月曜にシャツと下着を5セット持って金曜に退社の日々…激務の一流ビジネスマンが「自分の時間」を作った方法
プレジデントオンライン / 2024年12月25日 9時15分
※本稿は、田中渓『億までの人 億からの人 ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■24時間の使い方を「見える化」する
仕事やそのほかのことに追われる毎日を送っている人は少なくありません。「もっと自分の時間がほしい」と思うなら、なぜ今時間がないかを考えないことにはわかりません。立ち止まってまずは今自分がどんなふうに時間を使っているのか、24時間の使い方を棚卸し「見える化」しましょう。
具体的には、毎日24時間の時間の使い方を1週間分すべて書き出してみます。
次に、「削れない時間」と「削れる時間」に分類し、毎日24時間を見渡せるようにします。睡眠は絶対に「削れない時間」としましょう。他の時間や健康に悪影響を及ぼすため。仕事は自動化や時短術的なものを身につけて削ることも検討すべきものの、ひとまず「削れない時間」カテゴリーで、削れる時間とはSNSを眺めたりゲームをしたりする時間になるでしょうか。
すると、「本当はやりたいのに時間がとれなくてやっていないこと」も明確になります。そうなったら、削れる時間を削ってそこに「本当はやりたいのに時間がとれなくてやっていないこと」を置き換えていきます。
■「ながら」で別のこともできないかを考える
このとき意識すべきは2つです。ひとつは「削れない時間」に「ながら」でできないか考えること。削れない家事をしながら、英会話のポッドキャストを聴けないか、ランニングをしながら1日のニュースをラジオで聴けないか、といったやり方です。
もうひとつは「削れる時間」を迎えてしまった際、トリガーとして反射的に置き換える方法です。「今、漫画アプリ開こうとしちゃったから、ビジネス書を電子書籍で読もう」「愚痴ばかりの飲みの誘いに惰性で参加の返信をしてしまいそうになったので、断ってジムに行こう」、といった感じです。
後者については、マイナスがゼロになるだけでなく、ゼロからプラスになる2倍おいしい感覚になり、頑張った分だけ他者よりも大きな差がついた、得した、と思えることから、それをやり遂げたときの自己肯定感、満足感が強く、癖になります。
■激務の中で「自分の時間」をひねり出した方法
僕が自分の24時間を見える化したのはゴールドマン・サックス時代でした。同社は激務で有名で、僕も入社してから数年間は月曜日にシャツと靴下、下着を5セット持参して出社し、金曜日にまとめて持って帰って洗濯。月曜日から金曜日まで夜はデスクの下に敷いた寝袋にくるまって朝を迎える生活をしていました。週末や祝日も出勤するのが当たり前という時代の話です。
仕事以外は寝るだけの毎日のなか、どうやって自分の時間をひねり出すかが課題でした。そこで1週間、どこに削れる時間があるのかを検証してみようと24時間を見える化しました。
「ながら」としては、クライアントの訪問に行く移動中は必ず英語の勉強をする、としました。そのためにわざと現地集合として同僚と別々に行くこともありました。「反射」としては、惰性で仕事終わりに一杯飲みに行っていたのをやめて、その分早く起きて朝ジムに行くなどです。
それ以外にも、「集中してプレゼン資料をつくる際は携帯の電源を切る」というものも。これは、SNSや思わぬメールなどに邪魔されて作業効率が落ちないようにするためです。
■集中したい時間はスケジュールを「ブロック」する
「細切れのミーティングの予定はなるべく特定の日に寄せて、作業だけの日と分ける」といったこともしていました。これは意外と効果があります。チームの共有カレンダーを見て、僕の予定が広く空いていると、どんどん飛び飛びに予定を入れられてしまいます。
細切れのミーティングのたびに作業を中断すると効率が非常に悪いもの。そこで、僕の共有カレンダーには、「作業ブロック」という、半日ブロックをときどき入れていました。これを見たチームメンバーは、「そこには予定を入れてはいけないんだな」と配慮してくれていました。
