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「国家公務員試験トップ」よりも「予備校模試1位」の方が尊敬される…元経産相官僚が目撃した霞が関の謎文化

プレジデントオンライン / 2024年12月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

東大生の「官僚離れ」が進んでいる。いったいなぜか。学歴研究家じゅそうけんさんの著書『受験天才列伝』(星海社新書)より、元官僚の宇佐美典也さんと東大生作家の西岡壱誠さんの鼎談の一部を紹介する――。(第2回)

■霞が関で行われている「学歴マウント」の実態

宇佐美典也 制度アナリスト
1981年生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済産業省に入省。2012年に退職し現職。

西岡壱誠 東大生作家
1996年生まれ。東大合格のノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、株式会社カルペ・ディエムを設立し、代表に就任。

【じゅそうけん】宇佐美さんにぜひお伺いしたかったのは官僚の世界における「受験天才」のリアルについてです。大蔵省(現・財務省)出身の片山さつきさんが、鳩山邦夫さんに対して「私は全国模試1位でした」とマウントを取ったという学歴厨エピソードは有名ですよね。ほかにも、僕たちのまだ知らない「受験天才エピソード」や「学歴厨エピソード」が、霞が関に眠っているのではないでしょうか。

【宇佐美】まさに「模試の成績」は語り継がれますね。「模試1位同士でナンバーワン・ツー争いをずっとやってる」みたいなこともありました。自分は予備校に行っていなかったからその手の情報に疎くて、大学入学時にも入省時にも事情に詳しくなかったのですが、「予備校勢」みたいな連中が「あれが模試上位の○○か」みたいなことを言い合っているのを目にしてきました。

【じゅそうけん】「模試の成績」は、学歴好きが最もテンションが上がる話題の一つです。昭和の頃からずっと変わらない組織文化といわれます。

■予備校模試の成績優秀者はずっと語り継がれる

【宇佐美】ヤンキーみたいなんですよ。「あれが関西の雄!」みたいに一目置き合っている。もちろん模試の成績だけじゃなく「学歴」が話題になることもありますよ。

【じゅそうけん】国家公務員採用総合職試験(旧I種)の試験の順位よりも「模試」の点数のほうが幅を利かせるんでしょうか。

【宇佐美】はい、総合職試験よりも、明らかに「予備校模試の1番・2番」のほうが格式が高いんです。もちろんI種の試験で1番とか2番みたいな飛び抜けた成績の人は目立つし、財務省は採用試験の点数にもある程度こだわるかもしれませんが、それ以外の省庁はそこまでこだわらない。

人事担当者にとっても、採用試験での点数は「横並びになったときにどちらを優先するか」くらいの限定された意味しか持たないですから、多くの人は「受かっているわけだから、とりあえずいいよね」くらいの感覚だと思います。それに比べれば、予備校模試の成績優秀者はずっと語り継がれるし、格式が高い。

【じゅそうけん】そこまで格式が高いとは、驚きです。模試の順位表は、上位者だけの名前が開示されるから、特異な文化を生み出しやすい仕組みでしたよね。

■SAPIX1位から5位が理三で再会

【西岡】ちなみに、いまは氏名が見られる模試の順位表はなくなっているんです。かつては1番から100番ぐらいまで名前が出る模試がありましたが。

【宇佐美】なんと、なくなったんですか! 時代の流れに合わせてということですか。

【西岡】はい、個人情報漏洩の観点からなくなったんですよ。でも僕の頃にはまだありましたし、名前が出てたひとは「伝説」とまではいかないまでも、やはり一目置かれていました。

受験から半年ぐらい経った頃の大学一年生のクラスの中で、誰かが模試の順位表を持ち出してきて「あ、あいつの名前あるぞ!」みたいなことをやりはじめる。世の中、誰しも「数字」とか「順位」が大好きなんだなと内心すこし呆れました。

