受験生なら絶対にインフルワクチンを接種すべき…小児科医が親に「年内に2回注射」を推奨するワケ
プレジデントオンライン / 2024年12月4日 6時15分
■受験生の親に伝えることは決まっている
「先生、ウチの子、今年受験なんですけど、インフルワクチン(以下、Flu Vaccine:FVacと略します)は受けたほうがいいでしょうか?」といった質問が、外来で飛び交うシーズンになってきました。
私の回答は一貫しています。「受験のような重要なイベントがあるなら、できれば2回接種しておきましょう。皮下注射ワクチンでも、経鼻ワクチン(フルミスト)でもある程度の予防効果が期待できます」です。
ただし、皮下注射、経鼻のどちらを選ぶかは、保護者さんのご判断にお任せするしかないというのが本当のところです。ワクチンの選択も含め、FVacの効果等について、小児に焦点を絞ってお話しします。
■そもそも、ワクチンは本当に効くのか?
FVacを接種していても、インフルエンザに感染してしまうことはよくあります。世界のさまざまな研究においても、ワクチンの感染予防効果は決して高いものばかりではありません。これは、インフルエンザ株が変異しやすいためであり、変異したウイルスにはワクチンの予防効果が十分ではないためです。
世界的に見ると、WHO(世界保健機関)がその年の流行の予測を出し、世界各国ではこの予測を参考にしてワクチンを作成します。さらに、日本においては、国立感染症研究所がインフルエンザワクチン株選定のための検討会議を毎年開催して、その年度に流行しそうなインフルエンザ株を予測・指定し、この指定に基づいて皮下注射用ワクチンが作成されます。そのため、どの施設で接種しても、接種の中身は全く同じです。
ワクチンの感染予防効果に関しては、さまざまな報告がありますが、学齢期の児童を対象とした調査は多くはありません。厚生労働省の報告によると、概ね20~60%の発病防止効果があったと報告されていますが、これも含めて決して感染を完全に予防できるわけではないようです。
むしろ、世界での関心事項はインフルエンザ感染による重症化予防に対するワクチンの効果にあります。最も質が高いと言われるシステマティックレビューとメタ解析の小児を対象とした報告によると、入院の予防効果は完全接種児(2回の接種スケジュールを完遂した児)においては60%以上、単回接種の児においては30数%とのことです。確実に2回接種したほうがよさそうです。
■流行しそうな4種類のインフルエンザ株に対応
以下、皮下接種ワクチン、点鼻ワクチンに関して、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのかを見ていきます。
①皮下接種ワクチン(不活化ワクチン)
このワクチンは、もっとも一般に流通しているワクチンです。注射器を使用して、通常は上腕に接種します。1回だけでは重症化を防ぐために必要な免疫を得られないため、厚生労働省や日本小児科学会は、生後6カ月〜12歳(13歳未満)の子どもは2回接種することを推奨しています。
しかし、確実な免疫を持続したいのであれば、13歳以上でも2回接種して身体に負担がかかることはありませんので、2回接種してもいいでしょう。
このワクチンのメリットは、世界的に使用歴が長いため、安全性や効果等に関する知見が十分にあることです。先述したような入院予防効果に関しても十分にあります。
また、感染症研究所が流行予測して、ワクチン株を決定していますので、より国内の流行に対応している可能性があるといえます。2024年度のワクチンは、A型(ビクトリア株、カリフォルニア株)、B型(プーケット株、オーストリア株)の4種類に対応しています。
一方でデメリットというと、すでにご経験の方もいらっしゃるでしょうが、接種時の痛みです。こればかりは、ワクチンの性質上、やむを得ないところです。
■2023年から日本でも承認された「フルミスト」
②点鼻ワクチン(生ワクチン:フルミスト)
フルミストワクチンはインフルエンザウイルスの毒性を弱めて製造された生ワクチンで、WHOの流行予測に基づき、今年度はA型株(ノルウェー、タイ)、B型株(オーストリア)から構成されています。
海外では以前から使用が拡大していましたが、日本では2023年、2歳から18歳までの子どもを対象に承認されました。
インフルエンザウイルスの感染経路となる鼻や喉の粘膜に直接免疫を誘導することで効果を発揮するワクチンです。感染経路を考慮すると、理論的に考えると十分な予防効果が期待できるはずです。
■予防効果がはっきりしていないという懸念も
ところが、現在までの研究においては、感染発症予防に関しては、不活化ワクチンと効果はあまり変わらないという結果が出ているようです。一方で、フルミストワクチンは、不活化ワクチンと比較して、35%も優位な予防効果があるという研究もあり、まだ評価は確定していません。
このワクチンのメリットを考えると、1回の接種で済むこと、痛みがないこと、そして理論的には感染経路である鼻や喉の粘膜に免疫をつけることができることなどが挙げられます。
一方のデメリットとしては、WHOの予測が、必ずしも日本において当たるとは限らないことです。また、生ワクチンであるために、発熱、鼻汁、鼻閉、咳などの副反応頻度はやや高いようです。
発熱頻度に関しては、10%程度の高確率で発熱するという報告もある一方で、不活化ワクチンとの間でほとんど差異はないという報告もあります。また、生ワクチンであるため、免疫不全を持つ方や妊婦などには接種は推奨されていません。
■医学部受験直前にまさかの感染…
実は私は、医学部受験の2週間前にインフルエンザに罹患してしまったという経験を持っています。
当時は、検査キットも治療薬もなかったのですが、医院を受診して咽頭を観察され、「インフルエンザだね。試験が2週間後とは大変だな。幸運を祈るよ」と言われて、不安でいっぱいだった経験があります。受験生下宿でしたが、仲間と会うことを避け、トイレの使用でさえ他の仲間に会わないように注意していました。
そのような経験を踏まえて、受験という重要なイベントを控えた親御さんの相談を受けると、「万が一の感染リスクを避けられるなら、予防しておくに越したことはないでしょう。ワクチンを接種しましょう。もし、それでも感染・発病してしまったら検査も治療薬もありますよ」と回答しています。接種しないという選択肢はないということです。
■「副反応がこわい」と避けてはいけない
今、12月という受験大詰めの時期でのワクチン接種について考えてみます。不活化ワクチンは、13歳未満の中学受験ならもちろん2回接種、高校・大学受験でも最低1回、できれば2回接種したいところです。
一方、かかりつけ医でフルミストが入手可能であれば、こちらで1回接種してもいいでしょう。
接種後、ワクチンの効果が出てくるまでに2~4週間ほどかかることと、発熱などの副反応で2、3日取られる可能性を考えれば、接種は年内にすませたほうがいいでしょう。
副反応の可能性を考えて接種しないと言う判断はおすすめしません。副反応が生ずる可能性は決して高くはないのですから。
最後に、インフルエンザ検査に関しては、これまでは発熱後最低12時間程度経過しないと信用できる結果が得られない検査に限られていましたが、発熱直後でも診断できる早期診断ツールとして、Nodocaという咽頭の画像撮影+AI判断というツールが出て来ました。かかりつけの施設に設置してあるかを早めに聞いておくのもいいでしょう。
万全の準備をして、受験に臨みましょう。
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小児科医
東大医学部医学科卒業後、離島(徳之島徳洲会病院)、都市部(千葉西総合病院等)での小児医療を経て小児保健、国際保健の課題を解決するために公衆衛生分野に従事する。帝京大学大学院公衆衛生学研究科を経て、2024年10月より医療法人社団鉄医会 鉄医会附属研究所所長、ナビタスクリニック小児科医統括部長。モットーは「現場を見て考える、子どもを診て考える」。
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(小児科医 高橋 謙造)
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