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「日本酒と言えば大吟醸」はもう古い…大の酒好きが「一周回っておいしい」と絶賛する日本酒とは

プレジデントオンライン / 2024年12月4日 19時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

日本酒をおいしく飲むためには何が重要か。酒蔵コーディネーターの髙橋理人さんは「日本酒に賞味期限はないが、保存状態によって味が変わってしまう可能性がある。開封後はどんな日本酒でも冷蔵庫で保存し、生酒は1週間以内、それ以外は1カ月程度で飲み切るのが理想だ」という――。

※本稿は、髙橋理人『酒ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■賞味期限はないが、色や味は変わる

「日本酒の賞味期限はいつなのですか?」は、非常によく聞かれる質問です。

結論としては、日本酒には比較的高いアルコールが含まれており、アルコール殺菌の効果があるので、開封しなければ腐敗はほとんど考えられず、賞味期限もありません。

なお、ビールは日本酒よりアルコール度数が低いので、賞味期限があり、缶の底に書いてあることが多いです。大手メーカーのビールは9カ月~12カ月です。

ビールは賞味期限が過ぎても容器密封されていれば、衛生的に問題ありません。ただし、クラフトビールは1カ月など、期限が短い場合があるので注意が必要です。

日本酒も開封前であれば10年以上経っていても体に害はなく、理論上はどれだけ時間が経過しても飲むことができます。

ただし、10年以上経った日本酒が、蔵から出荷された時の味わいと同じというわけではありません。徐々に熟成が進み、味や色が変化していきます。

つまり、日本酒には賞味期限はありませんが、味が変化せずに美味しく飲める期限はあるということです。そこで、味を変化させずに美味しく飲む、という観点でおすすめの保存方法をお話しします。

■「生酒」は常温で置いてはいけない

◯開封前

一般的に日本酒は、長持ちをさせるために加熱殺菌を行っています。これを業界用語で「火入れ」と言います。「火」という言葉を聞くと、日本酒を直火で沸騰させているようなイメージがあるかもしれませんが、実際は60~65℃で湯煎をします。これによって、お酒の中に残っていた菌が死滅し、酵素の働きを止めることで、味や香りの変化を抑制できます。

しかし、生酒の場合は火入れをしないので、微生物がお酒の中に残っています。そのため、味が変化をしてしまう可能性が高くなります。

温度が高いと菌も活発に働いてしまうので、ラベルに「生酒」と明記されているものは、冷蔵庫に直行で保管するようにしてください。

購入して未開封であれば、生酒なら1カ月以内、それ以外の日本酒なら半年以内で飲み切るのが目安となります。

■日本酒はワインと違い、「縦置き」がベスト

また、「大吟醸」「純米吟醸」など、吟醸と名の付くものは火入れをしていても冷蔵庫に入れておいた方が良いです。こうした繊細なお酒は、味が変化することで全体的にバランスが崩れやすいためです。また、フルーツのような華やかな香り、爽快な味わいを楽しむためには、冷やした方が良いです。

酒屋やスーパー、コンビニに常温で並んでいる日本酒は、常温での保管で問題ありません。ただし、日本酒にとって紫外線は大敵です。

また、温度変化が少ない方がいいので、戸棚や押し入れなど冷暗所で保存するのがおすすめです。目安としては20℃くらいが理想です。

なお、日本酒はワインのように寝かせて保存をして良いかと聞かれることがありますが、縦にした状態での保存がベストです。理由は、日本酒は酸化によって味が変化しやすく、横に寝かせると空気に触れる面積が大きくなってしまうからです。

ただし、一般家庭の冷蔵庫のスペースを考慮すると、何本も縦置きするのは現実的に難しいです。私は、空気に触れるよりも温度の影響の方が大きいと考えているので、どちらかと言えば常温の縦置きより、冷蔵庫の横置きをするようにしています。

酒瓶
写真=iStock.com/tsurukamephoto
※写真はイメージですs - 写真=iStock.com/tsurukamephoto

■日本酒通の楽しみ方は「あえて寝かせる」

◯開封後

開封後は、生酒から一般的なお酒にかかわらず、どんな日本酒でも冷蔵庫での保存をおすすめします。開封後は酸化が進み、味が変化し始めるからです。開封をしてからであれば、生酒は1週間以内、それ以外は1カ月程度で飲み切るのが理想です。

