Luup社長「違反者を撲滅できる」発言が炎上…急拡大する電動キックボードに渦巻く「いけ好かなさ」の正体
プレジデントオンライン / 2024年12月4日 17時15分
■Luup社長「一部の利用者が違反を繰り返し」発言が炎上
大手電動キックボードシェアリング事業者「Luup」の岡井大輝社長を取材した時事通信の記事がきっかけとなり、SNSで炎上が起きている。特に、交通違反検挙件数が高止まりしていることに対して、岡井社長が「一部の利用者が何度も違反を繰り返している」と発言したことが、批判の引き金になっている様子だ。
インタビュー全体を読むと、岡井社長は「重大違反者のアカウントは即凍結する」など対応策を具体的に述べているのだが、メディアは上記の発言をクローズアップして報じており、岡井社長の説明に納得できない読者も多かったようだ。
SNS上では、「(違反をしているのは)一部の利用者ではない」「(一部の利用者だとわかっているなら)なぜ対策を取ってこなかったのか?」「そもそも(電動キックボード事業を)認可したのが間違い」など、厳しい意見が見られる。
今回は岡井社長の失言というよりは、LUUP、さらには電動キックボードが抱える根深い問題があるように思える。
■噴出した電動キックボードやLUUPへの不満
今回の炎上は、岡井社長の発言が引き金にはなっているのだが、その背景は、(LUUP利用者というよりは)歩行者やクルマの運転者による不満の蓄積があったようだ。
筆者はこれまでも、SNS上だけでなく、リアルな場でもLUUPに対する批判的な意見を耳にしてきた。
主なものを挙げると、下記の3点である。
2.安全性に対する不安
3.認可されたこと、規制が強化されないことへの疑問
■LUUPへの風当たりの強さの原因
1つ目について、「利用者が交通ルールを守らないので危険だ」という意見はよく耳にしてきた。そうした認識を持っている人が多かったため、岡井社長の「一部の利用者が何度も違反を繰り返している」という言葉に違和感を示す声が出てきたのだろう。
2つ目の安全性は、もちろん利用者側の問題もあるのだが、車体構造や運転姿勢自体に危険が内包されていると言われている。そうした中で、免許が不要で乗れることを疑問視する声も少なくない。2023年4月には、フランスの首都パリで電動キックボードレンタルサービスが、住民投票によって禁止となっている。
1、2のような状況にありながら、十分な規制がされないことへの批判も大きい。日本においては、2020年に電動キックボードの公道走行実証計画が、産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」に認定。2022年4月に公布された改正道路交通法には、電動キックボードに関する交通ルールの緩和が盛り込まれ、2023年7月に施行されている。
こうした動きに関して、「利権が絡んでいるのではないか?」という疑問を抱く声も出てきている。今年10月、元警視総監がLuup社の監査役に就任した。同社は「交通ルールの周知や安全対策の強化について指導を賜りたい」と説明しているが、メディアやSNSでは「天下り」とする批判的な意見が目立った。
ビジネス環境の面では追い風が吹いている一方で、非利用者からのLUUPに対する風当たりは強まっているというのが現状だ。今回の炎上は、そのギャップが顕在化したとみることができる。
■Luupが陥っている成長と安全のジレンマ
一歩引いて見ると、交通ルールを守らないのは利用者の問題であるし、安全対策はLuup一社だけでなく業界全体で取り組むべき課題であり、法制度や監督官庁の問題でもある。一方、Luup社は急成長しているとはいえ、赤字のベンチャー企業だ。どうして、Luup一社が集中砲火を浴びてしまうのだろうか?
その理由は、すでに説明してきた通りだ。電動キックボード事業に有利な制度設計がされており、電動キックボードシェアリングサービスでLuup社が圧倒的なシェアを誇っていることから、同社に対して責任を問う声も必然的に大きくなってきている。
岡井社長は、「省庁や自治体、警察などあらゆる関係先との調整や折衝、コミュニケーションを繰り返してきた」と話している。こうした上からの「お墨付き」によって信頼性を獲得し、ポートを急速に拡大させて、利用者の利便性を向上させる――という好循環を生み出すことに成功している。
その反動で、「成長性を重視して、安全性を犠牲にしてきた」という批判が同時に巻き起こることになったのだ。
■CMから「生活インフラ」にしたい思いが伝わってくる
1カ月前の11月1日から、嵐の二宮和也さんを起用したテレビCMの放映が全国で始まっている。
CMの中では「もう、フツーでしょ?」というキャッチコピーが表示される。メッセージから「生活インフラ」として、日常的に利用されるサービスとして訴求したいというLuupの思いが見て取れる。
筆者自身は、電動キックボードの安全性は気になっている一方で、将来性に期待を抱いてもいる。「ラストワンマイル」という言葉がよく使われる通り、公共交通機関と目的地をつなぐ短距離移動の問題が解決されることで、生活がより便利に、かつ豊かになる可能性は高いと考えている。最近はバイクシェアサービス(自転車シェアリング)も普及してきており、短距離移動の問題は、さまざまな移動手段を想定して包括的に解決策を講じるべきだとも考えている。
■LUUPは「市民の広い理解を得る」フェーズに移った
筆者には、スタートアップ企業の経営者や社員の知り合いが何人かいるが、“起業家精神”だけで成功できる世界だけでなく、規制や既得権益に対峙し、それらと戦ったり、懐柔したりと、一筋縄ではいかない世界である。
日本でライドシェアや民泊事業が成長できていないのもその壁が厚かったからだ。Luup社をはじめ、電動キックボード業界は、そこをうまくやったから成長軌道に乗ることができたのだが、現在の最大の課題は、もはや制度や既得権益との対峙ではなく、安全性の確保と、サービス利用者以外も含む、消費者への広い理解の獲得にあるようにみえる。
このたびの岡井社長の発言は間違いではなかったのかもしれないし、発言の一部が切り取られて、拡散してしまった側面もあるように思える。一方で、厳しい批判が出ている状況にも配慮して、もう少し丁寧な説明をしたほうがよかったのではないかとも思う。
いずれにしても、岡井社長が今回提言した対策を実行し、電動キックボードによる交通違反の数を減らすことが求められる。警察や官公庁、自治体との交渉力やネットワーク力も、それを実行することに活用していけば、「ズブズブ」「利権がらみ」という批判も和らいでいくのではないだろうか。
■「アクセル」と「ブレーキ」をうまく使いこなす
2022年に暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXトレーディングが経営破綻した際、同社の広告塔として起用されていたメジャーリーガーの大谷翔平選手、プロテニスプレイヤーの大坂なおみ選手が損失を被った投資家らから米連邦地裁に提訴されるという事態が起きた。
Luup社がそのようになるとは思わないが、有名タレントを起用して、大々的に広告・宣伝を行っていることが裏目に出るようなことにならなければいいが――と願っている。
乗り物はアクセルとブレーキを使いこなすことによって、安全かつ迅速に目的地に移動することが可能となる。Luup社は「事業拡大」というアクセスを踏み過ぎて、スピードを出し過ぎていたように思う。
これからは、ブレーキもうまく使って、ビジネスを安全に持続させていくことが重要になる。「生活インフラ」としてサービスが定着し、CMで言われているような「もう、フツーでしょ?」という状況になるには、そうすることは、重要であるだけでなく、不可欠なことでもある。
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マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。
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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)
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