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西武・源田より楽天・村林の方が守備範囲は広い…「ゴールデン・グラブ賞」は本当に守備の名手を選んでいるのか

プレジデントオンライン / 2024年12月21日 8時15分

ゴールデングラブ賞の表彰式に出席したパ・リーグの受賞者。(左から)日本ハム・万波、ソフトバンク・周東、楽天・辰己、西武・源田、ソフトバンク・栗原、楽天・小深田、ソフトバンク・山川、甲斐=2024年11月28日、東京都内のホテル - 写真提供=共同通信社

11月28日、プロ野球で守備の優れた選手に贈られる「三井ゴールデン・グラブ賞」の表彰式が行われた。ライターの広尾晃さんは「正直、選考結果には首をかしげたくなる選手はいる。日本野球全体で守備に対する勉強不足を感じる」という――。

■ゴールデン・グラブ賞の選考結果は適切なのか

MVPやベストナインも決まり、今年のNPBの全日程が終了した。筆者は毎年、NPBのアワードについて、チェックしている。毎年「これはどうか?」と思う受賞があるのだが、とりわけ「ゴールデン・グラブ賞(正式名称:三井ゴールデン・グラブ賞)」である。

この賞は、MLBで守備のベストナインに贈られる「ゴールドグラブ賞」に倣って、1972年に設けられた。当初は「ダイヤモンドグラブ賞」と名付けられたが、1986年から「ゴールデン・グラブ賞」になった。

この賞を目標にしているプロ野球選手は多い。

「この賞を貰うと、自分が今使っているグローブを金色に彩色したトロフィーをくれる。すごく格好いい」と、憧れを口にする選手もいる。

この賞は、MVPやベストナインなどと同様、プロ野球担当記者の投票で決まるが、その選考結果には、首をかしげたくなるものも多い。

そもそも「守備記録」の部門は、投球や打撃に比べて、評価基準となる「数字」が非常に少ない。

■守備に関する項目が少なすぎる

NPBの公式サイトの個人記録の守備成績欄にあるのは、以下の6項目だけ。

試合 そのポジションでの出場試合数
刺殺 フライを捕ったり、走者にタッチしてアウトにするなど直接アウトにした回数
捕殺 ゴロを塁に送球するなど、間接的にアウトにした回数
失策 エラーした回数
併殺 ダブルプレーに参加した回数
守備率 (刺殺数+補殺数)÷(刺殺数+補殺数+失策数)

捕手はこれに、2項目がつく。

捕逸 パスボールをした回数
盗塁阻止率 盗塁を企図した走者をアウトにした率

打撃成績が21項目、投手成績が23項目あるのと比べても、非常に少ないのだ。

これだけの情報量で「守備のベストナイン」を決めようと言うのだから、自然、選考は「印象論」や、日ごろから親しくしている選手に投票するなどの「情実論」に傾くことになる。

今回のゴールデン・グラブ賞の顔ぶれを見ながら検証していく。

ここでは、上記の守備の指標に加え、セイバーメトリクスの指標RF(レンジファクター)もつける。これは1試合でいくつのアウトに関与したかという数値で、守備範囲の広さ、手数の多さを示している。

(刺殺+補殺)÷試合数

で導き出せる。

本来のRFは

(刺殺+補殺)÷その守備位置での出場イニング数×9

という数式なのだが、NPBは選手個々の出場イニング数を公表していない。ぐっと精度は落ちるが、それでも重要な指標となる。

■「エラーが少ない=守備がうまい」は本当か

ポジション別に評価基準が微妙に異なるが、やはり出場試合数は大きな要素だ。

捕手の山本はセ・リーグで一番多くマスクを被った。これは大きい。RFも1位だ。盗塁阻止率は0.352で4位だが、3割を超えているので合格点だ。独立リーグ出身、ドラフト9位から這い上がった。

