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「ChatGPT Pro」を甘く見てはいけない…生成AIに仕事を奪われる"ヨボヨボ会社員"にならない人の決定的違い

プレジデントオンライン / 2024年12月13日 7時15分

2024年11月21日、スマートフォンの画面上のChatGPTアプリ - 写真=Jaque Silva/NurPhoto/共同通信イメージズ

生成AIは日本人の仕事に影響を与えるのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「この先、生成AIを活用した仕事のスピードが標準になる。その結果、生成AIを使いこなして生産性を上げられる“いきいき会社員”と、残業続きで仕事が終わらない“ヨボヨボ会社員”が誕生する」という――。

■月額200ドルの「ChatGPT Pro」が登場

来年、2025年にサラリーマンの世界で起きる最大の事件をふたつ予言しておきます。ひとつは、

「大企業を中心にサラリーマンの仕事の生産性が1.5倍に増加するでしょう」

そしてもうひとつが、

「その職場ではさくさくと仕事をこなせる“いきいき会社員”と、おろおろと困り弱り果てる“ヨボヨボ会社員”に社員が二分されるでしょう」

です。

理由は生成AIの実用化です。2024年までは会議の資料を作成するのに4時間かかっていたのが、2025年からはドラフトを15分で生成できるようになります。会議後の議事録作成に1時間かけていたのが、ワンクリックでほぼほぼ正しいものができあがるようになります。準備作業の生産性が上がるので、営業の訪問件数も1.5倍に増えるでしょう。あらゆるホワイトカラーの仕事のスピードが急速化します。

もう少し具体的にファクトを示します。つい先日、新しい有料版のChatGPT Proが日本でもサービスを開始しました。それまでの有料版のPlusが月額20ドル(約3000円)だったのに対し、Proは月額200ドル(約3万円)です。

驚くべきはその値段よりも、性能の向上幅です。SNSのX上で先に利用を始めたひとたちから驚愕の報告がつぎつぎと上がっています。

■「日本語→英語」の翻訳スピードはほぼリアルタイム

それまでの月額20ドル版と違い、文字数や音声ファイルの利用制限がなくなり質問回数や利用できるAIの制限からも解放されました。結果としてさきほどの議事録の話でいえば、会議中の音声をずっと録音しておいて会議終了後に「議事録を作って」とひとこと頼めばその場で議事録が生成できるように変わりました。

音声ファイルの利用体験でさらに驚愕されるのが翻訳スピードです。日本語でしゃべった言葉が英語に翻訳されるスピードがほぼリアルタイムなのです。つまりポケトークのような専用アプリがなくても音声で外国人と会話ができるようになったのです。

ITエンジニアからの体験報告では、それまで不具合があったプログラムで、その原因となるバグがどこにあるのかどうしてもわからなかったが、ChatGPT Proはあっという間にコードのバグを発見してくれたという報告があります。

アプリの自動生成の精度も実用化レベルに高まったという報告があります。最初のうちは「コードを書いて」というやりとりは専門家にしか難しいかもしれませんが、その手順が確立されれば普通のサラリーマンでも自分の仕事を効率化するためのアプリを簡単に作れるところまで性能的には進歩したのです。

■「経営コンサルタントとしての仕事が来るのはあと数年」

つい最近も私自身の体験でこんなことがありました。ある知人に呼び出されて雑談をしていたときのことです。その知人は会社を経営していて、雑談の中で「最近ちょっと困っているんだけど」と、とある経営相談をしてきました。

私も雑談として「あまり詳しいジャンルの話ではないけれども」といって、3つほどそういった場合の対処法について話をしました。知人は私の話を聞きながらスマホをいじっていたのですが、突然、

