「仕事で手を抜くこと」は悪いことではない…”こじはる”の会社を買収した30歳アパレル社長の「仕事の本質」
プレジデントオンライン / 2024年12月12日 18時15分
※本稿は、マイナビ健康経営のYouTubeチャンネル「Bring.」の動画「時代の流れを掴み、ビジネスを創造する。新進気鋭の経営者が語るイノベーション思考の生み出し方」の内容を抜粋し、再編集したものです。
■SNSやネットを見て「大局観」を掴む
【澤円】yutoriは革新的なビジネスのアイデアを次々と実現していますが、片石さんの頭のなかがどのように働いているのか、そのイノベーティブ思考に興味があります。普段考えていることや行動、習慣について教えてください。
【片石貴展】Instagram、X、TikTok、YouTubeをはじめ、数多くのSNSや動画、ネット上の情報を昼夜問わず幅広くリサーチしていますね。そうする理由は、インプットが一定量蓄積されると、情報を「解釈」する力も上がっていくと考えているからです。それによって、まるで複利のようにインプットの質が上がっていき、得られる情報量としても平均的な人の何百倍も多くなっていくイメージを持っています。
そうしたインプットの蓄積を基にして、特に「大局観」を掴むことを意識しています。自分や自社のことをできる限り客観的に捉え、適切にビジネスのアクションへとつなげていくという感じです。
例えば、yutoriがZOZOグループの傘下に入った2020年7月当時、yutoriに若い社員がたくさん集まっているためか、どこかサークル的な雰囲気のベンチャー企業のように見られる側面がありました。そこで、周囲から見たときの説得力をつけるという明確な意図もあり、ZOZOグループに参画したのです(東京証券取引所への新規上場に伴い、現在はZOZO傘下を離れている)。
■「売上高30億円」でどうインパクトを残すか
2023年12月に東京証券取引所グロース市場へ上場する際も、そのタイミングで上場すれば「アパレル業界で史上最年少上場」というインパクトを与えられることを意識したからです。クリエイティブ領域における事業を有し、売上高が30億程度の会社なら他にだって存在しますからね。
【澤円】自分たちが「どう見られているか」を客観的に認識し、綿密な事業展開をしているわけですね。加えて、必ずなんらかのサプライズやインパクトがある仕掛けをしていく。
【片石貴展】上場後は、Z世代に向けたアパレル事業で一定の規模感を持つ当社が、どのような新規事業を展開するのかに注目が集まりました。そこで、上場3カ月後のタイミングで、周囲の予想をいいかたちで裏切るyutori初のコスメブランド「minum(ミニュム)」をリリースしました。
2024年8月には、アパレルブランド「Her lip to」を展開し、元AKB48の小嶋陽菜さんが代表取締役CCOを務める株式会社heart relationを子会社化しました。このように、世間の想像を少しずつ超えていく仕掛けをすることはかなり意識しています。そうしたアクションの一つひとつが、yutoriがさらに成長していくための起爆剤となっています。
■常に結果を残す人が持つ「再現性」のロジック
【澤円】片石さんのモットーは、「好きなことを、好きな人と、好きなだけやる」だそうですね。この行動指針も創造力の源泉であり、イノベーティブ思考にもつながっているのではないかと感じます。創造力を解放していくために、片石さんはどのようなことを意識していますか?
【片石貴展】そこでも、インプットの重要性は変わりません。加えて、もうひとつ挙げるなら、自分や自社がブレークスルーしたときの「再現性」の確率を高めることですかね。個人であれば、「どんなときにいいアイデアが生まれ、いい意志決定ができたのか」を把握し、繰り返せるようにしておくということです。
それは本を読んでいるときなのか、ぼんやり音楽を聴いているときなのか。あるいは、誰かに会って話をしているときなのか。もし人と会っているときであれば、自分と考えや価値観が似ている人なのか、むしろ自分とは真逆の考えを持つ人のほうが思考は研ぎ澄まされるのか――。
このように注意深く振り返っていくと、そこに必ず自分特有のロジックがあるものです。それを掴んでおくと、成功の「再現性」を高めることができると思います。
いわば、自己理解ですね。「わたしはこれをやればいいアイデアを生み出せる」「いい意思決定ができる」という、自分なりのパターンを掴んでおくことをおすすめします。
■「人と話しているときにアイデアを思いつく」というパターン
【澤円】質のいいアウトプットにつながりやすい、効果的なインプットの方法を知っておくということですね。ちなみに、片石さんはどのようなときにいいアウトプットができますか?
