女性を毎月苦しめる「生理痛」は軽減できる…内科医が解説「痛みのもと」に効く食べ物
プレジデントオンライン / 2024年12月18日 9時15分
■生理痛を自然に軽くするなら栄養素から
「毎月の生理痛は避けられない」と諦めていませんか? 薬に頼らず、もっと自然な方法で痛みを軽くしたいのなら、栄養バランスを見直すのが第一歩なのです。
からだは、さまざまな栄養素からできているという根本的な考えから、生理痛の改善に重要な役割を果たし、女性のからだをサポートする栄養素と、それを簡単に取り入れる方法をご紹介します。
まず、生理が心身にどのような影響を与えるのかを見ていきましょう。
生理前後は、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが急激に低下する一方、プロスタグランジンというホルモンが分泌されるといった変化が生じるため、主に以下のような症状が現れます。詳しく説明していきましょう。
・腹部や腰の痛み
・頭痛
・消化器系の不調
・全身の倦怠感や疲労感
・感情や精神状態の変化
■下腹部や腰の鈍痛を招くプロスタグランジン
下腹部の鈍痛は典型的な生理痛の症状で、代表的な原因としては子宮の収縮が挙げられます。一般的に、生理時には、子宮内膜が剝がれる際にプロスタグランジンという物質が分泌され、子宮の収縮を引き起こしますが、過剰に分泌されると子宮の収縮が増強され痛みが増します。
その結果、子宮内や周辺組織の血流を一時的に低下させ、組織の酸素供給不足を生じさせることがあり、これが下腹部痛や腰痛を更に悪化させるのです。
一方で、プロスタグランジンが過剰に分泌されると、胃腸の平滑筋が刺激され、嘔吐を引き起こすリスクが増加します。また、腸の動きを活発化させる作用も持つため、下痢や腹痛を引き起こしたりもします。
その他、生理中の出血により鉄が失われることで貧血や低酸素状態が発生、その影響で吐き気を誘発する可能性があります。
*Prostaglandin level of primary dysmenorrhea pain sufferers:Enfermería Clínica Volume 30, Supplement 2, March 2020.
■頭痛の原因はエストロゲンの急激な低下
月経時には、女性ホルモンのバランスの変化により血管が拡張し、神経を刺激、痛みを引き起こします。
特に、エストロゲンの急激な低下による血管の収縮から血流不足が起こることで、片頭痛が誘発されやすくなります。さらに、鉄不足による貧血から脳の血管への酸素供給が低下することも、片頭痛の発症と関係しています。
また、エストロゲンは、精神を安定させ幸福感をもたらすセロトニンの分泌を促進する役割を持っています。そのため、生理前から生理中にかけてエストロゲンが減少すると、セロトニンのレベルが低下し、筋肉が緊張して頭痛を誘発します。
さらに、生理前には、プロゲステロンが低下することで、首や肩の筋肉が硬くなる傾向があります。よって、長時間同じ姿勢でいると筋肉が過剰に緊張し、これも緊張性頭痛が起こりやすくなる原因となります。
■生理中、イライラや不安が募る理由
イライラや不安感といった症状を引き起こす要因の一つに、生理前後のエストロゲン、プロゲステロンの変動が挙げられます。
先ほども説明したように、エストロゲンが減少することでセロトニンが低下し、イライラや不安感が増加します。
一般的に生理前のプロゲステロンが高い時期は、インスリン感受性が低下するため血糖値が上がりやすく高い状態にあります。一方、インスリン感受性を改善させる作用があるエストロゲンは生理前から生理中にかけて急激に低下します。すると、血糖値のコントロールが乱れやすくなり、乱高下が起き、それにより精神状態を不安定にさせてしまいます。
これらのホルモンの急激な変動が、感情や精神状態に大きな影響をもたらしているのです。
*Generalized Anxiety Disorder and Hypoglycemia Symptoms Improved with Diet Modification:Case Rep Psychiatry 2016 Jul 14; 2016.
■やたら眠い、だるいにも理由がある
生理中、体が重い、倦怠感を感じることに心当たりがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。このような症状にもエストロゲン、プロゲステロンが関係しています。
エストロゲンはエネルギー代謝を高め、気分を安定させる作用があります。ところが、生理前後にエストロゲンが急激に低下することでエネルギー不足となり、疲労感が増加します。
一方、子宮を収縮させる作用があるプロスタグランジンが過剰に分泌されることで、炎症を引き起こし、痛みだけでなく全身の疲労感を助長します。特に、この物質が血流を通じて全身に広がることで、だるさや体の重さを感じやすくなるのです。
さらに、プロゲステロンは眠気を誘発するホルモンですが、生理前後は分泌の低下により眠りが浅くなる場合があり、睡眠の質が低下、十分な睡眠が取れないことで疲労感が蓄積します。
*Premenstrual syndrome and sleep disturbances: Results from the Sao Paulo Epidemiologic Sleep Study:Psychiatry Res 2018 Jun; 264: 427–431.
