普通の辞書には載っていない…自衛隊だけが使っていた謎漢字「車へんにト」の意外な読み方をご存じか
プレジデントオンライン / 2025年1月9日 9時15分
※本稿は、QuizKnock『QuizKnock 学びのルーツ』(新潮社)の一部を再編集したものです。一部漢字が正しく表示されない場合があります。
■「身近なのに知らない」ギャップが漢字の魅力
漢字の魅力ってなに? とよく聞かれるんですが、その一つに身近さと意外性のギャップがあると思います。
漢字ってすごく身近じゃないですか。道の看板、駅の表示、ペットボトルのラベル……日本で暮らしていると、街中に漢字があふれていますよね。空気のように当たり前にあるのが漢字です。
でも、身近でも意外な秘密が潜んでいたりするのが漢字の面白い所なんです。たとえば「心」という漢字と「太」という漢字がありますよね。どちらも小学校2年生で習う、誰でも知っている当たり前の漢字です。
じゃあ、この二つの文字をくっつけた「心太」という単語を知っていますか? 見たことがないという人も多いと思いますが、実はこれは「ところてん」と読みます。あの、食べ物のところてんには漢字の表記もあるんです。
こんなふうに、身近なのに知らない読み方があったりするのが漢字の面白い所の一つです。
■1文字覚えるだけでレベルアップを感じられる
他にも漢字の魅力はありますよ。これは幼かった僕が漢字にハマった理由でもあるんですが、僕にとって漢字は、他の学問や科目よりも、達成感を手に入れやすいものだったんです。
数学や英語で「うん、自分は前よりできるようになったな」と実感するためには相当の勉強が必要ですけど、漢字は、極端な話、1文字覚えるだけなら数秒でOKですよね。それだけの時間でもレベルアップを感じられるのは漢字のいいところだと思いますね。
世の中には僕以外にも漢字好きがいて、LINEのグループを作って見つけた面白い漢字を報告し合ったりしているみたいです。でも他の学問、たとえば物理学で「面白い理論を見つけた!」という人がいても、シェアされた理論の楽しさを味わうのは簡単じゃないですよね。理解するためには長い時間がかかりますから。短時間でカジュアルに楽しめるのは、漢字のいいところじゃないかな。
■自衛隊で使われる車へんに「ト」の漢字
あと、他の学問との比較という点だと、順番を守らなくても学べるのも漢字の強みです。数学や物理がそうだと思うんですけど、順を追って勉強していかないと難しいことを理解できませんよね。足し算や掛け算を飛ばして線形代数を学ぼうと思っても無理じゃないですか。
でも漢字はそれができるんです。幼稚園児が、大人が知らないような難しい漢字を覚えてもいいんです。実際、小学生の頃の僕はステップを飛ばして義務教育では習わないような難しい漢字を覚えて楽しんでいました。そういうことは他の学問では難しいですよね。
それから、漢字はとても数が多い。現時点でもものすごい数がありますから、いくら覚えても飽きることがないのもいいところです。
現時点、と言ったのは、実は漢字は今も増えているからです。「漢字認定委員会」みたいなのがあるわけじゃないですけど、広く使われるようになって辞書に載るようになれば、「新しい漢字として認められた」と言っていいのではないでしょうか。
最近の例だと、これはまだ漢字として認められたとは言い切れないんですが、「トラック」という漢字が新しく出てきました。車へんに「ト」で「トラック」と読ませることがあるようです。これは自衛隊で使われたらしいです。
■新しく作られる漢字もある
他にも、有名なところでは元素を表す漢字は今も増えていますね。リチウムは「鋰」(※注1)、フッ素は「氟」(※注2)というふうに元素にはすべて漢字表記があるんですが、新しい元素が見つかるたびに中国ではそれを意味する漢字が作られます。
※注1:金へんに里で「鋰」
※注2:気の「メ」部が「弗」で「氟」
最近だと2016年に、原子番号113の元素が「ニホニウム」と名付けられてニュースになりましたが、ニホニウムに対しても「鉨」(※注3)という漢字が作られたことをご存じでしたか?
