「困ったら相談してね」が最悪のすれ違いを生む…仕事のトラブルを未然に防げる人が伝えている"効果的な一言"
プレジデントオンライン / 2024年12月29日 8時15分
※本稿は、藤田卓也『伝え方で損する人 得する人』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■40年以上の歴史を持つ「報連相」
報告・連絡・相談。この3つをよく「報連相(ほうれんそう)」とまとめて呼びます。今ではすっかり浸透しているこの言葉、1982年に当時の山種証券社長だった山崎富治さんが提唱したものです。社員が1000人を超えてきたため、企業文化を進化させたい。その思いから編み出されたのが報告と連絡と相談を推進すること。
40年以上の歴史があるわけです(余談ですが、報連相により会社に力をつけてくれる人のことを“ポパイ社員”と呼んだり、イエスばかり言う人間だらけでは報連相文化が育たないことを「賛成」と「酸性」をかけて“ほうれんそうは賛成土壌には育たない”と表現したり、ムーブメントを広めるため社内で本当にほうれん草を配ったりしたそうです。いずれも記憶に残るキャッチーさがありますし、浸透させるための地道な努力の大切さを痛感します)。
■忘れてはならないのは「報連相」の目的
これだけ長く親しまれ、浸透もしている報告・連絡・相談ですが、忘れてはならないのがその目的です。何のためにするのか、目的をはっきりさせておかないと思うような結果につながりません。伝え方が曖昧になってしまうのはもちろんですが、こちらはアドバイスが欲しくて伝えたつもりが、受け取った方は単なる連絡だと思ってしまうといったすれ違いが起きてしまうからです。目的は大きく3つあります。
①意思決定:議論を行い、今後の進め方を決めたい
②情報共有:情報を知ってもらいたい。関連情報を教えてほしい
③フィードバック:アドバイスをもらい、より良い打ち手を考えたい
あなたが今必要なのは、この中のどれでしょうか。まずは自分の中ではっきりさせておきましょう。ちなみに、報告・連絡・相談は「報告」から始まっているので対上司向けと思ってしまいがち。実際は、同僚・部下・関係部署・取引先など相手は多岐にわたります。ここでも、上司に限らずさまざまな相手に伝えることを前提に構成しています。
■「分からない」と思われた瞬間、目的から遠ざかる
「愛の反対は、憎しみではなく無関心」と言いますが、広告では「面白いの反対はつまらないではなく分からない」と教わります。どういうこと? と分からなくなってしまった時点で、感情は急に動きにくくなってしまう。この観点は、こちらから情報を伝えていく報告や相談において、とても重要ではないでしょうか。
伝えられる側が「分からない」と思った瞬間、3つの目的からどんどん遠ざかってしまいます。案件の背景が分からない。どこに悩んでいるのか分からない。情報が多すぎて、大事なポイントが分からない。いろいろありますが、特にまずいのは何をしてほしいのか分からないことです。3つの目的のどれが必要なのか。ここは、きちんと冒頭に伝えるようにしましょう。「本日は予算配分についてフィードバックをお願いしたいので、現時点の見積もりについてまず共有します」といった具合です。
相手のモードを、こちらで指定するイメージです。情報共有なのでただ聞いていればいいのか、意思決定が必要なのかではモードが変わります。お互いの認識をしっかり揃えておいてから始めると、スムーズになります。
余談ですが、「愛の反対は無関心」というこの言葉。日本ではマザー・テレサが残した言葉として有名なのですが、海外では1986年にノーベル平和賞を受賞した作家のエリ・ビーゼルの言葉として浸透しているそうです。この一文のあと、アート、信仰、そして人生の反対も無関心であると続きます。
■伝える前の「ひと手間」で一気にスムーズになる
前回の議論のポイントを、最初に振り返る。資料の中で変更したパートのみ抜粋し、画像で添付しておく。情報をテキストやグラフで伝える際、要点を太字にしたり色を変えたりして目立たせておく。こうしたひと手間がものすごく効果的なのが、報告や相談です。
あなたが意思決定やフィードバックを求める相手は、おそらくその仕事だけでなくさまざまな案件で重要な役割を果たしている、仕事のできる方なのではないでしょうか。そういう相手は、ほぼ間違いなく多忙です。
■結論が出ないことに比べれば楽な苦労
だから、あなたからだけでなくいろんなところから報告や相談を日々大量に受け取っているはずです。あなたがその作業の一部を先回りして済ませておく、いわば「下ごしらえ」を行っておけば、相手には検討に集中する時間と余裕が生まれます。結果的に進行がスムーズになり、あなたの求める目的達成に近づくことができます。
毎回そこまでやるなんて面倒だ、と思われるかもしれません。ですが、結論が出ずに次週に持ち越しになることや、十分に検討できずベストな意見を引き出せないリスクに比べれば、よっぽど楽な苦労です。
準備の際、だいぶまとまってきたというタイミングで一度だけ、心配しすぎなくらいネガティブに振り返ってみるのがおすすめです。相手は前回の報告内容をすっかり忘れてしまっているかもしれない。資料が多すぎて、本当に大事なところに時間をかけられないかもしれない。他が忙しくて、こちらが後回しになるかもしれない。検討に必要な情報を、まだ揃えられていないかもしれない。キリがないように思えるかもしれませんので、3つの目的別に、振り返りに役立つ観点を挙げておきます。
■3つの目的別「振り返りチェック項目」
●意思決定の場合
・案件のゴールは?
