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好きな人にも仲のいい友人にも疲れてしまう…そんな"気難しい性格の人"を優しく包み込む精神科医の言葉

プレジデントオンライン / 2024年12月11日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

孤独を恐れて結婚相手を探したり、友人づくりに励んだりする人がいる。孤独は悪いことなのか。32歳のときに視力を失い、「全盲の医師」として働く精神科医の福場将太さんは「孤独は、自分と向き合うためにも必要なもの。ただし、『一人でも寂しくない』という人であっても孤独100パーセントは絶対にダメ」という――。

※本稿は、福場将太『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■「孤独」は悪いことではないけれど…

拙著『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』(サンマーク出版)では「せねば」と「したい」はバランスが大切、というお話をしました。

心の健康において、もう2つ、バランスが大切なことがあります。

1つは「忙しさ」と「暇」。そしてもう1つが「孤独」と「ふれあい」です。

あなたの生活の中で、孤独とふれあいは何パーセントと何パーセントのバランスになっているでしょうか?

実は、特におすすめのバランスはありません。というのも、人によって最適のバランスは異なるからです。誰かと一緒にいるのが大好きな人は、ふれあいが95パーセント、孤独が5パーセントでも良いでしょう。

逆に誰かと接すると極端に疲れてしまうという人は、孤独が80パーセント、ふれあいが20パーセントでも良いでしょう。一般的には悪いこととして扱われがちな「孤独」ですが、1人で過ごすのも人生の素敵な時間、必要な時間だと私は思っています。ただ1つだけお伝えしたいのは、孤独100パーセント、ふれあい0パーセントだけは絶対ダメということです。

■「一人でも寂しくない」そんな人が見落としている視点

どうして孤独100パーセントだといけないのでしょうか?

1つは、多くの人間はやはり寂しさに耐えられないということ。

誰とも接さず、誰とも言葉を交わさない日々は、うつ病や依存症、ひいてはその先にある自殺に発展するリスクがとても高いです。そしてもう1つの理由は、いざという時にSOSできる繋がりは必要ということです。どこにも助けを求められない、自分が倒れていても誰も気づいてくれない生活では、やはり病気や事故のリスクが高まるのです。

それなら一切寂しくなく、落ち込みもなく、お酒やギャンブルにも依存せず、自分で自分の安全を守れている人なら孤独100パーセントでも良いのかというと、やっぱりそれでもダメなのです。

それに気づいたのは2020年から日本でも猛威を振るった新型コロナウイルスの社会情勢です。

多くの死者数に「このまま人類は滅ぶんじゃないか」、仕事もなくなって「この先どうやって暮らしていけばいいんだ」、そんな不安が多くの人の心に込み上げました。また、度重なるイベント中止に「どうせ一生懸命準備したってまた無駄になるんだろ」、仕事の自粛に「俺の仕事は不要ってことだな」、そんな投げやりな気持ちも多くの人の心に生まれました。

しかしコロナ情勢がもたらした、最も深刻な心への影響はもっと他にあります。それが何だかお分かりですか?

■人間の心の調子は、ギターぐらいにズレやすい

その答えは、「お互いへの不信感」です。

マスクや消毒液を盗む、感染者を迫害する、自粛に応じない者を攻撃する、そんな悲しい姿に多くの人が人間を信じられなくなってしまいました。

本来ならするもしないも本人の意思で良いはずのワクチン接種についても、意見の対立でせっかくの友人関係や家族関係が壊れてしまうことさえありました。

どうしてそこまでお互いを信じられなくなってしまったのか。それは紛れもなく「ふれあい」の減少が原因です。

私が愛用しているギターという楽器は、チューニングという作業で音を合わせるのですが、自分1人で演奏しているとそのチューニングがズレていることになかなか気づきません。他の楽器の人と合奏すると、こんなにズレていたのかとびっくりすることがあります。

実は人間の心の調子もギターの弦と同じくらいズレやすいのです。1人っきりでいるとどんどん音がズレていくのに自分ではそのことに気づかない。じゃあどうやってチューニングすればいいか?

それが他の人との合奏、すなわち「ふれあい」なのです。

オフィスで笑顔で話す二人の女性
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■自分1人だけで考えていると、思考のズレに気づかない

風邪で1週間学校を休んでひさしぶりに登校した時、クラスメイトとのおしゃべりにテンポのズレを感じたことはありませんか? 旅行を終えて久しぶりに出勤したら、どうも同僚と仕事のテンションが合わなかったことはありませんか?