小学6年生ぐらいの時のSAPIX模試で名前が出てたやつがそのまま東大入っている、なんていうのもよく聞く話です。

【じゅそうけん】SAPIX模試の1位から5位の方々が理科三類(東大の最難関)で「再会」したという話も聞いたことがあります。名前だけはお互い長年知り合っているのに、本当に出会うのは大学だというのが面白い。

東大・安田講堂
写真=iStock.com/jaimax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jaimax

■「とりあえず理科三類」の大問題

【宇佐美】ただ、優秀な人が揃いも揃って理科三類に入るということが、その人たちの人生にとってよいことなのかどうかはわかりません。達成感がもの凄いからか、入学後にスポイルされてしまう人も一定数いる。そして理科三類に行かなかった人のほうが、案外大成したりもする。

【西岡】そこは大問題です。「理科三類」にはとてつもないブランド力がある。ですが、たとえば「海外の大学に行く」といった他の選択肢を見えにくくする側面もある。その人にとって一番よい選択肢は他にあるかもしれないにもかかわらずです。

【宇佐美】同期を思い浮かべても、そういう印象はあります。小学校の時から優秀で、絶対理三に行くだろうと思っていた人がいるのですが、意外なことに慶應医学部に入りました。そして今『ネイチャー』に論文を掲載している。そういう方の人生を見る一方で、理三でスポイルされた人たちも沢山見てきました。合格で燃え尽きるのを見るのはつらいことです。

【じゅそうけん】灘高校などには「とりあえず理科三類」みたいな流れさえもがあるそうですね。しかしせっかく優秀な若い方々であればこそ、視野を広く保っていただくのが大事だと感じさせられます。

■なぜ東大生の官僚離れが起きているのか

【じゅそうけん】「東大文一」から「霞が関」というルートもかつては鉄板でした。「東大至上主義」が官庁の中にあったともいわれます。しかし近年は「東大生の官僚離れ」がしきりに言われて、時折ニュースでも取り上げられていますよね。

【宇佐美】かつて東大の学生が官庁を目指したのは、官僚をやっている先輩が多かったからに過ぎないと思います。先輩と後輩の関係を通じて、東大生たちは官庁がどういう職場かを聞けたから、官庁への心理的距離感も近かった。

そして「官僚離れ」のような現象は、昔からしばしばメディアで言われてきましたが、最近取り沙汰されている「東大生の官僚離れ」は、かつてのそれとは質的な違いがあると思います。おそらくの展望ですが、最近の「官僚離れ」では本当に人材確保が困難になってきているし、今後さらに厳しくなっていく。

【じゅそうけん】宇佐美さんは何が「東大生の官僚離れ」の要因だと思われますか?

【宇佐美】根本にある構造的な要因からいうと「東大文一の定員削減」が大きかったと思う。削減自体は大分前になされたことです。だけど200人近くが削減されている。これが大きく響いているのではないでしょうか。

【じゅそうけん】東大文一の前期試験の募集人員は「590名(1996年)」だったのが、緩やかに削減されて、2008年から現在までは「401名」となっています。

■政治主導が進んだ弊害

【西岡】楽観的な捉え方をする向きもあると思うんです。官庁に人気がなくなっても、それでも官僚を志望する東大生には「気骨のある人」が多いのでは、と。昔もそうだったかもしれませんが、さらに少数精鋭として「志」があるちゃんとした人間が東大から官僚になっているとすれば、それは良いことなのだという考え方ですよね。どう思われますか?

