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悪意のある編集で「のぞき魔」「いやらしい男」に仕立てられる…TikTokで勝手に顔をさらされた人たちの悲鳴

プレジデントオンライン / 2024年12月20日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CandyRetriever

■無断アップロードされる危険は誰にでもある

いつからか公共の場での動画撮影は、「目くじらを立てるほどでもないこと」との共通認識が出来上がってしまったようだ。街を歩けば至る所にスマホがあふれかえっている。見知らぬ人々が自撮りに夢中になったり、周囲を顧みずに動画を回したりしている今、自分が映り込んだ動画が知らぬうちにソーシャルメディアで拡散するリスクは如何ともしがたい。

映り込む程度なら実害はまだ少ないが、海外では意図的に無断撮影された動画が勝手に出回る例が問題となっている。何気ない所作を悪意ある編集で切り抜き、当時の事情を無視して「心ない行為」として勝手に拡散されるなど、自分の映る動画が独り歩きし炎上するケースが複数報告されている。

高齢者への思いやりを装った「感動のサプライズ動画」や、ジムでトレーニングに励む人々をあざ笑うかのような無断撮影、そして女性客の尻に見入るかのような動画を公開されてしまった男性店員など、愉快とは言えない事例が相次ぐ。

こうした心ない動画は、広告収入を投稿者に分配する「収益化」のしくみにより、転載され加速度的に拡散されてゆく。いくつもの無断撮影の被害例が、誰の身にも起きうるリスクの恐ろしさを物語る。

■“孤独な高齢者”に花束を贈る…一見粋な動画が問題に

英ガーディアン紙は、メルボルンのショッピングセンターで撮影された「心温まる」TikTok動画の事例を報じている。動画は5900万回以上視聴され、1100万件以上の「いいね」を集めた。

この動画では高齢の女性が、ショッピングモールのエスカレーター脇にあるオープンスペースに腰掛け、コーヒーを片手に独りくつろいでいる。そこへ、通りすがりの買い物客を装った若い男性が近づいてくる。TikTokクリエイターであり動画投稿者のハリソン・ポールク氏だ。ジャケットを着たいが手が塞がっているので、少しの間この花束を持っていてほしい、と女性に依頼する。

ポールク氏がジャケットを着終わるのを見計らい、女性は花束を返そうとする。しかし、ポールク氏は花束を受け取らず、「良い1日を」とだけ言い残して颯爽と立ち去る。女性は驚いた様子で固まり、手元に残った花束を見つめたまま顔をしわくちゃにする。編集された動画を観ると、あたかも孤独な高齢女性を感動させた、小粋なサプライズ企画のように感じられる。

「思いがけない親切行為」と題されたこの動画は、「彼女の1日がより良いものになったことを願うよ」とのキャプションとともにTikTokに投稿された。視聴者からは「素晴らしい善行です。私なら泣いてしまうでしょう」「彼女の気分を和ませたようだし、こうした行為が世間には必要だ」といった好意的なコメントが寄せられた。

だが、豪ニュー・サウス・ウェールズ大学の専門家は、オンラインニュースメディア「カンバセーション」オーストラリア版に見解を寄せ、「親切な行為」どころか「年齢差別」だと批判している。「孤独な老人女性が他人とのふれあいを欲しており、赤の他人から花束を渡されても喜んで受け取るだろう」という前提自体、このTikTokerの傲慢な思い込みに過ぎないとの指摘だ。

TikTokより
TikTokより

■「老人はふれあいに飢えている」という思い上がり

果たして、この専門家の指摘は正しかった。知らぬ間にサプライズ動画のターゲットとなったメルボルン在住のマリーさんは、豪ABCニュース・メルボルンのラジオ番組に出演し、「私の静かな時間を邪魔され、同意なしで撮影・アップロードされ、事実と異なる内容に作り変えられました。彼はこれで相当なお金を稼いだことでしょう」と不快感を示している。

マリーさんは問題の本質について、「特に高齢女性が、見知らぬ人から花をもらって喜ぶだろうという父権的な思い込み」であると指摘。父権的とはすなわち、立場の弱い者に対して情けを掛けるようでいて、実際には本人の意志を無視する行為を言う。マリーさんは、「(ジャケット云々ではなく)最初から花を渡すと言われていれば、お断りしていましたが、その機会すら与えられませんでした」と語っている。

動画はタブロイド紙でも取り上げられ、「お年寄りの胸打つストーリー」との触れ込みで広まった。マリーさんは「最初こそジョークのように感じましたが、(孤独な老人扱いする)記事を読んで、人間らしさを奪われたように感じました」と振り返る。

