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わざわざポスター代の自腹を切る候補など1人もいない…斎藤元彦知事の「苦し紛れの弁明」が剝がれる"Xデー"

プレジデントオンライン / 2024年11月30日 8時15分

兵庫県と県内41市町の首長らが意見交換する「県・市町懇話会」を終え、報道陣の取材に応じる斎藤元彦知事=2024年11月26日午後、神戸市中央区 - 写真=時事通信フォト

兵庫県の斎藤元彦知事の選挙戦に携わったPR会社社長の記事を巡り、公職選挙法違反の疑いが噴出した。ジャーナリストの小林一哉さんは「12月2日は県知事選の収支報告書の提出期限だ。そこですべてのカネの流れが明らかになるだろう」という――。

■PR会社への支払いは買収か否か

兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事(47)の選挙戦の広報・PRに関わった株式会社merchu(メルチュ)の折田楓(おりたかえで)社長(33)が投稿プラットフォーム「note」に「広報全般を任せていただいた」などと“暴露”した記事を巡り、公職選挙法が禁ずる買収に当たるのではないかという新たな疑惑が浮上した。

公職選挙法では、事務員や車上運動員への報酬のほか、ポスターやチラシにかかる費用については対価の支払いが認められている。一方、有償で広報やSNS運用などを依頼することは買収に当たる可能性がある。

筆者は連日行われた斎藤知事と代理人弁護士の会見を見て、買収に当たる可能性が極めて高いと感じた。

11月27日の定例会見で、斎藤知事は「公選法に違反することはないと認識している」と何と10回以上も繰り返して、違法性を否定した。

記者たちの厳しい追及には、具体的な回答はすべて避けて、「代理人弁護士に対応を一任している。弁護士に聞いてほしい」など苦しい言い訳に終始した。

■代理人弁護士からボロが出そう

その後に開かれた斎藤知事の代理人・奥見司(つかさ)弁護士は会見で、折田氏の投稿について、「事実と、全く事実でない部分が記載されている。そういう意味では『盛っている』と認識している」と述べ、公選法に関係する部分は「事実ではない」と全面的に否定した。

斎藤知事ら陣営のあらゆる情報を集めたから、奥見弁護士は「わたしが一番詳しく説明できるだろう」と述べたが、11月20日の騒動のあと、折田氏が記事の一部を削除、修正したことをあろうことか承知していなかった。

つまり、肝心の折田氏からの事情聴取をまったく行っていなかったのだ。

民事事件を主に扱う奥見弁護士が非常に複雑で細かい公選法や政治資金規正法に精通しているとは思えない。

今後、折田氏の投稿記事の事実関係だけでなく、さまざまなボロが出てしまうことは間違いない。

■「鋼のメンタル」でも今回は分が悪い

職員に対する一連のパワハラ疑惑やおねだり疑惑で、斎藤知事は自らの正当性を主張した。

その上で、元西播磨県民局長による告発、自死に端を発した兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)で、斎藤知事は「道義的責任が何かわからない」ととぼけてしまった。

倫理的な個人の問題である「道義的責任」を認めれば、2人も職員が亡くなっているという重大な事実から厳しい政治責任を取らなければならなかったからである。

その結果、県議会すべての議員86人による全会一致の不信任決議を突きつけられたが、県議会解散ではなく、自動的に身分を失う「失職」を選択した。

「県民のために」を掲げて再出馬し、折田氏らによるSNS戦略が功を奏して、若者・Z世代の支持を取りつけ、約111万票を得て圧勝した。

選挙戦を通して、いじめられ役を演じるなど、斎藤知事が逆境に負けない「鋼のメンタル」の持ち主であることを県民らにはっきりと示した。

ただ今回の場合、このままではどう考えても公選法違反の疑いをきれいさっぱり打ち消すのは極めて難しい。

公選法の買収罪違反で罰金以上の刑が確定すれば、5年間の公民権停止となり、今度は正真正銘の「知事失格」となってしまう。それだけに、火消しに必死である。

いまのところ、斎藤知事は公選法違反を全面的に否定し、相変わらず正当性を主張している。

もし、裁判に付されることになっても、そのまま逃げ続けていれば、2期目の任期4年を全うすることはできるかもしれない。世論の激しい批判に耐えられる「鋼のメンタル」の持ち主であることは実証済みだからである。「鋼のメンタル」だけで本当に、斎藤知事が逃げ切ることができるのか、検証していく。

