骨がハサミで切れるほどふにゃふにゃに…最悪の場合「寝たきり」を招く抗炎症剤「ステロイド」の深刻な副作用
プレジデントオンライン / 2024年12月15日 9時15分
※本稿は、斎藤充『100年骨』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■日本人は体質的に骨質が劣化しやすい
骨粗しょう症は、骨密度と骨質の善し悪しで、3つのタイプに分類できます。私たちはこのことを、閉経後の女性患者さん502名を対象に行った研究で明らかにしました。
3つのタイプは次のようなものです。
I、「骨質劣化型」……骨密度が高く骨質が悪い
II、「低骨密度型」……骨密度が低く骨質がよい
III、「低骨密度+骨質劣化型」……骨密度・骨質ともに低い
「骨密度が高く骨質のよい人」に比べて、Iのタイプでは1.5倍、IIでは3.6倍、IIIのタイプは7.2倍も骨折の危険性が高くなることがわかっています。
それぞれの比率は3:5:2。骨密度は高いのに骨質が悪い「骨質劣化型」が、意外と多いことにお気付きでしょうか。
これは、我々日本人が、遺伝的に酸化ストレスが高くてホモシステイン濃度が高くなる人種であることも一因です。私たちは体質的に骨質が劣化しやすい、と意識することが大切です。
そこで厄介なのが、一般的な骨粗しょう症検査では骨密度しか測らないため、骨質の劣化がスルーされてしまいがちなことです。
■骨粗しょう症は「単なる老化」ではない
生活習慣病があったり、性ホルモンの減少がみられたりした場合、骨質の大切さがわかっている医師なら、たとえ骨密度が高かったとしても骨粗しょう症を疑い、治療をすすめます。
ですが、骨質の重要性はなかなか社会には広まっていない現状があります。そもそも骨粗しょう症検査の検診率はわずか5%。隠れ骨粗しょう症患者の割合は、約1600万人もいる想定患者のうち8割もいるとされているのです。
「単なる老化」と軽く考えている人も多いようですが、骨粗しょう症はADL(日常生活動作)の低下のみならず死亡のリスクも高める怖い病気です。一方で、きちんと専門医に診てもらい、食事、運動、薬によるケアを行えば、骨の強度はみるみる回復し、骨折を防止できます。
ですから、本稿を読んで「もしや」と思ったならば、専門外来で検査を受けて、予防・診断・治療に進んでください。
■「いつのまにか骨折」を招く「低骨密度+骨質劣化型」
3タイプのうち、最も注意が必要なのは、IIIの骨密度・骨質ともに低い「低骨密度+骨質劣化型」です。この人たちは骨折のリスクが健常な人たちに比べて7.2倍に跳ね上がります。
7.2倍とは大変な数字で、治療しなければ、将来高い確率で骨折を避けられません。その上、背骨の「いつのまにか骨折」が重症化する確率も高く、かつ大腿骨近位部骨折のリスクも高いことも、私たちの研究で明らかになっています。
ある病気の発症を引き起こすリスク要因を「リスクファクター」と呼びますが、このリスクファクターは2つ重なると、×(かける)2、ではなく、相乗的にリスクを上昇させます。
たとえば心筋梗塞や脳梗塞は、糖尿病があって腎機能も悪いとなると、その罹患リスクはダブルパンチでアップします。
糖尿病だけであれば心筋梗塞のリスクは病気がない人の2倍ですが、そこに腎機能の低下が加わると、どちらか一方だけでも心筋梗塞を起こすので、相乗的に危険が増します。だから、タバコを吸っていて、糖尿病はないけれども腎臓が悪いという人は、リスクファクターが2つになります。
■骨密度も骨質も治療でリスクを下げられる
こういった場合は、医師としては、腎機能低下は止められないため「タバコをやめましょう」と指導することになります。合計のリスク値を下げるためです。
幸いにも、骨粗しょう症では、「低骨密度+骨質劣化型」の人については、骨密度も骨質も両方とも治療で簡単にリスクを下げることができます。治療できることを知り、治療を受けてほしいと思っています。
骨粗しょう症の中でも、私の大学の専門外来で診ているのは「難治性」の骨粗しょう症です。
