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初心者転売ヤーは親の弱みにつけこんで22万円を売り上げた…「1年で最もラクに転売で稼げるシーズン」とは

プレジデントオンライン / 2024年12月11日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Girts Ragelis

転売ヤーは法律的にグレーだが、飲食店などのバイトよりコスパが良いと考える人も多い。フリーライターの奥窪優木さんは「ネットでは転売するならどんな商品を狙えばいいかをまとめた情報商材が売られている。中には『週に20万円の利益も余裕』と煽る商材もある」という――。

※本稿は、奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■PS5購入の闇バイトで転売に加担させられた大学生の逆襲

秋葉原のヨドバシカメラでPS5転売に加担したSは、その日も自室のベッドに仰向けになり、目を皿のようにしてスマホの画面を操作していた。ここ最近、アマゾンや楽天市場をはじめとするECサイトや、ネット掲示板、SNSなどを日に何度となく巡回するのが日課となっている。目当てはPS5の販売情報だ。

小銭欲しさに飛びついた怪しい転売バイトは、実際は自身の持つ「ゲーム機の購入権」を売り渡す取引だった。その権利を自ら行使してPS5を手に入れ、フリマサイトで転売すれば、バイトの報酬の3倍ほどの利益が得られていたはずである。しかし、そのことを知らなかったために、第三者に安値で横取りされてしまったも同然の結果となった。自身の無知に付け込まれるかたちで、搾取されたことに歯ぎしりせずにはいられなかった。

転売ビジネスに大きなチャンスがある。Sはそう確信していた。商品の入手に数時間はかかるが、その後はネット上で見つけた売り先に配送の手配を行うだけで、数万円が懐に入る。時給換算すれば、飲食店アルバイトの8倍以上になりそうだ。

■転売ヤーグループから情報を入手し、自分で売ることに成功

当時、家電量販チェーンで行われていたPS5のゲリラ販売には、「過去に購入歴がないこと」という条件が設けられていた。さらに、支払いは各チェーンが発行するクレジットカードを使用することが求められており、店側は購入歴の有無を確認できる仕組みになっていた。こうしたゲリラ販売は、ビックカメラでも行われていた。Sは支払い手段として指定されているコジマ×ビックカメラカードに入会し、購入権を得る。それと同時に、ヨドバシカメラでPS5を購入した時の依頼主・曹宝にもこう連絡を入れた。

「ビックカメラでPS5の販売があった際にはまた手伝いますので、連絡してください」

約2週間後、曹宝からメッセージが来た。

「明日の朝8時からビックカメラ新宿西口店に行ってもらえますか?」

Sは翌日、指示通りに現地に向かった。そして、ヨドバシカメラ・マルチメディアAkibaと同じ要領で、PS5通常版を入手することができた。

違っていたのはそこからの行動だ。手に入れたPS5を引き渡すことはせず、自宅へと持ち帰ったのである。曹宝と連絡を取ったのは、ビックカメラのゲリラ販売情報を入手することが目的だったのだ。

曹宝からは状況を尋ねるLINEが何通か来ていたが、アカウントをブロックした。

意趣返しに成功して「してやったり」の思いだった。

■家電量販店の購入権を使い果たし、ECサイトでの販売を待つ

その後、Sは入手したPS5をメルカリに出品し約10万円で売却することに成功した。販売手数料や送料を差し引いても約4万円の儲(もう)けである。

Sはこの成功に味を占めた。しかし、すでにヨドバシとビックカメラという大手家電量販店の「購入権」は使い果たしてしまった。

そこで目をつけたのが、ネット上のゲリラ販売だ。ネット掲示板などでは、アマゾンや楽天市場内の店舗で散発的に行われていることが、しばしば話題になっていた。特定のクレジットカードの会員である必要はなかったが、事前告知なしに突然販売が開始されるうえ、在庫の数も限られている。購入には常時の情報収集と「瞬発力」が問われるのだ。Sがネット・パトロールに励んでいるのはそのためだった。

1カ月以上ネットの海を探索しつづけても、PS5の購入に成功することはなかった。

一度、とあるネットショップによるゲリラ販売で、「在庫あり」表示を発見し、急いで購入ボタンを押した。しかし、決済ページ画面の注文確定ボタンを押すと、エラー表示が出現し、「売り切れ」であることが告げられた。あと一歩のところで獲物を逃したのだ。

それもそのはず。購入者の資格を問わないネット上のゲリラ販売には、転売ヤーグループが多数参戦している。しかも彼らは、限られた在庫を奪取するために、ある特殊な武器を導入しているのだ。

■転売ヤーグループが使う「自動購入BOT」とは?