■撮影費用、ヘアメイク代はどう処理されたのか

折田氏のnote投稿について、新聞、テレビ、ウェブメディアなどは連日、さまざまな角度から公職選挙法違反の疑いについて追及している。

筆者は、これまでメディアが取り上げていない内容を紹介したい。

斎藤陣営は、折田氏の広報・PR会社メルチュに報酬71万5000円を支払っている。その内訳は①公約スライド制作30万円、②チラシデザイン制作15万円、③メインビジュアル企画・制作10万円、④ポスターデザイン制作5万円、⑤選挙公報デザイン制作5万円(合計65万円)と消費税(10%)6万5000円である。

折田氏は、noteへの投稿「1.プロフィール撮影」で、大阪にプライベートスタジオを持つ信頼できるカメラマン、友人の紹介によるヘアメイクを依頼した、と投稿している。いくら何でもカメラマン、ヘアメイクはボランティアではなかろう。

スタジオで写真撮影をする人
写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen

折田氏のメルチュから、カメラマン、ヘアメイクに費用を一旦立て替えた上で、その費用を含めて斎藤陣営に請求するのが一般的である。カメラマン、ヘアメイクの費用はそれなりに高い。

ところが、①から⑤には、カメラマン、ヘアメイクの費用は含まれていない。どのように処理するのだろうか。

■公費負担のポスター代を「自腹」の謎

斎藤陣営がどんな成果物に対して金銭を支払ったのかは、noteへの投稿「4.ポスター・チラシ・選挙公報・政策スライド」の写真を見ればよくわかる。

⑤選挙公報デザイン制作5万円について、選挙公報の印刷は兵庫県選挙管理委員会が行うから、斎藤陣営が「自腹」で支払うことは当然である。

ただ5万円は破格に安い値段である。というのも、メルチュは選挙公報のモノクロデザインだけでなく、SNS用にカラー版もつくっている。

不思議なのは、②チラシデザイン制作15万円と③ポスターデザイン制作5万円の2つの項目である。

選挙運動用ビラ(チラシ)と選挙運動用ポスター(個人演説会告知用ポスターを含む)デザインは公費負担で済む。

ところが、斎藤陣営はチラシ、ポスターデザインにかかる費用としてメルチュに支払いをしたとしている。

公費負担で済むところを、斎藤陣営はわざわざ「自腹」を切ったことになる。

この自腹負担を見れば、斎藤陣営が公職選挙法をまったく理解していないのではないか、と疑いの目を向けられても仕方ない。

■ポスター代を自腹で依頼する候補者など1人もいない

ふつうであれば、デザインを請け負ったメルチュが印刷会社に発注して、メルチュが直接、選挙管理委員会にかかった費用を請求することになる。

チラシ、ポスターのデザイン制作費用は合わせて20万円である。公費負担であることを知りながら、その2つを別個に自腹で、デザイン会社に依頼する知事候補者など全国どこを見回してもいない。

折田氏のメルチュが作成した選挙公報、選挙ポスターなど(noteの投稿記事から)
折田氏のメルチュが作成した選挙公報、選挙ポスターなど(noteの投稿記事から)