徹底的にマイルールをつくると、やりたいことの時間が捻出できます。毎日が行き当たりばったりでなく、予定どおりにことが運ぶようになり、精神的に楽にもなります。体重も入社して1年間で15kg程度増えてしまったものが、習慣化により2カ月で元に戻りました。
毎日忙しいけれど、自分のための時間を捻出したいという人は、今の時間の使い方を棚卸してみるところからはじめてみてください。どんなに忙しくても削れる時間が見つかります。僕も投資の勉強、語学学習、ダイエット、いずれも習慣化によって効果を実証できています。
■「緊急性」と「重要性」でタスクを4つに分類する
富裕層は、自分のために使う時間のコントロールも上手です。「戦略的な時間の使い方」を正しく理解して、着実に実践しているからです。「戦略」を時間を含めた有限の資源の分配法と定義するなら、数あるToDoのなかから適切な時間配分をするための優先順位付けをしなければなりません。
緊急性と重要性のマトリックスで整理する方法はよく使われますが、富裕層の思考でToDoを分類すると、図表1のようになります。
まず、「緊急性(低)×重要性(低)」(浪費・過剰の領域)は論外。やらなくていいことです。逆に、クライアントからのクレーム対応や締め切りが迫っている仕事など「緊急性(高)×重要性(高)」(必須の領域)は、直ちにとりかかる必要があるので後回しにはしません。
■一見重要に見える「錯覚の領域」を削る
「緊急性(高)×重要性(低)」(錯覚の領域)がポイントで、急な飲みの誘いや、たいして内容のない同僚からのSNSやチャットアプリの通知への対応など、一見対応に瞬発力が求められるかのように思えるため、錯覚の領域とも呼ばれます。短期的に期限があったりしますし、マインドシェアをとられがちなのですが、この優先順位を下げて時間を削ることがいちばん効果が大きいです。この時間を次の「緊急性(低)×重要性(高)」に振り向けることが非常に大切です。
そして、「緊急性(高)×重要性(高)」と同じくらい、もしくはそれ以上に優先する必要があるのは、「緊急性(低)×重要性(高)」(効果性の領域)のタスクです。
金融リテラシーを身につける勉強や語学学習、起業に向けた準備、人生を豊かにするためのコツコツした努力の積み重ね、といった中長期的なものです。仕事の枠を超え、人生のなかで重要性の高いことを見極め、計画を立てて着実に遂行していくことこそ自身の成長や自己実現のためには大事なことです。
ここをきちんとコントロールできるようになると、自分自身の成長によりパフォーマンスが向上し、結果として、「緊急性(高)×重要性(高)」の処理が速くなり、さらに時間が捻出できる、などの副次効果もあります。
■人生の豊かさを決める時間の使い方
Reticular Activating System(脳幹網様体賦活系)という脳機能があります。世の中には五感に訴えかける情報の量が凄まじく、それをすべて受け止めていたら、あっという間に脳がキャパシティオーバーしてしまうため、それを制御するためのフィルターのようなシステムです。
このシステムは、自分の興味や関心のある情報だけを無意識に取捨選択し、インプットする能力、ともいえます。
無意識にフィルターで落とされてしまう事柄に対して、このシステムを有効化させるためには、第三者である他人から意識にあげてもらうことと、自分自身がそのことを重要だと脳に刷り込ませること、の2つがあります。だからこそ自分にとっての、緊急性(低)×重要度(高)にあたるものが何なのか、しっかり整理をしたうえで、自分の意識に入るようにしておく必要があります。
また、他者の力を借りるために、共通の目的を持つもの同士でつながったり、SNSアプリのコミュニティ機能を利用したりして、お互いに影響を及ぼし合うことが大切なのです。
「緊急性(低)×重要性(高)」にどれだけ時間を割けるかによって、人生の豊かさが変わってくると思います。
■通勤に片道1時間かける人が年間で失っている時間
「時間がない」をやめるコツとして、効果を実感しやすいのは次の2つです。
