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「地方には仕事がないから」だけでは説明できない…「貧しい街・東京」に若者を吸い寄せる"キラキラ感"の魔力

プレジデントオンライン / 2024年12月28日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hirotsugu Kurobe

なぜ東京には若者が集まるのか。文筆家の御田寺圭さんは「地方から若者が離れる原因として、仕事がないことや生活が苦しいことが挙げられるが、それだけでは説明できない。若者たちの視点で見たときに、東京には“キラキラ感”があるのだ」という――。

■東京は、貧しい街である

きらびやかな街々が広がり、いまも次々と巨大なビルの建設が続く東京。ここはグローバル規模で見ても類いまれな巨大都市であり、世界中から富がかき集められ、資本主義の豊かな果実をそのまま体現しているようにすら見える。

しかしそれでも、はっきり伝えておく必要がある。

東京は豊かな街ではないと。

国土交通省の資料「都道府県別の経済的豊かさ(可処分所得と基礎支出)」によると、東京の所得と支出のバランスで「豊かさ」を捉えた場合、東京都民としての標準的な暮らしむきはそこまで豊かではないどころか、全国的に見ればどちらかといえば「貧しい」部類に入るといっても過言ではない。

お金配りで有名な実業家など桁外れの富裕層が全国(ひいては全世界)から集中するメガロポリスだからこそ見かけ上の所得平均値は突出して高くなるが、世帯中央値で切り分けると全国的に見て「中の上」くらいの所得水準の人が多い。それに対して物価や家賃といった避けがたい支出は全国で突出してかさばる。東京はきわめてコスパの悪い街であることが見えてくる。

■「キラキラ感」に引き寄せられ「搾取」される若者たち

ところで、地方から若者の流出が止まらない。その多くは東京へと吸い寄せられるように集まっている。

世間では、地方から若者が離れる原因として「仕事がないから」とか「生活が苦しいから」といった意見がしばしば挙げられる。しかしながら、地域にもよるがそうした説明は雇用や所得の統計データとは必ずしも整合的ではない。そうした要因で説明できる側面が完全にゼロであるとまでは言わないが、それだけでは「若者の流出」の全貌を把握するのは難しいだろう。それ以外になにか大きな要因が別にあって、それが若者の地方離れを加速させている。

若者たちの視点で見たときに、東京にあって地方(地元)にないのは新奇性を帯びた華やかさ、俗な表現を使えば「キラキラ感」であり、それに引き寄せられるように全国から若者(とくに若い女性)がかき集められる。

かき集められた若者たちは、東京に大勢いる富裕層(資本家)の優雅で便利で豪華で快適な暮らしを支えるエコシステムに組み込まれ、なおかつかれらが生み出した経済活動がさらに東京の「キラキラ感」の源になり、全国から若者を誘惑する循環構造をつくりだす。東京は、地方から若い労働力を安く買い叩いて大きな“利ざや”を出すその返礼として、地方に多額の交付金を出す。人とカネの交換を日本規模で行うダイナミズムの動力装置が東京なのである。

若者は自分の意思で地元を離れて東京に移り住んでいるのだが、しかしあえて悪く表現すれば、(東京の“平均”所得を大幅に押し上げる)資本家が享受する豊かさや利便性のために誘われてわざわざ「搾取」されに行っているともいえる。かりに北陸や東北に地元があるなら、そこにいたほうが豊かな暮らしを送れるかもしれないのに、それでも離れるのだ。東京がまぶしいからだ。

■「年収1000万円が約束された大企業勤め」以外の若者は苦労する

東京はたくさんの若者を搾取することでその栄華を誇っている街であることを前提として理解しなければならない。繰り返し強調するが、東京は“平均”所得を大きく押し上げる一部の人びとを除けば、統計的に見れば概して「貧しい街」なのである。

ある若い人がいたとする。その人がもし東京にある大企業に就職が内定していて、早々に年収が1000万を超えるようなキャリアを歩む見込みがあるのなら、東京で暮らしてもきっと搾取とは縁のない暮らしを送ることができるようになるだろう。だがそういう見通しがとくにないのなら、この街に来ることはあまりお勧めしないし、何年か暮らしてもキャリア展望が開かず自分の生活のレベルが上向かなかったなら、さっさと「見切り」をつけて離れるのも真剣に検討するべきだとさえいえる。

東京になんとなくやってきて、若い時間を「安い人材」としてズルズル過ごし、ライフステージもライフプランも空白のまま惰性で過ごしていると、あっという間に若い時間は底をつき、本当に取り返しのつかないことになる。もっとも「資本家」の立場からすれば、そうやって考えなしで東京にだらだら留まる人がたくさんいてくれたほうが懐が潤って、便利で豊かな暮らしが引き続き送れるので願ってもないことなのだろうが。

■東京にマイホームを持つことはもはや不可能

将来的な推計を見ると、これからも東京に若い人口が全国から流入するトレンドは変わらない。東京の物価や地価や住宅価格は(海外の富裕層の投資や移住も活発化していることから)ますます上がるだろうし、東京の「キラキラ感」に呼び集められた若者は、ますます貧しい暮らしを強いられることになる。

東京に集まる若者の中央世帯水準では、もはや東京の住宅を購入することは不可能になってきているし、周辺3県(神奈川県・千葉県・埼玉県)で東京に近接する都市部の不動産価格も急激に上昇してきている。「いやいや郊外の中古や空き家(古屋)を買えばいいじゃないか」といった意見もあるが、それらのなかには現行法の耐震基準を満たしていない物件も少なくはない。