■ほうれん草やバナナは下腹部痛に効く
こうした心身に影響を及ぼす生理痛を和らげるためにオススメの栄養素と、それらを多く含む食材や食生活をまとめました(図表1)。
マグネシウムは筋肉の収縮を緩和し、過剰な子宮収縮を抑えて下腹部痛を和らげます。魚介類や魚油に含まれるオメガ3系脂肪酸(EPA・DHA)には抗炎症作用があり、プロスタグランジンの過剰生成を抑制します。
片頭痛に効くのは鉄とビタミンB3(ナイアシン)です。鉄の補給によって、貧血を防ぎ、脳への酸素供給を改善することで頭痛が軽減します。また、ナイアシンの摂取量が多いと片頭痛の頻度が少なくなることが示唆されています。
*Association between Dietary Niacin Intake and Migraine among American Adults:National Health and Nutrition Examination Survey Nutrients. 2022 Jul 25; 14 (15) : 3052.
オメガ3系脂肪酸は、片頭痛を予防する可能性があることが示されているほか、ケトジェニック(低炭水化物)食や低カロリー食も片頭痛予防に有効な戦略であると考えられています。
*Long-chain omega-3 fatty acids and headache in the U.S. population:Prostaglandins Leukot. Essent. Fat. Acids 2018; 135: 47–53.
*Association of diet and headache:J. Headache Pain 2019; 20: 106.
■簡単にできる「メンタル復活サラダ」
イライラしたり落ち込んだりしてしまう感情の変化には、メンタルホルモンであるセロトニンを増やすことが効果的です。そのためには、セロトニンの材料となるトリプトファンや、分泌を促進するビタミンDを摂るといいでしょう。
また、タンパク質代謝やエネルギー代謝を助けて疲労感を軽減するとともに、セロトニンの合成にも関わっているビタミンB6も積極的に摂りたいところです。
以上を踏まえ、生理中の悩みを解決するメニューを2つ考えてみました。
◎腹部や腰の痛みに効く「ほうれん草とサーモンのクリーミーパスタ」(2人分)
①全粒粉パスタ(160g)を茹でる。
②フライパンでオリーブオイルとみじん切りのニンニク(一片)を熱し、サーモン(2切れ)を焼く。
③ほうれん草1束を加え、しんなりしたら生クリーム(100ml)を加える。
④茹でたパスタを加え、塩・こしょうで味を調える。
◎感情や精神状態を安定させる「豆腐と納豆のサラダ」
①絹ごし豆腐1丁を食べやすい大きさに切り、納豆(1パック)と混ぜる。
②青ねぎ(適量)を散らし、醤油を少々かけて完成
■揚げ物やジャンクフードの食べ過ぎに注意
最後に、生理痛が重たい人が避けるべき7つの習慣についてご説明します。
①不規則な食生活
不規則な食習慣によって栄養バランスが崩れると、体内でのホルモンやプロスタグランジンの生成が乱れ、生理痛を悪化させる可能性があります。また、食事が不規則だと血糖値が乱れ、イライラや倦怠感が増すことで痛みを感じやすくなります。
②糖質過多の食事
糖質に偏った食事は血糖値の急上昇と急降下を引き起こし、ホルモンバランスを乱す原因になります。
■コーヒーより水や麦茶が良い理由
③カフェインの過剰摂取
カフェインは血管を収縮させ、血流を悪化させるため、下腹部や腰の痛みを増強します。また、カフェインは交感神経を刺激し、不安感やイライラを引き起こすことも知られています。
④運動不足
運動不足により全身の血流が停滞すると、子宮周辺の筋肉が硬くなり、生理痛が悪化します。運動はエンドルフィン(痛みを和らげるホルモン)の分泌を促進するため、痛みの軽減につながります。
■睡眠不足はホルモンに悪影響だらけ
⑤睡眠不足
睡眠中に分泌されるメラトニンは、体内時計を調整し、抗酸化作用を持つホルモンです。メラトニンの不足は、炎症反応を助長し、生理痛を悪化させる可能性があります。また、睡眠中に分泌される成長ホルモンは、細胞修復を促進するホルモンのため、睡眠不足により分泌が低下すると、痛みへの耐性が下がる可能性があります。
また、睡眠不足は、炎症性物質であるプロスタグランジンの分泌を促進します。これにより、子宮の収縮が強くなり、生理痛が悪化します。
⑥ストレスを溜め込む
ストレスは自律神経のバランスを乱し、子宮の血流を悪化させます。特に、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌増加がプロスタグランジンの生成を刺激する可能性があります。
⑦からだを冷やす習慣
からだを冷やすことにより全身の血流が悪化し、特に子宮や骨盤周辺の血流低下から筋肉が緊張することで痛みが強くなります。
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梶の木内科医院院長
1964年生まれ、富山県出身。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。医学博士。総合内科専門医、腎臓専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。著書に『え、私って栄養失調だったの? その不調は病気でなく状態です!』『え、うちの子って、栄養失調だったの? その不調は食事で改善します!』(みらいパブリッシング)がある。
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(梶の木内科医院院長 梶 尚志)
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