撮影側は事態をどう捉えたか。撮影者のポールク氏の代理人は、「公共の場での撮影であることから、法的に同意は必要ない」と主張し、あくまで正当な動画との立場を崩していない。その上で、「愛情と思いやりを広めることを目的としたものが、誰かに心配をかけることは望まない」との声明を発表し、女性が望むならば動画は削除する意向を示した。動画は現在、削除されている。

マリーさんは自身の経験から、「Facebook、Instagram、TikTokなど何も使っていないのに、私の身に起きたことです。誰にでも起こりうるのです」と注意を呼びかけている。

■勝手に「のぞき魔」に仕立て上げられた男性

偽の感動物語は、ネットにあふれる無断撮影動画のなかでもまだ良い方だ。より悪意に満ちた編集に晒されることもある。米デジタルメディアのボックスは、米大手小売チェーン「ターゲット」の店舗で起きた無断撮影の事例について報じている。

25歳男性で店員のミッチェル・クラークさんは、店舗での勤務中、店内の棚に携帯電話が立てかけられているのを目にした。クラークさんはボックスの取材に対し、「何か馬鹿げたイタズラ動画の撮影だと思いました」と振り返る。

イタズラ動画の読みは当たっていたが、ターゲットは他ならぬクラークさん自身だった。目の前で、タイトなスパッツをはいた若い女性客が突如、前屈みの姿勢に。臀部をクラークさんのほうに突き出し、衣服の裾から下着が見える体勢となった。不自然な状況にクラークさんは目を見開き、胸に手を当てて驚く様子を見せる。

そんな奇妙な出来事から数カ月が経ち、クラークさんはすっかりこの一件を忘れていたようだ。しかしある日、店舗に来た客が「どこかで見た気がするね」と言ってくる。3店舗ほど異動したから以前の店舗で会ったのでは、と応じるクラークさんに、客の口からは思わぬ言葉が飛び出した。「そうだ、(会員制アダルトサイトの)OnlyFansだ!」

■動画は4ドルで販売されていた

おかしな様子の女性客が訪れたあの日、クラークさんの反応は棚に置いたスマホによって一部始終録画されていた。その後、OnlyFansで4ドルの有料コンテンツとして販売されていたという。焦りを覚えたクラークさんは、自身の動画を4ドルで購入。料金を払って内容を確かめる羽目になったという。動画では、クラークさんが驚く瞬間の表情がズームとスローモーションで強調されており、あたかも女性客の尻に見入っているかのような印象となっている。

クラークさんは自身のTikTokで、「僕をのぞき魔のように見せかけたんだ」と憤る。彼自身ゲイを公言しており、女性客に見とれたかのような演出はまったくのお門違いだという。それでも文脈を知らない多くのネットユーザーたちは、女性の下半身を凝視する店員として動画を拡散した。

ボックスは投稿者への取材を試みたものの、コメントは得られなかったとしている。偶然クラークさんの店舗を訪れた客が、以前どこかで見たと告げなければ、クラークさんは自身がコンテンツ化されていることすら知らないままだっただろう。

■肩に触れられ「人種差別主義者」に仕立て上げられた女性

公共の場での動画撮影をめぐっては、意図しない映り込みも問題だ。撮られたことすら気に留めないうちに、深刻なトラブルに巻き込まれている危険性がある。米デジタルメディアのマッシャブルは、雑踏で撮影された女性の動画が40万回以上再生され、コメント欄で激しい批判の的となった事例を挙げている。

ある女性が姉妹と共に、ニューヨークのタイムズスクエアを訪れた際の出来事だ。路上パフォーマンスを行うダンスグループのメンバーが近づき、声をかけてきた。メンバーは無邪気に女性の肩に触れながら、ジェスチャーでハイタッチを求める。これに対し女性は不快感を示し、触れられた肩の部分をさすりながら涙を流した。

通常の出来事であれば、メンバーは女性の反応を不思議に思うことはあれど、さして気に留めなかったかもしれない。だが、この様子は同じくタイムズスクエアを訪れていた無関係の人物によって無断で撮影され、TikTokに投稿された。動画は運営側が削除するまでの間に40万回以上再生され、コメント欄では女性の反応を批判する声が相次いだ。触れられるのを嫌がった女性が白人で、ハイタッチを求めたメンバーが黒人だったことから、人種差別的な態度だとの非難が集中した。

■動画配信者の「小遣い稼ぎ」の犠牲者になった

事態を重く見た女性の姉は、TikTokに説明動画を投稿。妹は自閉症と闘っており、見知らぬ人から触れられたことで強い拒否反応を見せたのは、強迫性障害が原因だったと説明した。この説明動画の再生回数は450万回に達している。姉が説明しなければ、妹は人種差別主義者のレッテルを貼られるところであった。

