Twitterの「青い鳥」はこうして世界から絶滅した…イーロン・マスクに乗っ取られたSNS"買収1年目"の惨状
プレジデントオンライン / 2024年12月12日 8時15分
※本稿は、カート・ワグナー(原著)、鈴木ファストアーベント理恵(翻訳)『TwitterからXへ 世界から青い鳥が消えた日』(翔泳社)の一部を再編集したものです。
■ツイッターブランドを“根絶やし”に
2023年7月下旬、イーロン・マスクは正式にツイッターにとどめを刺した。ツイッターを象徴する鳥のロゴはアプリストアから削除され、サンフランシスコのオフィス内の壁からも取り除かれた。鳥が姿を消した穴を埋めるのにマスクが必要としたのは、たった1文字「X」だった。
マスクは昔からXという文字を好んだ。息子の名前でもあり、初期に立ち上げたスタートアップの一つにもX.comという社名をつけている。Xは今や、彼のお気に入りのソーシャルネットワークの名前にもなった。
このようにして、買収完了から約9カ月後の7月23日、17年以上存続してきたツイッターのブランドを根絶やしにしていった。ツイッターのアプリは誕生以来ずっと青く、真ん中に白い鳥が描かれていたが、突然黒地に白いXの文字デザインになった。
マスクはサンフランシスコのダウンタウン、マーケット・ストリートのツイッター本社の外壁にXの文字を投影させ、屋上に巨大な金属製のXのロゴ看板の設置を手配した(毎度のことながら適切な許可を取得しておらず、何十件もの苦情を受けた市当局が、同社に安全規定への違反を通知してからわずか3日後、Xの巨大看板は撤去されるに至った)。
■イーロン・マスクは“満足気”
世界的に認知され、ニュース速報の代名詞でもあったブランドを捨てるというマスクの決断は、疑問の残るものだった。多くの人は、それは表面的な変化に過ぎないと受け取った。
しかし、マスクは、洗面ボウルを持ってオフィスの正面玄関をくぐった瞬間(編集部注:初めてオフィスを訪れた日のエピソード)から、ツイッターの企業文化、従業員、ニュースバリュー、すなわちツイッターをツイッターたらしめていたものを解体してきた。
ツイッターを何か新しいものに変えるというビジョンを持つマスクは、古い鳥が飛び去っていくのを満足気に眺めた。その新しいものが何であるかは、就任から9カ月経った今でもはっきりとは見えてこない。多くの点で、プロダクト自体はツイッター1.0の頃とほとんど変わらないように見える。
その一方でマスクは、表からは見えにくい部分で変化を起こしている。例えば、Xが決済事業に参入できるよう、送金業者としてのライセンスを申請した。Xを「エブリシング・アプリ」に変えるという野望達成へ向けた取り組みの一環である。
また、一部の人気ユーザーと広告収入を分け合うことで、サービスのさらなる利用を促した。
■“言論の自由”のために保守派アカウントを復活させた
もっとも注目すべきは、Xをより言論の自由が守られた空間にするという約束の実現へ向けて乗り出したことだ。ツイッターが提供してきた新型コロナウイルス関連誤情報ポリシーを撤廃し、複数の保守派ユーザーのアカウント停止処分を取り消した。
1月6日の「選挙を盗むのを止めろ(Stop the Steal)」運動の組織化で中心的役割を果たしたとされるトランプ支持者のアリ・アレクサンダー(編集部注:極右の活動家)も復帰した。白人至上主義として知られるニック・フエンテスも同様だ(ただし両者のアカウントは、すぐに再凍結された)。
看板キャスターのタッカー・カールソンが、驚いたことにFOXニュースと「別々の道を行く」ことで合意したと発表すると、マスクはテレビの代わりにXで人気トークショーを再現できるようカールソンを支援した。
ドナルド・トランプ大統領も、短期間ではあるが戻ってきた。トランプは2023年8月、米大統領選でジョージア州の選挙結果を覆そうとした容疑で、同州フルトン郡の拘置所に収監された後、自身のマグショット(訳注:出頭後に撮影される顔写真)を投稿している。トランプはこのツイートで選挙資金を集めようとしたのだ。
