「クレヨンしんちゃん」からヒントを得た…「6年で年商43億円」30歳社長が作ったアパレル会社が急成長するワケ
プレジデントオンライン / 2024年12月3日 18時15分
※この記事はマイナビ健康経営のYouTube番組「Bring.」の動画「若者たちの『好き』と『熱狂』が渦巻く『若者帝国』を築く! Z世代の才能を最大限に活かす組織論」の内容を抜粋し、再編集したものです。
■若い社員にも積極的に権限を移譲する
【澤円】yutoriでは主に20代の若者たちが自分の能力を存分に発揮し、いわゆる「仲良しクラブ」ではない、強靭な組織として機能しています。そうしたZ世代の人たちが生き生きと働ける組織をどのように構築しているのでしょう?
【片石貴展】現在、yutoriは30以上のブランドを保有していますが、各ブランドに若いディレクターたちがいて、それぞれが自律的に行動できる組織になっています。そのような組織を構築できる主な理由は、彼ら彼女らにかなりの程度「権限委譲」をしているからです。
わたしは、世代が若くなればなるほど、基本的にハイスペック化していくと考えています。年齢が若いからといって、総合的に能力が低いとはまったく見ていません。むしろ若い人のほうが、多様な情報や知識をスピーディーに取り込むことができます。
また、最先端のトレンドや、多彩なカルチャーをリアルに体験することもできます。そうしたインプットによって、頭脳はもとより見た目だって基本的によくなっていく面があるのではないでしょうか。
とりわけファッションの領域では、20代前半頃が、ユーザーに刺さるものを生み出せるピーク期だと認識しています。だからこそ、彼ら彼女らにできる限り権限を委譲し、チャンスや活躍の機会を与えるようにしています。
■一般社員は作家、幹部社員は編集者
【澤円】強靭な組織をつくるにあたり、権限委譲は重要なキーワードですね。yutoriでは若者たちにどんどん権限を与えているとのことですが、彼ら彼女らを束ねるリーダー職やプロデューサー職はどのようなあり方なのでしょうか?
【片石貴展】わかりやすく例えると、いわゆる一般社員にあたる「メンバー」は作家、「リーダー」や幹部社員にあたる「プロデューサー」は編集者という解釈をしています。メンバーは、できる限り自分の衝動に素直に、作家として思い切り活動してほしい。リーダーやプロデューサーは、それをビジネスとしてかたちにしていく編集者の役割だというわけです。
そのため、権限移譲の先に生じる行動の振り返りや、体験から学ぶ方法などは、その都度リーダーやプロデューサーが提供するようにしています。やはり自分を正しく見つめたり、客観的に捉えたりすることには、経験豊富な人たちのアドバイスが助けになるからです。メンバー自身が気づきにくい強みや良さなどを、経験と共に伝えることを意識しています。
yutoriは創業当初より、100ブランドを保有することを前提に事業を展開してきました。その目標を達成するには、メンバーである若者たちの「初期衝動」のエネルギーを価値の源泉とし、それらを巧みかつ継続的にビジネスに紐づけていく必要があります。そのためには、まず若者たちが自律的に行動できる必要があると考えています。
■「ハラスメント」「多様性」という言葉が若者の成長を阻害する
【澤円】権限委譲が活発な組織は、昨今よくいわれる組織の「心理的安全性」とも親和性があると感じます。「自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」を意味する言葉ですが、これについての考えをお聞かせください。
【片石貴展】組織の「心理的安全性」は、かれこれ10年ほどいわれていますね。でも、いまだにいわれているということは、解決が難しい課題でもあるということを意味しているのだと思います。一般的には、職場のハラスメントの問題とともに広く知られるようになったと認識しています。
それに関して、実はインターネット番組「ABEMAヒルズ」に出演した際に、ハラスメントに対するわたしの発言がSNSで拡散され話題になったことがありました。「いまの世の中には責任感がない。『○○ハラスメント』や、表面的な『多様性』といった言葉が好きなように解釈されてひとり歩きしている」といった主旨の発言をしたのです。
同じことが「心理的安全性」にもいえるのかもしれません。心理的安全性を推進するという空気感のなかで、例えば上司は怒るに怒れなくなり、楽して働きたいという部下は都合よく解釈している面もありますよね。そうした流れのなかで、仕事にフルコミットし、人間的に成長したいと考える若者たちが、それをしづらい環境を強制されている面もあるのではないかという指摘です。
若いときはエネルギーもあるし、yutoriで働く若者たちも猛烈に自分の好きなことに向き合っています。そんな姿を見ていると、仕事に懸命に打ち込むことで人は成長していくという感覚があるのです。
【澤円】ハラスメントは言語道断です。しかし、「心理的安全性」を盾にして一律に残業を禁止したり、ハラスメントを拡大解釈したりするのは違うのではないかということですね。
【片石貴展】はい。そうした動きによって、働く人の人間的成長が軽視されるのはおかしいのではないかということです。
もちろん、懸命に働きたくなければ働かなくていいですし、これは個人が選択するトレードオフの問題だと考えています。つまり、自分の選択を自分で受け入れるかどうかの問題だということです。でも、表面的な理解だけで「心理的安全性」や「多様性」をなんとなく是とするような空気感には違和感があります。
■社員の才能を見極め、成長できる環境を整える
【澤円】本当に強靭な組織をつくるには、組織やチームを引っ張っていくリーダーの役割やあり方も重要です。リーダーシップについてはどう考えていますか?