※注3:金へんに尔で「鉨」
■カキにオスを意味する「牡」が使われる理由
斑れい岩という、墓石によく使われる岩があります。多くの場合は「はんれい岩」とか「斑れい岩」などと書かれるんですが、漢字だと「斑糲岩」という表記になります。
でも、この「糲」という漢字、なんかヘンですよね。漢字としておかしいというのじゃなくて、岩を意味する言葉に使われている字なのに、「米」という食べ物を意味する偏(へん)が含まれているのはやや妙です。実はこれは斑れい岩の見た目が玄米に似ていることから米へんの漢字が使われているともいわれているんです。
「糲」の右側、つまり旁(つくり)は読み方を意味する部分で、「れい」と読みます。他には、貝のカキを漢字で書くと「牡蠣」ですが、その2文字目の右側にありますよね。
ここに注目すると、「斑糲岩」に付随して、牡蠣の音読みが「ぼれい」という新しい知識も手に入ります。
ちなみに、「牡蠣」の「牡」の漢字には生物のオスという意味があります。オスの馬のことを「牡馬」ということがありますが、その「牡」です。では、カキとオスにどういう関係があるのかというと、昔はカキはオスだけしかいないと考えられていたという説があるんですね。だからこういう漢字が当てられたわけです。
こんなふうに、漢字に着目すると、ものの名前の由来を推測できたり、知識が広がったりしていくんですよ。身近なのに、調べていくと思いもよらない知識が手に入るのも、漢字の面白いところですね。
■マンガの必殺技の意味がストンと入ってくる
こういう漢字の知識は雑学としては面白いけれど役に立たないよね、と思う人もいそうです。でも、僕の考えは違うんです。漢字の知識は面白いだけじゃなくて、とても役に立つんですよ。
というのも、日本社会にはあちこちにたくさんの漢字がありますから、漢字への理解が深いと、その漢字が使われている場面やモノのコンセプトを他の人よりも深く感じ取れると思うんです。
たとえば、少年漫画『鬼滅の刃』(集英社)に「霹靂一閃」という技が出てきます。「霹靂」は難しい漢字ですが、意味を知っていますか? 急な雷のことです。「一閃」はピカッと光ることですよね。ということは、「霹靂一閃」は、まるで急な雷光のような技だというイメージがつきます。
「青天の霹靂」という言葉もあって、こちらは割と知られているかもしれません。「びっくりするような急な出来事」という意味ですよね。この言葉も、「霹靂」の意味を知ると具体的で視覚的なイメージが湧きますから、もっと深く理解できます。青天、つまり青く晴れ上がった空にいきなり雷が光る、という意味ですよね。そのくらいびっくりさせられる出来事、ということです。
■ペットボトル飲料「颯」から浮かぶ商品イメージ
漢字は商品名に使われることも多いですが、漢字が分かるとその商品のコンセプトというか、開発側がどういうふうに受け取られたいかがもっとはっきり分かります。たとえば「颯(そう)」というペットボトルのお茶がありますが、僕、すごく面白い商品名だと思うんですよ。
「颯」という字はあまりメジャーじゃないですが、爽やかな様子を意味する「颯爽」という二字熟語に使われるのを見かけることが多いですよね。このときの「颯」は「さつ」と読みます。実は「颯」を「そう」と読む例はあまり多くありませんが、よく使われる「さつ」ではなく「そう」という読み方を選んだということから、企業の伝えたいイメージが読み取れるんではないかと思います。
この字は、風がさあっと吹く様子や、転じて人やものが素早く動く様子を意味しています。そういう爽やかなイメージの名前の通り、実際、とても華やかな香りに特徴があるお茶です。
こんな感じで、漢字の知識があると得する場面はけっこう多いんです。でも、日本人にとって漢字はあまりに身近だから、ちょっと珍しい漢字を目にしても深く考えないですよね。「霹靂一閃」にしても「颯」にしても、「よくわからない漢字だけど、まあいいや」って、なんとなく素通りする人が多いと思うんです。
だからこそ、知っていると他の人と差がつけられる。「漢字を知っていてよかったなあ」と感じる場面は、一日に何度もありますよ。
■漢字はとてもお得な趣味
ここまで、外からの情報を解像度高く受け取れるという面で漢字の良さをお伝えしてきましたが、逆に、自分の考えや感情をアウトプットするときにも、漢字はとても役立ってくれます。
漢字を使った難しい熟語はたくさんありますが、どの言葉にも、その言葉でしか表現できないニュアンスがありますよね。「飄々」という二字熟語を辞書で引くと「考えや行動が世間ばなれしていて、つかまえどころのないさま」と書いてあって、もちろんその通りなんですが、でも辞書通りに説明しても、「飄々」という言葉の持つ独特の感じは表現できていないと思います。
さっきの「颯爽」も同じで、「颯爽と現れた」という文を「爽やかに現れた」と言い換えても間違いではないですが、やっぱりニュアンスが微妙に違いますよね。
「颯爽」という字だけが持つ独特の颯爽とした感じは、他の言葉では表現できません。
だから漢字を知っていて語彙が豊富だとものごとをもっと正確に考えたり表現したりできるようになるし、自分自身に対しても「今日の僕は鬱々としているな」みたいに、客観的に見ることができるようになるかもしれません。
しかし、こうやって改めて振り返ると、漢字を知っているメリットはたくさんありますね。しかもさっき言ったように、漢字は一文字覚えるだけでレベルアップできますから、そのメリットを感じやすい。とてもお得な趣味です。
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伊沢拓司が中心となって運営する、エンタメと知を融合させたメディア。「楽しいから始まる学び」をコンセプトに、何かを「知る」きっかけとなるような記事や動画を毎日発信中。YouTubeチャンネル登録者は235万人を突破(2024年10月時点)。
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(QuizKnock)
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