マスクは自身の全フォロワーにトランプの投稿をリツイートし、「次のステップ」とコメントした。
■大手ブランドの広告がなくなっても「まったく気にしない」
マスクが「ツイッター」と別れを告げたかった理由はおおむね理解できる。Xは、マスクが怒りと苛立ちを覚えてきたツイッターにまつわるすべてのことからの決別であり、再出発の象徴であった。
また、就任してからの9カ月間が、紛れもなくビジネス上の大失敗だったという現実から皆の目を逸らすチャンスでもあった。買収後の最初の数週間に、マスクの行動に怯え、脱兎のごとく逃げていった広告主の大半は、いまだに戻ってきていないか、戻ってきたとしても広告費は以前に比べてずっと少ない。マスクは自分で自分の首を絞め続けた。
2023年11月、あるユーザーが「ユダヤ人コミュニティは、自分たちに向けるのはやめてくれと主張してきた憎悪とまさに同じ種類の弁証法的な憎悪を白人に突きつけてきた」と書いたのに対して、これを支持するツイートを投稿した。「あなたは事実に基づいた真実を語っている」と返信し、ユーザーや広告主から幅広く反発を招いたのだ。
アップル、IBM、ディズニー、その他いくつかの大手ブランドがこれに抗議して、Xへの広告掲載を一時中止した。その直後、マスクはニューヨーク・タイムズが主催するカンファレンス「ディールブック・サミット(DealBook Summit)」に登壇し、広告主がXのサービスをボイコットしてもまったく気にしないと述べた。
「もし誰かが広告を引き上げるといって私を脅そうとするなら、金で私を脅迫しようとするなら――とっとと出ていけ」と堂々と宣言した。
■会社の“価値評価”が半分以下に
マスクの大人げない態度はどれも、Xのビジネスにとっての厄災を意味した。マスクは2023年7月に、広告収入が50%減少したことを明らかにしている。
同年9月までに、米国市場の広告収入は60%減少した。Xのキャッシュフローは依然マイナスであり、買収取引のために調達した借入金からは多額の利払いが発生している。それだけにとどまらず、本命のサブスクリプションビジネスを構築することでXの収益源を多様化するというマスクの目論見は実現しなかった。
青いチェックマークのために毎月8ドルを払おうという殊勝なユーザーはほとんどいないことが明らかになったのだ。
ツイッターからXへのリブランディングを断行した頃までに、会社の価値評価はわずか200億ドルとなっていた。前年の秋にマスクが支払った440億ドルの半分にも満たない。
だが、マスクには少なくともユーモアのセンスが残されている。「私のことをなんと呼ぼうと皆さんの勝手ですが、私は、世界最大の非営利団体を440億ドルで買収したのです(笑)」とフォロワーにジョークを飛ばした。
■報道の問い合わせに「ウンコの絵文字」で返した
Xの問題の大半は、マスク自身に起因するものなのだが、マスクはまるで自分の言動が何の影響ももたらさないかのように会社の運営を続けた。4月にはとうとう、本社ビルのツイッターの看板の「w」を塗りつぶし、「Twitter」を「Titter」に変えた。翌日には、自身のツイッターのユーザー名を「ハリー・ボルツ」に変更している。
マスクが広報チームの従業員をすべて解雇したため、報道関係者が同社の広報担当者のメールアドレスに問い合わせメールを送ると、ウンコの絵文字が自動返信されるようになった。マスクのキャリアを追ってきた人にとっては、いつもの悪ふざけである。
Xが、ブランドイメージを大事にする広告主に収益のほとんどを依存しているという事実さえなければ、無害なジョークで済んだかもしれない。
ずっと大きな波紋を呼んだ決断もあった。マスクは、ツイッター・ブルーのサブスクリプションサービスに登録していないすべてのユーザーのアカウントから青いチェックマークを削除した。
これにより、何千人ものジャーナリスト、セレブ、そして報道機関が「認証されていない」アカウントとなった。その結果、世界的なニュースソースとしてのツイッターの評判は、瞬く間に失墜した。
この施策により、長い間マスクが不満を抱いていた「二重階級」制度は確かに解消された。8ドルを払えば誰でもブルーチェックの認証を受けられるようになったのだ。