ひとつは、「引越し」です。出社が必要な会社員なら会社の近くに引越してはいかがでしょう。「家賃が高くなる」「生活費の負担が増える」と思うかもしれませんが、お金で買えない時間を確保する方法としては効果が大きく、重要ではないでしょうか。
通勤に片道1時間かかる場合、その時間を有意義に使うことができればそれもいいかもしれません。2時間×週5日×年間52週間=520時間という莫大な時間を捻出できるからです。ただ電車のダイヤや天候に左右されマインドシェアをとられたり、乗り換えなどの手間暇を考えたりすると、意外と有効に使えていないものです。
もしその年間520時間の通勤時間を漫然とネットサーフィンをしていたりマンガやゲームをしていたりするだけなら、引越しすることで自分の時間をつくり出すことができるはずです。2年で1000時間以上の時間になるので、それなりの難易度の資格試験をとるにも、新しい分野の勉強や技術習得をするにも十分な時間です。
月額10万円家賃がアップして年間120万円の家計負担になったとしても、その時間を学習に充てると決めて実行できれば、年収を120万円以上アップさせることはそんなに難しいことだとは思いません。
■義務感で参加していた「飲み会の二次会」をやめる
もうひとつは、「どこまで付き合いに乗るかを線引きする」ということです。
僕自身は「飲みに行っても一次会で帰る」と決めていますが、このルールを自分のなかで決める前は、誘われれば何次会まででも参加していました。最後まで残るのがマナーであり、美徳だとすら思っていました。
20代はそれもありだったかもしれません。どんなときでも必ず付き合うことで得られる信頼、人脈があることも否定はしません。ですが、飲みに行くたびに壊れたレコードのように、結局いつものメンバーでいつも同じ話をするだけのルーティン飲みは、それが一時的に楽しかった、という感情以外に有意義だったと感じられなければ時間とお金と体力を無駄に使っているだけのイベントです。
そこで、一次会で帰るようにしたところ、そのことで責められることもなければ、失うものも何ひとつありませんでした。
そもそも僕の場合、どんなに遅くまで飲んでいたとしても朝は3時45分に起床すると決めているので、一次会だけで帰宅するほうが翌朝も体が楽、ということもあります。
とにかく今まで二次会以降の付き合いに費やしてきた時間をすべて自分のために使えることになったのは、大きな収穫でした。「時間がない」をやめるなら、何かひとつ時間を捻出するための決めごとをつくるのもいいかもしれません。
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元ゴールドマン・サックス マネージング・ディレクター
1982年、横浜出身。上智大学理工学部物理学科卒業。在学中に学科首席として表彰を受ける。同大学院に進学し、米国ロサンゼルスで、選抜された24人を対象に毎年開催されるビジネスセミナー「CVS Leadership Institute」に参加。個人優勝、チーム優勝を果たす。大学院中退後、53回の面接を経て、ゴールドマン・サックス証券株式会社に内定し、2007年に新卒として入社。瞬く間に金融危機(リーマンショック)が訪れ、ボーナスゼロ、大幅な減給に加え、在籍部署の9割の人員が削減される壮絶な経験をし、どん底に陥る。NHKドラマ「ハゲタカ」の舞台にもなった刺激的な投資部門で、星野リゾートとのジョイントベンチャーによる温泉旅館の再生や、企業価値5000億円を超える会社買収、1棟1000億円を超えるオフィスビル投資や、全国の大型国内リゾートホテルの外資系へのリブランド、企業再生やバリューアップなどのプロジェクトを中心に、上場・未上場株式、債券、不良債権、不動産、インフラストラクチャーなどへのあらゆる投資を行う。退社後は、少数精鋭の投資会社にて勤務。同社の不動産投資の責任者を務める。
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(元ゴールドマン・サックス マネージング・ディレクター 田中 渓)
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