「鈴木さんは凄いな」

と言い出したのです。

「急に何?」

と問うと、

「だって、ChatGPT Plusがまったく同じ3つのアドバイスをしているよ」

と知人が驚いているのです。その瞬間、私も「経営コンサルタントとしての仕事が来るのはあと数年だな」と覚悟を決めました。

これらの話をまとめてしまうと、企業のバックオフィスでこれまで人手をかけてきたホワイトカラーの仕事は、2025年からはほぼほぼワンボタンで済むようになるということです。

ラップトップを使用しているビジネスマン
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

■「月額3万円」は大企業にとっては高くない

ここで、

「とはいっても月額3万円というのは高すぎないかな?」

と思われる方も多いかもしれません。

個人の視点でみればPlusのように月額3000円で、それで少し早く帰宅できるなら、自腹でスマホに生成AIをインストールしてもいいかなと思っていたかもしれませんが、月額3万円となると高すぎてちょっと手を出すのをためらうかもしれません。

しかし大企業の観点では見え方が違います。

企業にとっては会社の経費の中でも大きいもののひとつが人件費です。その生産性が1.5倍になるなら、社員ひとりあたり3万円の労働装備投資など造作もない出費です。

もちろん最初のうちは

「一部の部署で試験的に導入しよう」

という感じで始まるでしょう。使い始めるのも職場の若手だけで、中高年社員の多くはきょとんという目でそれを眺めているかもしれません。その結果、あっという間に若手社員の仕事の生産性が上がるでしょう。

これと同じデジャヴのような経験を思い出しました。

もう40年も前の思い出ですが、コンサルティングファームでの私の新入社員時代にこんなことがありました。コンサルの若手社員はクライアントから受け取った数字を足したり割ったりして分析するのが仕事です。まだ電卓全盛の時代に同僚のひとりが自腹でアップルのマッキントッシュを購入して職場に持ち込みました。1980年代、まだそういうことが許された緩やかな時代です。

それでエクセルを使うと仕事が早く終わることに気づいたのです。彼だけ早く帰宅できるようになってすぐ、若手コンサルの間でマッキントッシュを会社に持ち込むことが流行しました。上司は電卓で分析をした世代なので、若手がさくさくと仕事をこなしても技術革新には気づきません。

■パソコンで「2~3日の仕事」が「数時間」で終わるように

しばらくして私自身が別の発見をしました。当時のパソコンは今とは比較にならないほど微力で、表計算もちょっとシートが大きくなっただけで計算がスタックしてしまう代物でした。大きなデータはコンサルが自分では処理できずに、クライアント企業の情報システム部に情報処理を依頼して1~2週間かけて分析結果を手にするのが常でした。

ところがオフィスの誰も行かないような奥まった場所に、古いNECのPC9801が5台置いてあったのです。

「これ動くんじゃないかな」

と思って起動させると、ロータス123という表計算ソフトが使えることがわかりました。

それで当時23歳の私はクライアントの膨大な数表のデータを分割して、自分でマクロを組んで、古くて遅いパソコンに処理させることを思いつきました。

とにかく遅いのですがひとつのプロセスに数分かけて計算結果を出し、それをファイルに格納して別のファイルに結果の数字だけを読み込むことでデータ量を減らすようにしたところ、本来パソコンでは処理できない量のデータも、夜のうちに5台のパソコンにセットして翌朝出勤すると分析結果が出力されるようになりました。

こういったことが流行して、当時、ほんとうに一時的な現象でしたが若手コンサルは仕事をさくさく処理すると、平日でも夜の六本木に遊びに行けるというとても楽しい状況がうまれました。それまで2~3日かかっていた仕事が数時間で終わるので、後はビジネス書を読んだり、通産省(当時)の友人と電話で雑談したり、夜は商社勤務のOLと合同コンサル(と勝手にネーミングした飲み会)を開催したりという日々でした。

時計とカレンダー
写真=iStock.com/STILLFX
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/STILLFX