■“情報源”としての信頼が失墜
しかし、この決定は、ツイッターのもっとも価値あるユースケースをむしばんでいった。それは、速報性の高いニュースのための、おおむね信頼できる情報源としての役割である。
ブルーチェックはもはや本人であることを証明するものではなく、誰がどのアカウントからツイートしているのか、なりすましでないのかを知ることは事実上不可能となった。プロのジャーナリストや報道機関のアカウントが一般アカウントと区別されなくなり、信頼性の高い情報を素早く見つけることが難しくなった。
ニューヨーク・タイムズ、ポリティコ、ワシントン・ポストなどの大手メディアは、会社のアカウントはもとより、認証を希望する所属ジャーナリストに対してもチェックマークのためのコストの負担を拒否した。「認証済みのチェックマークが、もはや権威や専門性を表すものでないことは明白です」とワシントン・ポスト紙は声明で述べている。
世界で何が起きているかをいち早く知るための場としてのツイッターの評判は、ほぼ露と消えてしまった。数カ月後、イスラエルがテロリスト集団ハマスとの戦闘を開始すると、Xは虚偽や誤解を招くような投稿で溢れかえった。マスク自身が、虚偽の情報を流すことで知られるアカウントのフォローを推奨している(このツイートは後に削除された)。
■ツイッターの惨劇の中「スレッズ」が生まれた
マスクは他の角度からも、ツイッターに対する信頼を損ねていった。2023年2月、フェニックスで開催されたスーパーボウルを観戦したマスクは、自分が投稿したフィラデルフィア・イーグルスに関するツイートが、ジョー・バイデン大統領のイーグルスに触れたツイートよりも閲覧数が少なかったことに腹を立てながらカリフォルニアに戻った。
その後に何が起こったか。ツイッター従業員による、アルゴリズムの微調整である。マスクのツイートに有利に働くように従業員が奮闘したのである。微調整のはずが、担当グループが張り切りすぎたのか、あらゆるツイッターユーザーのフィードが、マスクの投稿で埋め尽くされる始末となった。
マスクはそれを笑い飛ばし、問題をソフトウェアのバグのせいにしたが、マスクはいつでも自分の都合のいいようにサービスを調整することができるし、そうするつもりなのだと、皆が知るところになる出来事だった。
このようなツイッターの惨状に、水中で血の匂いを嗅ぎつけるサメのように、好機を見出す会社が現れる。2023年前半、いくつかの企業がツイッターの「クローン」プロダクトの構築に取り組み始めた。ツイッターの凋落により生じた空白を埋め、不満を抱いてツイッターから離脱するユーザーを拾いあげようとしたのだ。
新たな対抗サービスの一つが、マーク・ザッカーバーグとインスタグラムによる、ツイッターにうりふたつの「スレッズ(Threads)」だ。スレッズのローンチに際してザッカーバーグは「10億人を超える人々が利用する、おおやけの場での会話のためのアプリがあるべきだと考えている」と書いている。「ツイッターにはそれを実現する機会があった。だが成功していない」
■「ザッカーバーグは間抜け」とののしったイーロン・マスク
ザッカーバーグとマスクの間には、スレッズ誕生以前から、何年にもわたる確執があった。人工知能(AI)の将来的なリスクに関する、両者の意見の対立は周知の事実だ。
AIは本質的に危険なものであると捉えるマスクに対して、ザッカーバーグはマスクがAIの脅威を過大評価していると言う。その一方で、マスクはザッカーバーグのSNSプロダクトを侮蔑しており、インスタグラムは人々を憂鬱にさせ、人々の悲しみを深めると考えていた。
スレッズ以前は、競合として直接ぶつかることはなかったが、単なるビジネス上のライバルとして片づけられない関係であることもまもなく表面化した。マスクがザッカーバーグにケージファイトでの対決を挑み、総合格闘技(MMA)に熱中しているザッカーバーグはマスクの申し出を受け入れた。
その後、数日にわたりオンライン劇場でのパフォーマンスが続いた。だがそれも、マスクお得意の攻撃で終止符が打たれることになった。例のごとく、常識外れのツイートを投稿したのである。