【片石貴展】わたしはよく、いわゆる「カリスマ経営者」っぽく見られがちなのですが、実際はサーバントリーダーシップに近いスタイルだと思っています。なぜなら、わたしがブランドを創造し、社員を引っ張っているわけではないからです。そうではなく、みんながやりたいことを叶えられる場所を用意し、支援し、そこに集う熱量によって会社を成長させるタイプなのです。
人の才能を発掘し、成長していく様を見るのが好きなんです。あえて「つくる」という表現をしますが、「ものをつくる人をつくる」ということが、自分のもっとも才能がある部分だと認識しています。なぜそう断言できるのかというと、繰り返しになりますが、やはりそれがいちばん好きなことだからです。
■毎日社員と顔を合わせて「観察」する
【澤円】メンバーそれぞれのオリジナルな才能を発掘し、人間的成長を促していくには、一人ひとりをしっかり「観察」する必要もありますよね。
【片石貴展】おっしゃる通りです。観察して、いい部分は伸ばしていき、改善したほうがいい部分はきちんと指摘をする。それは、単に経営のダッシュボードを眺めているだけではできません。だからわたしは、毎日出社して社員と顔を合わせますし、オフィスもワンフロアーで見渡せる構造にしています。当然、社長室もありません。
社員にとっては、いつも社長がいたらうざいとは思いますよ(笑)。「やだな」「居づらいな」と思うときもあるかもしれないけれど、物理的に可能なうちはこのスタイルを続けたいと考えています。
■部下の成長をプレゼンできない上司は上司失格
【澤円】組織内のコミュニケーションにおいて、特に「評価」などをするときに留意していることや、ルール化していることを教えてください。
【片石貴展】評価については3カ月に1回、給与改定については半期に1回、面談の機会を設けています。クリエイティブ職の評価面談にはわたしも必ず入るようにしていて、およそ30人と直接コミュニケーションを図っています。
評価の基準としては、例えばマーケティング職のプロデューサーであれば、「場づくりの力」や「磨いた技術(マーケティングの専門技術など)」、他にも「心構え」といった独自の基準を達成する必要があります。それらはマトリクスにして明確に表現し共有しています。
もうひとつ特徴的なこととして、メンバーのグレード(等級)評価の際は、対象となるメンバーとリーダー、プロデューサーやわたしを含めた役員全員が参加します。そして、みんながいる場でリーダーが提案し、最終承認するかどうかを決めているのです。
このとき、結果が出ているメンバーのグレードを上げるのを躊躇するリーダーは、全員から厳しい指摘を受けることになります。部下が成長しているのにその部分をプレゼンできない上司は、単なる保身に過ぎず、要は上司としてダメだという評価ですね。他人より自分を優先するマインドでは、そもそもプロデュースなんてできませんから。
■「部下は上司の背中を見て学べ」は効率が悪い
【澤円】メンバーを引き上げることを怠るリーダーに対して、極めて厳しい目を向けているというのは、組織論としてとても興味深いです。
【片石貴展】部下にとって、「自分を引き上げようとしてくれている」ことが伝わるか伝わらないかは、とても大事なことだからです。「君の頑張りは理解しているから、上にも掛け合ってみるよ」なのか、「今回は足りない部分があるから、次頑張ろう」と伝えるのか。いずれにせよ、常に部下を引き上げようとするスタンスがあるかないかで、その関係性はまったく変わるでしょう。
しかもこれは、「できる・できない」の話ではなく、「やるか・やらないか」の話でしかありません。
【澤円】リーダーの意思次第というわけですね。では、経営者として、片石さんが理想とする組織像についてもお聞かせください。
【片石貴展】フラットな組織であることは重要です。必要な権限を与え、組織にとっての課題解決をすべてのゴールとし、みんなが同じ方向を向くことを前提にした組織という意味です。
大事なのは、「ことを成す」ために集中することですから、働くときはグレードなんて気にしなくてもいい。フラットに実力が評価されることも大切です。そんな組織に対する考え方を明確に定義し、必要な情報をオープンにして、瞬時に共有できる状態にしておくことが必要です。
