天皇家とは姿勢がまったく違う…秋篠宮さまの「いじめ」発言に社会学者が見たバッシングの根本原因
プレジデントオンライン / 2024年12月12日 16時15分
■記者会見で「いじめ的情報」と発言
秋篠宮さまが、11月30日の59歳の誕生日を前に行った記者会見で、「いじめ」という言葉を使われた。最近の、秋篠宮家に関する報道やネットの書き込みなどについて、記者から「秋篠宮家へのバッシングとも取れる情報について、妃殿下が誕生日に当たっての文書で『思い悩むことがあります』と記されました。殿下の受け止めや、宮内庁に求めていることもお聞かせください」という質問があり、それに答えられたときのことだ。秋篠宮さまは、以下のようにお答えになった。
「一般的には、バッシング情報と言われております。ただ、本当にたくさんの情報があるわけですけれども、その中でのバッシング情報というのは、これは第三者と当事者では恐らく意味合いが異なってくるように思います。当事者的に見るとバッシング情報というよりも、いじめ的情報と感じるのではないかと思います」
紀子さまは「バッシング」という言葉を使われたが、秋篠宮さまはそれを問われてさらに踏み込み、「いじめ」だと述べられたのである。
■秋篠宮家への強い風当たり
近年の秋篠宮家への風当たりは、確かに強い。当事者ともなればいじめと受け取られ、心を痛めるのは当然のことである。しかしそれでも、いじめという言葉はかなり強い言葉である。いじめの主体は、国民であるとも受け取られかねないからである。
戦後の象徴天皇制の下で、天皇は国と国民統合の象徴となっている。皇位継承順位1位の皇嗣と国民との間に、もし亀裂が生じたとすれば、それはこうした天皇制や皇室のありかたを揺るがしかねない。
かつて秋篠宮家は、国民から非常に好意的に受け止められてきた。そして秋篠宮家へのバッシングは、2017年ごろの、眞子さんの婚約をめぐるトラブルからはじまったとされている。しかし振り返ってみると、事態はそうシンプルではない。そしてここに至るまでには、いくつかのターニングポイントがあった。
■「理想の家族の姿」だった
まず1989年9月の、秋篠宮さまと紀子さまの婚約は、好意的に受け止められた。同年1月にお亡くなりになった昭和天皇の喪中だったが、暗い雰囲気を吹き飛ばすような「キャンパスの恋」であった。
紀子さまは「3LDKのプリンセス」と呼ばれたが、なるほどプリンセスと呼びたくなるような可憐ないでたちに、「なんと素敵なひとなのだろう」と私もため息をついた。バブルの狂乱のなかで、ご実家は学習院大学の職員宿舎。テレビもないという、おっとりとしたたたずまいは新鮮であった。近くのスーパーでの買い物帰りに、大根をのぞかせた買い物袋を持つ姿、質素な服装でジョギングをする姿には親近感をもった。
将来の天皇即位という重圧を一身に受けながら育った皇太子さま(現在の天皇陛下)とは対照的に、次男として育った秋篠宮さまは、自由な解放感や明るさを感じさせた。そして当時、皇太子妃がなかなか決まらなかった時期には、「弟の秋篠宮妃である紀子さまがあまりに完璧すぎるから」という記事もあったと記憶している。皇太子さまは「(皇太子妃は)紀子さんと仲良くしてくれるひとがいい」といったと伝えられたこともある。このあたりは、理想の家族のモデルとして皇室があった、とてもほのぼのとした時期であった。
■「皇太子さまのご結婚」でバランスが変化
しかし、1993年に雅子さまが嫁がれてからは、バランスが変わらざるを得なかっただろう。誰が悪いわけではないし、一般家庭と重ねるのは失礼である。しかし、すでに1991年には次男の家庭(秋篠宮家)に孫が生まれており、その孫を中心に家族の雰囲気ができているところに嫁ぐのは、「長男の嫁」としては居心地が悪かったのではないかと、女性なら思うのではないだろうか。
また、すぐにお子様に恵まれていれば、そのような順序はどうでもよくなる。しかし、愛子さまが誕生されたのは、ご結婚から約8年後の2001年。いいかたはよくないが、その状況は昼ドラなみの「ドロドロ」をイメージさせるものがあり、無邪気に週刊誌報道を楽しめる雰囲気ではなくなった。
■激化した皇太子夫妻へのバッシング
皇室という特殊な環境であるがゆえに、雅子さまへの「お世継ぎ」へのプレッシャーは相当なものであっただろう。事実、愛子さまを出産されたあと、雅子さまは2004年に適応障害の診断を受けて療養に入られた。この時期は「雅子さまは皇室から出ていきたいのだろうから、離婚して出て行かれるのがよい」「離婚しないならば、廃太子すべきだ」といったバッシングもまた激しかった。しかし、皇太子夫妻はなにも反論されずに耐えていらっしゃった。
こうした皇太子夫妻の姿を皆が覚えているがゆえに、国民は、ついつい秋篠宮家にも、同じように「反論せず静かに耐える」といったことを求めてしまうのではないだろうか。
■皇室と国民の関係性
皇室の方々は、衣食住は保障され、高い身分をもたれている。しかしその一方、「自由」という代償を払い、国と国民のために奉仕することも求められている。ある意味でお気の毒ですらある。誤解を恐れずに言えば、こうした状況を「うらやましい」と思う国民は、どれくらいいるだろうかと思うほどだ。象徴天皇制とは、このような天皇陛下の状況を国民が理解しながら、だからこそ天皇陛下を敬愛するというシステムであるとさえいえる。
しかしながら、自由で闊達(かったつ)なところを愛された次男の秋篠宮さまは、皇嗣になっても、悠仁さまが将来天皇に即位して天皇家となっても、かつての自由闊達さを手放さずにいようとしているように、国民の目に映ってしまっているのではないだろうか。
お茶の水女子大学で研究活動を行っていた紀子さまの研究者枠を使っての悠仁さまのお茶の水女子大学附属幼稚園の入園も、同中学校の提携校進学制度を使用しての筑波大学附属高校への進学も、東大の推薦枠の使用も、今回悠仁さまが合格した筑波大の自己推薦型のAC入試も、バッシングされているような「裏口」ではなく、制度にのっとった正当なルートである。しかし、誰にでも簡単に利用できる制度ではないからこそ、本当はそうでないとしても、国民の目にはどうしても、「特別扱い」を受けようとしているかのように映ってしまうのかもしれない。
皇室の方々に無私の心を求めるのは国民の勝手であるし、皇嗣になったのは秋篠宮さま本人が望んだことでもないだろう。ご本人からすれば、不当ないじめを受けているように感じるのも無理のないことだろうと思う。ひょっとしたら私たち国民が、象徴天皇制に期待するものを変えてゆくしかないのかもしれない。
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武蔵大学社会学部教授
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人
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(武蔵大学社会学部教授 千田 有紀)
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