清洲会議で秀吉が柴田勝家にプレゼンしたら…対立する相手を黙らす「パワポ資料」の準備方法
プレジデントオンライン / 2024年12月21日 17時15分
※本書は、前田鎌利『歴史的プレゼン』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■資料作成より重要な3つの準備
会議で使うプレゼン資料だけをしっかり作り込んでも上手くいかなかった経験をお持ちの方も多いと思います。そう、結果が出ないことの方が多いのです。
それは、プレゼン資料にばかり力を入れてしまい、本来重要な会議の準備、質疑応答になった時の準備が不十分だからにほかなりません。
そこで、本稿では相手のことを理解した上で、自分が望む結果に向けてどのような準備をしておけばよいかについてお伝えします。ポイントは、3つ。
①会議前の準備
②会議中の準備
③会議後の対応
資料の作成も必要ですが、決裁者との信頼関係がどれくらい高まっているのか? お互いのことをよく知っているか? は無視できません。これらを把握した上でプレゼンに臨むことができれば、誰もが百戦百勝間違いありません。
■もしも秀吉が資料をバッチリ用意していたら…
【羽柴秀吉】本日の清洲会議はこの4人と三法師様の5人で行いたいと思います。今回の会議のゴールは投影しておりますように、織田家の後継者の決定です。なお、次男の織田信雄様、三男の織田信孝様からは委任状をいただいております。
【羽柴秀吉】本日のサマリーはこちらです。今回は柴田殿の推挙する織田信孝様と当方が推挙する三法師様(後の織田秀信)のどちらが相応しいかについての議論です。結論から申し上げて、間違いなく三法師様がおすすめです! 今回亡くなられた長男・信忠様のご子息ですから、当然後継者に一番相応しいです!
【柴田勝家】待て待て! 三法師様はまだ3歳! 後継者には時期尚早! ここは今回の山崎の戦いで総大将も務められた三男の信孝様しかおらん!
■「権力者の言葉」と「過去実績」で後押し
【羽柴秀吉】ちょっと待ってください。こちらの補足資料をご覧ください。
【羽柴秀吉】天正3年に信長公は長男の信忠様に家督を相続されており、織田家の正式な後継者とされました。そして、何かあった時はその子孫にするようにお話しされていましたよ。
【柴田勝家】待て待て! 家老の筆頭格であるワシが言うのじゃから、ここは織田家の後継者はやはり三男の信孝様じゃ。皆からの信頼も厚いぞ!
【羽柴秀吉】柴田殿、お待ちくださいませ。本能寺の変の後、貴殿は何をなさいましたか?
こちらの補足資料をご覧ください。当方は知らせを聞き、即刻毛利との和睦を結び、すぐさま戻って謀反人の明智光秀を成敗いたしました。
これ以上、信長公への恩義に報いることがありましょうか?
柴田殿は北陸征伐中でそのまま北陸にいらっしゃったために、この弔い合戦には参加していないではありませんか。
今回の件については、序列よりも実際に何を成したかが重要だと考えます。
【柴田勝家】むむむ……。
【羽柴秀吉】他に異論がないようであれば、当方の掲げた案で進めたいと思います。後継者は三法師様で参りたいと存じますが、ご列席の皆様いかがでしょうか?
【柴田勝家】むむむ……。
【丹羽長秀】確かに、羽柴殿のお話には説得力がありますなぁ。
【池田恒興】私は最初から三法師様がよいと思っておりました!
【羽柴秀吉】では、皆様、ご異論がなければこれにて後継者は三法師様で参りたいと思います! よろしいですかな?
【三法師】は~い!
■勝てるプレゼンターが使うテクニック
今回は議事録の準備、事前展開、本編スライドは1枚サマリーで対応し、その補足資料に有識者や当事者の意向、自分たちのポジションなどを図解したものを用意しました。プレゼン資料は会議の中で使われるツールの1つです。したがって、ツールばかり磨いても、勝てるプレゼンターにはなり得ないのです。
想定される質問や意見に対する答えを想定し、それに対応できるデータや資料を準備しておけば、議論の正当性が担保され、相手を説得できるプレゼンに近づきます。
では、ここで使ったテクニックを見ていきましょう。
1 アジェンダの準備が成功の鍵
今回の清洲会議ではそもそも
・いつ
・誰が参加して
・何を決めるのか?