「難治性」とは、骨粗しょう症治療を継続的に1年以上行っても、新たに背骨や大腿骨の骨折を起こしてしまった患者さんです。「難治性原発性骨粗しょう症」「続発性骨粗しょう症」「骨軟化症」「骨パジェット病」などの専門性の高い疾患が対象となります。
〈難治性の原発性骨粗しょう症〉
原発性骨粗しょう症は一般的な骨粗しょう症のことで、女性ホルモンの減少にともなって起きる閉経後骨粗しょう症や日々の生活習慣(食生活、運動不足、喫煙や多量の飲酒等)によって発症する骨粗しょう症も原発性骨粗しょう症に含まれ、そのうち特に重症なものを「難治性」と呼んでいます。
■よく聞く「ステロイド」は骨粗しょう症の副作用が
〈続発性骨粗しょう症〉
続発性骨粗しょう症は、特定の病気や薬が原因で起こるものをいいます。
なかでも「ステロイド性骨粗しょう症」は患者数が多く、若い層や男性にも発症することから社会的影響が大きいため、日本骨代謝学会は「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン:2014年改訂版」を出して(検索すると無料で読めます)、医療現場への注意を呼び掛けています。
読者の皆さんも「ステロイド」はご存じですね。ステロイドは、強力な抗炎症、抗免疫作用を持ち、関節リウマチ、膠原病(こうげんびょう)、血液疾患、呼吸器疾患、腎疾患、消化器疾患、皮膚疾患を含め、多くの治療に使用されています。しかし一方で、次のような多彩な副作用が知られており、特に骨粗しょう症は副作用の4分の1を占めています。
●離脱症候群(薬の服薬を急にやめるなどで起こる症状。めまい・頭痛・吐き気・だるさ・しびれ・耳鳴り・イライラ・不安・不眠・ソワソワ感などの症状がみられる)
●精神障害
●糖尿病
●満月よう顔ぼう(ムーンフェイス:満月のように丸く、ふっくらとした顔になる)
●消化性潰瘍
★骨粗しょう症
●緑内障・白内障
●高血圧 など
■はさみで切れるほど骨が軟らかくなる
私たちのチームの研究によって、ステロイドはからだのサビであるAGEsをまったく増やさないため、悪玉架橋をできなくするものの、骨の強度を高める善玉架橋もまったくできないようにしてしまうことがわかっています。
骨の強度が低下し、骨の中のコラーゲンが赤ちゃんのようになってしまうため、ステロイド性骨粗しょう症の人を手術すると皮膚も腱もふにゃふにゃで、骨もはさみで切れるほど軟らかくなっています。診療では、この骨質の異常を見逃さないようにするのが重要です。
〈骨軟化症〉
正常な強い骨が形成されるためには、骨基質の石灰化(リン酸カルシウムや炭酸カルシウムなどが沈着すること)が必要です。骨軟化症は骨や軟骨の石灰化が障害されることにより「類骨」の割合が増えることで起こる病気です。
類骨とは、未熟で弱い(軟らかい)未石灰化部分のことで、類骨の割合が増えると、偽骨折(日常生活で起こるなかなか治らない骨折)による骨の痛みや骨折、筋力低下など、さまざまな症状が生じます。
同様に骨や軟骨の石灰化障害がきっかけとなる小児の病気に「くる病」があります。成長期に発症するものは「くる病」、それ以降に発症するものは「骨軟化症」と呼ばれます。
■頭痛や聴力、視力障害を引き起こす骨パジェット病
〈骨パジェット病〉
骨代謝の異常により、骨の一部または左右非対称に複数箇所の骨が変形したり、もろくなったりする病気です。
通常、骨の強度は骨吸収と骨形成のバランスが保たれることで維持されますが、骨パジェット病では病変部分の骨代謝のバランスが崩れ、骨がもろく弱くなります。そのため、ささいな衝撃でも骨折しやすくなったり、骨の変形にともなって、頭痛や噛み合わせの異常、聴力障害、視力障害、変形性関節症、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)など、全身にさまざまな症状が引き起こされたりします。
これらの患者さんに対して、私たちの外来では、十分な検査を行った上で、月に1回の静脈注射、半年に1回の皮下注射、骨形成促進剤(連日、または週1回皮下注射)など、患者さん一人ひとりにとって最適なテーラーメイド治療を行っています。
■日本人の98%もが「ビタミンD不足」だった
