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尹大統領は"1人クーデター"失敗で自滅…政治総崩れの日韓に迫る「アメリカ歴代最強トランプ政権」の圧力

プレジデントオンライン / 2024年12月11日 8時15分

テレビで先の非常戒厳について談話を発表する韓国の尹錫悦大統領(韓国・ソウル)=2024年12月7日 - 写真=AFP/時事通信フォト

日本で自民党が少数与党となる一方、韓国でも「政権によるクーデター」という大事件が起きた。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「アメリカではトランプ氏が歴代最強の政権を築こうとしている。政権が揺らぐ日本や韓国、そして経済の低迷に苦しむ中国は、『暴走老人』化しかねないトランプ氏の影響をもろに受けることになる」という――。

■政治が荒れた2024年、そして2025年は…

株式市場には「辰巳天井」と言われる相場格言がある。辰年と巳年は株価が高騰する年で、今年(2024年)と来年(2025年)がまさにそれに当たる。

その格言どおり、株価に関しては日米の市場がともに好調のまま、年の瀬を迎えることになりそうだ。

その一方で、辰年の今年は政治が荒れた。石破政権が脆弱な日本、次期大統領がトランプ氏に決まったアメリカ、「戒厳令」騒動で激震の韓国、それに連立政権が崩壊したドイツや内閣が総辞職に追い込まれたフランス、アサド政権が崩壊した中東のシリア……。

その影響が顕在化するのは来年だ。政治の世界、特に民主主義国家の政治を展望すれば、株価とは真逆の「辰巳底値」とでも言うべき状況が続くと考えていい。

■石破首相が直面する「サブロク危機」

まず、日本から見ていこう。国内の主な報道機関8社が実施した11月の世論調査のうち、5社(NHK、共同、読売、日経、産経)で石破内閣の支持率は40%台を記録した。

これらの中に、10月と比べ上昇しているケースがあるのは、「他党にも丁寧に意見を聴き、可能な限り幅広い合意形成を」と述べてきた石破首相の政治姿勢が、有権者に辛うじて受け入れられている結果ではないか、と筆者は見る。

ただ、党内基盤が弱い(ほぼない)うえに少数与党での国会運営を余儀なくされる石破政権が長く続くとは考えにくい。

来年度予算案の採決が佳境を迎える3月、あるいは、通常国会が終盤に入り、東京都議会議員選挙と参議院選挙も間近に迫る6月は乗り越えられないのではないだろうか。これが「サブロク危機」である。

国会裏にある衆参両院の議員会館では、石破首相が所信表明演説で「103万円の壁を引き上げる」と述べて以降、重そうな書類を抱えた財務省職員の姿が散見されるようになった。

彼らは、インナーと呼ばれる自民党税制調査会のメンバーの事務所を回り、「103万円の壁をどこまで引き上げるか」の落としどころを探っているのだ。

■骨抜きにされつつある「103万円の壁」引き上げ

「国民民主党が主張している103万円から178万円への引き上げは、ここ30年の最低賃金の上昇率に合わせたものでしょ? でも実際は、1.1倍程度しか上昇していないので、110万円とか113万円あたりで手を打ちたいというのが財務省の本音だろうね」(自民党衆議院議員)

確かに、国民民主党の主張を丸飲みし、75万円分も非課税枠を引き上げれば、国と地方で年間7兆6000億円ほど税収が減る。消費税に換算すれば、3.5%程度の額が足りなくなる計算だ。それは財務省や地方自治体からすれば看過できない。かと言って、110万円程度への引き上げに留まれば、有権者の間で、石破首相に対する失望感が一気に加速するだろう。

政治資金規正法の改正をめぐる動きも、有権者の反発を増幅しかねない。自民党は、公開義務がない政策活動費の廃止で留めたい考えだ。事実、党内でまとめた案では、これまで問題となってきた企業団体献金の禁止には踏み込んでいない。

さらに、12月4日、自民党が野党に示した案では、「要配慮支出」という、外交など秘密保持が必要な案件への支出については氏名や目的を公開しなくてよいという規定まで組み込んできた。これでは、新たなブラックボックスができるだけだ。

対する野党はじっくり攻め、選挙が迫る通常国会終盤まで引き延ばして批判のボルテージを上げるに相違ない。そうなれば、少数与党の石破政権は窮地に立たされるだろう。

国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■韓国で突然の戒厳令、何が起きたのか

「少数与党で政権基盤が脆弱」と言えば、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も同じだ。12月7日午前10時、尹大統領は、韓国5200万人の国民に向け談話を発表し、12月3日の夜、自身が宣言した戒厳令(非常戒厳)について、以下のように謝罪した。

「今回の非常戒厳宣言は、国政の最終責任者である大統領としての切迫感から始まった。しかし、その過程で国民に不安と不便を与えた。国民の皆様に心からお詫びする。戒厳令の宣言に関して、法的・政治的責任問題を避けることはしない。再び戒厳が発動されることもない。私の任期を含め、今後の政局安定策は我が党に一任する」

あらためて一連の流れを振り返っておこう。

■数時間で終わった尹大統領による「1人クーデター」

12月3日夜、突然の戒厳令発令
→最大野党「共に民主党」の李在明代表や野党「祖国革新党」の曺国(チョ・グク)代表、自分に従わない与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表らを逮捕しろと指示

4日未明、野党議員に与党議員も加わって戒厳令の解除決議を可決

7日、談話で謝罪

同日、議会で尹大統領の弾劾訴追案採決(1回目は不成立で廃案)

