だから「片道2時間の電車通勤」を週3で続けられる…「92歳の現役栄養学者」がランチで必ず食べる"長生き食材"
プレジデントオンライン / 2024年12月12日 9時15分
※本稿は、香川靖雄『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(女子栄養大学出版部)の一部を再編集したものです。
■「健康寿命を延ばすこと」が高齢期を幸せにする
世界的に見て日本人は長生きであり、喜ばしいことのように感じられます。
しかし、問題がないわけではありません。たとえば、認知症の問題。日本は世界的に見ても、高齢者人口あたり認知症患者の数が多いのです。また、要介護者の増加も気になるところです。2024年6月の時点で約716万人となっており、今後も増えていくことでしょう。要介護者を増やさず、人手不足を深刻化させないためにも、私のような高齢者に元気になってもらう必要があります。
では、どうすれば、長生きを喜ばしいことにできるのでしょうか。そのポイントの1つが「健康寿命」です。
健康寿命とは、端的にいえば、「日常生活に制限のない期間」のことであり、図表1で示したとおり、健康寿命の期間を過ぎたあと、私たちは平均して10年くらい生きることになります。つまり、平均寿命を延ばすだけでなく、健康寿命をできるだけ延ばしていくことが、高齢期の幸せの要素の1つといえるのです。
「論より証拠」という言葉があるように、本書では、幸運にも92歳になった今も元気に働いている私の日常に加え、恩師たちの生活習慣を紹介しましょう。
■6時に起床し、まずはテレビ体操
また、世の中の多数の健康法の中で一般市民に対して具体的な実績をあげた例は稀ですが、私の指導する「さかど葉酸プロジェクト」が行なわれている埼玉県坂戸市(編集部注:女子栄養大学坂戸キャンパスの所在地)は、健康寿命が抜群で、医療費は全国最低レベル、疾患も極端に減ったことから、今年の8月に県から表彰されました。
このように、すでに多くの実績を出している栄養学の観点から有益だと思われる知見を収録したいと思います。
まもなく、団塊の世代(1947〜1949年生まれ)の全員が75歳を超えます(すでに国民の約16%が75歳以上)。すでに私と同じように高齢の方はもちろん、今、社会で活躍されている年代の方々もいつかは年をとりますので、参考にしていただければ幸いです。
私は毎日朝6時には起きるようにしていますが、理由があります。6時25分にスタートするテレビ体操をするためです。10分間体操をしたあと朝食をとって、身支度を済ませたあと、大学に行く日は最寄りの鉄道の駅に家族の車で向かいます。
ちなみに、大学へは、主に火曜日、水曜日、金曜日に出勤します。水曜日は各種の会議があります。現在、講義は臨床検査技師のコースを1コマだけ。あとは、卒業研究というのがあって、学生と一緒に「さかど葉酸プロジェクト」に携わっています。
土曜日に大学に行くのは、大学院の発表会や実習報告会に参加するためです。他の先生方は週末も忙しくされていて参加が難しい方もいるため、そこは私の役目として参加するようにしています。
■栃木の自宅から“片道2時間”通勤
帰りの時間はまちまちですが、大学院のセミナーがあるときは遅くなります。セミナーが終わるのが夜7時半頃ですから、自宅に到着するのは10時くらいです。懇親会がある日などはもっと遅くなることもあります。
実は1998年4月から2018年11月までの約20年間(66歳から86歳まで)、大学の近くにアパートを一人で借りて、自炊しながら大学に通っていました。
戦中戦後の食糧難の時代、一時期、母と姉は別の場所で暮らしていたので、私たち男兄弟は自分たちで炊事をしました。そのため、今でもうどんからパンまで自分でつくることができます。
当時は、水道もガスもなく、薪でご飯を炊き、遠くにある魚屋、八百屋で食材を買わなければなりませんでした。その頃に比べれば、現代は調理済みの食品もあれば、炊飯器、電子レンジといった便利な道具もありますから、自炊するのは簡単です。
どんなに健康であっても、保証人がいても、90歳前後となると、なかなかアパートを借りるのが難しく、今は栃木県にある自宅から、大宮駅まで出て、そこから川越線に乗り換えて川越駅まで行って、さらに東武線に乗り換えて坂戸駅まで、片道2時間、往復4時間かけて通っています。