投手は菅野。数字的には全く良くないのだが、菅野は5回目の受賞だ。過去、投手のゴールデン・グラブは西本聖と桑田真澄が8回、堀内恒夫が7回、前田健太と菅野が5回と、特定の投手に集中する傾向がある。数字的な根拠ではなく「あの投手は守備がうまい」というイメージによるのだろう。今回の菅野は、復活したことの「ご祝儀」みたいな印象だ。

【図表】セ・リーグ ゴールデン・グラブ賞受賞者
筆者作成

9つのポジションのうち、守備率1位の選手が6人。「失策が少ない選手が、守備のうまい選手なんだから、当たり前だろう」と言われるかもしれないが、実は「守備の本質」はそこにはない。

■守備率の不都合な真実

守備率を上げるには「無理目の打球、送球は捕りにいかない」に限る。グラブ、ミットに球が触れなければエラーがつかないからだ。1950年ころ、巨人の川上哲治は「打つだけで一塁守備は不得意」と言われた時期があった。それ以降、無理目の球は捕りにいかなくなり守備率が上がった。巨人の遊撃手、広岡達郎は「川上さんはちょっとボールが逸れると捕ってくれない」とぼやいた。

しかし本当に頼りになるのは、安打になりそうな「無理目の打球」にも果敢に挑む野手なのは言うまでもない。その点では守備率とともにRFも考慮すべきなのだ。

また外野手は3人選ばれるが、実は3人とも「中堅手」だ。日本では左翼手、右翼手、中堅手もすべて「外野手」で一緒くたにされるが、それぞれ役割が違う。右翼手は二塁、三塁への進塁、左翼手は三塁、本塁への進塁を強肩で阻止する役割がある。中堅手は守備範囲の広さが求められる。

MLBでは外野の3ポジションに分けて評価している。NPBもそうすべきだろう。今季で言えば中日の左翼、細川成也は1位タイの6補殺。こうした選手も評価すべきだろう。

■山川が1位に思うこと

ソフトバンクの甲斐拓也は7回目の受賞。数字も堂々たるものだが、盗塁阻止率が0.284(リーグ5位)と3割を切ったのは気がかりだ。

一塁手は、山川がすべての指標で1位。規定試合数以上が彼だけだからだ。ゴールデン・グラブ賞は規定試合数以下でも「チーム試合数の2分の1以上で1ポジションの守備についている」選手も対象となる。だからロッテのソトや鈴木大地にも票が入った。

【図表】パ・リーグ ゴールデン・グラブ賞受賞者
筆者作成

若いころの山川はライオンズの春季キャンプで居残りの守備練習をしていた。守備力は向上しているが、一塁守備の名手とは言い難い。ほかにいないから選出した、と言っては失礼だろうか。

■名手・源田の「安全運転」

遊撃手は西武の源田が7年連続7回目の受賞。今や第一人者だが、守備率は1位とはいえRFは規定以上の最下位。前述のとおり、ベテランになると無理目の球は追わない「安全運転」になることが多い。その兆候が見え始めている。

【図表】パ・リーグ遊撃手のデータ
筆者作成

外野手はソフトバンクの周東、楽天の辰巳が中堅。万波が右翼。万波は今季、両リーグで唯一の2桁補殺。ずば抜けた強肩だ。辰巳は中堅でフル出場してRFが1位。刺殺数397は、NPB記録だ。万波とともに当代最高の外野手だといえる。

パ・リーグでも守備率1位の野手が9人選ばれている。

スポーツメディアではないプレジデントオンラインで、ここまで守備について詳しく紹介したのは「日本野球の守備」の価値基準が、いかに不確かで、いい加減なものかを知っていただきたかったからだ。

選出に当たっては、具体的な指標に基づくのではなく、イメージや、ひいき目で投票していた記者が多いのではないか。またベストナインの副賞であったり、ベストナインを漏れた有力選手の残念賞になったのではないか? そういう印象がぬぐえない。

