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「日本は次世代自動車SDV競争に出遅れている」そんな"日本車ダメ"論調が常に間違えてしまう根本原因

プレジデントオンライン / 2024年12月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Derek Brumby

中国のEVバブル崩壊を受けて広がる「次の覇権競争はSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)だ」との論調は正しいのか。マーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明さんは「SDVが次世代の本命というのは経済紙誌の煽りに過ぎない。むしろすでにSDV化は進んでおり、これは単なる正常進化でしかなく、日本は自らの強みを磨くことが重要だ」という──。

■「日本の自動車メーカーは出遅れている」は根本的勘違い

最近、「近い将来すべての車は電気自動車(BEV)になる、日本メーカーは出遅れている」といった論調は、世界的なBEV需要の伸び悩みからほとんど目にしなくなっているが、そのかわりに自動車を取り巻く新しい言葉として「SDV」(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)をよく目にする。

SDVを制したものが今後の自動車業界を制する、という論調だ。そしてSDVで日本メーカーは出遅れているという記事をよく目にする。

果たしてそれは本当なのだろうか。

数年前、BEVで散々で遅れているといわれていた日本の自動車メーカーだが、現時点で見て最も正しい判断をしていたのは日本のメーカーだったことが明らかになり、拙速にBEVに舵(かじ)を切った欧州メーカーは現在苦境に立たされているではないか。日本メーカーでも、もっともBEVに積極的だった日産は経営危機に陥っているではないか。

■「次の時代のトレンドはSDV」は本当か?

さて、SDVだが、日本語にすると「ソフトウエア主体に作られた車」といったところか。

しかし明確に定義されている言葉ではないようで、さまざまな記事を読むとソフトウエアの更新で機能を付加・改善できることと、OTA(Over the Air)、つまり無線を通じてそのソフトウエアの追加や更新ができる、ということがポイントのように読み取れる。

もちろんそれだけでなく、車の機能すべてを統合してコントロールする新しいシステムも含まれるであろう。

しかし単にソフトウエアでコントロールされた車、という意味では、現在の車もソフト主体で動いていると言っても過言ではない。

■車のソフトウエアの進化は今に始まったものではない

1990年代から普及し始めたCAN-BUSシステムや、それを発展させたCAN FDやFlexRayといったシステムは、現在ほぼすべての車に使用されている、車全体を制御するネットワークシステムである。

最近は様々なセンサーを多数駆使するようになったため、より高速な車載用イーサネットを導入している車種も多い。

ここ20年くらいの進化はすさまじいもので、車のソフトウエアの進化は今に始まったものではないのだ。

ソフトウエア更新で新機能を追加する、ということでテスラが進んでいるという話もよく耳にするが、これも技術的に際立った話ではない。

■現在の車は十分に「ソフトウエア主体に作られた車」だ

たとえば私が愛用するマツダ・ロードスターであるが、2021年の改良でKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)という機能が追加された。

これはコーナリング中にごく僅かに内側後輪のブレーキを作動させることでコーナリングの安定感を高める機能だが、それ以前のモデルにも技術的にはソフトウエアのアップデートで機能追加が可能だという。ただし、ブレーキが絡むことなので認証の問題があり実際には追加できないのだが。

以前所有していたポルシェでは、オプションでパワーステアリング・プラスという設定があり、低速域でのステアリングの重さを軽くするものだが、これは何か物理的にパーツを変えるものではなく、ソフトウエアの設定を変えるだけのものだ。したがって購入後でも料金を払えばその機能を追加することができる。

私が愛用するもう1台、BMW 118d(旧型のF20型)でも、車にあるOBDコネクタに接続する機器さえあれば、パソコンやスマートフォンのアプリで様々な設定を変更することが可能だ。

その車のハードウエアが対応できる限り、ソフトウエアのアップデートや設定変更は今の車でも十分可能なのである。

■無線でソフトウエアのアップデートは「普通」

では、テスラのもう1つのアドバンテージといわれているOTAはどうか。OTAとは前述したとおり無線でソフトウエアのアップデートができる機能である。

無線という意味では、現在ほとんどのトヨタ車にはauの電波を使うDCM(車載通信モジュール)ユニットが標準装備されている。ホンダもオプションだがソフトバンクの電波を使ったhonda CONNECTを展開、日産もオプションでドコモの電波を利用したNissanConnectを提供している。

どれもナビ地図の更新等はすでにOTAでやっているのである。

回路基板に車とWi-Fiマークがデザインされている
写真=iStock.com/BeeBright
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BeeBright