ご存じのとおり、宇都宮線、川越線、東武線は事故で遅れることも多く、そんなときはすぐに満員になってしまうのには少しだけ閉口してしまいます。
■忙しい朝は手軽に食べられるものでいい
先ほど朝食の話が出ましたので、朝食でとるべき栄養素についてお話ししておきましょう。
「香川は栄養学を専門としているのだから、手間暇かけた料理の話になるのだろう」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、朝の忙しい時間に用意する朝食は手軽に食べられるもので構いません。冷凍食品、レトルト食品なども活用してバランスのよいメニューにすればいいのです。
また、夏場は保管方法に注意する必要はありますが、前日の夕食の残り物だって立派な朝食になります。私のアパート暮らし時代の朝食については、第3章で具体的に紹介しています。
では、そもそも朝食でどのくらいのカロリーを摂取するとよいでしょうか。1日1700〜2000キロカロリーと考えるなら、朝食ではその4分の1が目安になります(450〜500キロカロリー)。
バランスのよい食事をとるには、次の4つの食品群を参考にしてください。一度にすべてを網羅する必要はなく、1日の中でバランスをとることをおすすめします。図表2は四群点数法と呼ばれるもので、具体的に何を何グラムとればよいかの目安が示してあります。
1〜4群のリストを見ても、具体的なメニューはなかなか思い浮かばないと思いますので、「主食」「おかず」「汁物」といった区分で食品群を見てみましょう。
【主食】白米、おむすび、パン、サンドイッチ、シリアル
→主に4群に該当
【おかず】ゆで卵、目玉焼き、卵焼き、ハム、ベーコン、ウインナー、豆腐、納豆、鮭の切り身、あじのひらき、ちくわ、かまぼこ
→1、2群に該当
【汁物】味噌汁、野菜スープ
→1、2、3、4群に該当
【付け合わせや小鉢類】サラダ、焼き芋、煮物、のり
→2、3群に該当
【飲み物】野菜ジュース、牛乳、コーヒー(+牛乳)
→1、3、4群に該当
【デザート類、果物類】りんご、バナナ、いちご、ヨーグルト
→1、3群に該当
また、外食が多い方は栄養素に偏りが出やすい傾向がありますので、野菜類や芋類や豆類をとるように心がけてください。
■昼食に食べるのは「魚」
朝食の話が長くなりましたが、大学に出勤する日はできる限り、学食で昼食をとるようにしています。女子栄養大学の学食の中でも、私がよく選ぶのは魚中心のA定食です(B定食は肉中心)。
その理由は、日本人の多くは遺伝子的に脂肪酸のアルファリノレン酸をDHA(ドコサヘキサエン酸)に変えることができない体質であり、DHAが不足しがちになるためです。(写真1)
具体的には、私も含めて日本人の6割はFADS1と呼ばれる遺伝子のC多型を持っており、そうではない人たちに比べて、DHAを多く含む魚類を多く摂取することが健康を維持するために必要になります。
理想的な魚の摂取量の目安は1日100グラム。魚のなかでも、脂ののった魚がおすすめで、そのくらいの量を摂取することで、EPA(イコサペンタエン酸)や前出のDHAなどの脂肪酸を摂取でき、脳の健康を健やかに保つことができると考えられています。
しかし、日本人の魚の摂取量は減少の一途を辿り、2019年には50グラム(中央値)となり、1990年代と比べると半分に減ってしまいました。図表3は2004年(平成16年)以降の魚介類と肉類の1日の1人あたりの摂取量の推移を表したものになります。
「魚離れ」しているなら、魚を食べればいい――。それはそうなのですが、日本の漁獲量は、1984年の1282万トンから、2022年には289万トンにまで減少しており、昔は安価で手に入ったサンマやイカなどが値上がりしていたりもします。
もはや手軽に摂取できる食べ物ではなくなりつつあるのです。サプリメント等の活用を検討するのも選択肢の1つです。
■健康長寿には「葉酸」も大事
また、学食のごはんにはビタミンB群の一種である「葉酸」が通常より多く入っている米が使われ、必ず食べるようにしています。これは私の研究成果をメニューに反映してもらったものなのですが、健康長寿にはこの葉酸の摂取も非常に大事だと私は考えています。
