「後でやればいいや」と考える人の脳の構造は一生変わらない…それでも"すぐやる脳"に近づける簡単な習慣8
プレジデントオンライン / 2024年12月13日 7時15分
■太古の昔から脳は怠惰にできている
今、やっておけば後がラクなのに、つい先のばしにしてしまうという悩みを持つ人は多いことでしょう。しかし、そんな自分を責める必要はありません。なぜなら、そもそも人間の脳は「怠け者」なのだから、仕方ないのです。
脳が怠惰な理由は3つあります。
1つ目は、エネルギーの節約のためです。脳はとんでもなく燃費の悪い臓器で、わずか1.4キログラムほどの重さなのに、人間が1日に必要とするエネルギーの20%も消費します。そこで、できる限りエネルギーを節約しようと、あの手この手で休もうとするのです。人間も動物ですから、太古の昔から常に外敵から身を守る必要がありました。外敵に襲われたときは、一目散に逃げるか必死で戦うしかありません。肉体に最大限のエネルギーを注がなければならないので、脳がエネルギーを使わないようになったのです。人間が今日明日の食糧に困ることがない社会になったのは、人類の歴史から見ればつい最近のことですから、脳の機能が社会の変化に追いついていないのです。
2つ目は、脳には「周りに流されやすい」という特徴があるからです。幼い子どものように「みんなと一緒」という状態を好みます。このような癖を経済用語では「バンドワゴン効果」と呼びます。「○○が流行っている」とか「みんな△△をしている」といった情報を知ると、自分もそうしないと不安になるのです。反対に、みんながしていないことは、自分もしたくないという心理が働くため、誰も頑張っていない場所で自分だけ頑張ることができないのです。
3つ目は、脳は「誘惑に弱い」からです。たとえば満腹でも、ケーキを目にした途端、「別腹」といって食べる人は少なくありません。人の脳は、視覚や聴覚、嗅覚などの五感によって過去の体験を呼び覚まし、新たな欲望が生じやすくできています。怠惰で誘惑に弱い――これが脳の本性なのです。ですからみなさんの「先のばし癖」も、じつは自然なことであって、自分を責める必要などないのです。
とはいえ、社会生活を送るうえで「先のばし癖」を放っておくわけにもいきません。先のばしをすると、無駄な時間を膨大に生んでしまいます。では、「すぐやる」人になるには、どうすればいいのでしょうか。
脳科学の観点から結論をいうと、やる気を出す神経伝達物質「ドーパミン」をいかに分泌させるかが鍵となります。人は「成功体験」をしたとき、脳内にドーパミンが分泌されます。ドーパミンが出ると心地よい状態になり、「またその状態になりたい」と、脳の中でその行動にまつわる部位の働きを活性化させようとします。そのような傾向を「強化学習」と呼びます。つまりドーパミンには、依存性があるのです。
さらにこのドーパミンは、成功体験をした後だけでなく、成功が予測されるときにも多く分泌されます。その効果によって「やる気」を引き起こすのです。ということは、ドーパミンをコントロールすれば、「やりたくない脳」を「やりたがる脳」に変えられるというわけです。
ドーパミンをコントロールするには次の3つのステップを実践します。
■ステップ①自己暗示をかける
最初のステップは「自己暗示をかける」です。偽の薬も本人が薬と信じて飲むと、症状に改善が見られることは医療の世界でもよく知られています。これは「プラシーボ効果」と呼ばれるものです。ハーバード大学医学部の麻酔科医ヘンリー・ビーチャー氏の論文によると、手術後の疼痛(とうつう)、せき、頭痛などのさまざま症状に対して21〜58%のプラシーボ効果が認められています。そしてこの効果は、自己暗示でも表れると言われています。
「○○を×分で行う」「今日は○○を必ずやる」などと、小さな目標を声に出して言い、自分に言い聞かせることで、脳を「やる気」にさせられるのです。このとき、声に出すのがコツです。自分の声を耳で聞くことで聴覚に働きかけ、脳に強く刻み込むと、より効果が高まります。
■ステップ②小さい目標に分ける
大きな目標にいきなり挑んでも、達成感を得るまでには時間も労力もかかるため、ドーパミンは出ません。そこで神経学者のジュディ・ウィリス氏は「小刻みに目標を設定すること」を勧めています。スモールステップ化することで、ドーパミンを思いどおりに出せるようになるからです。
たとえば仕事で本を1冊読まなければならないときに、一気にまとめて読もうと思うと、なかなか読み始めることができません。それを「これから1時間で3分の1読み終える」と目標を小さくすると、すぐに読み始められるうえ、3分の1しか読んでいないのに、達成感を味わえます。スモールステップは少し余裕を持って達成できるくらいの負荷で設定すると、その都度ドーパミンの効果を得られるのです。
目標の重要性や達成度の大きさではなく、フィードバックの回数の多さを重視する(できるだけ細かくする)ところにポイントがあります。
■ステップ③ドーパミンを分泌させる
