「ヨボヨボ骨」は2年あれば若返る…骨粗鬆症の82歳男性が何度転倒しても骨折しなくなった驚きの理由
プレジデントオンライン / 2024年12月17日 9時15分
※本稿は、斎藤充『100年骨』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■骨密度の検査にはデキサ方法がおすすめ
骨粗しょう症の検査①骨密度を調べる
まず骨密度を調べる検査には、以下のような種類があります。
●DXA(デキサ)法 ★★★
エネルギーの低い2種類のレントゲンを使って骨密度を測定する検査法です。
測定する部位は、背骨の腰に近い部分(腰椎)と足の付け根(大腿骨近位部)の2つの部位をスキャンし、スキャンデータを計算することによって「骨成分」だけを測定しようとする測定方法です。
●MD(エムディ)法 ★
手のひらを、真ん中にアルミニウムスケールがある台に乗せてレントゲン撮影し、第二中手骨(人差し指の付け根から手首までの骨)とアルミニウムの画像の濃淡を比較して骨密度を測ります。簡便さがメリットで、企業の健康診断のオプション検査にも採用されている場合もあります。しかし、手指のような末梢の骨で骨密度の低下がわかるには、背骨や足の付け根の骨密度低下から10~15年ほどかかるため、あまり当てにできません。
●超音波法 ★
測定装置に足を乗せて、かかとの骨に超音波を当てる測定法で、簡単に行えることから広く普及していますが、骨密度の検査ではありません。
単純にかかとの骨に当てた音波が返ってくるスピードを測っているだけで、カルシウムは一切見ていないため、診断には使わないことになっています。将来的には、骨粗しょう症検査から外れる可能性があります。
■若い頃から身長が2cm以上縮んでいたら…
骨粗しょう症の検査②「いつのまにか骨折」の有無を調べる
そもそも自分が「いつのまにか骨折」をすでに起こしていないかを調べてもらいます。
「いつのまにか骨折(椎体圧迫骨折)」の有無は、胸椎・腰椎のレントゲン検査によって調べます。
●〈胸椎・腰椎X線検査〉★★★
若い頃から比べて身長が2~4cm縮んでいる方は、「いつのまにか骨折」をすでに起こしている可能性がありますので、整形外科でレントゲンを撮り骨折がないかを確認します。
骨粗しょう症の検査③骨の新陳代謝の状態を調べる
骨の新陳代謝の状態は、血液検査と尿検査で調べます。
血中または尿中の骨芽細胞や破骨細胞の産生する酵素やタンパク質、骨が壊れたりつくられたりする際に生じるコラーゲンの代謝産物が「骨代謝マーカー」です。この骨代謝マーカーを調べることで、骨の新陳代謝の変化や骨質が推定できます。
マーカーとは、正確には「バイオマーカー」と言い、ある疾患の有無や、病状の変化や治療の効果の目安となる「生理学的な指標」(血圧や心拍数、心電図など)や「生体内の物質」のことです。
簡単に言えば「目印」のようなもので、マーカー検査とは、それらを調べる検査です。
■骨代謝マーカーでわかること
骨粗しょう症の検査で調べるのは主に「骨形成マーカー」「骨吸収マーカー」「骨マトリックス関連マーカー」の3種類で、「骨吸収マーカー」の値が高い場合には、骨密度の減少速度が速く、骨密度の低い高齢者では骨折リスクが高くなります。
このような症例には骨吸収を「抑制」するような薬剤が必要になります。逆に骨吸収マーカーが基準値以下に低下している場合には骨代謝を刺激して「骨形成」を高める薬剤が必要になりますが、日本ではまだ使用できません。
一方、骨形成マーカーは骨吸収に刺激されて開始されるため、骨形成マーカーが単独で高い値になることはあまりありません。
そして骨マトリックス関連マーカーは、悪玉架橋であるペントシジンの量など、骨の質を推定するのに役立ちます。
骨代謝マーカーでわかることは以下の通りです。
●急速な骨量減少者の早期発見
●骨質の評価
●骨粗しょう症の危険性の予知
●治療開始時期の目安
●治療効果のモニタリング
●治療薬の選択
●治療効果の早期判定
●適正な薬剤量の判定
●適切な服薬方法の確認
●骨折の予知
●他の骨代謝性疾患との鑑別
■骨の形成スピード、分解スピード、悪玉架橋の量もわかる