■テスラOTAでも「Wi-Fi接続が必須」という現実…

ではなぜ車載システムの更新等、大がかりなものはOTAで行わないのか。それは現在の4Gや5Gの通信速度が十分でなく、安定性にも欠けるからだ。

スマートフォンでもOSの更新など大がかりなシステムアップデートをする場合、「Wi-Fi環境で行ってください」と指示されるケースがほとんどだろう。これもデータ通信の速度・安定性が不十分だからだ。

テスラもソフトウエアをアップデートする場合、OTAといってもWi-Fi接続が必須なのである。車を安定したWi-Fi環境に止めてアップデートしなければならないのだ。

テスラはBEVなので、購入する人は自宅に駐車スペースがあって自宅で充電できる人がほとんどだろうからWi-Fi接続も問題はないだろうが、集合住宅や自宅外駐車場の人はOTAでのアップデートが困難なのである。

加えて、車のソフトウエアはデータとして重いだけでなく安全性にも直結するものなのできちんとインストールされたかのチェックも重要だ。

テスラ以外のメーカーは技術的には可能なのだが安全性を重視してやっていないだけなのである。

■ハッキングのリスクと裏表

通信で車の走行にかかわるソフトウエアのアップデートができる、つまり通信で車の走行機能にかかわるソフトを改変できるということは、悪意のある者によるハッキングの可能性もあるということを考慮する必要がある。

ハッキングされれば、ある時一斉に特定モデルのブレーキが利かなくなる、という可能性だってゼロではないのだ。

もちろん、今後データ通信が進化しハッキング対策も徹底できればOTAはどのメーカーでも当たり前のものになり、車車間通信、路車間通信も安全に行われるようになって自動運転にも一歩近づくだろう。しかしそれは車単体だけで解決できる問題ではないのだ(これはBEVも同様だ)。

■最新装備を詰め込んでも喜ぶのは富裕層だけ

またSDVによる機能アップデートの可能性について、センサー等の必要なハードウエアはあらかじめすべて装備しておいて、ソフトウエアによって機能を追加・進化していけるという話もある。そしてそれが自動車メーカーの新たな収益源になるというのだ。

しかしこの話は現実的だろうか。使うかどうかわからない、もしくは使うとしてもまだ十分使いこなせないハードをあらかじめ組み込むとなると当然価格はその分高くなる。そんなものにお金を払う人はどれだけいるだろうか。

テスラユーザーのように、先進技術に関心のある富裕層は面白がって払うかもしれないが、一般の車ユーザーは使うか使わないかわからない装備に余計な金を払う気にはならないだろう。

それに何かアップデートできるとして、その対価としてお金を払いたいと思うユーザーがどれだけいるだろうか。もちろん、画期的な改善であれば払うかもしれないが、そんな画期的な改善は滅多に起きるものではないだろう。

無料なら歓迎だが、多少のアップデートや機能追加にお金を払う人がたくさんいるとはどうしても思えない。これはスマートフォンのアプリでも同じだろう。

■SDVによる社内エンターテインメントの向上は眉唾もの

さらに、SDVによる車内エンターテインメントの充実という話もあるが、車の中でしか使えない装備やアプリにお金を払う人がどれほどいるだろうか。

高性能なタブレットなどを持ち込めば良いだけの話ではないのか。タブレットなら車以外の場所でも楽しめるのだ。

自動運転が進めば、運転に集中しなくて良くなるから基本的に家の中と同じ、すなわちタブレットで済むことがさらに多くなるはずだ。

車にはタブレットを置く台と高音質のアンプとスピーカーさえあれば良いのではないだろうか。エンタメ領域でも自動車会社として新たな収益源になるとは考えにくいのだ。

自律輸送のイメージ画像
写真=iStock.com/carloscastilla
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/carloscastilla

■ベーシックカーにまでDCM標準搭載はトヨタくらい

さらに、センサーなどの技術も日進月歩である。

最新のソフトウエアのパフォーマンスを発揮するためには、最新のハードウエアが必要、となるのが自然なように思える。たとえばパソコンやスマートフォンでも、最新のOSやアプリを動かすには新しいハードウエアが必要なように。

車は今後も進化し続けるだろう。車用のソフトウェアが進化していくのは当たり前の話だ。そしてハードウエアの進化も間違いなく起こる。ソフトとハードは表裏一体だ。

ソフトはこれからの車にとって確かに重要だが、それだけで満たされるものではない。SDVなどといって、何か画期的な変化が起こるように感じさせるのはミスリーディングだろう。

そしてこの分野でも決して日本メーカーは出遅れていないと思う。現在、日本、アメリカ、中国すべてで安価なベーシックカーにまでDCMを標準搭載しているメーカーはトヨタくらいではないだろうか。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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