ただし、酸化は必ずしも悪いことではありません。極端にいうと、最終的には紹興酒のように色がつき、醤油っぽい独特の味わいになりますが、お酒によっては「あえて寝かせて」味を変化させると味わい深くなる場合もあります。

味に角が取れたり、旨味が増したりと味が乗って美味しくなるものがあるのが、日本酒の面白いところです。熟成肉に旨味が出てくるのと同じイメージです。

もちろん酒蔵としては、出荷のタイミングが狙った味わいになるので、早めに飲んでほしいところですが、消費者としては自分好みに味を変化させる楽しみもあります。

私の飲み仲間には、あえて生酒を常温で自宅に置いて熟成させるツワモノもいます。また、酒屋でもあえて寝かせて熟成した秘蔵のお酒を持っているお店もあります。

まずは、自分で1本買ってみて、少しずつ飲みながら自身の好みの熟成具合を探ってみると、日本酒の楽しみが一気に広がるのではないでしょうか。

■2000年代に起きた「磨き競争」の結果

日本酒と言えば、大吟醸という言葉が真っ先に浮かぶ人も多いでしょう。たしかに、大吟醸は日本酒における高級酒の代名詞であり、その繊細な香りとフルーティな味わいは、ビギナーから玄人まで幅広い人気があります。

しかし、「大吟醸が一番美味しい」という固定観念は、今や過去のものとなりつつあると言えます。なぜなら、現代の市場では多様なスタイルと味わいが求められている中で、大吟醸はどうしても味が近しくなるため差別化が難しくなってきているからです。

味を均質的にする最大の要因は、精米歩合です。玄米から50%以上磨いた米で醸した酒を大吟醸と呼びますが、米は磨くほど雑味がなくなり、クリアできれいな味わいになります。

どれだけ磨いたのかが1つの価値になり、アピールポイントとなるので、2000年代は各社がしのぎを削り、20%を切るものも登場をしました。

なかでも業界に大きな衝撃を与えたのは、新澤醸造店(宮城県)がリリースした精米歩合が1桁台となる7%の「残響」です。

同社はその後さらに0.85%まで削った「零響-Absolute0-」もリリースしています。2024年現在、売値は40万円以上の超高級な1本です。

■持続可能な酒造りに挑戦する蔵も

1990年代前半に特定名称が採用されて以降、「大吟醸=良いお酒」という価値観が根づいていきました。しかし、磨けば磨くほど味わいとしての差別化が難しくなりました。

近年では米の磨きに対する考え方が変わり、あえて磨かないお酒づくりをする酒蔵も増えています。あまり磨かない米を業界用語で低精白(ていせいはく)と言います。精米歩合80%や90%がそれにあたります。

米
写真=iStock.com/key05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

クラフトサケを醸造する稲とアガベ(秋田県)は、食用米とほぼ同じ精米歩合90%のみでお酒づくりを行っています。すべて農薬や肥料を使わない自然栽培米を使用しています。

過剰に米を削ることによる食品ロスが発生することを避けるためで、持続可能な社会を目指すという考え方からです。

幅広い世代に支持されている「新政」の新政酒造(秋田県)も「低精白純米酒 涅槃龜(にるがめ)」をリリースしています。寺田本家(千葉県)の「五人娘 発芽玄米酒 むすひ」のように全く米を磨かない玄米の日本酒もあります。

■「大吟醸だけ美味しい」時代ではない

米を磨かないからこそ、米を磨きやすい山田錦などの酒米に縛られなくなり、コシヒカリやササニシキ、つや姫など、食べるお米でお酒を造る酒蔵も増えてきました。先ほどの例で言えば、稲とアガベも食べても美味しいササニシキで酒づくりをしています。

「大吟醸は美味しい」はたしかにその通りですが、それだけでは日本酒の魅力を語り尽くすことができないほど、多様化が進んでいることがおわかりいただけたと思います。

ワインで例えるのであれば、この数十年はクリアな白ワインを追求する歴史でしたが、これからは複雑味のある赤ワインや自由な味わいのロゼを目指す時代になっていくと考えます。

