マスコミは同じ過ちを繰り返している…斎藤知事の"公選法違反疑惑"で大騒ぎするオールドメディアの無反省
プレジデントオンライン / 2024年12月2日 17時15分
■「推定無罪の原則」はどこにいった
兵庫県知事選挙が終わるや否や、斎藤元彦知事を巡る新たな疑惑が急浮上してきた。
連日にわたってテレビや新聞で大きく取り上げられているためここで改めて指摘するまでもないと思うが、先の知事選に関連して斎藤陣営が業務を委託したPR会社に対する金銭などの支払いが、公職選挙法に違反しているのではないか、というのが疑惑の趣旨だ。
この一連の疑惑を巡って、テレビ、中でも各局ワイドショーは連日にわたってこの一件を大々的に扱い、何かに取り憑かれたように日ごとに斎藤知事に対する批判のトーンを強めているのが実情だ。
とはいうもののテレビ局各局が伝える疑惑の中身だが、公職選挙法違反や政治資金規制法違反が指摘されているが、そのどれもが具体性に欠ける内容となっている。だが、その番組内容に関して言えば、公職選挙法に違反する行為があったかのように断定的に報じるもがほとんどで、言うところの「推定無罪の原則」については、どこかに置き忘れてきてしまったかのような扱いだ。
筆者としては、この一連の動きを見ていてまさに暗澹たる気持ちになってきてしまった。テレビや新聞はまた同じ過ちを繰り返すのか、と。
■日ごとに失われているメディアへの信頼
そもそも兵庫県の斎藤知事を巡る、様々な問題や疑惑を巡る報道では、テレビや新聞などの既存メディアは、兵庫県民や同県の有権者のみならず多くの国民の信頼を大きく失うことになってしまった。もちろんそうした既存メディアの報道を信頼しそれを支持する多くの国民や有権者がいることも間違いない。
筆者が指摘したいのは、かつてのように既存メディアが情報源として大多数の信頼を得ることができなくなってしまっている、という現実なのだ。そしてそうした「信頼」は、どうやら日を追うごとに失われつつあるというのが実情だろう。
そしてそのことは、前述したPR会社代表を巡る公職選挙法違反疑惑に関しての一連の報道を見ても明らかだ。
■「note」の記事だけで断定できるのか
そもそもこの疑惑に関して言えば、斎藤知事が当選を決めた直後、斎藤陣営にあってボランティアスタッフとして活動する一方、対価を受け取る形で一部業務を請け負っていたPR会社の代表が、インターネットの投稿サイト「note」に、選挙戦の裏舞台を綴った記事を投稿したことが発端となった。
この記事の中でPR会社代表は、「ご本人(筆者注、斎藤氏)は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました」と記述した上で、斎藤知事の公式SNSについて「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲(すいこう)フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました」と書き綴ったのである。
総務省がまとめた、インターネット選挙運動解禁を受けて改正を見た公職選挙法のガイドラインによれば、報酬を受けた業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行った場合には買収となる恐れが高い、としている。
このガイドラインに従うならば、前述の記述がもし仮に事実だとしたならば公職選挙法に抵触する可能性が出てくる、という指摘もわからなくもない。しかし果たしてPR会社代表のいう「監修者」とは、実際のところ斎藤陣営の中でいったいどのような役割を果たしたのか。その「監修者」の定義づけがあいまいなため、前述のガイドラインが言うところの「主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行った場合」に該当するのかどうか、この「note」の記事だけで断定することは絶対にできないはずだ。
■捜査が始まるかは未定
ましてやこの件に関して斎藤知事は、「私の陣営が主体的に運営をやっていた」と発言、明確に疑惑を否定してみせているのだ。
にもかかわらず、多くのテレビや新聞はあたかも公職選挙法に抵触する行為が行われていたかのように決めつけてしまう形で報道したのである。加えて誤解を恐れずに言うとするならば、斎藤知事をあたかも犯罪者であるかのように扱い、報道してしまったのだ。
事件記者を長くやってきた筆者の目から見て、ここ最近の前述したような「疑惑報道」のあり方には強く疑問を感じてしまう。
そもそも「疑惑報道」とは、事件化すること、具体的には捜査当局が強制捜査に着手することが大前提、というのが我々事件記者の基本認識だ。逆に言えば、事件化しない疑惑報道は、報道のあり方としては失敗の部類に入るし、場合によっては名誉毀損(きそん)訴訟が提起されるリスクを伴うと言える。
そうした状況の中12月2日になって、上脇博之神戸学院大教授と元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士が連名で、斎藤知事とPR会社代表の二人に関して公職選挙法違反(買収)の嫌疑があるとする告発状を、神戸地検と兵庫県警に郵送したことが明らかになった。
念の為に申し添えておくが、この告発状については現時点において「受理」されたわけではない。つまり実際に捜査が始まるかどうかについては、まだ今のところ未定と言っていいだろう。
とは言えこの告発状を捜査当局がどの様に扱うのか、そこには大いに注目だ。もし仮に神戸地検や兵庫県警が立件に向けて動き出すようであれば、一連の疑惑報道は確実に意味があった、ということになる。逆に立件を見送る様なことになれば、そうした疑惑報道は明らかにミスリードということになろう。