■上司の世代が生産性向上に気づき…

2025年の大企業のオフィスではこれとまったく同じ現象が繰り返されます。1980年代ほどはコンプライアンスは緩くはないのですが、それでもつい2~3年前までは面倒で仕方なかった仕事が、何の苦もなくこなせるようになるでしょう。

さて、40年前の話には後日談があります。当時の若手社員は私を含めてそれほど賢くはなかったのです。

IT革命で若手コンサルの仕事が楽になってしばらくすると、一部の若手は分析作業が終わるとその内容を進んで上司に報告するようになりました。上司は、

「おお早いなあ。さすがだ」

といって彼を誉めるので、その報告の仕方を他の若手も真似するようになりました。

そのうち上司の世代のコンサルタントは気づくのです。パソコンで処理させると部下の生産性が、自分が若手だった時代の10倍速で処理できるようだと。若手社員よりもずっと賢い上司たちは、やがてその生産性を新しい基準に設定したうえで仕事を依頼するようになりました。

■部下に分析をさせて自分の手柄にする上司

中には生産性が上がったことを利用して、自分の評判を上げようとする上司も出てきます。ある上司はわざとクライアントに手書きの日報の束を会社に持って来てもらったうえで、

「そのデータがあれば会議が終わってお帰りになる前にアドバイスの答えが出せますよ」

とクライアントに伝えるのです。

それで会議を中座した上司は私のところに来て、

「いいか鈴木。今、A会議室にクライアントの部長が来ている。このテストマーケティングについて今すぐ効果が知りたいそうだ。いまから20分以内に分析して、計算結果が出たらA会議室の電話を鳴らせ。部長は14時には帰るからタイムリミットは厳守しろ」

と日報の束を手渡すのです。

私はそこで必死に手書きの数字をパソコンに入力して集計分析します。15分程度で結果を出して電話を鳴らすと上司が席に戻ってきます。私が分析結果を伝えると満足げに彼は会議室に戻ります。

おそらくクライアントに対して、

「みなさんのやった値上げの実験ですが、顧客数は少ししか減らず、売上は大幅に増えています。懸念点としてはこれをあと2カ月続けてみて顧客の減少ペースが変化しないかどうかですね。顧客の離反がなければ値上げが正解です」

みたいにクライアントの部長をおもてなししたのでしょう。

金融統計チャートを議論するビジネスマン
写真=iStock.com/Atstock Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Atstock Productions

■生産性のハードルが上がり、若手はもっと大変になった

商取引がまだ手書きの伝票で行われていた時代です。クライアントの部長から見れば魔法のようなスピード集計だったのでしょう。「あいつは凄い」と思ったのではないでしょうか、私ではなく上司のことを。

そして2カ月もすると上司がまた書類の束を持って私のところにやってきました。

「また部長がA会議室に来ている。これ15分で集計して答を出してくれないか?」

というわけです。

結局、40年前の私の職場で起きたことは、会社が社員に期待する生産性のハードルが引き上げられたということだったのです。

その後、若手の仕事はもっと大変になりました。電卓の時代、言い換えると分析作業の生産性がボトルネックだった時代には、分析作業の前にじっくりと仮説をたて、何を分析すべきかを検討して、選ばれし仮説のみが検証される時代でした。

それが分析の生産性があがったことで、上司は「とりあえずあれもこれも計算してね」と選別なしに分析作業を若手にふるようになりました。こうして若手コンサルたちは以前と同じように残業が続く毎日に戻ったのです。

2025年、生成AIについてこれと同じ歴史が繰り返されます。

■生成AIを使った仕事のスピードが「標準」になる

生成AIを使い始めてみて職場では最初に一部の若手社員の生産性が劇的に上がるという現象が起きるでしょう。最初は驚きをもって受け入れられるその発見も、2025年の後半には社内の仕事における新しい標準スピードだと設定されるはずです。

ところが昭和の時代と令和の時代でこの話、前提条件が違う部分が一カ所あります。人出不足で若手社員の人数が足りないのです。

昭和の時代は大企業には有り余る数の若手社員がいて、面倒な仕事は常に若手社員に下請けさせることができました。令和の時代の職場はそうではなく、より少ない人員数で仕事をこなし、若手社員と中堅社員は同じ仕事を分担します。違いは、経験の少ない若手への割り振りは少なく、経験豊富な中堅社員の仕事量は多いことです。

その前提で社内の生産性基準が1.5倍になると何が起きるでしょうか?