【片石貴展】人と会って話しているときに、創造的なアイデアを思いつくきっかけになることが多いかもしれません。そのため基本的に、あまり自分ひとりだけで考えないように心掛けています。
もう少し自己理解を進めると、おそらく「人にほめられたい」という根本的な欲求が強めにあるのだと思います。人と話しているとき、「なにか面白いことを言って笑わせたいな」なんて思うこともよくありますから。
そうすると、自分ひとりで考えているときよりも、アウトプットで目指すゴールが高くなっていきます。当然、ゴールに向かうプロセスの質も自然と高まります。だから、人と話しているときにいい発想を思いつきやすいのだと自己分析しています。
■「一生懸命さ」と「タイパ」のバランスこそがビジネスセンス
【澤円】ビジネスを成功させるための「センス」についてはどう考えますか? ビジネスセンスがある人は、普通の人と比べてなにが違うのでしょう。
【片石貴展】ビジネスセンスを「利益をつくるセンス」と捉えると、「タイパ」と「一生懸命さ」のバランスがいいかどうかが鍵になると見ています。
どういう意味かというと、タイパが高くて効率的な仕組みがあるからこそ、もっとも重要な部分にリソースを割くことができ、そこから利益を生み出せるということです。一生懸命に取り組むのは当然のことですが、なんでもかんでも一生懸命に取り組むだけでは、大きな利益を生み出すことはできないでしょう。
ブランドの価値を積み上げていくことも、ビジネスの効率性につながります。ブランドの価値があれば、たとえ高価格帯の商品であってもしっかり利益を出せるわけですからね。
個人に話を戻すと、仕事やプロジェクトを成功させるには、自分のもっとも重要な価値を積み上げていくことにリソースを割くことは重要なポイントです。その裏には、それ以外のものを「効率化する」「楽をする」というタイパ的な側面があるということです。
逆に、タイパばかり重視してもクリエイティブな仕事はできません。重要な領域に打ち込む「一生懸命さ」とのバランスが必要だというわけです。
■効率化しないと成長のタイミングを逃すこともある
【澤円】人によっては、「楽をするのは悪いこと」だと思い込んでいる人もいますよね。それこそ昭和や平成時代に働いてきたビジネスパーソンのなかには、「猛烈に働く=いい仕事をしている」と定義したがる人たちもたくさんいます。
【片石貴展】正直なところ、猛烈に働いたかどうかは、ビジネスの結果には関係がないですよね? そうではなく、マーケットの大きな流れがあるうえで、どのタイミングで、どのアングルから参入するかが勝敗を分けるのではないでしょうか。
例えば、いまyutoriが取り組んでいる事業であっても、仮にいまのタイミングからスタートしてこの成長速度になるかというと、絶対になりません。やはりSNSマーケティングの黎明期に、独自のD2Cを展開したから急成長できたわけです。
現在は、誰もが利便性を提供し続けてくれる時代です。当社もビジネスの基盤となるインフラや物流の仕組み、自社サイトの構築に至るまで、いかに既存のテクノロジーを効率的に活用するかを考えています。重要領域にリソースを集中させるために、自分や自社を客観的かつ大局的に認識することが、成功の鍵を握ると思っています。
■「本当に頭のいい人」が持つ能力
【澤円】少しアングルを変えてみましょう。片石さんは、本当の「頭のよさ」というのはどのような能力だと考えますか? ここまで述べられてきたイノベーティブ思考や、ビジネスセンスにもつながる部分だと思います。
【片石貴展】いわゆる「頭のよさ」というのは、求められていることを的確に理解する能力ではないでしょうか。仕事でもプライベートでも、「この人はなにを自分に聞いているのか」を理解できるということです。
瞬間的に、「いい返し」や「当意即妙な受け答え」ができるという意味ではありません。そうではなく、目の前の相手がどのような人生を歩み、どのような価値観やパーソナリティーを持っているかを掴む力があることです。そのうえで、「だからこの人はわたしのこの部分が気になるのだろう」と推測し、認識できる力があるということですね。そうした洞察の深さが、本当の「頭のよさ」なのだと思います。
【澤円】そのためには、まず相手をよく「観察」することが必要ですね。そのうえで、「自分はなにを問われているのか」「どのように見られているのか」を客観的に把握し、的確な行動をする。
■仕事のできる人が持つ「色気」
【片石貴展】そう思います。それが「自分が積み上げてきたもの(=インプット)を活かす」ことにもつながります。自分を客観的に捉える力は、実は行動するうえでも非常に重要になると考えます。
ちなみに、外見やファッションに色気を感じさせる人がいるように、わたしは「頭のよさ」や知性も色気に近いと感じることがあります。それこそ仕事において、無駄なことをやり続けたり、主観的な意見ばかり話していたりする人に、色気なんて感じませんよね?
