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中国・ロシアの「ドル離れ」は止められるのか…トランプ新大統領がチラつかせる「関税100%」の危うさ

プレジデントオンライン / 2024年12月4日 6時15分

2024年11月6日、フロリダ州ウェストパームビーチのパームビーチ・コンベンションセンターで行われた選挙ナイトイベントで、メラニア・トランプ前大統領夫人とともに支持者を指差す共和党大統領候補のドナルド・トランプ前米大統領。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■BRICSのドル離れに歯止めをかけたいトランプ新大統領

年明けに就任する米国のトランプ新大統領は、SNSであるXの自身のアカウントで、ドル離れを進めようとするBRICSに対して、100%の輸入関税を課すと表明した。先にトランプ大統領は、諸外国からの輸入品に対して10から20%の関税を課す方針を表明していたが、カナダやメキシコの輸入品には最大で25%の関税を課すとしていた。

トランプ新大統領が関税を強化する理由は、貿易赤字の是正と国内雇用の確保にあると考えられる。関税の強化をチラつかせることで、諸外国の企業が米国に拠点を移転し、雇用を生み出すことを期待しているのだろう。またカナダに対しては、特定の合成麻薬が米国に流入することを防ぐ観点からも、関税の発動をチラつかせている。

つまり、トランプ新大統領は、諸外国に対して一種の行動変容を強制するための手段として、関税を引き上げるという手段を用いていることになる。ではトランプ新大統領が、100%の関税を課すことでBRICSに対して何を求めているかというと、とりわけロシアを中心に議論が進んでいる「ドル離れ」の試みを止めることに他ならない。

近年、BRICSやそれに近しい新興国の間では、米ドル以外の通貨を用いて貿易・金融決済を行うこと、すなわち「ドル離れ」の議論が活発化している。米ドルではなく双方の通貨を用いた決済が奨励されており、それに加えて、いわゆる中銀デジタル通貨(CBDC)の仕組みを用いた独自の決済網を整備しようという構想も議論されている。

BRICSや新興国で進むこうした動きに歯止めをかけ、基軸通貨としての米ドルの位置づけを確保しようという思惑があるため、トランプ新大統領は100%関税を表明したようだ。もともとトランプ新大統領は、下野していた間にこうしたスキームの検討を共和党関係者との間で進めていたと報じられており、それが現実のものとなったかたちだ。

■ドル離れには短期的に有効と考えられる関税

ここで、2023年におけるBRICSの主要メンバーである5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の国別貿易依存度を比較してみたい。ウクライナ侵攻で米国との関係が破たんしたロシアを除き、BRICSの各国の対米貿易依存度は10%前後(図表1)。ゆえに100%の関税を課された場合、かなりの影響が生じると考えられる。

とりわけ、人民元の国際化というかたちで「ドル離れ」を進めようとしてきた中国にとって、100%関税は脅威といえる。これまでも中国は米国から追加関税を課されるリスクを意識し、対米輸出の伸びを抑制してきた。それでも中国にとって米国は主要な輸出市場であることに変わりがないため、100%関税が発動された場合の影響は大きい。

【図表】BRICSの貿易総額の国別内訳(2023年)
出所=国際通貨基金(IMF)「多国間貿易統計(DOT)」

そもそもBRICSの中で明確に「ドル離れ」を進めようとしている国は、ブラジルと中国、そしてロシアの3カ国だ。それに、ブラジルとロシアがBRICS間で貿易・金融決済を目的とする共通通貨や独自の決済網を構築しようと主張している一方で、中国は自らの通貨である人民元の国際化を進めようとしており、思惑には大きな乖離がある。

他方で、インドや南アフリカは、米国との関係も重視しているため、BRICSによる共通通貨や独自の決済網の構想から距離を置いていている。今年に入ってBRICSに加盟を申請した東南アジア諸国連合(ASEAN)の3カ国(インドネシア、マレーシア、タイ)も米国との関係を重視しており、実際に米国との間で多額の貿易を行っている。

多くの新興国にとって、米国から「ドル離れ」を試みた国であると認定されることのデメリットは、BRICS間の共通通貨や独自の決済網の構想に参加することのメリットを、はるかに凌駕するものである。そのため、新興国間の貿易に双方の通貨や、中国である人民元を用いることに関して、いったんは歯止めがかかることになるかもしれない。

■長期的には制裁が逆効果になる恐れ

もとより、トランプ新大統領は、経済的な合理性よりも、自らが重要であると位置付けた政治的な合理性を追求する傾向が強い。今回の「ドル離れ」に対する歯止めも、そうした政治的な合理性の追求に基づくといえる。しかしながら、トランプ新大統領が追求する政治的な合理性は、長期的には米ドルの信用力を低下させる恐れがある。

例えばトランプ新大統領が強く主張する孤立外交路線は、基軸通貨としての米ドルの信用力と相容れない側面が大きい。本来、基軸通貨としての米ドルの信用力は、米国が覇権国として各国に米軍を派遣し、国際秩序の維持に貢献しているからこそ保たれている側面が大きい。ゆえに各国は米債を購入し、米ドルの信用力を支えているのである。

それに、今回「ドル離れ」に関税というかたちで歯止めをかけようとしたことが、長期的には新興国による「ドル離れ」をかえって加速させる可能性もある。米国に対して不信感を強める新興国が、トランプ新大統領後を見据えて、長期的かつ戦略的に貿易の対米依存度を低下させていくかもしれないためだ。この蓋然性は低いとはいえない。

また別の角度になるが、トランプ新大統領による財政拡張が米ドルの信用力を削ぐ可能性もある。トランプ新大統領が減税による財政拡張を志向していることから、米債の金利が上昇し、短期的にはドル高要因となっている。しかし長期的には、こうした動きは米債の信用力を低下させ、ドル安とともに「ドル離れ」を促す圧力になるはずだ。

ドル紙幣
写真=iStock.com/ardasavasciogullari
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ardasavasciogullari

■米ドルの利用を制限することの是非

基軸通貨としての米ドルの信用力は、圧倒的な流通量の下で、いつでもどこでもだれとでも使えるという利便性に支えられている。言い換えると、いつでもどこでもだれとでも使えるという米ドルの性質が制限されたとき、米ドルは基軸通貨としての信用力を低下させることになる。この点、米国による制裁措置は「諸刃の剣」だといえよう。

土田陽介『基軸通貨 ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)
土田陽介『基軸通貨 ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)

実際に、ウクライナに侵攻したロシアに対して米国が米ドルの利用を著しく制限したことは、「諸刃の剣」としての性格が強い措置だった。米国の狙いどおりにロシア経済は強く圧迫されたが、一方でこうしたロシアの状況に鑑みて「ドル離れ」を進めようと試みる新興国が増えたことは、当の米国のイエレン財務長官も認めるところである。

いずれにせよ、トランプ新大統領が100%関税をチラつかせたことで、少なくとも短期的には、新興国の間で試みられている「ドル離れ」の流れにはブレーキがかかると予想される。しかし長期的には、そうした圧迫が米ドルの信用力の低下を招き、トランプ新大統領が防ごうとする「ドル離れ」の動きをかえって加速させる可能性に留意したい。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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