「人脈拡大」「コミュ力向上」は地獄の一丁目…マイクロソフト元役員が語る"情報交換"したがる人の悲惨な末路
プレジデントオンライン / 2024年12月23日 10時15分
※本稿は、澤円『うまく話さなくていい ビジネス会話のトリセツ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「なんのため」にコミュニケーションを取るのか
コミュニケーション自体を目的にして、よく知りもしない人たちと会って会話していても、「ほとんどが時間の無駄になる」とお伝えしたいと思います。
「人脈を広げたい」「もっとコミュ力を高めたい」といった、コミュニケーション自体を目的にする人はよく見受けられます。
ですが、「なんのため」に目の前の相手と話しているのかよくわからない状態でコミュニケーションをとっていても、ただ疲れるだけで、自分の益になることはほぼありません。
この点について僕は、「手段を目的化するとたかられる」といつもお伝えしています。どういうことでしょうか?
例えば、不特定多数とコミュニケーションすること自体を目的にした場合、そうした場を提供する人から、時間やお金を搾取される可能性があります。もちろん、その場を提供する人から多くを学べたり、参加者が同じ目的を共有したりしているならば問題ありません。
しかし、コミュニケーション自体を目的にして、原価がワンドリンク程度のイベントに数千円から数万円を払って参加するとなると、これは完全に搾取されていると見ることができます。
■「飲みニケーション」がうまくいかない理由
「そんな怪しいイベントやセミナーには参加しないよ!」という人でも、目的のない、会社の「飲みニケーション」への参加については身に覚えがありませんか?
飲みニケーションは、会社のメンバーがお互いを理解し、ひとつにまとまるための大切な機会だとする意見も根強くあります。でも、冷静に考えると、そこに相関関係はまったくありません。
飲みニケーションをすれば、お互いを理解できて一丸となれるのであれば、苦労が多いチームマネジメントや1on1ミーティングなどさっさとやめて、毎日飲んでいればいいではないですか。そんな組織はありませんよね。
飲みニケーションを推進する人は、ただ思いつきで声をかけているだけなのが実態でしょう。それでも、「あの人が出席するから行かざるを得ない」「幹事に申し訳ないから行くしかない」と、断りづらい空気から参加する人が後を絶たないのです。
まさに、コミュニケーションのためのコミュニケーション。結果的に、参加者の温度感がばらばらの飲み会になり、音頭を取った人だけが盛り上がる場になってしまうというわけです。
それはやはり、時間やお金を搾取されていると言えるのではないでしょうか。
■「お金」も本来は手段に過ぎない
「手段の目的化」の最たる例は、お金です。
お金は本来、モノやサービスと交換するためのツールに過ぎませんが、それを得ること自体が目的になっている人がかなりいます。
ですが、「お金持ちになりたいからお金がほしい」という状態だから、「これをやると儲かりますよ」と寄ってくる人たちに引っかかりやすくなるわけです。
結果、よく理解もしていない株や仮想通貨などの金融商品をすすめられたり、「ラクして儲かる」と謳うたう商品やサービスを購入したりして、大事なはずのお金をむしられてしまう。
それはやはり、手段であるお金を得ることを目的にしているからです。そうではなく、大切なのは、自分のやりたいことや得意なことを誰かに提供し、その対価としてお金を得ることのはずです。
■時間とは命そのもの
そして、それは「とにかくうまく話せるようになりたい!」と、コミュニケーションの上達自体が目的になったときと、まったく同じ構造と言えます。
「じゃあ、こうすればうまく話せるようになりますよ」という人に搾取されやすくなるし、必ずしも悪意を持ってお金を取られるわけではなくても、少なくとも、あなたの貴重な時間を奪われることになります。
なぜなら、やはりここにも「目的」がないからです。「どんなときに」「どんな場面で」「どんな人たちと」「なんのために」「どのように」「どの程度まで」うまく話せるようになりたいのか──それらを突き詰められていないということです。
ご存じのように、時間はお金とは比べようもないほど貴重です。お金は減ってもまた増やすチャンスがありますが、過ぎ去った時間は取り戻せません。
時間とはあなたの命であり、人生そのものなのです。
そんな貴重なものを、目的もよくわからないものに差し出してしまう人があまりに多いのは、繰り返しますが、ひとえに「なんのためにそれをするのか」という目的を突き詰めていないことに尽きるのです。
■「情報交換」が「情報搾取」に変わるとき
世の中には、名刺を交換して数人と会話するといった「情報交換」の場がたくさんあります。僕は、こうした場が時間やお金だけでなく「情報搾取」の場になり得ることも、みなさんに知っておいてほしいと思っています。
あくまで僕の経験則ですが、自ら進んで「情報交換しましょう!」と寄ってくる人たちが、本当に交換する価値がある情報を持っている確率はかなり低いのです。
もちろん、交換する価値がある情報をお互いに持っているなら、win-winのコミュニケーションが成立します。自分が「Aを知っていて、Bを知らない」という状態で、相手が「Bを知っていて、Aを知らない」のであれば、情報交換によって両者ともAとBを知っている状態になるため、そのコミュニケーションには価値が生まれます。
しかし、自分が「Aを知っていて、Bを知らない」ときに、相手が「AもBも知らない」状態では交換が成り立ちません。
Bの知識を得られると思って会ったのに、相手がBのことを知らず、にもかかわらず「Aについて教えて!」と一方的にねだられるのが、情報交換の場でよく起こる不均衡のパターンです。
■「知っている」の感覚は人によって違う
これが相手に関するリサーチ不足だったならまだ自省できるのですが、酷い場合には、相手がBについて知っているように見せかけながら、実情はBについて聞いたことがあるという程度でも、堂々と現れるような事態もよくあります。
自分は「Aを100%知っていて、Bは10%知っている」状態で、Bに詳しそうな人に会ったはずが、相手は「Aについてはゼロ、Bも5%しか知らない」というアンバランスな状態で“情報交換”をする羽目になるというわけです。
ちなみに、なぜこのようなことが起きるのかと言うと、お互いが考える基準や単位が明確ではなく、ずれているからです。
要は、ある事項について10%知っている状態を「知らない」と考える人と、5%知っている状態を「知っている」と捉える人がいるということです。そうして先に述べたように、自分が5%しか知らないのに、自ら進んで「情報交換しましょう!」と近づいてくるというわけです。
これらの基準や単位は主観的なものであり、世の中に基準となる明確な数値もないため、よくこうしたことが起こるのです。
■目的が明確でなければ「信頼」を失う
「ビジネス会話」に話を戻すと、情報交換の場でも、先立って「目的」を見極めることがとても重要です。
「いろいろな人と話そう」「あのことについて聞けたらいいな」程度の曖昧な目的で参加するのではなく、自分は「なんのために話すのか」「なぜこの人なのか」「どんな情報がほしいのか」「代わりに自分はなにを提供できるのか」を明確にしたうえで会話に臨むことが大切です。
交換する情報のバランスが釣り合わないとき、搾取された側は、相手に対して不信感を抱きます。
つまり、目的のない会話をしていると、ビジネスでもっとも重要な資産である「信頼」をいつの間にか失うことにもつながるのです。
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圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(圓窓 代表取締役 澤 円)
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