駅から出てきたビジネスパーソン
写真=iStock.com/JoeyCheung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JoeyCheung

旧耐震のマンションならまだ都心でもギリギリ手が届く範囲(高くても4000万円前後)に収まっているが、その購入を若者に安易に推奨している人は、良心が痛まないのだろうか。近い将来起こるとされる首都直下型地震での倒壊リスクは高くなる。若者は新しいマイホームを持てず、耐震基準の劣る、使い古された「お下がり」の住まいを、それこそひと昔前の新築一戸建てと同じかそれ以上の値段で購入しなければならないというのは、なんとも馬鹿馬鹿しい話に思える。

このように書くと奇妙かもしれないが、所得水準も上がらない結婚もできないマイホームも持てない子どもも持てない人生の先行きが見えないそういう若者が大勢暮らす貧しい街だからこそ、東京は日本のどこよりも「豊かな街」になっている。

■東京が地方に「依存」している

一般的に「地方は東京に依存している」と揶揄されがちだが、実際には「東京は地方に依存している」と表現するほうが適切である。

東京は地方から若者を吸い上げて肥え太り、地方の発展や人口動態の先細りを加速させることをひきかえにして「豊かな街」を維持している。もちろん東京という街の豊かさは東京に移り住んだ若者たちに還元されているわけではなく、そこで暮らす金持ちの皆さんの金融所得や不動産所得(あるいは地方に交付される助成金・補助金)に変わっているわけだ。

政府がなぜ東京都心部の大学の入学定員を規制したか。それをなぜ「地方創生」の文脈で実施したか。これでもうお分かりだろう。大学進学率が高まった現代社会において、東京に散在する(有名)大学群こそが事実上の“ストロー”のようになっているからだ。大学が東京にあることで、それが地方から若者を吸い上げるパイプラインの役割を果たしてしまっているからだ。

講義を受ける学生たち
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■だれでも包摂する「おおらかさ」が東京にはある

東京は若者にとって日本でもっとも魅力的な街のひとつだが、若者たちにとってはもっとも貧しい暮らしを強いる街のひとつでもある。東京の見た目上の豊かさは一部の人に独占されていて、安い労働力として搾取される人びとはライフステージの「先」を描くことすらできない。言い換えれば、東京はそういう「先の見えない若者」を大量生産することによって、表面的な華やかさを維持しているのだ。

それでも東京に来たがる人が後を絶たない理由もわかる。必ずしもお金の問題ではないのだ。故郷の街の気候とか風土とか文化とか人間関係とか、そういうのがイヤで、いちど「まっさら」にリセットしたくて東京にやってくる人も少なくない。見方をかえれば、東京はなんらかの理由で地元にいられなくなった人でも温かく包摂する。そういう大らかさを持っているともいえる。

■日本の治安は再び悪化トレンドに入った

「日本の治安は(体感に反して)年々改善していて、刑法犯の件数で見ても減少している」――といった説もよく聞く話だが、そろそろアップデートが必要になってきている。というのも、じつは数年前から犯罪の件数は再び全国的に増加傾向に転じているからだ(※警察庁「令和5年の犯罪情勢」)

全国的に詐欺が急増しているほか、都内では最近メディアでもクローズアップされている押し入り強盗の増加が著しい。若年犯罪も減少トレンドがついに反転してしまった。さすがに他の世界的な大都市――ロサンゼルスやニューヨークなど――には現時点では程遠いが、しかし東京もまた「先の見えない若者」を大量生産するメガロポリスであり、その「先の見えなさ」は犯罪行為に奔(はし)るハードルを低くしてしまう。

夜道を歩くグループと路地に落ちる影
写真=iStock.com/Oleg Elkov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleg Elkov

■「東京」という街は想像以上に人を「呑み」にかかる

これから人の親になる者、あるいは年頃の子どもを持つ親たちには、私は伝えるようにしている。この「東京」という街が、想像以上に人びとを「呑み」にかかる街であることを。

今日この記事を読んでくださった読者のなかには、今年の年末に地元へと帰省する人がいるかもしれない。あるいは、帰省してくる子や孫を迎える立場の人もいるかもしれない。自分自身が、あるいは自分の大切な人がこの「東京」という街とかかわっているなら、この街の美しさと残酷さをどちらも知っておくべきだ。

見た目上の華やかさや新奇性はさながら誘蛾灯のようで、集まってきた若者たちを根こそぎかっさらい、問答無用で資本主義の「駒」として行動するように再構築する。生活のなかでとにかく金がかかるように仕向けるし、やたらと金がかかって貯えられず身動きが取れないような状況をつくりだす工夫を十重二十重(とえはたえ)に張り巡らせている。いつまでもそういう存在でいてくれたほうが、もともと豊かな人にとっては好都合だからだ。

最後にもう一度だけ強調しよう。東京は「貧しい街」である。その「貧しさ」を覆い隠すほどの華やかな光が放たれているだけで。

たくさんの人がさまざまな思いを抱えながら集まるから、東京は年の瀬もいっそうまぶしくなる。

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御田寺 圭(みたてら・けい)
文筆家・ラジオパーソナリティー
会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』(イースト・プレス)を2018年11月に刊行。近著に『ただしさに殺されないために』(大和書房)。「白饅頭note」はこちら。

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(文筆家・ラジオパーソナリティー 御田寺 圭)

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