・現状の選択肢は?
・それぞれのメリット・デメリットは?
・想定されるリスクは?
・いつまでに決断が必要か?
・決断において他に考慮すべき情報は?
・決断してもやり直しできるか? できないなら、なぜか?
・前回までの議論は?
・先に検討したチームの推奨は? その根拠は?
●情報共有の場合
・特に重要な情報は?
・いつの時点の情報か?
・情報の出典/調査方法/調査規模は?
・情報による示唆/仮説はあるか?
・情報を何のために使用する予定か?
・比較対象となる別の情報はあるか?
・今後、他の情報は追加されるか?
・情報の前提/内容が今後変わる可能性はあるか?
・情報の単位/色分けは統一されているか?
●フィードバックの場合
・案件のゴールは?
・どの部分にフィードバックが必要か?
・何に悩んでいるのか?
・担当者の狙いは?
・どのような試行錯誤を行ったか?
・どれくらい細かいフィードバックが必要か?
・再度フィードバックする時間/余裕はあるか?
・今後のアクションプランは?
・他からもフィードバックはあったか?
■「相談の時間をいただきたいです」では目的が読めない
【損】相談させてください→【得】○○さんのアドバイスをいただきたいです
目的を最初に伝えてしまいましょう。報告・連絡・相談はあくまで手段。そのまま伝えるのではなく、アドバイスを求めているので相談したいと伝えてみましょう。相手も趣旨を瞬時に理解できます。具体的にお願いできれば、何を求められているのかすぐ理解できるので相手の判断もスムーズになります。
具体的な事例を考えてみましょう。例えば、プロジェクトの進行中に問題が発生したときに、「相談の時間をいただきたいです」とだけ頼むと、相手は意思決定なのかフィードバックなのか目的が読めず、一瞬構えてしまいます。状況が深刻なのかと妄想も始まってしまいます。「○○さんにこの案件についてアドバイスをいただきたいです」と伝えれば、目的がすぐに共有されます。相談以外の場合も、承認してほしいのか、議論して決断してほしいのか、単に情報共有したいのか、目的を先に伝えるとよいでしょう。
時には、経験や知識が門外不出のため、気軽に聞きづらい場合もあるでしょう。そのときはぜひ未来を添えて伝えてみてください。「企画の実現性が論点となっており、このままでは案件を競合他社に奪われてしまいます」といった背景を共有すれば、相手にも優先度が伝わり、心を動かすきっかけとなります。
■「困ったら」では手遅れな場合がある
【損】困ったら相談してね→【得】相談するか迷ったら相談してね
習慣化のコツの一つに、If-Thenというテクニックがあります。朝起きたら英単語アプリを開く、というふうに「もしこうなったら、こうする」と決めてしまうのです。この方法は、相手に何かしてほしいときにも役立ちます。誰かに相談や報告をしてほしいときは、このIf-Thenをどう設定するかが鍵です。
「困ったら」というのは一見親切に見えるものの、問題が深刻化してからようやく相談されてしまうリスクがあります。たいてい、相談してほしいのはもっと手前の状況ではないでしょうか。
そこで、より早期に相談してもらえるよう「相談するか迷ったら相談してね」と言い換えてみてください。問題が小さいうちに相談しやすくなり、大きな問題に発展する前に解決策を見つけることができます。同じように、「資料ができたら見せてね」ではなく「構成ができたら、箇条書きで見せてね」と具体的なラインを設定するのもいいでしょう。「3回直してもバグが消えないときは聞いてね」「今日の17時までやってみてね」と、回数や制限時間を定めてあげるのも効果的です。
人によって「これは困った」という判断は異なります。定義が属人的になるものを報告や相談のIf-Thenに使ってしまうとトラブルの元。相手は言われた通り困ったから相談したのに、あなたは相談が遅いと感じてしまう。最悪のすれ違いですよね。
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コピーライター
1987年生まれ。広島県出身。京都大学、東京大学大学院を修了。大学時代には京都学生祭典の実行委員長を務め、京大総長賞を受賞。2012年に電通入社。理系で言葉を扱うことが苦手だったものの、新卒でコピーライターに配属。主な仕事にIndeed「仕事さがしはIndeed」シリーズや史上初のワンピース実写化となった「麦わらの一味」シリーズ、日本コカ・コーラ「チーム コカ・コーラ」、スタディサプリ「18の問い」、漁師がつくったモーニングコールサービス「FISHERMAN CALL」など。国内外で20以上のアワードを受賞。最近の仕事に、ファミリーマート「コンビニエンスウェア」ブランドローンチおよびコンセプト、京都髙島屋 S.C. 専門店ゾーン「T8(ティーエイト)」ネーミング。現在はLINEヤフー社に所属。
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(コピーライター 藤田 卓也)
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