「100枚の名刺」より「1回の飲み会」を…1年364日会食する編集者が飲み会で本当に目指していること
プレジデントオンライン / 2024年12月4日 15時15分
※本稿は、戸賀敬城『ビジネス会食の技術』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「楽しかった」で終わる飲み会は絶対ダメ
今日の飲み会は楽しかった――。
会食後に、こんな感想を漏らしているようであれば、きっと仕事で結果を出すことはできないでしょう。
昭和のバブル時代までは、仕事の関係者とワイワイ盛り上がっているだけでも、仕事がどんどん入ってくる時代でした。
しかし、今は違います。
会社もバブル時代のような余裕はありません。限られた少ない予算の中で、大きな成果を出すことが、社員に求められています。
飲み会に費やす時間や食事代も「コスト」ととらえ、費用対効果を重視しなければなりません。「ああ、楽しかった」「おいしかった」だけでは、飲み会として失敗なのです。
ところが現実には、「楽しく飲めば仕事がもらえる」と思っている人が、いまだにたくさんいるように感じます。特に営業の仕事をしている人は、そのようなスタイルが身についているのでしょう。
私も職業柄、飲み会に誘われることが多いのですが、なかには、それほど仕事の関わりがないにもかかわらず、「とりあえず飲みましょう」といった感覚で誘ってくる人も少なくありません。実際にその飲み会に行ってみると、最初から最後まで仕事の話は出ない。
■時間と食事のコストを必ず回収せよ
おそらく相手は、「戸賀と飲んでおけば仕事につながる」という感覚なのだと思いますが、「一緒に飲んだから仕事をしよう」というのは、あまりに非生産的です。
これもまた昭和の飲み方と言わざるを得ません。もちろん、何度も仕事で結果を出している相手であれば、たまには仕事の話抜きでひたすら飲むといったリフレッシュは大切です。
そうでないのなら、飲み会を開催するからには、明確な仕事の目的があるべきです。「プレゼンで企画を通したい」「情報を得たい」など、目的はさまざまでしょうが、飲み会の席で、「一度も具体的な仕事の話が出ない」というのは、あってはならない事態です。
もちろん、飲み会の席でずっと仕事の話ばかりしてしまうと、相手にプレッシャーを与えることになるので、仕事以外の会話で楽しく盛り上げなければなりません。
しかし、どんなにくだけた飲み会の中でも、必ずいくらか仕事の話をして、今後につなげることが必要不可欠。つまり、戦略のない飲み会はムダなのです。
そもそもビジネスにおける飲み会は、「お金の関係」がベースにあります。
私は編集長で、それなりに権限があるので、さまざまな人が飲み会の場で時間をともに過ごしてくれます。もし私が編集長を辞めて無職になったら、誰も見向きもしなくなるでしょう。
そういう意味では、やはり飲み会は仕事なのです。仕事である以上、時間と食事のコストは必ず回収しなければなりません。
■「飲み会で仕事の結果は変わる」と断言できる理由
飲み会をうまくやれば、仕事がすべてうまくいく――。
期待を裏切るようで申し訳ありませんが、そんなわけがありません。バブル時代は、多少そういう側面もあったかもしれませんが、今の時代、飲み会をやっていれば仕事がもらえ、すべてが円滑に進むというのは絵空事です。
それでも私は、「飲み会で仕事の結果は変わる」と断言できます。
現実的なことを言えば、仕事は「中身」です。どれだけ企画や提案、商品が魅力的かでお客様はお金を出してくれます。メディア編集の世界で言えば、クライアントがいかに多くの広告を出稿してくれるか、これに尽きます。
たとえば、あなたが服を買いにお店に行ったとします。店員さんがとてもフレンドリーで、トークも楽しいし、あなたのファッションセンスを褒めてくれる。接客されていると、とても気分がいい。
しかし、その店員さんが個性的なデザインの服を猛烈にプッシュしてきたら、どうでしょう。あなたの好みの服とは、正反対の路線です。しかも、予算の2倍の価格……。どんなに接客がよくても、その服を買おうとは思わないでしょう。
仕事も同じ。どんなに相手がいい人で、たくさん接待してくれても、仕事の中身がダメなら「仕事をお願いしよう」「この人にお金を出そう」とは思わないのです。
■仕事の中身80%、飲み会20%
繰り返しますが、仕事の中身は、結果を出すための最低条件です。内容がともなっていなければ、いくら飲み会で奮闘しても望むような結果は得られません。
一方で、こんなことも言えます。
仕事の中身だけよくても、結果がついてくるとは限らない、と。
私のこれまでの経験から言えば、飲み会を含めた仕事の中身以外の部分が結果を左右します。結果の80%は仕事の中身で決まるけれど、20%は飲み会で決まるという感覚です。「たった2割」ですが、この2割が割合以上に結果を左右する重要な役割を占めます。
たとえば、あなたが企画のプレゼンを受けたとします。とても魅力的な内容で、ぜひ採用したいという気持ちに傾いています。もしプレゼンをした人が何度も仕事をしたことがあって気心が知れている人だったら、即決するかもしれません。
しかし、初めて仕事をする人だったらどうでしょう。
「企画の中身はいいけど、本当にこの人にお願いしてもよいのだろうか」「一緒に仕事を進めていく中で、もしかしたらどこかでボタンのかけ違いが起こったりしないだろうか」という思いが、ふとよぎるかもしれません。
80%の部分はよいけれど、果たしてそれを鵜呑みにしていいのか、グレーの部分が残るはずです。
その不安を払拭するのが「飲み会」を通じたコミュニケーションです。一緒に食事の席をともにすれば、相手の人柄や誠意などが垣間見えます。そこで、相手によい印象を持ってもらえれば、安心して仕事を任せてもらえる可能性が高まります。
飲み会は、グレーに曇っていた80%の仕事の中身を「透明感のある80%」にする大事なプロセスなのです。おいしい刺身もツマやワサビなどがないと引き立たないように、どんなに素晴らしい企画も、20%の飲み会がなければ輝かないのです。