■本当にチームにとって貢献度が高いプレー

ゴールデン・グラブ投票で、守備率1位の選手に票が集まるのも「エラーは良くない」という固定観念があるからだ。いまだに日本野球では「なぜエラーしたんだ」と叱る指導者がいる。エラーしないために「腰を落とし正面でボールを捕るんだ」と指導する指導者がいる。

ベテランの評論家の中にはいまだに「ボールを片手で捕るな。遊び半分でやっているならやめろ!」と選手を叱る人もいる。

「守備率」にこだわる思想の根底は、失敗をこわがる日本独特の文化もあるのだろう。

しかし、本当にチームにとって貢献度が高いのは前述したとおり、無理目の打球にも臆せずに飛びついていく積極果敢な野手のはずだ。抜ければ絶体絶命という打球に飛びつき、あっという間にアウトにするプレーは、まさに「プロ野球の華」だといえる。

そうした守備を実現するためには、「正面で腰を落として」とは別次元の、日ごろからどんな態勢でも打球を処理するためのトレーニングが必要だ。

ドミニカ共和国などでは、少年時代から、それこそ「遊び半分」でアクロバティックなフィールディングを身につける。大人たちは基本が大事とは言わないのだ。いつでも、どんな球でも捕りに行ける敏捷性を身につけようとするのだ。

■メジャーを目指す村上宗隆の課題

日本でもすでに意識の高い指導者は、従来の守備の概念にとらわれず、新しい考え方で守備の指導をしている。

2019年1月に行われた「ぐんま野球フェスタ」では興味深い光景があった。当時U12日本代表監督だったプロ野球OBの仁志敏久氏(巨人→DeNA)が地元の少年野球指導者を前に「U12では、ジャンピングスローの練習をさせている」と選手たちに実演させていたのだ。指導者たちは驚きの表情でそれを見ていた。

ジャンピングスローをするU12日本代表選手。2019年ぐんま野球フェスタにて。
筆者撮影
ジャンピングスローをするU-12日本代表選手。2019年ぐんま野球フェスタにて。 - 筆者撮影

2025年以降、ヤクルトの村上宗隆、巨人の岡本和真とNPBを代表するスラッガーがMLBにポスティングシステムで挑戦するといわれている。

彼らにとっての課題は、大谷翔平を唯一の例外として、NPBからMLBに移籍した打者が必ず陥る「打撃の小型化」だ。そして、それとともに彼らを待ち受ける「どこを守るか?」という問題だ。

2人ともに一塁、三塁を守るが、すでに「三塁手としては通用しないだろう」という予測が出ている。しかし一塁を守るのなら相応の打撃成績が求められる。とくに、日本の内野手はMLBで「守るところがなくなる」ことが多いのだ。それだけ日米の「内野守備力の格差」は大きいのだ。

もちろんNPBの若手トップクラスの遊撃手、広島の矢野雅哉やヤクルトの長岡秀樹、オリックスの紅林弘太郎などは、MLBでも通用するのではないかと思われる。彼らにとっての課題は打撃だろう。

■指導者もメディアも勉強が足りない

ただ、2021、22年とロッテに在籍したアデイニー・エチェバリアや今年までオリックスでプレーしたマーウィン・ゴンザレスの守備を見ると、彼らのようなMLBを守備で鳴らした選手のプレーは、異次元のもののように感じられる。

NPB球団の本拠地球場の多くは、天然芝が多いMLBとは異なり、人工芝だ。イレギュラーは少ない。またNPB打者の打球速度はMLB打者に比べて全般的に遅い。こうした環境に加え、ここまで述べてきた「守備の意識の旧弊さ」が、格差につながっているのではないか。

このギャップを埋めるためには意識改革が必要だろう。優秀な野手とは「私、失敗しないので」という野手ではなく「他の選手が捕れない打球でも捕ってやる」という野手。

重要な指標は「守備率」ではなくRFや、さらに精緻なUZR(Ultimate Zone Rating)やDRS(守備防御点)などの指標だ。

指導者もメディアも、守備に対してさらなる「勉強」が必要なのではないか。

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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。

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(スポーツライター 広尾 晃)

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