だから娘の「あ、今日弁当だった」に緊急対応できる…共働き医師・岩田健太郎の家事力が年々爆上がりする理由
プレジデントオンライン / 2024年12月5日 17時15分
■「家事」とはミッションに対する手段
男の家事力について。
これが編集部からいただいたお題である。
しかしながら、この命題は主語がいささか大きいように思う。「男」といっても、シングルかパートナーありかで、事情は大きく変わるだろうし、そのパートナーや自身の仕事のあり方も大きく影響する。子供の有無も重要なポイントだ。そもそも、「女の家事力」なるものが本来存在するものなのか(あるいは存在すべきものなのか)すら、私には分からない。
であるからして、以下に記すのはあくまでも「私の家事」についてである。これで主語は随分、小さくなった。もちろん、これは私の個人的な見解に過ぎないから、いかなる外的妥当性を主張するものではない。他の男性諸氏に真似をしろと言いたいわけではない。
さて、言い訳がましい前置きはこれくらいにして、本題に入る。
私にとっての「家事」とはミッションに対する手段である。そのミッションとは、自分の奥さんの幸福度を最大化することにある。
なぜ、自分の奥さんの幸福度の最大化がミッションにならねばならないのか。それは、奥さんが眼の前で楽しそうにしていることが、楽しいからだ。苦しそうにしていたり、悲しんでいたら、こちらも苦しいし、悲しい。要はグルっと回って利己主義に戻ってくるわけで、私は自分の幸せの最大化の手段として、奥さんの幸せの最大化を希求するのである。そのために家事はどのように行われるべきか。ミッションから翻って考えれば、あるべき姿は自明である。
■わが家にとっての最適解とは
では、何でもかんでもすべての家事をこなせば奥さんは喜ぶかと言えば、もちろんそんなことはない。
やってみれば分かるが、家事は家事でなかなか楽しいものなのだ。仕事の多くが楽しいのと同じである。だから、すべての家事を一人で独占することが最適解なのではない。楽しみは分かち合うのが肝要だ。
もちろん、家事は楽しいばかりではない。仕事の全てが楽しさから構成されているわけではないのと同じである。だから、「楽しさ」を最大化するために、上手な分担は必要だ。
例えば、私は庭仕事が得意ではなく、さして好きでもない。しかし、奥さんは庭が美しい状態でいるのが大好きで、そのために庭仕事に積極的なのだ。この場合、奥さんがメインになって庭仕事をするのがわが家にとっての最適解だ。まあ、人手が足りなくなると、私も水やりや草むしりを手伝うが、クオリティの面では奥さんに数段劣るし、特に炎天下ではしんどいばかりで楽しさはない。が、奥さんがハッピーになるのであれば、このくらいのトレードオフは仕方がない。
炊事はどちらも好きなので、お互いの状況を把握しながらの分担作業となる。例えば、朝食の炊事は私が担当することが多く、その横で奥さんは昼の弁当を作ることが多い。しかし、一方の業務が逼迫(ひっぱく)して炊事ができないこともあるし、体調がすぐれないときもある。普段は給食の下の娘が、「あ、今日はお弁当の日だった」と朝になって言い出し、普段と異なるスクランブルが発生することもある。チームスポーツがそうであるように、カバーリングはとても大事である。
■患者ケアと家事の共通点
大切なのは、常に自分と相手の状況を把握しておき、その状況における最適解を探し続けることだ。これはタイムマネジメントの妙と言ってもよい。私は、医業においても家事においても、そして趣味のサッカーをやっているときでも「最適解はなにか」を探し続けるのが大好きなのである。
パンを焼き、サラダを作り、フルーツをカットし、コーヒーを淹れてテキパキと朝食のセッティングができると気持ちがよい。逆に、突発的なアクシデントに心を奪われ、気づくとパンを焼くのを忘れてしまい、5、6分の時間を無意味にロスしたりするととても悲しい。
突発的なアクシデントも「想定内」にして最適解を見つけ続ける。患者ケアも家事も、この点においてはまったく同じだと思っている。
いくら、頭の中で「最適解」を思い描いていても、技術がこれに追いつかなければ意味がない。「そこにパスすればよい」と判断するのと、思っていたところに正しくボールを蹴る技術は、同居していなければミッションは達成できないのだ。
■我流でチャランポランの利点