骨代謝関連マーカーの検査には、以下の3つの分類があります。「骨形成マーカー」「骨吸収マーカー」「骨マトリックス関連マーカー」それぞれで、骨の形成スピード、分解スピード、そして骨の悪玉架橋の量を調べます。
〈骨形成マーカー〉
●オステオカルシン(OC)★★
骨を形成する「骨芽細胞」が産生するホルモン物質。
●骨型アルカリホスファターゼ(BAP)★★
骨が壊れたところを骨芽細胞が修復するときに増加する物質。
●トータルI型プロコラーゲン-N-プロペプチド(total P1NP:ピー・ワン・エヌ・ピー)★★★
骨が新しくつくられる過程で生成され、血液中に放出される代謝物質。
〈骨吸収マーカー〉
●デオキシピリジノリン(DPD)★★
●I型コラーゲン架橋N-テロペプチド(NTX)★★
●I型コラーゲン架橋C-テロペプチド(1CTP)★★
骨芽細胞のコラーゲン産生量や分解量が推定できる。
●酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRACP-5b)★★★
非常に鋭敏な破骨細胞活性のマーカー。
〈骨マトリックス関連マーカー〉
●低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC) ★★
骨中ビタミンK不足のマーカー。
●ペントシジン(実用化を目指し、研究・開発中のため推奨はつけず)
悪玉架橋の本体「AGEs」の代表的な物質。ペントシジンが多いと、悪玉架橋が増加して、骨粗しょう症が進行していると推定される。
●ホモシステイン(HCY)(実用化を目指し、研究・開発中のため推奨はつけず)
ビタミンB群の不足によって蓄積される物質。血中ホモシステインの濃度が高いと、酸化ストレスによってコラーゲンの架橋に異常が起きており、骨折リスクが高まっていると推定される。
■骨はからだの中で最も若返りスピードの速い臓器
骨粗しょう症の検査④必要な栄養素が足りているかを調べる
ビタミンDなど、骨に必要な栄養素が足りているかは血液検査で調べます。
●250HビタミンD ★★★
ビタミンDが代謝されてできる物質で、血中の量を測ることでビタミンDの過不足を確認することができる。
●カルシウム ★★★
カルシウムは生体内で最も多いミネラル成分で、主として骨や歯を形成している。大人では約1kgのカルシウムがあると言われており、そのうちの99%が骨と歯に、残りの1%が血液中や細胞に存在して機能している。
●リン ★★★
体内に存在するミネラルの中ではカルシウムの次に多く、成人の体重の約1%を占める。その85%は、カルシウムやマグネシウムとともに骨や歯の成分(リン酸カルシウムおよびリン酸マグネシウム)として存在し、骨の強化を担っている。
骨は、海綿質が年間40%、骨皮質が7%程度も新陳代謝する、からだの中で最も若返りスピードの速い臓器です。
すなわち、きちんと治療や運動、食事の改善等をすれば、2年とちょっとで確実な若返りが可能ということになります。同じように血管も、若返り可能と言われていますが、これほど短期間で刷新できる器官は骨だけです。
薬1つ取ってみても、骨の治療法はずいぶん進んでいます。
■「1年に1回」の投与で治るケースも
たとえば薬のコスパを評価する国際基準NNT(Number Needed to Treat:治療必要数)に則って血管を若返らせる「スタチン」という薬を見てみると、悪玉コレステロールを減らし、血管がさびるのを予防して、心疾患等の発症を予防するには、150人から200人に投与して、やっと1人救えるかどうかという程度しか効果がありません。NNTとは、一人の患者さんを救うために、何人の患者さんがその薬を服用する必要があるかという、疫学上の指標です。
一方の、骨粗しょう症の治療薬は、7人に投与したら1人の骨折は予防できるという非常に効率のよい薬です。
ただ逆に、常に新陳代謝しているということは、治療をやめてしまえばすぐに悪い状態に戻ってしまうということです。
骨粗しょう症の最大の要因は性ホルモンの減少なので、いくら薬で骨が若返ったとしても、それは薬が効いている間だけ。薬がからだから抜けた瞬間に、骨の壊し屋である「破骨細胞」の勢いは復活し、骨を形成する「骨芽細胞」の働きを凌駕して、ほんの1~2年で元の木阿弥、骨の量は減ってしまいます。