その結果が出るまでに、そうは時間はかからないはずだ。捜査当局の対応に要注目だろう。
■視聴者や読者は安易な報道に辟易している
いずれにしても一連の報道が始まった段階では、違法か合法かを判断するための材料はまったく出揃っていない段階だった。
それにもかかわらず報道してしまうのは、メディアの劣化と言われても仕方がないだろう。敢えて言うならば、斎藤知事を巡るテレビ新聞の報道によって視聴者や読者が見せられているのは、ここ最近の劣化したオールドメディアの姿なのである。
散々疑惑、疑惑と騒ぎ立てながら、最終的には何の結果も出さない報道のあり方に、報道の受け手(読者や視聴者)は辟易しているのではなかろうか。
■筆者も同じ過ちを犯した
兵庫県知事選挙の最中となる11月13日筆者は、神戸市三宮で行われていた立花孝志候補の選挙演説会場を訪れ、集まっていた聴衆を前に謝罪スピーチを行った。
そもそもこの謝罪スピーチだが、これは斎藤知事と兵庫県の有権者に対してのものだった。
実を言うと筆者はある時点まで、斎藤知事を巡る「おねだり疑惑」や「パワハラ疑惑」、さらには兵庫県の元県民局長が自殺に追い込まれた原因が斎藤知事にあるとする問題については、事実であるということを前提にメディアで発言したり、論評してきた。そしてその根拠となっていたのが、今となっては恥ずかしい話だが、新聞などのオールドメディアの報道がベースだったのである(しかしだからといって、筆者としてはそうしたオールドメディアに責任を転嫁するつもりは毛頭ない。むしろほとんど独自取材すること無しに発言や論評してきた筆者の手抜きや不明を大いに恥じている)。
■「パワハラ」「おねだり」の根拠はあまりにも薄かった
しかしそうした発言や論評をするたびごとに、筆者の事務所のメールアドレスには兵庫県の有権者と思しき数多くの読者や視聴者から、疑惑を否定する情報提供が数多く寄せられるようになったのである。気になった筆者は、改めて一連の疑惑を取材してみることにした。すると疑惑の裏付けとなる根拠があまりにも薄いことに気がつかされたのである。
例えば、斎藤知事によるパワハラやおねだり(外部からの贈答品の受け取り)があった、とする具体的な根拠とされてきたのは、百条委員会が兵庫県職員に対して実施した各種アンケートの結果だ。ネットで回答したものに関して言えば、「知事のパワーハラスメント」については、目撃(経験)等により実際に知っている、と答えた件数が71件(全回答件数の3.41%)。また、目撃(経験)等により実際に知っている人から聞いた、と答えた件数が316件(全回答件数の15.1%)となっている。
これまでマスコミを含め世の中一般的には、こうしたアンケート結果を持ってして斎藤知事のパワハラはあった、と断定していたのである。
ところが百条委員会はこのアンケート結果について、報告書に以下のように明記しているのだ。「回答内容について、委員会としては『個々の回答内容の真偽は今後の調査によって明らかにすべきもので、回答内容をもって事実確定としない』と認識しているので、取り扱いにはご注意ください」と。
つまり百条委員会は、まだ最終的な結論を出すに至っておらず、従ってパワハラについてもおねだりに関して何一つ真相は明らかになっていないのだ。この段階で斎藤知事の責任を追求するというのはナンセンスだ。
■検証途中でなぜ不信任決議案を出したのか
筆者としてはパワハラもおねだりもまったく無かった、と断定するつもりはまったくない。だからと言って、それがあったとする根拠もないのも事実なのだ。現時点では、まだ確定できる段階に至っていないのである。
にもかかわらず、筆者はそうした疑惑があたかも事実であるかのような発言や論評を繰り返してしまったのだ。そしてそのことに気がついたからこそ、謝罪と訂正を行ったにすぎない。
そして最も不可解なのは、兵庫県議会は百条委員会で何の結論も導き出していない段階で、なぜ斎藤知事に対する不信任決議案を提出し、全会一致でそれを可決してしまったのか、という点だ。
元県民局長による内部告発が事実だったのか、そうでなかったのかを調査、検証するのが百条委員会の役割ではなかったのか。
その調査、検証も途中で放り出し、いきなり不信任決議案を提出するというのは、どう考えてもおかしい。その判断に誤りは果たしてなかったのか。
具体的な根拠もなく「疑惑」を騒ぎたてるオールドメディア、やるべき仕事を途中で放棄した兵庫県県議会など、本件に関連して謝罪するべきところがあると思うが、いかがだろうか。
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ジャーナリスト
1961年東京生まれ。日本大学経済学部を卒業後、金融専門紙、経済誌記者などを経てフリージャーナリストとなる。民主党、自民党、財務省、金融庁、日本銀行、メガバンク、法務検察、警察など政官財を網羅する豊富な人脈を駆使した取材活動を続けている。週刊誌、経済誌への寄稿の他、TV「サンデー!スクランブル」、「ワイド!スクランブル」、「たかじんのそこまで言って委員会」など、YouTubeチャンネル「別冊!ニューソク通信」「真相深入り! 虎ノ門ニュース」など、多方面に活躍。『ブラックマネー 「20兆円闇経済」が日本を蝕む』(新潮文庫)、『内需衰退 百貨店、総合スーパー、ファミレスが日本から消え去る日』(扶桑社)、『サラ金殲滅』(宝島社)など著書多数。
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(ジャーナリスト 須田 慎一郎)
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