色気は自己満足では生まれません。なぜなら、第三者が感じるものだからです。仕事のコミュニケーションにおいても、自分を見ている人や話している人との関係において、「頭のよさ」はインタラクティブに伝わるものだと思います。
■ビジネスは「暴力性」と「しらけ」を繰り返す
【澤円】最後に、時代の流れを大局的にどう捉えているのかについて質問します。経営者として、ビジネスのトレンドは今後どのように変化していくと見ていますか?
【片石貴展】およそ10年周期で、「暴力性」の時代と「しらけ」の時代を繰り返しているというイメージを持っています。例えば、1980年代はバブル経済によって、いわば暴力的に盛り上がった時代と捉えることができます。一方、バブルが崩壊し日本経済の長期停滞がはじまった1990年代は、反動で一気にしらけた時代と見ることができます。
2000年代に入ると、再びドットコムバブルをはじめITが隆盛しました。音楽やファッションにも1980年代に近いニュアンスがあります。それこそ、時代を代表する歌手であるモーニング娘。の歌詞やイメージは、それこそイケイケドンドンな感じでしたよね?
そして、そのカウンターが2010年代です。1990年代っぽい音楽やアーティストが登場し、ファッションも装飾的でインパクトがある「デコラティブ」なものよりは、日常的に着ることができファッション性も高い「リアルクローズ」が台頭しました。
【澤円】とても興味深い時代の捉え方ですね。その2010年代に、yutoriはまさに古着というリアルクローズの領域でビジネスをはじめたことになります。
■「迷惑系」「BreakingDown」が流行ったワケ
【片石貴展】時代の流れや自分たちを客観的に把握することは意識していたのですが、結果的に、そうした流れにはまっていますよね。さらにいうと、現在はSNSなどの普及により変化のスピードが増し、およそ5年周期になっている感覚があります。
具体的には、2020年代に入るとシティ・ポップが流行するなど、また盛り上がりの方向へ進んでいくように見えました。しかし、コロナ禍の影響は大きく、盛り上がりつつあった「暴力性」が抑圧されたかのようです。そのため、怒りや落胆の感情をなにかにぶつけたい気持ちが高まり、ある種すさんだ「暴力性」が現れた印象があります。
エンタメひとつとっても、「BreakingDown」や「令和の虎」などのコンテンツが人気を博しました。街の喧嘩自慢が、格闘技のプロに勝てれば一気にスターダムにのし上がれる。ビジネスのアイデアひとつで億万長者を目指せる。あるいは、誰かのことを暴露したり、迷惑系の配信をしたりすれば突然、人気者になれてしまう……。
アウトプットの仕方は様々ですが、これまで正統ではないとされた方法で成功するという“神話”が、2020年代前半にありました。
■生成AIの登場で2020年代後半はカオスになる
【澤円】そのようにして、短期的な周期で「暴力性」と「しらけ」を繰り返しているとすると、2020年代後半は、また「しらけ」の方向へ進んでいくという見立てですか?
【片石貴展】個人的にはそのようなイメージを持っています。実際、2020年代前半に盛り上がった“神話”は崩壊しつつあるようにも見えます。むしろ多くの人は、「結局プロに勝つには努力するしかない」「他人の足を引っ張らずに真面目に働くしかない」という、ある種の「しらけ」の気持ちを持ちはじめているのではないでしょうか。
2024年現在は、ちょうど「では、いったいなにをしたらいいのだろう?」と戸惑っている移行期であるように感じます。ただ、今後はエンタメに「知性」を掛け合わせたような、エンタメ性が強い知的なコンテンツが伸びていくイメージを持っていますね。
【澤円】知性的な方向へ時代が振れていくという推測ですね。「暴力性」と「しらけ」の短期的な周期のなかで、起業家や経営者の思惑が重なっていく。さらに、生成AIのインパクトが融合するとなると、刺激的な時代になるかもしれません。
【片石貴展】そうですね。2020年代後半はカオスな時代になるような気がしています。
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yutori代表取締役社長
1993年、神奈川県生まれ。ニックネーム「ゆとりくん」。「9090(ナインティナインティ)」「Younger Song」「PAMM」など、2024年時点で約30のアパレルブランドを展開し、独自のSNSマーケティングによって創業わずか6年で年商43億円を達成。2020年7月、ZOZOグループ入りを発表。2023年12月、ZOZO傘下を離れ、アパレル業界では最年少&最短で東京証券取引所グロース市場に上場を果たし話題になった。今後5年で100ブランドまで増やすことで「日本で一番ブランド数が多い会社」として成長し、若者の好きや熱狂が溢れる「若者帝国」をつくるというビジョンを打ち出している。
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圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(yutori代表取締役社長 片石 貴展、圓窓 代表取締役 澤 円 構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文=辻本圭介)
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