腸を整えるのはヨーグルトだけではない…人類の健康維持に必須な「善玉菌のエサ」となる身近な食べ物の名前
プレジデントオンライン / 2024年12月16日 16時15分
■イントロダクション
野菜でビタミンCや食物繊維を摂取するのが健康にプラスに働くことは常識だ。だが、具体的にどんな野菜が、どういう効果を、どれほどもたらすのか。また、なぜ私たちの食事に野菜が欠かせないのか詳しく語れる人は少数だろう。
実は人類の歴史をたどると、野菜の摂取が種の存続に関わってきたようなのだ。
本書では、遺伝子を研究し、予防医学に取り組んできた医師が、「なぜ人は野菜を食べるべきなのか」を科学の知見を踏まえて幅広く解説。菜食と進化、歴史との関係、栄養学および予防医学からみた野菜の機能、そしておいしく野菜を食べるためのレシピなど、野菜に関する雑学的知識を豊富に提供する。
野菜にさまざまな有益な成分が含まれている理由は、その場から動けない野菜だからこその生存戦略なのだという。
著者は医学博士で、国際医療福祉大学病院内科学/予防医学センター教授。DNAチップ技術を世界でほぼ初めて臨床医学に応用し、論文を発表。また人工透析患者の血液の遺伝子レベルでの評価法を開発し、国際特許を取得している。
2.肉と野菜、食べるべきはどっち?
3.野菜で病気を防ぐ
4.おいしい野菜とは?
5.野菜と食の未来について
■野菜の持つパワーの源泉は、植物の「生存戦略」
野菜にはものすごいパワーがあります。その源泉は、植物の生存戦略にあります。植物は動物と違って、逃げも隠れもできません。有害な紫外線や、土中の病原菌、害獣や害虫から、自分の力で身を守らなければならない。そのために植物は、紫外線による酸化の防止、殺菌や解毒、害虫の駆除などに役立つさまざまな成分を、自ら生み出しています。
私たちは野菜を食べることによって、そうした有益な成分を体内に摂り入れているのです。
また、そうした成分の中には、薬に転用できるものもたくさんあります。私たちが現在、使用している薬剤の7割以上は、植物由来であるか、もしくは植物にヒントを得ているものと言われています。
■ホモ・サピエンスが生き延び、ネアンデルタール人が滅んだ理由
ホモ・サピエンスは、太古にサルから進化したヒト属の中で唯一、現代まで命脈を保っている種族です。しかし太古から続く歴史の中では、ホモ・サピエンス以外にも、この地上で繁殖し、そして滅んでいったさまざまなヒト属がいました。ネアンデルタール人もそのひとつです。
順序からいうと、ネアンデルタール人が絶滅した後に、現生人類であるホモ・サピエンスが登場したかのように捉えられがちですが、実際にはこの両者は、かなり長い期間、並行して存在していました。
両者の命運を分かつ最大の決め手となったのは、食生活の違いだったのではないかと私は考えています。ネアンデルタール人が登場した時代のヨーロッパは寒冷な気候で、荒れ地が広がっていたため、彼らの食生活は、肉食に偏る傾向が強かったと考えられています。一方、ホモ・サピエンスは雑食性であり、食べるものの3分の2は野菜だったといいます。
ホモ・サピエンスは、植物成分を摂取することによって、免疫力を高めていたと考えられます。つまり、ホモ・サピエンスの方がネアンデルタール人よりも、疫病等に強かったのではないかと私は考えています。
■植物が作り出す成分の種類は100万はあると計算できる
植物が生み出す成分の種類は、全部でいったいどれくらいあるのでしょうか。植物が生み出す成分とは、トマトに含まれるリコピン、ナスやサツマイモに含まれるアントシアニンといった化学成分のことです。
特定の植物種だけに含まれる固有の化学成分は、一種あたり平均して4.7個であると推定されています。これに植物種の推定総数である20万をかけ合わせるだけでも、ざっと100万。つまり、植物が作り出す成分の種類は、100万はあるという計算になります。
そもそも植物細胞は、シアノバクテリアという細菌が真核細胞に取り込まれ、葉緑体に進化して細胞内で共生するようになったことで誕生したと見られています。
葉緑体は、太陽光を浴びることで大気中の二酸化炭素を固定し、糖質と酸素を作り出します。植物は、それに加えて根から土中の養分を吸い上げて暮らしているわけですが、限りあるリソースを生長に投資して、自らも大きくならなければならない中、吸い上げた養分や光合成で作り出した糖分は、効率よく配分する必要があります。
そこで植物は、自らが生み出す成分のひとつひとつに、できるだけ多くの機能を持たせるようにしてきました。ひとつの成分が多機能であればあるほど、身を守るコストは少なくて済むからです。
■ブルーベリー、ナス、紫キャベツに含まれるアントシアニン
ここでは、アントシアニンを例に取って見てみましょう。アントシアニンはポリフェノールの一種で、ブルーベリーやブドウなどの果実、ナス、紫イモ、赤タマネギや紫キャベツなどに多く含まれる青紫色の天然色素です。
アントシアニンの持つ機能としてとりわけ重要なもののひとつは、紫外線から保護する作用、すなわち抗酸化作用です。
野菜などに含まれる抗酸化成分は、近年、健康との関連で特に注目されている物質です。アントシアニンをはじめとするポリフェノール以外にも、カロテノイド、クロロフィル、フィコシアニンなどにもこの抗酸化の働きがあります。