大手ECサイトのエンジニアが明かす。

「人気商品の限定販売やセールでたまに起きるのが『在庫の瞬殺』です。例えば100点ほどの在庫を告知なく『一人一点限り』で売り出したような場合でも、販売開始からわずか2秒で売り切れとなることもある。通常、商品の購入を完了させるには、少なくとも【注文ボタン】と【確定ボタン】の2ステップをこなさなければならない。販売を察知して注文完了まで2秒で行うのは、人間にはほぼ不可能な芸当です」

では、なぜ在庫の瞬殺は起きるのか。

「在庫の瞬殺で首尾よく商品を獲得できた多くの購入者の正体は、転売ヤーなどが運営する『自動購入BOT』です。BOTは、架空名義で作られたアカウントや、他人から買い取ったアカウントと紐付けられている。そして、転売ヤーたちはインターネット上の情報を自動で瞬時に察知する【クローラー】というプログラムを持っていて、目当ての商品が販売されるとほぼ同時に、BOTは注文から決済までを瞬時に済ませることができる。購入者の名義はそれぞれ違っていても、商品の送付先は同一のものがいくつもあったりします」

■ネット広告で気になった転売の情報商材を9000円で購入

通常の客はもちろん、単独で行動する個人転売ヤーすら勝ち目がほぼないといっていい。そのことに気づき、別の商材を模索しはじめたSの目に、こんなネット広告がやたらと飛び込んでくるようになる。

「誰でも簡単転売ビジネス」
「せどり副業のススメ」

「限定品」や「ゲリラ販売」といったキーワードでネット検索を続けるSへ向けられた情報商材のターゲッティング広告だ。実在するかどうかもわからない匿名の実践者の成功談がつらつらと書き連ねられたあと、「今だけ半額」と購入を急かすのがお決まりのパターンである。

暇つぶしに広告に目を通すようになると、ますますSのスマホ画面に表示される同種の広告は増えていく。徐々に、こうした情報商材に何が書かれてあるのか、興味が湧いてきた。

そこでSは、「週に20万円も余裕今すぐ始めるべきメルカリ転売」なる情報商材を購入してみることにした。この種の情報商材の中では手頃な9000円で、内容が月並みだったとしても諦められる金額だ。また、Sがフォローしている副業系のツイッターアカウントが、この商材の提供者について、一定の評価を下していたことも購入の決め手となった。

■「週に20万円も余裕今すぐ始めるべきメルカリ転売」の中身

クレジットカードで支払いをすると、PDF形式のファイルのダウンロード用のリンクが表示された。クリックすると意外にも数秒でダウンロードは完了した。全15ページ、ところどころ図表が差し込まれており、テキスト量自体は5000字ほど。期待よりも少ない。

マニュアルの冒頭にはこう書かれていた。

「1年でもっとも楽に転売ができる数日間があります。それはクリスマスシーズンです」

それに続く内容を要約すると概ね次のとおりだ。

「子供のサンタクロースへの願いを聞いた親は、何が何でも用意しようとする。クリスマス前の1週間は定価の2倍や3倍で販売できるチャンス」

続いて、転売の対象とすべき商品については主にこう記されてあった。

「定価5000円~7000円程度の商品」
「サイズや色のバリエーションが少ない商品」
「知育系玩具は避けるべし」

それぞれ根拠も付記されていた。まず価格に関して、「子供の夢を守るために2万円程度までは出す親が多い。そのため、商品の定価はその2分の1から3分の1に収まるものが利益を最大化しやすい」。

2つ目については「バリエーションの多い商品は需要が散らばって在庫ロスや欠品などの機会損失につながる」とのことだ。さらに知育系玩具を避ける理由は「知育玩具をサンタクロースに希望する子供は少ないため」としている。

クリスマスツリーの下の美しいラッピングギフト
写真=iStock.com/Hispanolistic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hispanolistic

■クリスマスプレゼントをターゲットにするも、良心の痛みが

転売でターゲットとする具体的な商材については、「毎年流行が異なるため、自身でマーケティングすべき」とされており、「11月以降には、各おもちゃメーカーが子供向けの人気YouTubeチャンネルにこぞってタイアップ広告を出すので参考になる」などといったヒントが書かれるにとどまっていた。

汎用性の高い情報を欲していたSにとって、クリスマスシーズン限定の転売手法の説明は少々拍子抜けだった。だが、その内容には一定の説得力もある。

「親が子を思う気持ちに便乗していいものか」

マニュアルを読み進める中でSの脳裏にはそんな思いも浮かんだ。しかしSの疑問をかき消そうとする言葉が用意されていた。

「クリスマス前に転売行為で、ある玩具が品薄になれば、サンタクロースを信じる子供の夢を傷つけることになるのではと心配される方もいるでしょう。しかし、一方ではあなたが転売する玩具によって、守られる子供の夢もあるのです」

