朝食は「パンより米」が正解である…92歳の現役栄養学者が実践する「ヨボヨボにならない最強の食事」を解説する
プレジデントオンライン / 2024年12月18日 9時15分
※本稿は、香川靖雄『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(女子栄養大学出版部)の一部を再編集したものです。
■92歳で元気なのは、“栄養学”を実践しているから
私の両親は栄養学者でしたから、「栄養」に配慮した食事を他の家庭に比べると摂取しやすかったのは間違いありません。でも、「両親が栄養学者であり、恵まれた環境で栄養価の高い食事をとり、大きな病気もなかったので長生きしている」というのは誤解です。
本書(『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』)でも紹介しているように、香川家は戦争で多くのものを失い、戦争末期から戦後2年間ほどは他の方々と同じように厳しい食糧難を経験しています。
また、母と姉が学園再建のため東京の仮校舎で過ごしていたため、私を含めた男兄弟だけで自炊していた期間もあります。さらに、66歳から86歳までは大学の近くのアパートで一人暮らしをしながら自炊していますし、本書の第2章で服用薬をご紹介したことからもおわかりのとおり、大きな手術もたくさん受けています。
にもかかわらず、92歳になっても元気に過ごせているのは、栄養学の知識を取り入れた食習慣を実践しているからです。そして、その食習慣は誰でも実行することができます。やるかやらないかの差だけなのです。
本稿では、みなさんの健康に役立つ情報をご紹介していきますので、ぜひ参考にして実践してみてください。
まずは健康によいお酒の量を考えてみましょう。私はある程度飲める体質ですので、学内でパーティーがあると、人並み程度には飲むようにしています。とはいえ、毎日飲むことはありません。
■5グラム飲酒は「認知症に有益」というデータもある
お酒は、ほんの少しでも酔ってしまう人がいる反面、ご飯の代わりに毎日一升酒を飲んでいたのに長寿まで生きた……という人も稀にいるため、一概に適切な飲酒量は言えません。しかし、お酒を飲める人にとっては「1日あたりアルコール20g以下」が安全と言えます。
お酒の量で参考になるのは、2024年2月に厚労省が発表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」です。人それぞれ体質も違いますから一概にはいえませんが、飲酒によって、臓器へ悪影響を与えたり、認知症発症の原因になったり、高血圧等のリスクが高まることが指摘されています。
また、高齢者や女性に関する記述も重要なポイントです。ガイドラインには、高齢者は「飲酒量が一定量を超えると認知症の発症の可能性が高まります」とあります。また、女性については、体内の水分量が男性に比べて少ない等の理由からアルコールの影響を受けやすく、肝硬変になるケースがあると書かれています。
とはいえ、ガイドラインには「お酒は、その伝統と文化が国民の生活に深く浸透している」とも書かれており、飲めない体質の人は別として、おいしいものを飲んだり、食べたりすることは心の栄養になるのもまた事実です。
ここまで「リスク」にばかり注目してきましたが、実は、微量(1日5グラム)のアルコールは認知症、軽度認知障害に有益というデータもあります。
栄養指導という観点では、平均的な日本人は1日に純アルコール20グラム以下であれば適正とされています。お酒の種類によって、アルコール度数が違いますから、20グラムがどのくらいかを把握できるよう、いくつか列挙したいと思います。
日本酒(度数15%)→1合(180ミリリットル)
チューハイ(度数7%)→1缶(350ミリリットル)
ワイン(度数12%)→グラス2杯(200ミリリットル)
焼酎(度数25%)→グラス2分の1杯(100ミリリットル)
ウイスキー(度数40%)→ダブル1杯(60ミリリットル)
■日本人は葉酸とDHAの摂取量が十分ではない
1976年、私が翻訳を担当した『世界の長寿村 百歳の医学』(アレキサンダー・リーフ著、女子栄養大学出版部)。著者のリーフ教授はハーバード大学の医学部長で、同書執筆にあたり、長寿地域沖縄を調査しています。
その際、女子栄養大学出版部の岸朝子編集長(当時)も同行していますし、私は自治医科大学の学生たちと共に日本の長寿地域を調査しました。その後、私は西表島等の長寿の離島におけるDHA摂取の欧文論文を執筆するなど、長寿と食に関する研究をずっと続けてきました。
そして、現在の日本の栄養学の基準では、葉酸とDHAの摂取量が十分とは言えないのではないかと考えるようになりました。
私たちの研究では、葉酸は日本で推奨されている量の「240µg」では十分でなく、WHOが推奨している「400µg」であれば、認知症などの予防に効果があることがわかりました。
また、日本人の約6割は葉酸やDHAを不足しやすい遺伝子を持っていること、そして、“寿命の回数券”とも呼ばれる細胞内の「テロメア」の長さが葉酸とDHAを摂取することによって保たれることもわかってきました。
そうした一連の研究で私が辿り着いた結論は、健康長寿につながる食というのは、地域ごとの食生活、さらに遺伝子的な特徴によって左右されるということです。
そのうえでいえることは、日本食には塩分が多いなどの欠点もありますが、2013年にユネスコの無形文化財に登録された「和食」を、さらに健康に資する形で提案することは可能だということです。
■「和食」を工夫すれば健康寿命を延ばせる
農林水産省は、ユネスコに登録された「和食」について、「南北に長く、四季が明確な日本には多様で豊かな自然があり、そこで生まれた食文化もまた、これに寄り添うように育まれてきました」と説明したうえで、サイトで4つの特徴を挙げています。
(1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、各地で地域に根差した多様な食材が用いられています。また、素材の味わいを活かす調理技術・調理道具が発達しています。
(2)健康的な食生活を支える栄養バランス
一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われています。また、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っています。
