子どものいない専業主婦妻の生きがいだった…愛犬に月10万円使う妻に愛想をつかした夫が残した置手紙の中身
プレジデントオンライン / 2024年12月24日 8時15分
■愛犬のために月10万円以上の出費
専業主婦のA子さん(48歳)は、大手企業の管理職の夫と結婚して20年になります。
A子さん夫婦は、3年前から小型犬を飼い始めました。子どものいないA子さんは、愛犬の世話に没頭するようになりました。
毎日のフードやおやつに気を遣うのはもちろん、トリミング、ドッグランにも頻繁に出かけます。
やがて飼い主友達ができたので、その人たちと食事に出かけ、時にはペットを同伴して旅行にも行くようになりました。
A子さんは夫から家族カードをもらって自由に使っていました。夫は最初のうちはお金のことは何も言ってきませんでしたが、ある日、カード明細を見て驚き、ペットの費用を減らせないかと言ってきました。
平均して毎月10万円以上使っていて、「もはや浪費の域である、必要な費用だけに収めてほしい」というのです。
■「私の生きがいを否定するのか」と激怒
それを聞いたA子さんは激怒して、「私の生きがいを否定するのか」「お友達はもっといいフードを食べさせているのに、あなたがもっと稼がないから我慢しているのよ」などと夫をなじりました。
夫はA子さんの言い分を黙って聞いて、最後は「わかった」と言いました。しかしそれ以降、夫婦の会話はだんだんと減っていきました。
数カ月が経ったある日、A子さんが飼い主友達との旅行から帰ると、夫の荷物がすべてなくなっていました。そして、「価値観が合わないので離婚したい」という夫からの手紙が置いてありました。
A子さんは夫に「ひどすぎる」と怒りながら、急いでLINEをして、「自分と愛犬の生活を一生涯保証するのであれば別居に応じてもいい」と伝えました。
夫は婚姻費用として16万円を振り込んできましたが、ペットに使うお金だけで10万円以上かかるため、生活は成り立ちません。
夫に「○○ちゃんがかわいくないの?」「生活ができないからもっと増やすように」と連絡しましたが、らちが明きません。月16万円では生活できないので、A子さんはネットで調べて、自分で婚姻費用分担調停を申し立てました。
■妻は愛犬の費用と生活費で31万円を要求
調停委員はA子さんに別居中の生活費(婚姻費用)について説明をしました。婚姻費用は夫婦の収入と子どもの人数で決まります。夫の年収は1000万円で、子どもはいません。この場合、婚姻費用は月16万円で、夫は適正額を払っているというのです。
A子さんは、「うちには○○ちゃんがいるから子どもがいるのと同じです」と主張しました。調停委員は、「法律上はそういう扱いにならない」と言いましたが、A子さんは譲りません。そのため調停委員は、「それでは参考として犬にかかるお金を一覧にしてほしい」と言いました。
その次の期日、A子さんは自分で作った表を持参しました。
トリミング、ドッグラン、定期健診、ワクチン、フード、おやつ、おもちゃ、サプリ、それにブランド物の服、ハーネス、犬用のベッドや食器などのペット用品……。飼い主友達との毎週のランチ代や旅行代も含めて、ペットの費用として総額で毎月10万円から15万円かかるため、これを毎月支払ってほしいと主張しました。さらに、自分がどれだけペットを大切に思っているかについて書いた書面も、たくさんの愛犬の写真とともに提出しました。
夫はその表を見て、フード代などとして月2万円ほどであれば上乗せすると提案してきましたが、A子さんは譲ることなく、計31万円の支払いを求め続けました。
■適正額に2万円上乗せでやむなく合意
調停の場合、双方が合意に至らないと、裁判官が審判を下します。その前に裁判官が、当事者に対し、審判になった場合の方向性を説明するのですが、裁判官はA子さんに、「審判になったら、これらの費用は一切考慮されません」と言いました。
A子さんはどうしても納得できませんでしたが、審判になるとフード代すらもらえなくなるということなので、やむなく2万円の上乗せで合意をしました。
離婚についてはすぐに進めず、当面別居を続けることになったものの、A子さんは今までのように贅沢にお金を使うことはできなくなり、もらったお金の範囲内で愛犬と生活をすることになりました。
■ペットは婚姻費用の支払いの対象外
このように、A子さんは完全に当てが外れてしまいました。
ペットを大切にかわいがっている人は多いですが、基本的に、ペットは法律上動産として扱われ、扶養家族としてはカウントされません。そのため、婚姻費用の支払いの対象外であり、離婚した場合も養育費の対象になりません。
審判・判決になった場合、ペットは算定の対象から外されるという扱いが一般的です。しかしA子さん夫妻のように、合意の範囲内で、算定の基準額よりも任意で上乗せをして払われる可能性はあります。ペットの養育費として一定額を払う、たまにペットに会うといった合意をしたケースもありました。
■ペットは財産分与の対象となる
また、離婚する際、ペットをどちらが引き取るかで揉める場合もあります。上で述べた通り、ペットは動産のため、調停や裁判では親権ではなく、財産分与の問題として扱われます。
夫婦のどちらかが独身時代から飼っていた場合は特有財産となり、財産分与の対象にはなりません。
結婚後に飼い始めた場合は、共有財産となりますが、分けることはできないため、どちらが引き取るかを話し合うことになります。双方が譲らない場合は、現実的に飼育できる可能性のある側が引き取るという判断が下されることがあります。
一方、夫婦のどちらも引き取りを望まないというケースもあります。その場合は引き取り先を探すことになります。
このように、離婚や別居の際にペットがどう扱われるかには、一定のルールがあります。原則はどうなのかを知っておかないと、A子さんのように当てが外れてしまうことがあるため、前もって弁護士に相談をすることをおすすめします。
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弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。
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(弁護士 堀井 亜生)
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