兵庫県知事選では、チラシは約26万5000枚、ポスターはポスター掲示場数の2倍まで作成できる。つまり、それなりの費用が掛かるのである。

■斎藤知事は公選法をよくわかっていない

27日の定例会見で、フリーの記者が「公費負担のポスター」について、「なぜ自腹を切ったのか」と斎藤知事の見解をただした。

「詳細を承知していない」と回答する斎藤知事に、さらに「(斎藤知事は)公選法を所管する総務省の出身なのに知らないのか」「100%税金の支払いではないか」と突っ込みが入ると、「その辺りも弁護士に託している」と逃げた。

追い討ちをかけるように「ポスターが公費申請の対象だと知らなかったのか」と問われると、斎藤知事は「確か1万5000枚までについては公費の対象となる」と回答した。

筆者には「1万5000枚」という数字がどこから出たのか、さっぱりわからなかった。

「兵庫県の選挙運動用ビラ及び選挙運動用ポスターの作成の公営に関する条例」を調べてみたが、「1万5000枚」という数字はどこにもなかった。

斎藤知事が何らかの勘違いをしたのだろう。総務省出身のキャリア官僚でさえ公選法の細かい規定を承知していないのだ。ましてや、奥見弁護士が複雑な公選法の規定を理解しているはずもない。

とにかく、折田氏の投稿による‟暴露”記事を何とかごまかそうとするのに精一杯なのだろう。だから、ポスターとチラシデザインが公費負担の対象なのに、メルチュへデザイン費用を支払ったことにして、SNS関連ではない「正当な支払い」に見せ掛けたに過ぎない。

■PR会社社長の協力は「ビジネス」か「ボランティア」か

最も大きな食い違いは、折田氏の立場である。

斎藤知事は「SNSは陣営が主体的に運用した。女性(折田氏)はボランティアとして個人で参加されたと認識している」と述べている。

それに対して、折田氏は「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました」と、SNS戦略をすべて任されたと投稿している。

約1カ月半、食べる暇も寝る暇もないほどだったが、仲間とともに大きな試練を乗り越えることができたなどとも書いている。折田氏は投稿記事に、「特定の団体・個人やものを支援する意図もなく」と「ボランティア参加ではない」ことをはっきりとさせている。その上で、「株式会社merchuの社長として社会に貢献できるよう日々全力で走り続けたい」と、「ビジネスである」ことも明確にしている。

ところが、政治資金規正法では、会社などの団体が候補者に寄付をすることはできないとされている。

■PR会社は県の仕事をしていなかったのか

また折田氏はnoteの略歴の中で、「兵庫県、広島県、山口県、徳島県、高知県……の広報・PRを手掛けている」とはっきりと記している。

公選法では、地方公共団体と利害関係にある者が知事選などで寄付を行うことは禁止されている。

奥見弁護士は、折田氏が兵庫県空飛ぶクルマ検討会議委員などを務め、4年間で合計15万円の謝礼を受け取ったが、同委員などは請負契約ではなく、県との利害関係人にならないとの認識を示している。

奥原弁護士は、折田氏が有識者会議委員のみを引き受けていると思い込んでいるのだろう。

折田氏は略歴で、ビジネスとして「兵庫県の広報・PRを手掛けている」としている。過去にさかのぼって調べれば、兵庫県と何らかの請負契約が出てくるのではないか。大きな県庁組織では、すべての請負契約を把握するのは簡単ではないのだ。

兵庫県全体で調べるととともに、折田氏に事情を聴いてみれば、はっきりする。

■“Xデー”は12月2日

折田氏の“爆弾”投稿記事による斎藤知事への公選法、政治資金規正法の疑いの追及は始まったばかりである。これからが本番となる。

兵庫県知事選の選挙運動収支報告書の提出期限は12月2日である。斎藤陣営の収支報告書を見れば、公費負担を含めた支出などが明らかになる。そこで、まずカメラマン、ヘアメイクの費用がどのように扱われるのか見てみたい。

12月2日の提出ぎりぎりまで、斎藤知事らは鵜の目鷹の目で収支報告書をチェックしているだろう。まあ、いままでのやり方ではボロは必ず出てしまうだろう。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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