11日、野党が再び案を提出へ

1院制の韓国の国会で、全300議席のうち192議席(このうち「共に民主党」が170議席)を野党が占め、残る半分の任期で、拒否権発動以外、何もできない「切迫感」、さらには、株価操作疑惑などで妻の金建希(キム・ゴンヒ)氏にまで執拗な攻撃が及ぶことへの懸念が、尹大統領による「1人クーデター」未遂事件、ひいては、その政権の事実上の終焉につながったことになる。

弾劾訴追案の採決が行われた12月7日、国会がある汝矣島周辺には15万人もの市民が集まった。最寄り駅は通過措置が取られ、周辺の道路も通行止めとなった。こんな事態は近年記憶がない。それだけ尹大統領への怒りと不信感が強い証左である。

■友好的な日韓関係が再び「暗黒時代」へ

問題はこの先だ。尹大統領をめぐる弾劾の動きがどう決着するか、本稿執筆の段階では予断を許さない。弾劾訴追案が再提出され可決されれば、尹大統領は即座に職務停止になる。憲法裁判所が180日以内にその妥当性を判断し、それが認められて罷免されると、60日以内に大統領選挙が行われることになる。

そうでなくとも、与党「国民の力」の韓東勲代表は、尹大統領を職務から外し退陣を促す方針だ。「辞任するまで国政に関与させない」と明言している。尹大統領自身が「内乱罪」で逮捕される可能性も少なくない。どのみち早い段階で大統領選挙に突入することになる。

対する「共に民主党」は、弾劾に追い込んだうえで、その勢いのまま政権交代を目指す方針だが、そこで仮に、李在明代表が次期大統領になれば、ようやく実現した未来志向の日韓関係が、再び「暗黒の時代」に逆戻りしかねない。

■次期韓国大統領候補は筋金入りの「反日」

李在明代表は、両国の関係を悪化させたことで知られる文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の愛弟子だ。京畿道の知事時代、ソウルから親日的なものを一掃する運動を主導し、福島第1原発から処理水が海洋放出された際には、激しく抗議デモを繰り返し、「反日」ムードを煽った人物だ。

「日本との関係は、これまで、尹大統領の支持率低下の要因にはなっていません。韓国も世代が変わっているので、反日になるような政治的変化はないと思います」(在ソウル・梨花女子大学教授)

韓国の有識者の間ではこのような見方があり、李在明代表自身も「今、日韓関係を悪化させることは得策ではない」と考えるかもしれない。それでも、日韓国交正常化60年という節目を迎える来年は、祝賀ムードどころではなくなるリスクをはらむ。

その大統領選挙には、与党「国民の力」の韓東勲代表も出馬するとの見方が根強い。韓東勲代表は検事時代、尹大統領の後輩にあたり、一時は最側近と目された人物だ。

■アメリカでは「トランプ1強体制」が完成

金建希氏の疑惑をめぐり尹大統領と距離を置いたものの、戒厳令事件では、「弾劾してしまうと保守政党としての復権が厳しくなる」(高麗大学・伊藤晃輝氏)といった理由から、尹大統領の弾劾には反対するという冷静な対応を見せた。

韓東勲代表が勝てば、もともとは尹政権路線のため、日韓、あるいは、日米韓の強固な枠組みは維持されるだろう。もっとも、アメリカのトランプ次期大統領しだいだが。

揺らぐ日韓を横目に、大統領選挙で圧勝し上下両院も制して1強体制を作り上げたのが、第47代アメリカ合衆国大統領、ドナルド・トランプ氏である。

ドナルド・トランプ氏
ドナルド・トランプ氏(写真=Shealah Craighead/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons)

圧勝で自信を深め、議会も共和党カラーに変わり、さらに大統領として3期目はない中で迎える2期目は、やりたい放題ができる4年間ということになる。

■アメリカ政治史上、最強の政権に

これまでにトランプ氏が固めた第2次政権の顔触れを見ると、マルコ・ルビオ国務長官、ジェミソン・グリア通商代表部代表、マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、ピーター・ナバロ上級顧問らは“札つき”の対中強硬派で、ウクライナ支援にも懐疑的な立場を取ってきた人物だ。中東情勢に関しても親イスラエルの顔触れが目立つ。

また、スコット・ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官は保護貿易主義者で、リー・ゼルディン環境保護局長官、クリス・ライトエネルギー長官らは化石燃料の開発を推進してきた面々だ。しかもいずれもトランプ氏の忠臣ばかりである。

昨今のアメリカ政治において、これほどまでに1強体制を整えた政権はない。アメリカにもう1つの独裁国家が出来上がったようなものだ。

■だれも「暴走老人」を止めることはできない

「トランプ氏の自国第一主義は他国を火薬庫に」(中林美恵子『沈みゆくアメリカ覇権』小学館より)

この予想が、今、まさに的中しようとしている。トランプ氏はさっそく、中国やメキシコだけでなく、同盟国のカナダにも25%の高関税をかけると表明した。カナダに強く要求するということは日本や韓国も例外ではない。

2025年は、政権が揺らぐ日本や韓国、そして経済の低迷に苦しむ中国も、「暴走老人」化しかねないトランプ氏の影響をもろに受ける年になる。

その余波は国民生活にも及ぶため、石破政権の先行きはもとより、国際情勢に関しても傍観者にならないよう留意したいものである。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組プロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。専門分野は現代政治、国際関係論、キャリア教育。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『ラジオ記者、走る』、『2025年大学入試大改革』ほか多数。

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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水 克彦)

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