イヤなことが起きたときはこれしかない…精神科医・和田秀樹「ネガティブ感情を手放す一番効果的な方法」
プレジデントオンライン / 2025年1月7日 10時15分
※本稿は、和田秀樹『感情的にならない本』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。
■変えられないものは放っておけばいい
感情的にならないためにどうすればいいか、あなたはいま、短く答えることができますか?
いちばん有効な方法は「動くこと」でした。
自分の気持ちといつまでも向き合っていないで、どんどん動いて外を向くこと。
起きてしまったイヤなことや、他人の悪感情なんかにとらわれないで、目の前のやるべき仕事や作業をさっさと片づけていくこと。
つまり、変えられないものは放っておいて、変えられるところから変えていくのが溌剌(はつらつ)とした感情を保つコツです。
あなたの周りの朗らかな人、明るい感情であなたと向き合ってくれる人、みんなを元気にしてくれる人、そういった人たちを思い出してみましょう。
いつも行動的ですね。
もちろんそういう人でも、感情的になることはいくらでもあります。泣いたり笑ったり怒ったり、人間だから当たり前ですが、喜怒哀楽をわりとはっきり出す人たちなのです。
でも、イヤな感情にいつまでもとらわれることはありません。怒ってもカラっとしてるし、自分が悪いと思えば素直に謝ります。感情とのつき合い方が上手なのです。
■グズグズした気持ちを切り替えるには
悪感情を引きずるタイプはどうでしょうか?
グズグズと恨み言をいい続けたり、ヒステリックに他人を攻撃したり、済んだことをいつまでも悔やみ続けるような人は、決断力も行動力も鈍いように見えます。つまらないことにこだわり続けるというのは、それだけ気持ちが内向きになりやすい人ですから。切り替えができないのです。
スパッと答えを出す人は違います。
答えを出して行動に移すことで、グズグズした気持ちも切り替えることができます。イヤな感情につかまっているときでも、すぐにそこから抜け出すことができるのです。
ではどうすれば、すぐに動ける人になれるでしょうか。
動くためには明快な行動方針が必要です。といってもむずかしいことではなく、迷いやためらいが生まれてもそれをふり切る考え方のことです。
たとえば「チャンスかもしれないな」「おもしろいだろうな」と考えても、そこで迷ってしまうと結局、動けませんね。
「どうしようか」「失敗するかもしれないな」「もうちょっと様子を見るか」となります。これでますます動けなくなります。
■つまらないシミュレーションをしていないか
動く直前までいく人もいます。
「やってみようかな」と考え、半分、腰を上げ、また思い直す人です。
「でもむずかしそうだ。最初はおもしろいかもしれないけど、わたしのことだからきっと飽きてきて、最後は後悔するんだろうな」
懐かしい友人に会いたくなったときでも、「いまは仕事も違うし考え方も違っているんだろうな。すぐに会話が途切れて、結局気まずい時間になるかもしれないな」と悪い結果を想像してしまいます。
せっかくその気になりかけても、シミュレーションしているうちになぜか「動かないほうがいい」という答えに到着してしまうのです。
わたしたちはふつう、楽しい計画を立てたときには楽しい結果だけを予想します。だれかと会って食事をしたりお酒を飲んだりして過ごそうと思えば、「あの店の料理ならきっと喜んでくれるだろう」と考え、「話したいことはいっぱいあるから時間もたちまち過ぎていくんだろうな」と考えます。
これもシミュレーションですが、楽しいシミュレーションは行動意欲をどんどん盛り上げてくれます。
ところが悪い結果を想像する人は、このシミュレーションが変な方向に行ってしまいます。「あの店の料理が気に入ってもらえなかったらどうしよう」とか、「美味しいワインに詳しくなっていて、わたしの好みをバカにするかもしれない」とか、動くことをためらわせるシミュレーションをしてしまうのです。
■最後は「出たとこ勝負」と居直るしかない
シミュレーションそのものは、さまざまなビジネスシーンで必要になります。
「なるようにしかならない」と考え、なんの準備もしないで交渉やプレゼンテーションに臨む人はいません。
「相手がこういってきたらこう切り替えそう」
「ここが弱いかもしれないから予備のデータを揃えておこう」
「最悪の展開になったら次回の交渉の約束だけでも取りつけておこう」
そういった事前のシミュレーションを済ませておけば、気持ちの準備もある程度はできてきます。
でも限界がありますね。相手がいるのですから、完ぺきなシミュレーションは不可能です。最後は「出たとこ勝負」と居直るしかありません。
まして自分で思いついた楽しいことや、気持ちが晴れそうなことなら、シミュレーションより実行してみたほうがもっと楽しいし気持ちも晴れるはずです。そこにわざわざ、「でも」とか「もし」といった悪い想像をもち込むのは、行動にブレーキをかけるだけになってしまいます。
■考えても始まらないことは考えない
感情コントロールの大切な技術に、「考えても始まらないことは考えない」というのがあります。悪い想像は「考えても始まらないこと」です。
なかなか動けない人は、この「考えても始まらないこと」にしょっちゅうつかまっている人ということもできます。シミュレーションのクセがついてしまって、動く前にさまざまな展開や結末を想像しますから、それだけでもう腰が重くなってしまいます。
しかも落ち込んでいたり悲観的になっているときには、悪い展開や悲惨な結末しか想像できずに、「やっぱりやめよう」となってしまいます。そんなことを繰り返しているかぎり、いつまで経っても悪感情から抜け出せないのです。
「すぐに動くためには、考えても始まらないことは考えない」。まず、そのことを確認してください。そして身軽に動き出すためには、ジッとしているより動いたほうがましだと割り切ることです。
「こんなことなら動かないほうがよかった」とか、「家でゴロゴロしていたほうがましだった」とか思うこともありますが、実際には「来てみてよかった」「やってみてよかった」と思うほうがはるかに多いのです。
■すべてのことが「なにもしないよりまし」
それに動いたほうが感情は刺激されます。たとえ「こんなことなら」と思うことがあっても、動いたほうが気持ちは外向きになるし、期待通りの結果は出なくても意外なものと出合えたり、なにか一つぐらいは印象に残ることがあります。動かなければなにも変化は起こらず、自分の感情と向き合うだけになります。
したがって、考え方としてはつねに「なにもしないよりまし」でいいはずです。
たとえば仕事がうまくいかなくて、やる気をなくしたビジネスマンは感情も沈みがちです。そういうときはふだんよりもっと動きが鈍くなっているでしょう。
アポを取るための電話やメールも「どうせムダ」、退社後の飲み会も「シラケるだけ」、昔の友人が誘ってくれても「疲れるだけ」、同僚の勉強会も「どうぞ勝手に」、なんにもやる気がしないならデスクの整理でもすればいいのに「そんなことしたって」とため息をつきます。
でもすべて、「なにもしないよりまし」です。
いつまでもグズグズと不調を引きずっているより、気晴らしでも慰めでもいい、あるいはちょっと刺激を受けるだけでもいいから、動いたほうがいいのです。
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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