ゴール設定を最初にしています。これは会議の基本です。会議は、このようなアジェンダを明確にした上で開催しましょう。
結局何を決めたいのかわからないままスタートする会議は何も決まりません。最初にゴールを握った上で、相手と議論を行わなければ、それは会議とは言えないでしょう。
■会議の主催者になり、主導権を握る
今回は、秀吉が主導権を取って、アジェンダやサマリーも用意しています。
完全に秀吉のペースで会議が進んでいますね。会議の主催者及び資料の作成者は優位にその会議を進めることができます。
ですから、必ず会議の主催者となること。
手間はかかりますが、その分自分たちの思った方向に議論をドライブしていくことも容易くなります。
このアジェンダはビジネスシーンでは事前に会議通知を関係者にメールで送ることからスタートします。メールで送る時点で、
・開催日時
・会場
・参加者(参加者にはそれぞれどういった見解を求めるのかを明記しておく)
・目的・ゴール
・会議のタイムライン
・当日の資料
が最低限明記されているとスムーズな会議進行が可能です。大事なのはプレゼンを使い、その会議で必ず合意形成して、アクションを勝ち取ることです。
■対立する相手も腹落ちする補足資料を作る
2 差をつける補足資料の準備
今回は1枚サマリーを提示した後に柴田勝家との議論へと入っていきます。
議論の際に主張をする上で重要なのが補足資料です。
ただひたすら感情的に物事を伝えるよりも、補足資料を用意してそちらを元に話した方が確実に説得力が増します。
今回ですと、信長公の話を元にした主張だから正当性があること、また、本能寺の変の後の織田信長の敵討ちとして明智光秀を討ち取るまでの秀吉と勝家のアクションの比較などを図解して示すことで、参加者にも説得力ある見解として受け止めてもらえるという設定にしました。この補足資料の準備が重要なのです。ここでポイントなのは、プレゼンよりもディスカッションのウエイトが合意形成においては大きいことです。
プレゼンは現状の情報共有です。それを踏まえて今後のアクションをどうするかを議論して決めていくわけですから、ある程度の情報量があれば意思決定に向けて双方の見解を述べて、それを補足し合うことに時間を割く必要があります。
史実では、この後、秀吉と勝家は戦をして、秀吉が天下統一に向けてまた一歩進んでいくことになりますが、ビジネスの世界では同じ社内で誰かを蹴落とすよりは、双方で納得して事柄を進めていくことが重要です。
相手にも理解して納得してもらえるように、腹落ちする補足資料を準備しておきましょう。
■彼を知り己を知れば百戦殆からず
3 相手のことを知る準備
議論をする上で決め手になるのは、相手のことをどれだけ知っているのか。
相手の立場で物事を考えるのはわかるのですが、なかなか相手の立場に立つのは難しいですよね。そこで参考となるのがハーマンモデルです。
考案者は、アメリカのネッド・ハーマン(1922~1999)。彼がゼネラル・エレクトリック社の人材開発部門にいた時に、「社員1人ひとりの脳の個性を理解することで、ビジネスの発展に貢献したい」という思いから、「社員の思考の傾向」を数百人のサンプルから分析してモデルを構築しました。
このハーマンモデルのよいところは、4つのタイプで判断するため、複雑でなくシンプルで覚えやすいところです。
■相手のタイプに合わせて議論を進める
このモデルはポール・マクリーンの考案した「三位一体脳モデル」と、ロジャー・スペリーの「右脳左脳モデル」を組み合わせたものなので、思考から発生する相手の言動や行動からどのタイプかが類推できます。
この4パターンは右脳系か左脳系かの分類と大脳新皮質(理知的)か辺縁系(本能的)かの4つの分類で表されます。
①論理的
このゾーンは論理的・分析的なアプローチを好み、数字やデータを重要視します。淡々と話し、細かい指摘やデータを元に意思決定します。
②堅実的
緻密に計画を立てて実行するタイプで、最後までやり遂げる責任感の強い傾向があります。保守的で勤勉、スケジュールを気にするタイプです。
③独創的
このゾーンは新鮮で未知な要素を求めます。また全体的な視点を持ち、メタ認知的な要素もあります。話題がコロコロ変わってしまったり、身振り手振りが大きかったり、例え話をやたらしたりします。時間にルーズな傾向もあります。
④感覚的
このゾーンの人は精神的な面に影響を受けることが多いタイプです。とても友好的でコミュニケーションを自分から行いますし、人の気持ちに寄り添うことも可能です。相槌がやたら多かったり、自らコミュニケーションを取ろうと積極的にアクションしたりします。
この4つのパターンをベースにして相手のことを知り、相手の立場に立って議論を進めるようにしましょう。
今回の清洲会議では、勝家は保守的で堅実的なタイプで設定し、秀吉は独創的でありながらも左脳的な傾向も持っている設定にして、ロジカルに根拠を用意して説明するようにしてみました。
実際のビジネスシーンでもぜひ、プレゼンで勝ちきる際の参考にしてみてください。
・会議に入る前にアジェンダを準備
・サマリーだけでなく補足資料も
・ハーマンモデルで相手のことを知ろう
※本書は史実をベースにしたフィクションを題材にしています。
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プレゼンテーションクリエイター/書家
東京学芸大学卒業後、通信業界にて17年にわたり従事。2010年に孫正義社長(現会長)の後継者育成機関ソフトバンク アカデミア第1期生に選考され年間第1位を獲得。孫社長(現会長)のプレゼン資料企画・作成・演出などを手掛ける。ソフトバンクグループ会社の社外取締役や、ソフトバンク認定講師として活躍。2013年に退社、独立。ソフトバンク、ベネッセコーポレーション、セブン‐イレブンなど年間200社を超える企業にて講演・研修等を行う。著書はシリーズ累計47万部を超える。また、独立書家として700名が通う書道塾 継未 -TUGUMI- を展開。Softbank「志高く」、JAXA「こうのとり」、Jリーグ「絶対突破」、『逃げ上手の若君』(週刊少年ジャンプ)での書の提供など多数の作品を手がけ、ライブパフォーマンスや個展を国内外にて開催。
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(プレゼンテーションクリエイター/書家 前田 鎌利)
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