笑顔の子供たちのクリスマスの画像
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

Sはその強引な詭弁(きべん)に笑ってしまったが、実践してみることにした。少なくとも、情報商材に支払った9000円は取り返さなければならない。

■アニメのキャラクターグッズと液晶付きの電子玩具を仕入れる

Sは11月を前に、それまで全く無縁だった子供向けYouTubeをいくつもチャンネル登録し、動画で紹介されている玩具を調査した。そして某アニメのキャラクターグッズと、液晶付きの電子玩具を商材として扱うことを決める。11月の時点では、いずれも十分に在庫があるようで、一部のECサイトでは5~10%ほどの割引価格で販売されていた。それぞれ10点ずつ購入。仕入れに要した金額はおよそ14万円だ。

これが一体、いくらに化けるのか。もちろん、PS5ほどの儲けになるわけはないと思いつつも、かすかに期待を膨らませてクリスマスシーズンの到来を待った。

Sは当初、すべての商品を定価の約2倍の価格でメルカリに出品するつもりだった。

ところが12月15日の時点で、すでにそれ以下の価格で出品されているのを見つけた。そこで予定を変更し、定価の約1.5倍の値段で出品した。

結果、12月22日までに、20点の商品のうち16点が売れる。これでその年のクリスマス転売プロジェクトは、「店じまい」の予定だった。それ以降に落札されても、クリスマスイブ配送が間に合わない可能性が高いためだ。マニュアルにも「販売後に配送が間に合わないとトラブルになる恐れがあるため注意が必要」と記されていた。

■12月22日までに20点のうち16点が売れ、残った商品は…

「手渡しの取引が可能でしたら即決購入させていただきますが、いかがでしょうか?」

メルカリのコメント機能で問い合わせが届いたのは、日付が23日に変わった深夜のことだった。

先方は、23日中に都内で受け取れるのであれば、Sが指定する場所と時間に向かうという。手渡しでの取引は経験がなかったため少し気が引けたが、クリスマスを過ぎれば不良在庫になる可能性もある。売れるだけ売っておきたい。Sはこの申し出を受けることにした。

宛名を匿名にしたままヤマト運輸を使って配送できる「らくらくメルカリ便」としていた発送方法を「未定」にして出品し直すと、購入されたことを知らせる通知がすぐに来た。

「取引画面」で購入者とやり取りをし、手渡しはSの自宅の最寄り駅の交番前で、夕方5時と指定した。交番前を選んだのは、相手が良からぬことを考えていた場合、防犯効果があると考えたからだ。

Sが約束の時間ちょうどに到着すると、30代後半くらいのスーツ姿の男性がすでに交番を背にして立っていた。

軽く挨拶をして持参した商品を渡す。彼は低姿勢で愛想も良く、不埒(ふらち)な人物には見えない。受け取った小箱を傷がつかないように注意深く開けて中身を確認するとこう言った。

「昨日、娘が急にサンタさんへのお願いを変更したので、急いで何軒もお店を回ったのですが在庫がなく、ネット店舗からはクリスマスイブまでには配送が間に合わないといわれ、困っていたのでとても助かりました」

■手渡しで販売した父親に感謝され、サンタになった気分に

Sは交番前を待ち合わせ場所に指定しながらも、実は犯罪に巻き込まれることより、転売行為を非難されるかもしれないという不安を抱いていた。感謝の言葉をかけられるとは全くの予想外だった。

奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)
奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)

気をよくしたSは、別れ際に男性にこう言葉をかける。

「メリークリスマス!」

まるで自分がサンタクロースにでもなったかのような気分だった。

Sのクリスマス転売の最終的な売り上げは、約22万円だった。クリスマス後に定価の2割引ほどで出品して、在庫処分した3点の売り上げも含まれている。メルカリの手数料や送料を差し引くと手元に残ったのは5万円だった。

決して楽に儲かったわけではない。しかし、梱包や発送の手間を考えても、時給換算すると飲食店のアルバイトよりは高かった。扱う商品の点数を増やせば、商材の謳(うた)い文句の通り、「1週間で20万円」も達成可能だっただろう。

情報商材に支払った9000円の回収が当初の目標だったSは、それをゆうに超える利益を手にし、ある程度の満足感を得ていた。

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奥窪 優木(おくくぼ・ゆうき)
フリーライター
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。ツイッターアカウントは@coronasagi

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(フリーライター 奥窪 優木)

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