「もっと気をつけて」と注意しても意味がない…仕事がデキる人が"ダメ出し"をする時に伝えている「2つのこと」
プレジデントオンライン / 2024年12月12日 8時15分
※本稿は、藤田卓也『伝え方で損する人 得する人』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「注意」は不可欠だが「叱ること」にメリットなし
注意は、人の成長に不可欠です。つい同じようなミスをしてしまう、対応の仕方を間違えてしまう、そんな思考や行動のクセが、指摘されることで修正されていくからです。自分だけでは気づきにくいクセや歪みを改善するきっかけとなるわけです。何が不足していて、どう対処すればいいのか。そのヒントとなるのが、注意なのです。
一方で、叱ることにメリットはありません。むしろネガティブな影響が多すぎるのです。例えば、代表的なものだけでもこんなにあります。
・モチベーションの低下:行動を変えることより、回避を優先してしまう
・自信の喪失:頻繁に叱られるほど自己肯定感が下がってしまう
・防御的な態度の強化:前向きになれず、対話や改善が停滞してしまう
・ストレスの増加:本人はもちろん、それを聞いた周囲にもストレスに
・信頼関係の破壊:信頼が弱まり、お互いの協力が難しくなる
・創造性の抑制:新しいことに失敗はつきものなのに、リスクを避ける
・行動の一時的改善:一時的には効くものの、すぐ戻ってしまう
ついつい「どうしてこんなこともできないんだ」と叱りたくなったのだとしたら、これらの失うものの多さを思い出してください。感情を込めたコミュニケーションは重要ですが、感情的ではダメなのです。
■叱責しても状況は悪化するだけ
およそ500もの会社の設立や育成に携わり、新しい一万円札に肖像として描かれている渋沢栄一が残した言葉の中に、「学ぶ事はすなわち行う事である。行う事はすなわち学ぶ事」という言葉があります。学ぶだけでは足りず、行動が伴って初めて意味がある。叱ることは行動を起こしづらくするので、学びをフィードバックしているように見えて真逆の結果を生んでいる、まさに損する伝え方です。
どうしても怒りをぶつけてしまいそうになったら、せめてお気持ち表明に留めましょう。私の今の感情はこうなっている、ということを表現するわけです。
例えば大きく予定が狂う事態になってしまって、「私はとても残念に感じています」と、あなたの感情を伝えるだけに留めておきましょう。「自分が何をしたか分かってるのか」などと叱責しても、ただ状況を悪化させるだけなのです。
■外資系クライアントの素晴らしいフィードバック
注意というと、ダメな点をピンポイントで指摘するイメージがあるかもしれません。ですが、大切なのはポジティブさ。指摘することがゴールなのではなく、より良くすることがゴールのはず。大前提となるのは、目指すべきポジティブな未来を相手と共有し、そこへ向かうモチベーションを高めることです。
外資系のクライアントへ企画をプレゼンしたときのことです。まず、ものすごくほめられました。「この短期間でここまで仕上げてくれただなんて」「どの案も独創的だ」という具合です。その上で、改めて未来の話が始まります。
「自分たちはこういうビジネスゴールに向かって試行錯誤している」「とても困難だが、現状を変え、今までにない未来を形にしたい」と、プロジェクトの初期から変わらず伝えてくれていた未来を改めて共有されるわけです。
そしてようやく、フィードバックが始まります。「この案のこういうところには可能性を感じるが、デジタルなど統合キャンペーンとしてつながりが弱い」「この案はキャスティングが素晴らしいが、キャストの魅力を十二分に引き出せているだろうか」と、何が足りていないのか明確なフィードバックは、最後の最後なのです。これ、順番が逆だとどう感じるでしょうか。
もしくは指摘だけだったらどうでしょう。だいぶ印象が違いますよね。注意では、プラスの未来と、そこへ至るために足りないピースを伝えましょう。ただダメなところだけ指摘するのは注意ではなく、不満をぶつけているだけです。
■「ポジティブな未来」と「具体的なポイント」を伝える
【損】もっと気をつけて→【得】次からこうするともっと良くなる
「何かが足りない」と言われて、前向きに頑張れるかというと難しいでしょう。具体的に何をどう改善すればよいのかが曖昧だからです。注意で大事なのは、ポジティブな未来と具体的なポイントを伝えることです。「次からこうするともっと良くなる」という表現は、具体的なアドバイスと行動の指針を示すことができます。
例えば、プロジェクトの最中に「会議の進行、もっと気をつけて」と伝えてもあまり意味はありません。「もうちょっとテキパキとね」というのも、何がどうなればテキパキなのか解釈は人それぞれなのでもったいない。何が課題で、変えるとどうなるのかを具体的に伝えるわけです。「会議での時間配分を事前にまとめておくと、もっと議論に集中できますよ」。このように具体的な改善策を提示することで、相手は自分が何をどうすればよいのかを明確に理解できます。
曖昧なフィードバックは相手を混乱させてしまい、改善の妨げになると言われています。こちらの意図を探る手間が生まれてしまうからです。一方で、具体的なフィードバックは相手のモチベーションを高める効果があります。具体的な指示を受けると、相手は自分が何をどうすればよいかが明確になります。課題がスッキリするわけです。
■「なんでできないの?」は百害あって一利なし
【損】なんでできないの?→【得】できる方法を一緒に考えよう
「なんでできないの?」は、きっと感情が高ぶって口をついてしまった言葉でしょう。問い詰めるような言い方に、疑問形。これはもうトゲが強すぎます。相手は心を閉ざし、意欲を失ってしまいます。感情的になるのではなく感情を前向きに使って、「できる方法を一緒に考えよう」と伝えてみましょう。
例えば、業務の進捗が遅れている部下に対して「なんでスケジュール通りにできないの?」と指摘しても、モチベーションが高まることはありません。その改善に、私は協力したいのですと提案してみてください。より具体的に、「特にこのタスクをどう効率化できるか一緒に考えてみましょう」というのもよいでしょう。
手を差し伸べることは、人を動かすとてもパワフルな原動力になります。共感をもって接することで信頼関係が深まり、協力への足掛かりとなります。「できる方法を一緒に考えよう」という言葉は、まさにその共感と協力をお互いのモチベーションに変えていくアプローチなのです。
もう一つ大事なのは、相手の自己効力感を高めることです。自己効力感とは、自分が目標を達成できると信じられること。あなたが協力的な姿勢を示せば、相手は支援を受けながら成功できるという安心感を持ちやすくなります。
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コピーライター
1987年生まれ。広島県出身。京都大学、東京大学大学院を修了。大学時代には京都学生祭典の実行委員長を務め、京大総長賞を受賞。2012年に電通入社。理系で言葉を扱うことが苦手だったものの、新卒でコピーライターに配属。主な仕事にIndeed「仕事さがしはIndeed」シリーズや史上初のワンピース実写化となった「麦わらの一味」シリーズ、日本コカ・コーラ「チーム コカ・コーラ」、スタディサプリ「18の問い」、漁師がつくったモーニングコールサービス「FISHERMAN CALL」など。国内外で20以上のアワードを受賞。最近の仕事に、ファミリーマート「コンビニエンスウェア」ブランドローンチおよびコンセプト、京都髙島屋 S.C. 専門店ゾーン「T8(ティーエイト)」ネーミング。現在はLINEヤフー社に所属。
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(コピーライター 藤田 卓也)
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