よく「部下は上司の背中を見て学べ」みたいな考え方がありますが、もっと効率のいい方法があるということです。「言わないでもわかるだろう」ではなく、社員全員が自分たちの進んでいる方向を常に確認できる状態にしておくことが、経営や組織づくりのうえでもっとも重要だと考えています。
■クリエイティブとは「受け手の心に響く」こと
【澤円】最後に、いまyutoriは「若者帝国をつくる」というビジョンを打ち出していますよね。ある記事では、「若い子の『好き』と『熱狂』が溢れ、それを商売にし続ける」と述べておられますが、このビジョンについてぜひお聞かせください。
【片石貴展】わたしは、クリエイティブであることは、なにかをつくるのが上手だったり巧みだったりすることとはあまり関係がないと思っています。それよりも大切なのは、受け手の「心に響く」ことです。
例えると、足が遅い人でも、必死に努力してフルマラソンを走り切れば、心を打たれますよね? そんな感覚に近いかもしれません。もちろんビジネスですから、テクノロジーなどを活用し効率を追求する必要はあります。でも、その結果つくったものが受け手の心を打たなければ、それはクリエイティブとはいえないでしょう。
では、なにがクリエイティビティーを生み出すのかといえば、やはり、つくり手が持つ初期衝動のエネルギーです。そのうえで、ひとつの会社で100という日本一のブランド数を持つのなら、それだけ多種多様な若者の「好き」と「熱狂」が渦巻く特殊な会社空間であるはずです。
そんなファッションを軸にしたクリエイティブで、若者たちが熱狂を生み出し続ける空間を、「若者帝国」と名づけてビジョンにしたというわけです。
■クレヨンしんちゃんの映画に発想を得た「若者帝国」
【澤円】それにしても、「若者」+「帝国」とはすごいパワーワードですね。
【片石貴展】ちょっと厨二病っぽいうたい文句ですよね(笑)。でも、この言葉が多くの若者たちに、高揚感を伴って広がっていくといいなと思っています。
実はこれ、映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』からインスピレーションを受けているんです。大人だけの楽園「オトナ帝国」の建設をたくらむ組織と、しんちゃんたちが対決する筋書きですが、あの映画が大好きで。むしろ「オトナ帝国」側に溢れる、20世紀の匂いや思想の方に共感していたのですが、「若者帝国」を目標としました。
【澤円】素敵ですね。わたしは基本的に創造性に満ちた起業家の人たちを、そのなかでも「うわ、よくやるなあ!」と感じる人に会うと、とても応援したい気持ちになります。正直なところ、アパレル業界って大変ではないですか?
【片石貴展】それはもう、めちゃくちゃ大変ですね……(苦笑)。
【澤円】「うわ、よくやるなあ!」という姿と勢いのまま、今後も挑戦し続けてください。応援しています。
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yutori代表取締役社長
1993年、神奈川県生まれ。ニックネーム「ゆとりくん」。「9090(ナインティナインティ)」「Younger Song」「PAMM」など、2024年時点で約30のアパレルブランドを展開し、独自のSNSマーケティングによって創業わずか6年で年商43億円を達成。2020年7月、ZOZOグループ入りを発表。2023年12月、ZOZO傘下を離れ、アパレル業界では最年少&最短で東京証券取引所グロース市場に上場を果たし話題になった。今後5年で100ブランドまで増やすことで「日本で一番ブランド数が多い会社」として成長し、若者の好きや熱狂が溢れる「若者帝国」をつくるというビジョンを打ち出している。
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圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(yutori代表取締役社長 片石 貴展、圓窓 代表取締役 澤 円 構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文=辻本圭介)
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