■これまでのイメージを覆す本醸造の実力

日本酒の長い歴史の中で生まれた発明が本醸造です。

私も「1周回って本醸造が美味しい」と周りの人に伝えるほど、本醸造が好きです。

改めて本醸造が何かというと、アルコールを添加したお酒のことです。本醸造を含め、アルコール添加を行っている日本酒を通称「アル添酒(てんしゅ)」と言います。

では、この添加しているアルコールが何かというと、端的に言えば甲類焼酎です。甲類焼酎として代表的な「大五郎」「キンミヤ」「ビッグマン」と言えばピンと来るかもしれません。

イメージとしては、緑茶に甲類焼酎を入れると緑茶ハイ、レモンと炭酸に甲類焼酎を加えたものがレモンサワーです。本醸造は純米酒に焼酎を入れた「純米酒ハイ」と考えると良いでしょう。

お酒における「添加」といえば、戦後の物資不足による苦肉の策で生み出された糖類や酸味料を添加した「ベタベタしたお酒」のように、どうしてもこのイメージが付きまとう方も多いと思います。今でも「純米酒が良いお酒」という考えを持つ方が一定数いらっしゃるのは、この名残と考えています。

しかし、現在では法律が変わり、「ベタベタしたお酒」は日本酒には分類されなくなりました。特に本醸造においては、糖類や酸味料を入れることはできず、アルコール添加の量も白米重量の10%以下に厳しく制限されます。

なお、実際のお酒1本あたりの添加量は7〜8%程度だそうです。

■造り手の「遊び心」によるひと手間

なぜ現代でもアル添酒が存在しているのかというと、それだけの楽しみがあるからです。そこで、私の視点から本醸造の魅力を2つ紹介します。

①職人のひと手間

お米から日本酒を造れば、シンプルに純米酒になります。それだけで日本酒として成立します。しかし、造り手がここにアルコールを添加するということは、当然意味があるからです。

上限値までは添加が許されているため、ここが「遊び」になり、造り手の個性が出る部分でもあります。アルコールを添加する恩恵は、味の面で言えばキリっと引き締まり、香りの面では華やかさが引き立ちやすくなるところです。

例えるなら、江戸前寿司と近いかもしれません。淡白な白身魚は昆布で締める、脂の乗っている魚は炙るなど、素材の味を最大限に生かすために、ネタの1つひとつにひと手間かける。これが江戸前寿司の特徴です。これと同じでアルコール添加は、造り手のひと手間がかかっているのです。

■酒造ごとの個性を知る楽しさ

②普段着の味わい

私が酒蔵に訪問をした際、積極的に飲むのは本醸造です。大吟醸などのランクの高いお酒は、どうしても「よそ行き」の味がするため、その蔵の味の本質を理解することは難しいです。しかし、定番酒である本醸造は「普段着」の味わいがあります。

髙橋理人『酒ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
髙橋理人『酒ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)

本醸造は、その地域で長く飲み続けられている味わいであるので、その土地や酒蔵の個性を知るにはうってつけです。そして、本醸造が美味しい酒蔵は間違いなく、すべてのラインナップが味わい深いです。

このように本醸造は、職人の技と地域や蔵の個性を感じることができるお酒です。

大吟醸や純米酒だけにとらわれず、ぜひ積極的に本醸造を楽しんでみてください。その一杯から、日本酒の多様性を感じ取れるはずです。

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髙橋 理人(たかはし・まさと)
株式会社蔵楽代表、 酒蔵コーディネーター
早稲田大学商学部を卒業後、大手化学メーカーに新卒入社。社会人初の赴任地である新潟県糸魚川市にて日本酒に開眼。その後、大手コンサルティングファームにて製造業の業務・経営改革に従事。コロナ禍を契機に、2020年10月に株式会社蔵楽くらくを創業。「酒蔵を世界一働きたい場所に」をビジョンとして、東南アジア向けの輸出、日本酒サブスク「TAMESHU(タメシュ)」の他、酒蔵のプロデュースや酒イベントの企画など幅広い事業を行っている。製造から流通まで酒業界全般に対する幅広い知見を持つ。現場と「苦楽」を共に、汗をかきながら寄り添う支援を得意とする。座右の銘は「一周回って本醸造」。J.S.A.認定SAKE DIPLOMA、ワインエキスパート、SSI認定国際唎酒師などを取得。

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(株式会社蔵楽代表、 酒蔵コーディネーター 髙橋 理人)

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