【宇佐美】ところが、政治主導がかなり進んだ結果、極端な言い方をすれば「官僚は政治家の言うことならば黒も白と言わなきゃいけない」みたいな空気に変わりつつある。無論、政治家や官邸と仲が良い官僚のもとには、面白い仕事が回ってくるし、それなりに権力も得られる。

けれど、そこから外れてしまった官僚には、政治家に近い官僚に従わされる仕事ばかりが回ってくる。そこにあまりにも大きな差が出てしまった。組織は「志がある人」ばかりでなく、「志がない人」や「斜に構えた奴」がいるというのが大事なのだと思うのですが、「志がある人」にとっても「斜に構えた奴」にとっても居づらい職場になってきている。

【じゅそうけん】そして、官僚養成学校としての東大文一だからこそ、それを古くからひっそりと支えてきた「先輩と後輩の関係」を通じて「綻び」が波及していくというわけですね。

■優秀な人材をまかえなくなってきている

【西岡】正直にいえば、官僚になった先輩に話を聞いてみて「官僚なんていいことないよ」という評判を耳にする頻度は少なくないように思います。私自身が東大で受けた肌感覚としてもよく分かります。そして、東大生の就職先は、たとえば外資へとシフトしていっています。

具体的には外資コンサルや外銀。実は私の会社の「カルペ・ディエム」でも東大生を対象に調査したことがあるんです。「将来なりたい職業」は「外資20、決まっていない18、官僚15」。「就職の際に重視していること」は「やりがい32、働き方23、大きなことができるかどうか20、年収20」。

【宇佐美】西岡さんのデータにみえるような「外資」に行った人たちが、30代くらいになって心変わりする可能性はある。「真面目に勉強すればこの国を動かせるんだ、そういう風に世の中はできているんだ」と心に深く刷り込まれているから、30代半ばから後半ぐらいになって、なんとなく「お国のために」モードに変わるようなケースも目にはします。

しかしそういった人たちだけで、「もうこのシステムではやっていけない」と思って辞めてしまった人の欠員を埋められるか。もはや法律の条文を書く、税率をいじる。そういった「官僚にしかできない仕事」への職能人気だけでは、必要最低限の法学的知識を備えた人材すらまかなえなくなるかもしれません。

■慶應より官僚を輩出している意外な地方大学

【じゅそうけん】私がSNSで観測したりしているアラサー世代の東大出身者だと、まだお金を稼いで「ウェイ!」という人が多い。だけど彼らはまだ20代後半。彼らもあと5、6年したらそう変わってくる可能性がある。それくらい官僚養成学校としての東大生のマインドは根底的で、根強い。しかし、その根強さがどこまで通用するのか。

じゅそうけん『受験天才列伝』(星海社新書)
じゅそうけん『受験天才列伝』(星海社新書)

東大生の官僚離れの結果、たとえば岡山大学出身者の割合などが中央官庁でも増えてきています。岡山大学は、官僚の出身大学ランキングで、すでに慶應より上位にいます。トップテンには以前からずっと入っている。

東大ばかりが目立ちますが、実は昔から官僚を輩出する地方大学という伝統もある。その伝統の存在感が増してくるならば、東大生が官僚離れをしても、なんとかなるという面はありませんか?

【宇佐美】岡山大学には元々官僚を出す風土がありますよね。岡山大学は、経済産業省の事務次官も輩出しています。無論、地方ならばまだ官僚ブランドが効くという事情はあります。

とはいえ「官僚」ももはや「普通の進路」の一つになりつつあり、総合職(旧I種)と一般職(旧II種)の温度感の違いも薄らいできているのではないでしょうか。

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じゅそうけん 学歴研究家
受験総合研究所、略して「じゅそうけん」の名前で活動する学歴研究家。本名は伊藤滉一郎。じゅそうけん合同会社代表。X(旧Twitter)をはじめとするSNSコンサルティングサービスも展開する。早稲田大学を卒業後、大手金融機関に就職。その後、人生をかけて学歴と向き合うことを決意し退職。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、X(旧Twitter)やYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。

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宇佐美 典也(うさみ・のりや)
作家、制度アナリスト
1981年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済産業省に入省。2012年に退職。現在は太陽光発電などの再生可能エネルギーについてのコンサルティングとともに、著述活動やメディア出演を行っている。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)など。

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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。

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(学歴研究家 じゅそうけん、作家、制度アナリスト 宇佐美 典也、現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)

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