(3)自然の美しさや季節の移ろいの表現
食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴のひとつです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しみます。
(4)正月などの年中行事との密接な関わり
日本の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれてきました。自然の恵みである「食」を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきました。
図表1の上は、スコアが高いほど、認知症や糖尿病などの疾患にかかりにくく、健康寿命が長いとされる「地中海食」の特徴です。そして、図表3の下が、日本食ピラミッドの提案になります。
日本食が「完璧」というわけではありませんが、本書でご紹介しているように、日本食をベースにしながら、遺伝子、年齢を考慮して、葉酸を積極的に摂取したり、魚料理を今以上に食べるようにすれば、健康寿命を延ばすことができると私は考えています。
本連載の第1回でも述べたように、私たちの食生活では葉酸が多く含まれている食べ物(例えば海苔や緑茶など)や、DHAを含む魚を食べる機会が減っています。まずは、手軽に摂取しやすい食品を活用していただくことをおすすめしたいと思います。
■魚介類を摂れば、認知症リスクを下げられる
本書の第2章でもお話ししましたが、私を含めた日本人の6割は、遺伝子的に魚類を多く摂取する必要があります。ですから、私も日野原重明先生(編集部注:105歳で亡くなるまで勤務した聖路加国際病院名誉院長で、筆者の恩師)を見習って、人一倍魚を食べるようにしています。
図表2は、魚介類の摂取と認知症の関連を表したものになります。この図表から読み取れるのは、魚介類を多く摂取することで、認知症のリスクを大幅に下げられるということです。
ポイントとなるのは、魚介類に含まれるEPAやDHAです。これらは、海藻類を除く植物性食品には含まれていません。だからこそ、魚介類の摂取が重要になってくるのです。
私が出演したNHKの番組「ヒューマニエンス 40億年のたくらみ」の「『おいしさ』ヒト進化のスイッチ」(2024年5月11日放送)でも取り上げましたが、実は、牧草食の牛などの家畜の肉にはEPAやDHAがたくさん含まれています。
しかし、私たちが口にする機会の多い穀類食の家畜の肉の場合、EPAやDHAの量は4分の1〜5分の1に激減します。家畜だけでなく、私たちの研究では、十数年前に比べて、母乳に含まれるDHAが半減していることがわかりました。
ただ、先ほど「日本人の6割」と表現したように、残りの4割の人は遺伝子的にアルファリノレン酸からEPA・DHAを合成することができます。また、魚を食べない地域に暮らす人や菜食主義の人たちもしかりです。
■短時間で血糖値を上げるのはおすすめしない
本書では一貫して、これからは「精神活動」の度合いがますます増え、それに見合った栄養を摂取する必要性が高まるという立場で、さまざまなデータをご紹介しています。
この項目では「脳のエネルギー源と栄養」について解説したいと思います。
人間の脳の重量は体重の2%程度である一方、使用するエネルギーは全体の20%にも及びます。脳は血糖をエネルギー源にしているため、ある程度の血糖値を維持する必要があります。本書で朝食の重要性を何度も説いているのはこのためです。
一時的ではなく、軽度低血糖が慢性化すると、認知症やうつ病になるリスクも上がってしまいます。
では、エネルギー源となればなんでもよいかといえば、そうではありません。理想的なのは、血糖値の変動がゆるやかな「でんぷん」です。反対におすすめできないのは、短時間に血糖値を上げてしまう高砂糖食です。
■「パンとジュース」だけでは“力”を発揮できない
ここまで本稿を読めば、もうおわかりだと思いますが、パンとジュースだけの朝食では、血糖値を上げることはできても、作業力、記憶力、論理思考といった機能を発揮するには十分ではありません。
東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授が2004年に公表した、朝食内容と認知機能の関連を調査した研究では、みそ汁や野菜などが脳の機能に良い影響を与えることがわかりました。繰り返しになりますが、本稿でバランスのよい食事を何度もすすめている背景にはこのようなデータがあるからなのです。
最後に、1998年から2018年までの約20年間(66歳から86歳まで)、自炊していた頃の私の朝食をご紹介して終わります。ぜひ参考にしていただければ幸いです。
【主食】ピーナッツバター、バター、ジャムをつけたトースト(あるいは、パン粥、ホットケーキ)
【1群】オムレツ、牛乳、チーズ
【2群】薄切りハム1枚(あるいは、小さなウインナー)【3群】サラダ(レタス、トマト、キュウリなど)、ミックスベジタブル(冷凍)、シチュードフルーツ(果物を砂糖とワインで煮たコンポート)
(和風朝食)
【主食】ご飯(お粥+佃煮) ※米は葉酸を多く含む米にしています
【1群】目玉焼き(あるいは生卵)、牛乳
【2群・3群】みそ汁(野菜入り)、浅漬け、海苔、納豆
【飲み物】緑茶
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女子栄養大学副学長
1932年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業、聖路加国際病院、東京大学医学部助手、信州大学医学部教授、米国コーネル大学客員教授、自治医科大学教授、女子栄養大学大学院教授を経て、現在、自治医科大学名誉教授、女子栄養大学副学長。専門は生化学・分子生物学・人体栄養学。著書に『老化と生活習慣』『生活習慣病を防ぐ』(以上、岩波書店)、『科学が証明する新・朝食のすすめ』『香川靖雄教授のやさしい栄養学』(以上、女子栄養大学出版部)などがある。
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(女子栄養大学副学長 香川 靖雄)
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