つまり、骨は短時間で劇的な若返り効果が出る反面、予防・治療は一生涯続けなければならないのです。
薬を一生飲み続けると聞くと、がっかりされるかもしれませんね。でも、投与するのは「6カ月に1回」あるいは「1年に1回」だけだったらどうでしょうか。
骨粗しょう症の治療薬にはさまざまな種類があり、患者さん一人ひとりの症状やニーズに応じたテーラーメイド治療ができるようになっています。
■「こけても骨折しなくなった」82歳男性
たとえば、次のような患者さんがいました。
コウヘイさん(仮名)は現在82歳。75歳だった7年前から当院の外来に通院されています。
初診時のYAMは60%※。YAM70%未満は骨粗しょう症ですので、治療が必要になります。
※YAM(Young Adult Mean)とは「若年成人平均値」の意味で、20~44歳までの健康女性の骨密度の平均値がYAM値として用いられます。骨密度測定検査では、このYAMを指標に「現在の骨量はどの程度あるのか?」をパーセンテージで示し、骨の状態について診断を下します。(同年代の平均値との比較ではありません)骨粗しょう症と判断する目安は70%未満です。
両側の膝に、関節症による重度の疼痛があり、ご本人がもう一度痛みを感じずに歩けるようになりたいと強く希望されていたこともあって両側同時の人工膝関節手術を行いました。手術時から「骨吸収抑制剤」を開始し、7年継続、外来経過観察中です。
この7年間で数度転倒されましたが、新たな骨折はありません。また、当院では人工関節術後の患者さんには、骨密度、骨代謝マーカー、骨質マーカー(ペントシジン、ホモシステイン)などを測定し、総合的に骨粗しょう症や、骨のサビ(老化)を調べ、術後の経過をよくするための最先端の骨粗しょう症治療を行っているため、人工関節と骨との固着にも問題は発生していません。
■生涯歩き続けるためにも、早めの予防が必要
7年間の服薬治療によって、腰椎のYAMの値は60%から72%へ増加しました。
骨粗しょう症治療の一番の目的は、寝たきりなどにつながる骨折を予防することです。コウヘイさんは治療を開始した当時、両膝の痛みに加えて、YAMの値が非常に低く、いつ「いつのまにか骨折」してもおかしくない状況にありました。
これまでの7年間で複数回転倒していますが、もし治療を始めていなかったら、おそらく骨折していたことでしょう。82歳の現在も、新規の骨折をすることなく、元気に歩けていることを、ご本人もご家族も喜んでいます。
巷では、人工関節の手術後5年や10年もしたら耐用年数がきて皆、再手術しなくてはならないという都市伝説が広まっています。それは正しくありません。人工関節は、その周囲を取り囲む骨粗鬆症治療をすれば生涯にわたり再手術することなく可能性が高いことが多くの研究からわかってきました。骨のケアこそが、人工関節の運命も左右するのです。
当院では、そのような問題は発生していませんし、こうした緩みを防止するために、最先端の骨の評価による骨粗しょう症治療を同時に行っています。
骨粗しょう症は、「生涯にわたり予防と治療をしていれば、骨はいつまでも若いまま、腰が曲がることもなく、元気で長生きできる」、つまり、うまくお付き合いを続けられる病気です。私たち整形外科医を、「100年元気骨」のパートナーとして、予防と治療を前向きに取り組んでいただけたらと思っています。
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東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授。同大附属病院整形外科・診療部長。1992年、東京慈恵会医科大学卒。2020年より現職。日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本人工関節学会理事などを兼務。骨代謝の診断・治療・研究で国内外を牽引する。
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(東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授 斎藤 充)
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