ある中堅社員がこれまで週50時間労働で与えられた仕事をこなしていたとします。ところが生産性についての社内の認識が変化した結果、その社員に与えられる仕事量は、以前と同じやり方なら週75時間働かなければ処理できない分量に増えるのです。

週75時間労働というのでは過労死ラインでしゃれになりませんから、30代、40代の一部の中堅社員はあたふたしながら60時間分ぐらいの仕事しかこなせずに、それでも疲れ切ってぐったりして帰宅するようになるでしょう。仕事量は社内標準の8割の量しかこなせず、職場では疲れ切った顔で仕事をする“ヨボヨボ社員”の誕生です。

オフィスで夜に疲れているビジネスマン
写真=iStock.com/AnVr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AnVr

■“ヨボヨボ社員”と“いきいき社員”が誕生する

一方で若手社員がAIを活用するのを見ながらそれに関心を持って使い方を教えてもらう中堅社員も出てくるでしょう。生成AIのいいところは使いどころさえわかれば使うのは簡単だということです。難しいのは業務の中でどこにどう使えるのか、使いどころを発見するところなのですが、それは若手社員が次々と見つけてくれているという前提です。

使ってみると中堅社員でもすぐに気づくでしょう。これまで自分が週50時間かけていた仕事は実は20時間程度でこなせることに。

組織の生産性が1.5倍に上がるといっても実際に起きることはこんな感じです。使える社員の生産性が2.5倍に上がり、使えない社員の生産性が1倍のままなので、組織全体としては生産性が1.5倍上がるのです。

この前提でいうと、標準労働が旧基準で75時間分に増えたとしても実はAIを使いこなせば30時間程度で処理できるのです。会社の勤務時間は残業なしで週40時間ですから、残りの10時間は新しいビジネスアイデアを考えたり、業務改善を提案したり、自己鍛錬の時間を増やしたりと建設的な業務に振り分けることができます。以前よりも毎日が楽しい“いきいき社員“の誕生です。

■ヨボヨボ社員を1人リストラすれば10人分のライセンス

そして昭和の時代と令和の今で違うことがもうひとつあります。昭和の時代は生産性を上げた社員が過重労働に苦しむ結果を招いたのですが、令和の時代は生産性が上がらないヨボヨボ社員がいてくれる間は、いきいき社員は楽々スタイルで仕事を続けることができるのです。

このような現象が間違いなく、2025年の後半、日本の大企業のいたるところで発生するでしょう。

さて、昭和が平成になった頃になってようやく、社員ひとりに一台パソコンが配られて、おじさん社員たちは最初のうちは若手に、

「おい、これワープロに打っといて」

と指示していたものが、やがて自分で人差し指一本でキーボードをたたきながらワープロ打ちするようになりました。平和で変化もゆっくりな時代でしたね。

令和の不穏な時代だと、これがどうなるでしょう。経営者はこんなことを考えるかもしれません。

「社員ひとりに一ライセンス、ChatGPT Proを与えると月3万円かかるけど、ヨボヨボ社員はどうせ使わないからライセンス代がムダになるな」

みたいに結構細かいコストまで気にします。そこで、

「そうだヨボヨボ社員をひとりリストラすれば社員10人分のChatGPT Proライセンスが賄えるな。そうしよう。そうしよう」

と思いつくかもしれません。

多少のタイムラグはあるかもしれませんがこれから始まる2025年はなかなかダイナミックな一年になりそうです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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