マッシャブルは、TikTokでは動画の視聴回数1000回につき、2~4ドルの収益が発生する仕組みだと説明している。事情を知らない通りすがりの人間が他人のやりとりを動画で切り取り、実情と異なる正義を振りかざした挙げ句、コンテンツとして無断で収益化する例が後を絶たない。TikTokの知的財産権に関する方針では、「投稿内容についてはユーザーが責任を負う」と定められているものの、無断撮影動画の投稿を制限する具体的な規定は設けられていないのが実情だ。

マッシャブルは、ソーシャルメディアとスマートフォンの普及に伴い、公共の場で見知らぬ人に無断撮影され、ネットに投稿されることが日常茶飯事となったと指摘している。「公共の場で見知らぬ他人を撮影することが、いつから許されるようになったのだろうか?」と記事は問題提起する。

■ジムでのワークアウト撮影でトラブルに

ニューヨークのような観光名所に行かずとも、日常生活を送るなかで、あらゆる人々が所構わず動画を回している。うっかり映り込んでしまうことは、もはや避けがたくなってきた。米デジタルメディアのヴァイスが問題視するのは、ジムでの撮影をめぐるトラブル事例だ。

記事によると、ある女性配信者がTikTokに投稿した映像が物議を醸したという。この配信者は、ジムで撮影した動画内を通じ、「ある男性が自分をいやらしく見つめてきた」と主張。しかし、視聴者らが実際の映像を子細に確認すると、その男性はただジム内を見回しており、撮影機材を設置していたこの配信者の方を一瞬見ただけだった。それにもかかわらず、配信者は男性を「野蛮」「くだらないクズ」などと非難。この動画は後に削除されている。

TikTokより
TikTokより

悪質な事例はまだある。ある若いボディービルダーはジム施設内で、高齢の利用者が汗を拭う様子を無断で撮影。「自分がポーズを決めている後ろで、おっさんが口を拭いている」と揶揄するコメントを添えて投稿した。ジムでは誰もが必死で汗を流しており、容姿にまで気が回らない瞬間も多い。話題作りや収益化のため、トレーニングに励む利用者を出しにする不適切な動画となった。

■映り込むことへの恐怖を感じる人も

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ジムでの撮影に関して、プライバシー侵害が大きな懸念になっていると指摘する。ワークアウトに励む自分の姿を撮影したい側と、背景として映り込むことを嫌う側で、トラブルに発展することがあるようだ。

米大手のヨガスタジオチェーン、コアパワーヨガに所属するインストラクターのホルツマン氏は同紙の取材に対し、レッスン参加者から「他人の撮影した動画の背景に映り込んでいることに不安を感じている」との声が上がっていると証言している。ニューヨーク在住の自営業デザイナーであるケオーさんは同紙に、「鍛え抜かれた体形の人々が集まるワークアウトクラスに参加すること自体が緊張するのに、誰かのネット投稿用の動画に映り込むことなど想像したくもない」と戸惑いを見せる。

とくに女性を中心に、通常の外出時のようなメイクをしていなかったり、ボディラインの出やすいウェアを着ていたりと、ジムで撮影されることを望まない場合も多い。これに対し、トレーニングに邁進する様子をソーシャルメディアでシェアしたいと考える利用者も一定数おり、対立を生んでいる。

■「感動」「炎上」を鵜呑みにしない

こうした事例から、無断撮影や拡散がプライバシーの侵害を超えて、より深刻な人権侵害へと発展している実態が浮かび上がる。撮影者は「善意」や「正義」を装いながら、実際には視聴回数や収益を目当てに、他者の尊厳を踏みにじっているケースがある。

特に懸念されるのは、編集による文脈の改変だ。メルボルンの女性は「孤独な老人」に、店舗スタッフは「のぞき魔」に仕立て上げられた。ジムでは運動する人々が嘲笑の対象とされ、自閉症の女性は人種差別主義者として誤解を受けている。わずか数秒のショート動画が爆発的な再生回数を集めている昨今、背景となる文脈は十分に伝わりづらい。事実と異なる文脈で拡散される事例は、さらに増えてゆくだろう。

法制度の整備は急務だが、それ以上に私たち一人一人の意識改革が必要だ。他者を撮影する際は、その行為が相手の尊厳を傷つける可能性はないか、慎重に考えるべきだろう。ソーシャルメディアとスマートフォンの普及により、私たちは常に「撮影される可能性」と隣り合わせの生活を強いられている。しかし、この状況を「時代の流れ」として受け入れてしまうのは考え物だ。

また視聴者として、無断撮影された動画の「いいね」や共有を安易に行わない姿勢や、動画の背後に撮影者の意図とは異なる事情が存在する可能性を考慮する思慮深さも求められる。デジタル時代における新たな人権侵害の被害者や加害者とならぬよう、一般の人々をターゲットにした無断撮影動画を安易に拡散しないよう、適度な接し方を心がけたい。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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