2023年、私たち慈恵医大チームは日本人の健康にとって重大な報告をしました。
それは、98%の日本人が「ビタミンD不足」に該当するということ。
これは、私たちが日本で初めて明らかにしたことで、直近の医学書(『イヤーノート』)には「(ビタミンDは)通常の食事摂取で欠乏症、過剰症が生じることはない」とありましたが、それは現代においては正しい解釈とは言えないことがわかりました。
ただ、これは仕方がないことでした。というのも、従来は血中のビタミンDを正確に測る手段がなかったからです。
そこで私たちは島津製作所と共同で開発した液体クロマトグラフィー・新質量分析法(LC-MS/MS)システムを使用して、東京慈恵会医科大学附属病院新橋健診センターで健康診断を受けた5518人を対象に調査してみました。すると、これまでの常識を覆す、驚きの結果が出たというわけです(これについては拙著『100年骨』(サンマーク出版)第3章で詳述します)。
ちなみにこのシステムでは、ビタミンD同様、今まで測定できなかったビタミンKの測定も可能になりました。ビタミンKもまた、骨の強度にとってなくてはならないビタミンであることがわかっています。
※『イヤーノート』(2023)より:『イヤーノート』は医師国家試験に臨む学生の90%が所有している、医学生の参考書。毎年改定され、最新の医学情報が反映されている。
■いくらカルシウムを摂取しても吸収されない
さて私たちがビタミンDについて調べたのは、骨の強度にとって欠くべからざる重要な役割を果たす成分だからです。
ビタミンDには、カルシウムを腸から吸収させて、骨を形成させる働きがあります。ビタミンDが足りなければ、いくらカルシウムを摂取しても吸収されず、大便として排泄されるだけとなってしまいます。
骨を強くしたいなら、まずはビタミンDを摂って、プラス骨の代謝に必要なカルシウム等を摂らなければ効果がないのです。
さらに調査では、若者ほど、ビタミンD不足の割合が高いこともわかりました。
若者の場合、ビタミンDが少ないと、骨粗しょう症というよりも、疲労骨折を起こしやすく、骨折が治りにくいといった悪循環が起こる可能性があります。
マラソン選手が時折、試合中に疲労骨折で棄権したりしますよね。あれはビタミンD不足が影響しています。
■キノコなどからも摂取できる
また、ビタミンDが決定的に足りない「欠乏症」になると起きてくるのが、先に説明した子どもでは「くる病」、大人では「骨軟化症」です。これは、骨を形成する過程で石灰化がうまくいかず、弱い骨がつくられてしまう病気です。
日本人の98%がビタミンD不足である理由は、食生活の変化があげられます。
現代社会では特に、キノコなど植物由来のビタミンDが摂取されなくなったせいではと推察されます。
ビタミンDは、骨粗しょう症だけでなく感染症や心血管疾患や神経筋疾患、自己免疫疾患発症にも関連すると言われていて、新型コロナウイルス感染症の重症化因子としても注目される重要な栄養素です。
人生100年時代と言われる現代。骨も100年健康を保つために、骨粗しょう症・骨折の予防につながるビタミンDやKの摂取はますます重要となっています。
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東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授。同大附属病院整形外科・診療部長。1992年、東京慈恵会医科大学卒。2020年より現職。日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本人工関節学会理事などを兼務。骨代謝の診断・治療・研究で国内外を牽引する。
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(東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授 斎藤 充)
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