■「こいつ、なんかいいな」と思わせれば勝ち
勘違いしていただきたくないのは、飲み会は、その場で仕事を獲得するのが目的ではないということです。
私も、クライアントを接待するばかりではなく、メディアに商品を取り上げてもらいたいPR会社などから飲み会の席をセッティングされることがあります。
しかし、もし彼らから30分も1時間も仕事の話をされれば、正直うんざりします。「お酒の席くらい楽しく飲もうよ」という気分になるのが普通の感覚ではないでしょうか。
結果を出そうと必死になるのはわかりますが、「その場で」「すぐに」なんらかの成果を得ようとするのは逆効果です。お酒の席と昼間の商談の席は分けて考えるのが原則だと私は考えています。
飲み会をする目的のひとつは、自分のプレゼンス(存在感)を上げることです。飲み会をすれば、2~3時間ほど同じ空間をともに過ごすことになります。
それほどの時間をお互いがお酒の入った状態で過ごせば、相手の人柄がわかりますし、反対に自分の人となりも相手に伝わるものです。
それこそ「よく気が利く人だな」「話題が豊富で魅力的な人だな」ということもわかるわけです。反対に、「気遣いができない」「一緒に話していてもつまらない」というマイナスイメージを与えてしまう可能性もあります。
たとえば、同じ内容の企画書が2つ並んでいたとしたら、「こいつ、なんかいいな」「この人とは楽しく仕事ができそうだな」と思わせる人の企画書を選ぶのが人情ではないでしょうか。
場合によっては、企画の内容面で少し足りていない提案であっても、「この人と仕事をしてみたいから、やってみようか」という判断になるかもしれませんし、もし今回は企画が実現しなかったとしても、パイプができて、「次は彼に頼んでみようか」と思ってもらえる可能性もあります。
信頼を得て、相手にとってのプレゼンスを上げることが飲み会の目的のひとつです。
■お金をかけてもプレゼンスは上がらない
プレゼンスを上げたいからといって、お金をかけて高級店で接待をすればいいとは思いません。
もちろん、大事な飲み会でチェーン店の居酒屋を選ぶのは言語道断ですが、プライべートでは絶対に来ないような高級店をセッティングしても、浮足立つだけでかえってマイナスに働く可能性もあります。
高級店で食事をすれば、相手に「あの刺身はおいしかった」といった印象を残すことはできるでしょう。経費を出した会社のプレゼンスは上がるかもしれませんが、あなたのプレゼンス向上につながるとは限りません。
あなたのプレゼンスを上げるには、自分の「姿勢」を見せることがいちばんです。言動や気遣い、マナー、話の内容などで好印象を残すことによって、「この人と仕事をしたい」と思ってもらうことができます。
「お金をかければよい」というのは、昭和のバブル時代の考え方。自分の振る舞いしだいで、それほど高級な店でなくても、あなたにとって晴れ舞台になるはずです。
■「100枚の名刺」よりも「1回の飲み会」
いくらたくさん名刺を持っていても、それは本物の人脈とは言えません。いわゆる「名刺コレクター」が仕事で結果を出すのはむずかしいでしょう。
しかし、現実には、「名刺交換をすればビジネスパートナーだ」とばかりに、相手にビジネスの話を持ちかけてしまう人は少なくないように感じます。
最近では、SNSが普及して気軽にコンタクトがとれるので、面識さえないのに、いきなり「仕事をさせてください」と気軽に言ってくる人もいます。
たしかに、名刺やSNSはビジネスのきっかけをつくるには便利です。仕事の内容やケースによっては、ビジネスの武器になることもあります。
しかし、これから数百万円、数千万円規模の大きな仕事をしようというときに、名刺やSNS上だけの関係性の中ですべてうまくやろうというのは、私の感覚では「なし」です。
やはり、飲み会など会食のステップを踏み、お互いの距離を近づけるのが大原則ではないでしょうか。
ありきたりな言い方かもしれませんが、メールやSNSなどのデジタルツールだけでは、コミュニケーションは深まりません。
デジタルを使いこなすことは大切ですが、アナログにはアナログのよさがあります。
私はジムで汗を流したあとにサウナに入るのですが、そこでたまたま知り合いに会ったりすると、仕事の話からくだらない下ネタまで大いに盛り上がる。まったく知らない人とも話に花が咲くことがあります。
リラックスしながらサウナで会話をしていると、不思議と話の内容が記憶に残ったり、相手に親近感を抱いたりするものです。
まさに裸の付き合いの効果ですが、ビジネスにおいてもアナログ的な裸の付き合いをすることによって、相手との距離感が一気に縮まります。その絶好の機会が飲み会の席なのです。
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編集者、オフィス戸賀代表
1967年東京生まれ。オンラインメディア「J PRIME」編集長、「B.R.ONLINE」顧問を務めるほか、様々なブランドのアンバサダーやコンサルタントとして活動する。2007年から10年ほど男性ファッション誌『MEN'S CLUB』編集長を務め、雑誌不況のなか売り上げをV字回復。定期購読者も約8000人と、他の雑誌ではあり得ない強固な会員組織を作り上げた。ビジネス/プライベートの様子を日々発信しているブログ「トガブロ。」も人気。華やかなライフスタイルとキャラクターが注目を集め、月間平均100万PVを誇る。1年365日中、max364日は仕事の会食で予定が埋まっており、山手線の駅ひとつにつき1店は、会食に使う店リストを持つ。
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(編集者、オフィス戸賀代表 戸賀 敬城)
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