その理由は、日本人の約6割は葉酸の欠乏しやすい遺伝子(正確にはメチレンテトラヒドロ葉酸の多型)を持っていると言われ、日頃から補う必要があるからです。もし欠乏すると、認知症や脳卒中、うつ病などの疾患に繋がるリスクがあるとも言われています。
かつての食卓には海苔や枝豆、緑茶といった葉酸の多い食べ物が当たり前のように並んでいましたが、現代では日常的に摂取しているという方は少ないのではないかと思います。
私の指導する「さかど葉酸プロジェクト」では、2006年から市民に対して葉酸に着目した健康づくりの取り組みを行っています。同市は肥満率や高血圧、2型糖尿病、脂質異常症といった複数の代謝異常の罹患率が減少し、医療費削減に繋がったという結果もあります。
ぜひ皆さんにも、日頃から葉酸を意識した食事を心がけてほしいと思います。
■移動は「階段」、空き時間には「ダンベル」
昼食後は決まって、大学にある研究室のソファの上で昼寝をします。時間はおおよそ1時間。大学の私の研究室は3階にあり、階段を使って上り下りしています(写真2)。とはいえ、随分と足腰も弱ってきましたから、長い距離を歩くときには杖を使って歩くこともあります。
コロナ前まではよくプールに通っていました。滞在時間は1回あたり、2時間くらい。好きなのは平泳ぎで、クロールもします。ただ、速度は遅く、ゆっくり泳いでいました。
92歳の現在、体力の維持という点に関しては、ダンベル(鉄亜鈴)体操のような「抵抗力」を増す運動と、散歩や自転車のような「持久力」を増す運動の2つを習慣にしています。
ダンベルは、自治医科大学の体育館と自宅の2カ所で時間があるときに、両手にそれぞれ3〜5キロくらいの重さのダンベルを持って、上げ下げする程度です(写真3)。
自動車の免許は返納していますから、自宅周辺の移動手段はもっぱら自転車です。90歳を超えての自転車は危ないと言われることもありますが、食品や日用品を買いに行く際には欠かせない移動手段となっています。
先述したように帰宅時間はその時々で違いますが、基本的には夜の11時半頃には眠るようにしています。朝6時に起きるので、昼寝の1時間を足すと、1日の睡眠時間はおおよそ7時間半くらいです。
ちなみに、2021年のデータ(OECDの調査報告)によると、日本人の平均睡眠時間は442分(7時間22分)で、世界平均の508分(8時間28分)に比べて短く、OECD諸国の中で最短です。十分な睡眠がとれないと、うつ病や認知症のリスクにつながります。
お酒はある程度飲めますが、毎日飲むということはありません。お酒が健康に与える影響については『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』の第3章で解説することにします。
■脳や心臓に異常なし、コレステロールも正常値
冒頭でもお伝えしたように、「論より証拠」も大切ですから、『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』でご紹介している生活習慣を繰り返した末に、私は本当に健康を維持しているのかをデータで確認してみましょう。
2024年現在、私の脳のCT画像では、梗塞の斑点も脳血管の異常も見られません。また、心電図の検査もしましたが、右脚ブロックという無害な変化のみ確認できました。なかなかよい結果ではないでしょうか。
薬については、次の薬を定期的に内服しています。
・甲状腺ホルモンのチラーヂン(甲状腺腫瘍により甲状腺の右葉を切除したため)
・メバロチン(抗コレステロール薬)
・降圧剤(高血圧を起こしやすい遺伝子多型のため)
・抗生物質(腎臓結石破砕術後の慢性腎盂腎炎のため)
また、図表4と図表5は最新の臨床検査値と、1週間の連続自動血圧測定の結果です。慢性腎盂炎のために、腎機能は低下して尿素、クレアチニンは高値ですが、コレステロール値等はすべて正常です。血圧もいろいろな行事に参加した後も正常値を保っており、模範的といえる数値となっています。
■高齢者のBMIは「22」にこだわらなくてもいい
ここ20数年の私の健康は、先述したアパート暮らし時代の生活習慣がベースとなっています。当時から、BMIを計測しながら、摂取するエネルギー量を調整したうえで食事を用意していました。