紫外線は、多くの生物に有害な影響を及ぼし、細胞内に活性酸素が発生する原因となります。活性酸素とは、通常の酸素よりも反応性が高く、接触したものを酸化させる性質を持つ物質です。金属が酸化に伴って錆びるように、われわれの体も、酸化すればダメージを受け、老化が進みます。
こうした紫外線からのダメージは、植物も当然、受けています。日光を避ける術がない植物にとっては、事態はいっそう深刻と言っていいでしょう。そのダメージへの対抗手段として植物が生み出している防御物質──それこそが抗酸化成分なのです。
そうした成分を、人類も含めた動物は、自ら作り出すことができません。だから、植物を摂取することで補う必要があるのです。アントシアニンもそのひとつであり、植物を鮮やかに色づかせる色素であると同時に、植物の細胞を酸化から防御する働きもしています。
■腸内細菌が健康に与える多大なる影響
ビタミンB1が欠乏すると、脚気という病気を引き起こします。というより、19世紀から20世紀への端境期、脚気を発症する原因を研究者たちが探っていったことこそが、ビタミンB1の発見につながったのです。
最近、腸内細菌についての研究が進む中で、意外な事実がわかってきました。それは、食したジャガイモの成分を原料として、ヒトの腸内でもビタミンB1が作られているのではないかということです。
ヒトの体内に生息する細菌の90%は腸内に存在し、腸内細菌叢を形成しています。その様子が花畑(フローラ)に似て見えることから「腸内フローラ」とも呼ばれるわけですが、健康維持においては、これが途轍もなく大きな役割を果たしているのです。
これらの腸内細菌は、すべてがいい働きをするわけではなく、その作用の別に応じて、俗にいう「善玉菌」「悪玉菌」そして「日和見菌」に分類されます。日和見菌は、腸内環境において善玉菌と悪玉菌のどちらが優勢であるかによって、優勢である側に加勢するような働き方をすると言われています。
■食物繊維が善玉菌の栄養源になる
こうした腸内細菌は無数の酵素を持っており、それが消化の過程で腸を通過するものにさまざまな作用を及ぼします。その中には、ジャガイモに含まれるある成分に働きかけ、ビタミンB1として機能するように変換してくれるものも含まれているということが、最近になってわかってきたのです。つまり、ジャガイモを食べれば食べるほど、腸内で作られるビタミンB1も増えていくということです。
腸内環境のバランスは、長期間の食生活に影響される面が強く、人種や住んでいる地域などにも大きく左右されます。標準的な日本人の腸内細菌においては本来、善玉菌であるビフィズス菌の占める割合が大きかったのですが、近年それが減少し、逆にバクテロイデスやクロストリジウムなどの悪玉菌が増加していると聞きます。
では、自分自身の腸内の善玉菌を育てるにはどうすればいいのでしょうか。ここで主役を演じるのもやはり、野菜なのです。野菜に大量に含まれる食物繊維が、腸内の善玉菌の栄養源になるということが、最近の研究でわかってきたのです。
■食物繊維自体から栄養を摂ることはできない
そもそもわれわれ哺乳類は、食物繊維を自力では分解することができません。食物繊維はセルロースからできていますが、これは本来、植物が自らの細胞を守るために作り出した強靭なプロテクターです。
人類は食物繊維自体から栄養を摂ることはできないのですが、植物の繊維を摂取することが、人類の健康維持にとっても重要だということははっきりと言えます。
なぜかといえば、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が、腸内でそれをエサにして増殖し、結果として腸内環境を整えることにつながるからです。また、食物繊維自体が腸内の有害物質を吸着し、便と一緒に排出されるといった形で、腸内の「掃除屋」の働きも担っていることがわかっています。
だから積極的に食物繊維を摂るようにすれば、それだけ善玉菌の餌となり、腸内環境を本当の意味で整えることができるようになるのです。野菜を食べるべき理由は、そこにもあるということです。
■コメントby SERENDIP
著者は食生活における野菜摂取の重要性を強調してはいるが、ベジタリアンやヴィーガンになることを勧めているわけではない。肉食のメリットについてもしっかりと述べている。ただし肉類の過剰摂取は腸内環境を荒らすため、「野菜は、肉の倍以上食べましょう」あたりが妥当と考えているそうだ。さらに、野菜については多種類を取り混ぜて食することが好ましいとしている。食事を「楽しむ」という視点からも、さまざまな種類の野菜の味や食感を、選り好みをせずに試してみることが、心身のウェルビーイングにつながるのではないだろうか。
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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)
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