私の家事における技術の多くは母親から伝授されたものだが、母は私に似て(笑)、ズボラなところがある。多くの技術は我流だったり、チャランポランだったりする。
たいていのカップルはそうだと思うが、「家事の正しさの基準」は各家庭で異なっており、奥さんが考える「常識」と私が思っている「常識」にもズレがある。もちろん、たいていの「正しさ」の主張は客観的な正しさというよりも「私の好み」なのであり、好悪の問題を正邪の問題とすり替えてはならないのだが。
我流でチャランポランなところにもよいことはある。それは「自分の正しさに対する確信」みたいなものが希薄(あるいは皆無)になり、主張しようというインセンティブが生じないことにある。だから私は、「食器はこのように配膳すべし」とか、「みそ汁の味はこうでなくてはならない」といったこだわりがない。よって、たいていのことは相手に合わせることにしている。
私は“極東の裏日本”の山陰の出身であり、究極の「辺境の人」だと自認、自負しているから、自分のオーセンティシティにこだわりを持つことがまずないのだ。よいところに生まれたと思っている。皮肉ではなく。
■家事に唯一解は存在しない
たいていの技術は修練により向上する。とはいえ、修練すれば必ず向上するというものではなく、そこには工夫や熟考、試行錯誤が必要だ。これは研究活動と全く同じであるし、スポーツや楽器の修練とも同じだろう。
技術が上がれば、その家事はもっと楽しくなる。
「できない」が「できる」になる瞬間はよいものだ。私はエアコンのフィルター掃除が不得手で、最初はとても時間がかかり、出来も悪かったが、今年になって「コツ」をつかみ、テキパキと上手にできるようになった。クーラーの効きもよくなり、電気代も節約できて三重の喜びである。
一方、私の目下の不得手は「卵焼き」であり、「ママのより不味くて形が悪い」と娘たちに酷評されている。工夫と訓練を重ねて、いつか奥さんレベルの卵焼きに到達したいものである。
家事とはあくまでもパーソナルなものであり、唯一解は存在しないし、他家と優劣を競い合う必要もない。わが家は共働きなので、家事を完璧に遂行するのは最初から無理と諦めている。掃除などは随所に「手抜き」もある。それを許し合うのも工夫である。
■「ルンバくん、今日も頑張ってるね」
繰り返すが、しょせん、家事は家庭の幸福の手段に過ぎない。
家事の完璧を目指してしんどい思いをしたり、イライラするのは本末転倒である。
アウトソーシングも大事である。まずは機械。お掃除ロボットとか、食洗機とか、本当に便利な道具が増えた。最近入手してよかったのは「ホットクック」。煮物系や低温調理はこいつに丸投げすることが増え、炊事がずいぶん楽になった。どうでもよいが、こうした相棒たちには愛着が湧くので、ついつい声をかけてしまう。「ルンバくん、今日も頑張ってるね」と「くん」付けである。
娘たちもアウトソーシング先としては有望で、年齢が上がり、成長するとともに、少しずつ高いハードルの家事をやってもらっている。給金(お小遣い)も労働の対価として相応に渡している。われわれは加齢に伴い、「できないこと」が増えてくるのは必定だ。上手にフェイドアウトし、上手にアウトソーシングしたいものだ。
繰り返すが、こうした「各論」はすべて幸福の最大化という大きなミッションの手段に過ぎない。その「軸」を忘れることなく、いまも家事のあり方については模索が続いている。楽しいことである。
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神戸大学大学院医学研究科教授
1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年より神戸大学。著書に『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書)、『コロナと生きる』『リスクを生きる』(共著/共に朝日新書)、『ワクチンを学び直す』(光文社新書)など多数。
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(神戸大学大学院医学研究科教授 岩田 健太郎)
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