BMIは、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割ることで求められます。たとえば、身長が1.7メートルとして、体重が60キログラム、65キログラム、70キログラムの3つのケースを計算してみましょう(1.7の2乗は2.89)。
65キログラムの場合:65÷2.89=22.49
70キログラムの場合:70÷2.89=24.22
多くの医師はBMIを指標とするとき、「22」を基準と考えているのではないでしょうか。私は、必ずしも「22」にこだわる必要はないと考えています。
40歳〜59歳の日本人の男女それぞれ2万人ずつ、10年間追跡した研究によると、やせているよりもむしろ肥満のほうが死亡率は低くなりました。それは自治医科大学の研究(図表6)でも同じで、BMI=25.0〜29.9で全死因、心疾患、がんの死亡率が低くなっています。
ただ、「29」というのは高すぎますから、40歳〜59歳の男性の場合、「23」か、それを少し超えるくらい、女性の場合は幅がありますが、「19」〜「24.9」くらいの幅で考えればよさそうです。
■「精神力がタフな人」は長生き
私は現在、降圧剤を飲んでいます。実は、ベストセラー『九十歳。何がめでたい』(小学館)の著者である佐藤愛子さんも2019年に発刊された『気がつけば、終着駅』(中央公論新社)の中で、降圧剤を飲んで血圧を測っているとお書きになっています。
佐藤さんが生まれたのは1923年ですから、私よりも9歳先輩になります。佐藤さんは『九十歳。何がめでたい』の43頁で、読者に「佐藤さんの様に強く生きるコツを教えて下さい」と聞かれ、「そんなものあるかい」と答えながらも次のように語っていらっしゃいます。
「暴れ猪になって突進する」
本書では宗教家が極端に長生きなのは「精神力」が影響しているのではないかとお伝えしています。
佐藤さんのようにタフな精神力を持って生きていると、神経活動を介して心身の活動が増すことによって、脳の神経細胞は高齢でも増殖し、免疫力を高めるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)が増えるとともに、脳の指令でmRNAを介して、テロメア(編集部注:DNAの先端にある“寿命の回数券”とも呼ばれるもの)を伸長させる酵素であるテロメラーゼの活性を高めることが、ハーバード大学医学部で確認されています。
実はこのテロメアの長さを保つのが、私の健康法の特色である「葉酸」と「DHA」の摂取なのです。
1つ、恐れ多くも先輩に対してご提案するなら、佐藤さんは著書『九十歳。なにがめでたい』の中で「死ぬ前に食べたいものは?」という質問に対して「今でさえ食べたいものなんか何もないので死ぬときに食べたいものがあるはずはない」とおっしゃっています。
この点については、長年、栄養学に携わった人間としては一言言わざるを得ないわけですが、いくつになっても、バランスのよい食事をすることは元気に暮らす条件の1つですし、おいしいものを食べて喜びを感じることは、心身の健康によい効果をもたらすことになります。
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女子栄養大学副学長
1932年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業、聖路加国際病院、東京大学医学部助手、信州大学医学部教授、米国コーネル大学客員教授、自治医科大学教授、女子栄養大学大学院教授を経て、現在、自治医科大学名誉教授、女子栄養大学副学長。専門は生化学・分子生物学・人体栄養学。著書に『老化と生活習慣』『生活習慣病を防ぐ』(以上、岩波書店)、『科学が証明する新・朝食のすすめ』『香川靖雄教授のやさしい栄養学』(以上、女子栄養大学出版部)などがある。
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(女子栄養大学副学長 香川 靖雄)
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