰なほどに如才なく、うまく立ち回っているように見えているからなのかもしれない。
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神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)
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