前に触れた通り、ドーパミンは人が目標を達成したときだけでなく、成功を予測したり、望みが達成できることが期待できるといった、「報酬」が予測されるときにも分泌されます。この特性を利用してドーパミンが出るように工夫することにより、「すぐやる」人に変われるというわけです。
ではどうすれば「ドーパミン」の分泌を促すことができるのか。基本的なところからいうと、まずは心身の健康が第一ということです。疲労がたまった状態や、過度のストレスを抱えている状況では、ドーパミンの分泌が抑えられてしまいます。そのため睡眠時間をしっかりとることが大切です。
もう一つ、重要なことは、やる気があろうとなかろうと、まず始めることです。というのも、作業を始めることによって脳内のやる気スイッチに指令が届き、そこからやる気がわいてくるというメカニズムが脳にあるからです。この現象を「作業興奮」と言います。
その仕組みを説明すると、手を動かすことでその信号が大脳の「腹側淡蒼球(ふくそくたんそうきゅう)」に伝わり、さらに「側坐核(そくざかく)」(神経細胞の集団)が刺激されると言われています。この「側坐核」が「やる気スイッチ」なのです。
ということで「すぐやる」ための最善策は状態も状況も気にせず、何よりまず着手することが重要なのです。じつはこれが結果を出す人と出せない人の差でもあります。やる気が起こるのをぼんやりと待つのではなく、行動することでやる気を目覚めさせてください。
またウオーキングなど、適度な運動をすることもお勧めです。一般的に運動は血流を促進し、脳にも酸素が十分に供給されることから、パフォーマンスが上がると言われますが、それに加えて「作業興奮」の原理も働くのです。特に、ウオーキングは創造的思考に向いていると言われ、昔から世界的な経営者や研究者が好んで行っています。
「すぐやる」人になるには、完璧主義をやめることも非常に重要な要素です。人は質を求めれば求めるほど、着手するのが遅くなるのが常なのですが、その理由は「逃避」という心の「防衛機制」が働くからです。100点を目指す仕事の仕方ではなく、合格点スレスレで十分だと思えば、行動を始めるハードルが下がります。質を極めて時間をかけるより、完璧ではなくてもアウトプットの総量を増やすほうが、現代の仕事のあり方として評価されるのではないでしょうか。
また「仕事は決められた順番通りにするもの」とか、「読書は1ページ目から始めるもの」と思い込んでいる人も多いのですが、仕事も読書も興味のあるところから始めればいいと割り切ることも大切です。それによって始める際の心理的なハードルを低くし、「すぐやる」の実践に繋がります。
先ほど触れた、スモールステップを設定して実行するうえで、お手本を見つけることも大切です。たとえば自分の進みたい道に詳しい人や憧れの人を身近に見つけてメンターになってもらえれば、正しいステップの作り方を教えてもらうことができます。
日頃から自分の好奇心を満たすことも重要です。好奇心こそドーパミンの分泌に欠かせない要素だからです。周囲の出来事に関心を持ち、新しいことに挑むことによって、脳の働きが増します。特に、ドーパミンは楽しいことをすることで放出されますから、何かに興味を持って行動するきっかけを作ることも大切です。
私のお勧めは、書店でまったく興味のないコーナーに行くこと。さまざまなタイトルが並んでいるのを眺めるだけで、新しい世界に興味を持つきっかけを見つけることが期待できます。
最後に、やる気が続かないという人には、キリが悪いところでやめることを提案します。中途半端なところでやめると、「続きをやりたい」という気持ちが強く働き、やり遂げたときにそれが報酬となってドーパミンが放出され、幸福感や達成感を感じることができるからです。
このように脳の特性を理解したうえで、ドーパミンをうまくコントロールすれば、あなたも「すぐやる」人になれるに違いありません。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月15日号)の一部を再編集したものです。
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日本脳神経外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター
脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、菅原クリニック東京脳ドック(港区赤坂)院長。杏林大学医学部卒業。「人生目標から考える医療」のスタイルを確立し、心や生き方までをサポートする医療を行う。著書に『すぐやる脳』(サンマーク出版)など。
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(日本脳神経外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター 菅原 道仁)
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