それくらい、心はふれあいがないと調子が狂ってしまうのです。

ギターにはチューニングマシーンという1人でも音を合わせられる便利な道具がありますが、心にはそれがない。だからお互いの音を鳴らして調整する以外に心のチューニングをする方法はないのです。

普段であれば、誤解や勘違いが生じても、相手と話すことでそれを修正できました。自分だけがノリノリになっていても、仲間の表情を見てみんなはそうでもないことを感じ取り、自分をいましめることができました。

腹を割って話すことで、自分の見解が間違っていたことが分かりました。しかしコロナ禍の孤独な生活ではそれができませんでした。滅多に人に会えず、話せず、会っても会話は最小限で、しかもお互いマスクで表情が見えないから気持ちのやりとりにまで至らない。むしろ相手は感染者なんじゃないかという疑念のほうが先に立ってしまう。

自分1人だけで考えていると、思考がズレていても気づきません。

感情が強まっていても分かりません。

■大切な相手であってもストレスを感じることはある

異常と言われる犯罪を犯してしまった人たちの多くは、事件前、1人で家に閉じこもっていた期間があります。

1人だけで考えて考えて、どんどん思考や感情がおかしな方向へズレていって、でも誰ともふれあっていないからチューニングの機会もなくて、ついには弦が切れてとんでもない行動に出てしまったのではないでしょうか。ですから孤独100パーセントはやっぱりまずい。

人間は社会で生きる動物。絶対に最小限の「ふれあい」は必要です。精神科で行っているデイケアや訪問看護も、もちろん生活を支援するという側面もありますが、一番の目的は「ふれあいの提供」、孤独100パーセントにしないためのケアなのです。

くり返しますが大切なのはバランスです。

人間はどんなに好きな人とふれあっても、どんなに仲の良い友人と楽しく過ごしても、それでもストレスを感じてしまう難しい動物です。

だから孤独も絶対必要。孤独と向き合うことは自分と向き合うことでもあります。誰かといる時と1人でいる時、自分の本音を日記に書きやすいのはどちらでしょうか。それはもちろん1人でいる時ですよね。

■「孤独」を楽しむ時間があっていい

自分の内側を旅するためには、孤独はどうしても必要なのです。それに孤独をまとっている人だけが放つことができる、素敵な魅力があることもまた事実です。

「孤独死」という強い言葉が蔓延したせいか、どうしても孤独が悪いもののように扱われがちですが、上手に活用すれば孤独はとっても良いものです。素敵な結婚生活を特集する番組があるなら、素敵な孤独生活を特集した番組があったっていい。

福場将太『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』(サンマーク出版)
福場将太『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』(サンマーク出版)

かっこいい孤独のアイテムやテクニックを掲載した『月刊 孤独マガジン』だって刊行されていいのではないでしょうか。ダメですかね、サンマーク出版様。

少なくとも私は孤独のない世界はごめんです。

平日は毎日毎日、何十人もの方とお話しする仕事ですから、休日は1人でいたいわけです。

あなたは孤独が嫌いですか? 「孤独な奴」と思われるのが嫌いなだけで、孤独そのものが嫌いなわけではないのではありませんか?

ふれあいのサウナでのぼせたら孤独の水風呂へ。孤独の水風呂が辛くなってきたら今度はふれあいの温泉へ。そんな心のスパを楽しみましょう。

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福場 将太(ふくば・しょうた)
精神科医
1980年広島県呉市生まれ。医療法人風のすずらん会美唄すずらんクリニック副院長。広島大学附属高等学校卒業後、東京医科大学に進学。在学中に、指定難病疾患「網膜色素変性症」を診断され、視力が低下する葛藤の中で医師免許を取得。2006年、「美唄希望ヶ丘病院」〔現在は「江別すずらん病院」(北海道江別市)〕に精神科医として着任。32歳で完全に失明。2018年からは自らの視覚障がいを開示し、「視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる」の幹事、「公益社団法人 NEXT VISION」の理事として、目を病んだ人たちのメンタルケアについても活動中。ライフワークは音楽と文芸の創作。

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(精神科医 福場 将太)

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