スレッズのローンチ直後、「ザックはクーク(寝取られ男、間抜け)」とXに書きこみ、「文字通りの意味で、陰茎測定コンテストを提案したい」と続けたのだ。ザッカーバーグは数日後、対戦の中止を宣言した。「イーロンはふざけている、そのことに異論のある者はないと思う。かかずらっている場合ではない」と書いている。
■Xは「衝撃と畏怖」の場へ変貌を遂げた
ツイッターを買収した当初、マスクはこのアプリを「最大限に信頼され、広く受け入れられる」ものにするという目標を掲げていた。ツイッター2.0が始動して1年、マスクはそのどちらも達成できていない。
今やXとなったツイッターは、ニュースのためのもっとも重要なソーシャルネットワークとしての地位を失った。その代わりに、マスクがハーメルンの笛吹き役を務める「衝撃と畏怖(訳注:圧倒的戦力を見せつけることで、敵の戦意をくじく戦略。米軍がイラク戦争で採用した軍事ドクトリンとして知られる)」のサービスとしての役割が拡大した。
マスクがどこまで本気なのか、自分の影響力の大きさを理解しているのか、ときに判断が難しく感じられることがある。今になっても、膨大な数のフォロワーを危険な形で利用することがある。
ツイッターの元従業員ヨエル・ロスを小児性愛者だと示唆し、自宅の売却に追いこんでからほぼ10カ月、あるテック・カンファレンスにロスがスピーカーとして姿を見せるや、マスクが再び口撃を開始した。
「ヨエル・ロスほど純粋な形の悪は、まず見たことがない」と、約1億6000万人のフォロワーに向けて書いたのである。だが今回は、自分に向けられた罵詈雑言の嵐をロスが目にすることはなかった。ロスはもうツイッターを利用していない。
■「成功」への唯一の障害は“マスク自身”
マスクがすべてを好転させる可能性はまだある。テスラでも、スペースXでも実際にやり遂げてきた。Xで再びそれをやってのけるのに必要な資金も確実に持っている。
1年目は惨劇続きで終わったが、マスクは1年という短い時間軸で行動する人物ではない。もしかしたら、すべてが次の大逆転ストーリーの始まりに過ぎないのかもしれない。だが、ほとんどの日は、そのような成功物語へとつながる道を阻んでいる唯一の障害が、マスク自身であるように感じられるのだ。
「イーロンを間近で見て、良いところも悪いところも、醜いところも含めて、たくさんのことを学んだ」と書いたのはエスター・クロフォードだ。マスクが求めたプロダクト改良の締め切りに間に合わせようと、オフィスの床上で寝袋にくるまって眠った当時のプロダクト担当幹部である(ちなみに彼女はその数カ月後、コスト削減の一環として実施された人員整理で解雇の対象となった)。
「彼の豪胆さ、情熱、そしてストーリーテリングには感動を覚えます。でも、プロセスと共感の欠如は見ていて痛々しいほどです」
「イーロンは、物理学をベースにした難しい問題と格闘する上では、優れた才能を有しています」と彼女は続ける。「ですが、人と人のつながりやコミュニケーションを促すプロダクトには、それとは異なるタイプの社会的知性や感情的知性が必要なのです」
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シアトル近郊で育ち、サンタクララ大学を卒業。妻と2人の子どもとともにコロラド州デンバーに暮らす。テック系ニュースサイト、レコード(Recode)、ソーシャルメディア関連情報サイト、マッシャブル(Mashable)、フォーチュン誌(Fortune)などで記事を執筆。2013年からソーシャルメディアの動向を追っている。2019年よりブルームバーグのジャーナリストとして、ビジネス、テクノロジー、ソーシャルメディアを担当。受賞歴多数。
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(ビジネス、テクノロジー・ジャーナリスト カート・ワグナー)
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