三流は「前も言いましたよね」と怒り、二流は自分を正当化…「伝わらない」とき一流が最初にかける言葉
プレジデントオンライン / 2024年12月26日 7時15分
※本稿は、澤円『うまく話さなくていい ビジネス会話のトリセツ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■ビジネス会話の第一歩は「合意」
「あのとき言ったはずなのに」
「何回も言っているんだけどなあ」
「この話、前にもしましたよね」
心のなかで、こう嘆いたことがある人も多いと思います。
ビジネスシーンで頻発する、「言ったことが伝わらない」問題。この問題を解決するため、僕は「ビジネス会話」を次のフレームワークで捉えています。
ビジネス会話は、「合意」と「定着」で考える。
まず、ビジネスをうまく進めていくには、関わる人たちがなんらかの「合意」に至っておくのがとても重要だということです。
合意するとは、ゴールを共有するとも言い換えられます。当然ながら、到達したいゴールがなければ、そこへ向けたステップが進んでいきません。
もし、合意なしで実行すると、途中で衝突が起きる可能性が高まります。「わたしはそんなつもりじゃなかった」「こんなはずじゃなかった」と言い合う状況が生まれるわけです。だからこそ、まず当事者同士で、なんらかの合意をすることが大事になります。
■「定着」のプロセスを踏んで齟齬をなくす
その後は、ゴールに向けてプロセスを進めていくのですが、ステップごとにマイルストーン(道しるべ)を設定し、なにをもって「うまくいっている」とするか、その判断基準についてもあらかじめ合意しておきましょう。
「この段階のマイルストーンはクリアしたから大丈夫。よし、次へ行こう」という具合に、判断基準を随時チェックし、つねにマイルストーンによって状況判断をしながら進んでいきます。
これが「定着」という意味であり、言い換えれば、小さなゴールの達成を積み重ねていくことです。状況判断のための道しるべをもとに、最終的なゴールへと向かっていきます。
ビジネスを適切に前進させるには、まずは当事者同士で目指すゴールを「合意」する。そして、小さなマイルストーンをつくり、正しく状況判断をしながらスピーディーにそのプロセスの「定着」を図っていく。
「ビジネス会話」の存在意義は、この手順を促すことにあると言ってもいいでしょう。
■「言ったことが伝わらない」ときは“まず謝る”
「合意」と「定着」をうまく実現できず、「言ったことが伝わらない」問題が発生してしまったときは、どうすればよいのでしょうか。
前提として僕は、どんなものごとにおいても、相手の時間を無駄にすることが、相手にかける迷惑のトップだと位置付けています。
例えば、仕事で使うツールに不具合が起きると、うまく動作しないことで相手の時間が無駄になるとみなすことができます。あるいは、相手がお金を損したならば、相手の時間あたりの収入が減ることで時間が無駄になっていると言えるでしょうし、そのお金を取り戻すために、相手は余計な時間を使わなければなりません。
僕は、もし自分が相手の時間を奪う状態になったり、相手が期待する体験に十分応えられなかったりする状態になったなら、最初にまず「謝る」という行動をしようと心がけています。
先にきちんと相手に謝ったうえで、その理由と今後の対策についてしっかり伝えていくようにしようと決めているのです。
■「わたしたちは悪くない」という無意味な主張
ただ、この「謝る」ことを先にできない人も結構多いと感じることがあります。みなさんもビジネスにおいて、こんな言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
「自分たちは先に伝えている」
「ずっと周知し続けていたはずだ」
「チャットにしっかり書いているんですけど」
実にさまざまな言い方がありますが、つまるところ、「わたしたちは悪くない」と言いたいわけです。
特に、情報の発信側は、つい「先に伝えた」「ここに書いている」と言いたくなりがちですが、こうした言葉の応酬が、コミュニケーションのミスや断絶を生む典型的なパターンなのです。
■「どちらが正しいか」よりも「話が伝わっているか」
ここでお伝えしたいのは、コミュニケーションは、「相手に伝わっていない時点で負け」だという事実です。
なにかを指摘されると、つい感情的になり、自分たちを正当化しがちですが、主観や感情を盾にして頑(かたく)なに謝らないでいると、ビジネスにおいては、結果、手がつけられないエラーにまで発展する可能性もあります。
もちろん、どんな場合も謝ればいいというものではないし、謝罪を強制するのはハラスメントです。
ですが、あきらかなコミュニケーションの齟齬があるにもかかわらず、それに対して「わたしはちゃんとやっています」と返すのは、残念ながらコミュニケーションとしては0点の対応と言っていいでしょう。
「ビジネス会話」では、どちらが正しいか、正しくないかではなく、まず「伝わっているか、伝わっていないか」にフォーカスすることに注意しましょう。
■「質問」から道が拓けていく
コミュニケーションミスがあきらかになったとき、僕なら、「すみません、それはご迷惑をおかけしました」と謝ったうえで、まず相手に「質問」します。
「なにがわかりづらかったですか?」「いつ頃からその状況でしたか?」というふうに、できる限り情報を得るようにします。
その情報は相手の主観がベースになっているかもしれませんが、それを頭のなかで差し引きながらも、まずは「なにが起きているのか」についての情報を集めるプロセスが必要なのです。
そうすることで、相手との溝が少しずつ埋まっていく場合もあれば、「こうすればよかったですね」と新たに提案できることもあります。
場合によっては、どちらかの非を認めることで、ものごとを先の解決のプロセスへと進めることもできるでしょう。
■「相手の論理」を知る必要がある
大事なのは、コミュニケーションの齟齬が起きたときは、いきなり自分たちの言い分や反論を伝えるのではなく、相手から情報を引き出すことに集中することです。
これにより、ビジネスで対立構図に陥りそうなときでも、状況を整理でき、適切なアクションへ導くことができます。仮に、相手が攻撃的な対応をしてきた場合は、なおさら情報を集めてリスク管理をすることが重要な対応になります。
質問するという行為は、相手の考え方やユーザーの視点、実際に体験した人たちの感覚がどのようなものかを確かめることだと言えます。自分の頭ではわからないからこそ、相手に聞いて、相手の論理を知る必要があるのです。
とにかく、感情的になっていいことなどほとんどありません。つい、「わたしは悪くないよ!」という気持ちになるときもあるかもしれませんが、そんな状態になったのは、むしろいい情報を集めるチャンスだと捉えましょう。
■基本姿勢は「相手に興味を持つ」
その意味では、相手に質問できる人は、成長できる人と言い換えることができるでしょう。自分のポジションを変えずにただ感情的に反応しているだけでは、いつまでも同じ場所に留まる自分でしかいられません。
観点を変えると、質問することは、「相手に興味を持つ」ことに直結しています。
「なぜこの人はこのような状況になったのだろう?」「どんな気持ちになったのだろう?」と相手に興味を持てば、質問は自然と出てくるものだと僕は思います。
感情のほうが先に出ると、相手を攻撃して終わりです。だからこそ、「ビジネス会話」においては、「相手に興味を持つ」ことを基本姿勢にすることが重要なのです。
そのワンクッションがあるから、相手が感情的になっているときでも適切に質問を出せるようになり、問題を改善することができる。
そうして、お互いの未来をいいものに変えていけるのです。
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圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(圓窓 代表取締役 澤 円)
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